211.岩
「貴方を止める。そして、貴方を救う」
「そう、出来るなら」
沙耶が強くそれを放つと同時、愛梨は息を吐きながらそう呟くと、瞬間。突如沙耶に向けていた弓を地面に向かって構え、足元に矢を突き刺すと、それを風の魔石へと変化させて大きく飛躍する。
「やってみせる!」
沙耶もまた意思を更に強くし返すと、足を踏み出すと共に体から無数の岩の破片を飛び出させる。
すると、それは空中に逃げる愛梨に向かって速度を上げて飛び上がり、それを見据えた彼女は。
「っと」
空中で弓を構え、それぞれの破片に矢を突き刺し爆発の魔石で破壊した。と、その後直ぐに愛梨は空中で真下に矢を放つと、その矢は瞬時に石の魔石となり、巨大な岩を生やして足場を作る。
それに愛梨は足を着くと、弓を構えて沙耶に矢を放つ。
「ん!」
それをまたもや腕の岩を変形させて盾を作り、矢と爆破を防ぐと、そのまま左腕を上に挙げた。それに合わせて、彼女の左側から斜めに岩が生えると、沙耶は跳躍し、その斜めの岩を駆け上がって高所を取っていた愛梨に近づいていく。がしかし。
「させない」
愛梨は、沙耶の走る岩の根元に矢を突き刺し爆発の魔石で爆破する。が、その時には既に沙耶はその上で更に跳躍し、愛梨に殴りにかかっていた。
「っ」
沙耶の腕はいくら岩を駆け上ったからとはいえ届かない。そう、愛梨は内心で思った事だろう。がしかし、彼女の腕は、振り下げると同時に。
腕先の岩が伸びて、尖ったその岩が愛梨の頰を掠った。
すると、それにより。沙耶は殴りによって右腕を伸ばしており、完全に体がガラ空きとなる。そこを既のところで避けた愛梨が矢を放つと、腹に矢を突き刺す。
「っ」
またもや爆発の魔石を警戒した、沙耶だったがしかし。その矢先、それは風の魔石へと変化し沙耶を大きく吹き飛ばした。
「きゃっ!?」
吹き飛ばされた空中で、尚も追い討ちをかける様に、愛梨は矢を彼女に三本放つ。だが。
「んっ!」
沙耶は両腕をクロスさせる様に組むと、腕の岩が広がり、大きな盾を作り上げる。
「っと!」
その三本は同じく爆破を起こし、沙耶は更に吹き飛ばされたものの、アーマーの力もあり、空中で回転して足で着地する。
だが。
「っ!?」
そこに、足で着地する事を既に察していたであろう愛梨が、丁度足を地に着く瞬間を計算し、前もって矢を放っていたのだ。それが足枷に変換し、沙耶の足を掴む。それに、僅かに気を逸らした。その一瞬の内に。
「へっ!?」
目の前に、矢が迫っていた。
「あぶっ!?」
顔面。沙耶の顔が大きく爆破を起こす。それに、一瞬の隙を見せた愛梨。だがその直後。
「ん!」
煙の中から、沙耶は右手を前に出し、同じく無数の破片が愛梨に向かった。
「っ!?」
それは先程とは違い、不規則な動きをしながら彼女の周りを浮遊する。それにより、矢を放つものの、それが岩に命中する事はなかった。
「クッ」
そんな岩の破片は、浮遊しながらも突如スピードを上げて愛梨の体を掠るなど、確実にダメージを与えた。が。
「っと」
「えっ!?うっ!?」
その後、愛梨はその中で沙耶本人に矢を放つと、それは彼女に到達するよりも前に光の魔石に変化して視界を奪う。確かに先程とは明らかに攻撃方法が変わった。がしかし、どこまでいっても結局は能力。沙耶自身が動かしている事に変わりはないのだ。故に、彼女本人の視界を奪えば。
「うぅ、、って、っ!?」
一瞬にして、愛梨は沙耶の目の前に到達する。彼女がその姿を収めた時には既に、眼前に迫りながら弓を構えている状態であった。弓矢を使う攻撃。それ故に、遠距離攻撃でくると。そう、自然と察してしまうだろう。
それを逆に利用して。
「おわり」
「っ!」
近距離で、顔に矢を放った。一か八かの大勝負。愛梨は沙耶の顔面に放った矢を瞬時に爆破させると同時に、自分と彼女の間に石の魔石で壁を作る。
それ故に愛梨は無事だったものの、爆破によって石の魔石で生み出した壁が破壊された。すると、その先に居た沙耶は。
「捕まえた!」
「嘘っ!?」
珍しく、愛梨は動揺から声を漏らす。
目の前には、変わらず沙耶が拳を構えていた。
それに反射的に矢を放ち、風の魔石で暴風を生み出すと、彼女と愛梨はそれによって距離を取る。
「っ!」
それ故に後退りする沙耶は、愛梨に対し目を細め顔を上げるがしかし、またもや目の前に矢が差し迫り、目を見開く。
と、またもや爆破を起こしたのち、今度はとどめも同時にと言わんばかりに、愛梨は爆破し煙が上がる中の沙耶に、数本の矢を放って追撃を行う。だが。
「っ」
煙の中から、巨大な剣の様な見た目をした岩が飛び出し、その矢を全て防ぎ打ち落とした。それに目を奪われているのも束の間。その矢先、煙と愛梨の間に突如岩の壁が出来、それが一瞬にして砕け、その破片が彼女に向かう。
が、それに対しても目を僅かに動かすのみで、愛梨はいつもの様に表情を崩さず、後退りながら矢で一個ずつ突き刺し爆破を行う。が、それによって遮られていた目の前から。
「ん!」
「っ」
突如、先程同様剣のような見た目をした岩を、腕から直に伸ばして作り出し、それを愛梨に振り上げた。
それに、愛梨は僅かに動揺したものの、地面に矢を放ち、今度は草の魔石に変化させ木を生やすと、その上からツタを利用して空中に飛び上がる。まるで、ターザンの如く。
と、空中から今度は矢を落下しながら沙耶に放ち、その後自身の落下地点に風の魔石を放ってゆっくりと足を着く。が、その目の前で上がった、煙の中から。
沙耶がまたもや構えて現れた。
ーおかしい、、爆破は何度も喰らってる、、わざわざ岩の無い顔を狙ってるのに、そんな事ー
愛梨はそれを思いながらも、変わらず沙耶の顔面目掛けて矢を放った。
と、その瞬間。
「っ」
沙耶の変化に、愛梨は目を剥いた。
彼女の髪を一本に縛るために変形し固定された、髪留めの様な小さな石。それが、その瞬間。変形し、顔の方へと伸びていく。と、刹那。
沙耶の顔を覆う様にその石は伸び、まるで騎士の甲冑の様な見た目に変化し、それで矢を弾いた。
それにハッとした愛梨に、続け様に沙耶は右腕から伸ばして剣にした岩で斬りつけながら、彼女の放つ矢を左腕の岩を伸ばす事で盾とし、全て防ぐ。
「ん!」
それにより距離を詰める、沙耶は大きくその剣を振るがしかし。またもや愛梨は風によって跳躍し、それを避ける。
ーなるほど、、そういう事。...ならー
愛梨は沙耶に攻撃が効かなかった理由を理解し、目を細めながらも納得する。と、それと共に。愛梨はならばと。矢を、今度は沙耶の足元に飛ばした。
「えっ!?」
すると、その矢を今度は草の魔石で同じく木を生やすと、直ぐにそれを消して空中に沙耶は放り投げ出される。そこを狙う様に、愛梨は下から数本の矢を放つと、それを到達する前に爆破させる。
「っ」
空中の途中で爆破させる事により、空中で煙を発生させ、落下地点を見えなくしたのだ。それによって、沙耶は地面に警戒心を強める。と、瞬間、その煙を裂く様にして矢が沙耶を目掛けて飛び出すと、左腕を地面に向けて岩を広げ、盾を構えながら落下する。がしかし。その矢は爆破しなかった。
「え、」
それに、僅かに疑問を抱いた。次の瞬間。
「きゃっ!?」
今度は上空から矢が放たれ、沙耶の腕と足に突き刺さる。勿論、沙耶の体は岩に覆われているが故に、痛みは感じなかった。がしかしその後、瞬間的にその矢は手枷や足枷へと変化し、彼女の手足を固定する。
「へっ!?」
それに気を逸らされた、その瞬間。
ガラ空きになった沙耶の背中に、三つの爆破の魔石が到達した。
「グッ!?」
その後、愛梨は空中で回転しながら地面に草の魔石を放つと、それが草を生やしクッションを作って着地する。
対する目の前の沙耶は、流石に威力が半分であろうとも三つだったが故に濃い煙の中で蹲っていた。いや、そこから動けないのだ。手足を枷により固定されているのだから。
そこに、更に追撃をと、愛梨は構える。が、それと同時。
「っ」
バキンッ、バキンッと。沙耶の纏った岩から尖った突起が幾つも飛び出し、それで手枷や足枷を内側から破壊すると、ゆっくりと立ち上がる。
その様子に、愛梨は僅かに退き目を細める。手枷や足枷もまた、その素材の硬さはオリジナルの半分となる。がしかし、これまで何度も攻撃を行って、何度も彼女は受けていたのだ。それなのに、まだこんな事が出来るのか、と。
それを思うと共に、愛梨と沙耶を含めた二人の外側から、大きな岩が幾つも。円形上に生え始め、それは天へと伸びていく。その光景に何をするつもりか察しがついた愛梨は、刹那。
「ん」
二本、矢を沙耶に放ち、もう一本を自身の真下に放って樹木を生やす。そこから、愛梨は更に風の魔石で飛び上がって、ドーム型に包み始めていた岩の中から脱出する。
ーなるほど。空中戦や遠距離戦を抑えるために、自分のやりやすい土俵を、自らが作り出した。そんなところかな。...にしてもー
空中で愛梨は、遠隔で沙耶に放った二本を爆破させながら、僅かに眉間に皺を寄せる。
ーこんな大きな岩、、体力どうなってるの、?ー
愛梨が沙耶の能力と体力に驚愕する中、その爆破の中からーー
「っ」
ーー空中の愛梨に向かって尖った岩が伸びた。
それを既のところで手に持った石を直接風の魔石に変換する事で避けた愛梨は、慌てて下を向く。すると。
地面から岩を生やしてその勢いで沙耶は跳躍し、空中に岩を飛ばして一個ずつ高速で自身用の足場を作りながら、階段の如く駆け上って行く。
「クッ」
それに冷や汗をかいた愛梨は、ポケットから三つの石を取り出すと、いつもの如く矢を沙耶に放った。と、思われたが。
「っ」
矢が突き刺さったのは沙耶の足場。外したかと思われたものの、それが正解。爆破の魔石へと変化した矢は、沙耶の進む先の足場を破壊する。
「ん!」
だが、その既のところで沙耶もまた跳躍すると、体から岩の破片を愛梨に幾つか飛ばす。
「グッ」
それを自身に到達するより前に破壊するため愛梨は矢をそれぞれに突き刺す中、沙耶は更に自身から破片を飛ばし、大きさを変形させ足場を作る。その後、先程同様破片を駆使して跳躍しながら、既に落下し始めている愛梨に向かって行く。
動け。
「うぅ!」
僅かに思考とのズレを感じる。
もう、体の限界はとっくに過ぎていたのだ。恐らく、身体にヒビが入った辺りから。
能力保持者が、能力に侵食される事はあるのだろうか。この世界の常識はよく分からない。それでも、まだ意思が残っているなら、動くしか無い。
無駄な事は考えるな。ただ、目の前の相手に集中しろ。自身に言い聞かせる。
目眩がひどい。
体が勝手に動いているかの様な感覚だ。
だが、目を瞑ってはいけない。目を瞑れば、きっともう体は動かなくなるだろう。意識を保て。そう、たとえ。
誰かの声が、頭の中で聞こえたとしても。
それでも、目の前の愛梨を止める事が、今自分のやらなくてはならない事で、皆を助けるための方法だと、確信しているから。
だから、動け。
「っ!」
沙耶の、先に放った破片の対処をしていた愛梨は、目の前に迫った彼女に目を見開く。
「絶対に、私が食い止めるっ!」
瞬間、沙耶の拳の岩が大きさを変え、まさに巨大な人型の岩と同様のそれが、愛梨に向かった。




