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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
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210.転換

「ここからは、俺達の話し合いだ」


「...大丈夫なのか、?」


 碧斗(あいと)は怪訝な表情を浮かべる。不安になるのも無理はない。奈帆(なほ)は、一度地面に叩きつけただけの状態。まだ意識はあり、言うなれば、会話も普通にしている。そんな、まだ突然起き上がり敵対する可能性の高い相手と、今にも倒れそうな体の大翔(ひろと)を置いて、行けるはずがないと。碧斗は目を細める。がしかし、大翔は安心しろと頷いた。


「問題ねぇ。一回叩きつけときゃ懲りるだろ。それに、俺と同じくらい、ギリギリっぽいぜ」


 大翔は、目の前の奈帆を見つめ笑う。そんな彼女の翼は、既に激突によってか大きく負傷しており、黒ずみ外側が欠けていた。


「...分からないだろ。翼の能力だ。生え変える事も容易かもしれない」


「...ああ、かもな。でも、もしそれが出来なかったらどうする?これが、奈帆の限界だったらどうするんだよ?...だから、これ以上するわけにはいかねぇんだ」


「...大翔君、」


「...つーか、碧斗が言ったんだろ?倒した後に、話し合うって」


「...」


 碧斗の疑いの言葉に、大翔は間を開けてそう返す。


「奈帆とは、"話せなきゃいけない"。まだ、聞きてぇことは沢山あるんだ」


「...それも、、そうだな、」


 碧斗は、その言葉に一度悩む。安心。それは、一体いつ訪れるのだろうか、と。奈帆が戦えないのを確信したらだろうか。否、奈帆の戦意を喪失させたのを確認したらだろうか。否。

 恐らく、安心は。

 奈帆が。相手が、意識を失った。または、"死んだ"時にしか、訪れないだろう。


「クッ」


 思わず碧斗は目を逸らした。それでは、他の皆と同じではないかと。拳を握りしめる。この世界のせいで、少しおかしくなっていたのかもしれない。


「でも、、危ないのは変わりない。...気をつけて、」


「ああ」


 碧斗の不安げな言葉に、大翔は背中で答えると、それを聞いた彼は目を逸らしながら樹音(みきと)の方へと駆け寄った。


「...大丈夫、?樹音君、」


「あ、碧斗君、、ぼ、僕は、、大丈夫、、大翔君は、?」


「ああ。作戦は成功だ」


 意識が朦朧としながらも、仰向けになり空を見つめながら樹音は笑顔を浮かべると、続けて放った。


「良かった、、でも、大翔君の体は大丈夫なの、?」


「分からない。...清宮(せいみや)さんも、完全に安全かと聞かれると、、答えられない。でも、、大翔君には二人で話したいことがあるから」


「...そっか、、僕らはお邪魔ってことかな、」


「ここを離れるのは怖いが、、そういうことだろうな」


 遠くから大翔を見つめながら碧斗がそうぼやくと、改めて樹音に詰め寄った。


「樹音君、動かなくていい。まだ、耐えれそうか?」


「うん、、全然大丈夫だよ」


 その、無理に笑う姿に碧斗はバツが悪そうにしながらもそうかと優しく返し、彼を持ち上げる。


「うっ、うわっ!?」


「とりあえず地下まで運ぶ。治療は王城の状態を見てだな」


「え、う、うん」


 樹音は、自身を軽々と持ち上げた碧斗に驚き、目を見開く。


「ん?これか?これでも筋トレしてるんだぞ?」


「え、、そ、そうは言っても、」


「悪い、嘘だ。煙で圧力を与えて浮かせてる。俺が飛んだ原理と一緒だ」


 碧斗が冗談めかして笑うと、樹音もまた「なんだ」と笑う。そんな彼に微笑み返したのち、碧斗は出血が止まらない腹を見据え歯嚙みすると、足早に王城へ向かうのだった。


            ☆


「...やっと、話せるな」


 時が止まった様に、音が消える。二人だけの空間の如く錯覚する。それ程に、大翔は目の前で、地面を抉りながら倒れ込む奈帆に、集中していた。


「...はぁ。話すことなんて、、もう無いけど」


「まだあるだろ」


「無いよ。あれで全部。あれ以上、何言わせるつもり?」


「その相手の話がまだだろ。琴葉(ことは)の相手の事、少しは知ってるんだろ?何か、、なんでもいい。教えてくれ。俺も、力になれるかもしれない!...それとも、それも俺に教えないで、陰で笑うつもりか?」


 大翔が力無く息を吐く奈帆に、鋭い目つきでそう口にする。すると、奈帆は対照的に。

 嘲笑うかの様に吹き出した。


「はっ」


「は、?んだよ。ナメてんのか?」


「はぁ〜あ。いやぁ、その様子じゃ、私が何で必死にあんた達をここで殺そうとしてたかも、分かって無いんだろうなぁって」


「...は、?どういう意味だよ」


 乾いた笑みを浮かべる奈帆に、大翔は怪訝な表情で返す。と、それに奈帆は深く息を吐いたのち、目を逸らして口にした。


「何で、私が無理にあんた達の相手したと思う?いつもは、こんな分が悪い戦い、私は避ける」


「な、、何でって、、そりゃ、沙耶(さや)とか相原(あいはら)に援護を行かせない様に、、時間稼ぎしてた、、んじゃないのか?」


「はぁ。なら、何であんたと円城寺(えんじょうじ)樹音だけを優先的に殺そうとしてたと思う?」


「は、?いや、、えーっと、、って!んだよ!めんどくせぇな!さっさと言えよ!」


 奈帆の遠回しな言葉の数々に大翔が痺れを切らしてそう声を荒げると、彼女は心底呆れた様に首を横に振りながら告げる。


「はぁ、ほんと脳筋だね。...何でって、それは」


 奈帆はそこまで放つと、目を細める大翔に目を合わせて、同じく目を細めてそう付け足した。


「私が話した、あんたにとって辛いあの子の話。それを、忘れさせるため。円城寺樹音も同じく、それを聞いてたから」


「は、?」


 思わず声を漏らした大翔に、奈帆は目を逸らしながら「あんたには、耐えきれないって思ったからだよ」と、小さく付け足したのだった。


            ☆


「かはっ、、はぁ、、はぁ、はっ!」


 薄れた意識の中、懸命に自我を保つ。本来ならば重症だ。いや、それだけでは済まなかった。自身で体が、既に侵食され始めていることが、嫌でも自覚してしまう。


「はぁ、、はっ!はぁ!」


 崩れ始めた、岩の数々。その頂上で、拳を握りしめ、懸命に息をする沙耶は。荒い呼吸を零しながら目を無理矢理開いた。

 と、その先には。


「!」


 王城の裏。恐らく四棟辺りから、炎が上がっていた。大きな火事になりそうな見た目だが、上手く火が燃え移らない様に変な軌道をしている。

 あれは、間違いないと。

 薄れた意識の中沙耶は確信する。あれは、美里(みさと)によるものだと。


「みさ、、と、ちゃ、」


 駄目だ。ここで嘆いていては。駄目だ。愛梨(あいり)を美里の元へ行かせては。駄目だ。ここで、折れては。


「...?」


 ガラガラと。突如岩が動き出し、愛梨はふと振り返る。


「まだ、、生きてる?」


 しぶといな、と。愛梨は僅かに眉間に皺を寄せながら、息を吐く。と、刹那。


「!」


 その岩が粉々に砕け、弾ける様に飛び散り、愛梨に向かう。それを驚きの表情を見せたものの華麗に躱すと、改めて目つきを変える。

 その、視線の先。砕けた岩の中。煙が上がるそこからゆっくり現れた、その少女に向かって。


「絶対に、行かせない」


「はぁ、、流石に、、変換し過ぎた。...あの距離で殺れないくらい、、威力が落ちてる」


 鋭い目つきでゆっくりと近づく沙耶に、愛梨は首に手をやりながら深い息を吐く。と、その直後。


「でも、次は殺る」


 その言葉と同時に手に持った石を弓に変換させ、地面から掴んだ小石を上に投げると、それが三本の矢に変化しそれぞれを沙耶に向けて放つ。

 すると。


「もう、喰らわない!ブロックストーン」


 目の前に二重構造にした岩を生やしてそれを受け止める。


ー今までの攻撃の中で分かった、、神崎(かんざき)さんの矢は、円城寺君みたいに操れる能力じゃ無いんだー


 即ち、一直線にしか進まない。それを理解しているがために、沙耶はあえて目の前から近づいた。が、しかし。


「甘いね」


「っ」


 瞬間、三本の矢は同時に爆破し、それによって流石の二重構造の岩も破壊される。すると、それによって砕けた岩の破片。それが。


「っと、」


 風の魔石で瞬時に移動した愛梨が触れたことにより。


 ーー突如木で出来た円盤へと姿を変える。


「マズいっ」


 ただでさえ爆破の衝撃で吹き飛んだ岩の破片。それが円盤となる事で風の抵抗を受け、沙耶の方へと飛んでいく。だが、それは沙耶に向かう。のではなく、その真上で。

 それは爆発の魔石へと変換し落下する。


「っ、ストーンドーム!」


 慌ててドーム型に、地面から岩を生やして変形させ、自身を守るものの、その衝撃を避ける事は出来ずに吹き飛ばされる。


「うっ!」


「次で終わり」


「はぁ、、はぁ、はっ!はぁ、」


 いや。駄目。ここで、負けるわけにはいかない。

 巨大な岩は、愛梨の素早い動きとスピード感のある能力変換に対しては不利であった。巨大な人型岩に入っていると、死角となる部分があまりにも多過ぎるのだ。即ち、愛梨には、スピードが追いつける程の身軽さと、視界の良さ。そして尚且つ、力がある攻撃が繰り出せる接近型であり、彼女の爆破に耐えきれなくてはならない。

 考えろ。

 負けるわけにはいかないのだ。

 考えろ。

 そんなものあるか。

 考えろ。

 碧斗ならば、皆ならばどうするか。

 考えろ。

 不可能だと思いながらも、皆それを実現させて今まで勝ってきた。だからこそ、自身も、やらなくてはならない。

 更なる能力の、応用を。


「はぁ、、はぁっ、はぁ、、んっ!」


 目の前に、矢が迫る。岩を生やすべきだろうか。いや、また同じ事の繰り返しだ。だが、体が動かない。何度も、何度も。この小さな体で爆破の衝撃を受けているのだ。いくら威力が半減されているとは言えど、何度も喰らえば大きな攻撃となる。

 動け。


「はぁっ、はぁ!」


 動かなくてはいけないのだ。美里のところへ。行かなくてはいけない。恐らく、誰かと交戦しているのだろう。美里のところへ行かなくては。碧斗のところへ助けに行かなくては。大翔のところへ、向かわなくては。樹音を、見つけなければ。

 即ち、ここで倒れている暇は。


 無い。


「っ」


 瞬間、矢を突如巨大な岩を生やして防ぐと、その直後。その岩は破裂する様にして砕け散る。


「なっ」


 思わず愛梨は声を漏らす。

 何もしていないからだ。

 矢を爆破の魔石へと変換したわけでも、何か岩を砕けるものに変換したわけでも無い。つまり、沙耶自らの意思で、破裂させたのだ。

 そして、それにより向かう破片を、愛梨は弓を構え防ごうとするが、しかし。


「!」


 目の前で、突如それらが止まる。と、その後。


「...絶対、、させない、」


 沙耶の小さな声と共に、岩の破片は彼女に向かって引き寄せられる。その異様な光景に、愛梨は怪訝な表情を浮かべた。


「...絶対、、行かせない」


 沙耶は呟きながら、どんどんとその岩の破片が体にくっついていく。

 腕から関節へ。そこから肩へと岩がくっついては変形しながら伸び、更に飛んでくる破片は手にくっつき、指先まで覆う。それと同時に、足にも破片が飛びつき、それが変形して太腿から足先にかけて岩が覆っていく。

 そして、沙耶の体の周りを回り続けていた三つの岩の破片が突如胸と腹、背中にくっつくと、それらもまた変形して体を覆い、まるで防護服の様に変化していく。

 その後、首まで岩が達した。それと共に。

 沙耶は突如地面を力一杯踏みつけ、それにより浮き上がった地面の破片。それが、頭の周りを回ったのち、沙耶の髪の毛を束ねる様に破片の数々が一つになり、まるでヘアゴムの様に丸い形に変化し彼女の髪を一本に縛る。


「絶対っ!負けないから!」


 まるで戦闘服。岩でできた、ゴツゴツでその小さな体を補うための分厚いスーツ。

 そう。沙耶の導き出した愛梨に対する一番の能力応用。それは。

 巨大な岩をそのまま身に纏い、自分自身が人型の岩となる事。


「...まだ、やる?」


「降参しないならっ」


「なら、続行、」


 愛梨はそう淡々と呟くと、またもや地面から砂利を手に掴み、上に投げ、それを矢に変換したのち沙耶に放つ。と。


「させない」


 沙耶は手を前に出すと、開いた手が大きく変形し、岩の壁を作りそれを防ぐ。と、その直後にその矢は魔石に変化し爆破を起こすものの、それによって砕けた岩の破片を愛梨に飛ばすと同時に、沙耶は足の岩を伸ばす事によって勢いをつけ、スピードを上げて彼女に向かう。


「っ」


 それにハッとし。慌てて愛梨は地面に矢を刺し風の魔石へと変化させ回避する。ものの。

 砕けた破片は愛梨を追って周りを浮遊しながら、僅かに見せる隙を狙って擦り傷をつけていく。


「クッ」


 それに追い討ちをかける様に、沙耶が左腕を挙げると、それに合わせて地面から巨大な岩が生えて空中で破片を避けている愛梨に直撃させる。


「かはっ!?」


 その岩の先端を尖らせなかったが故に、彼女は数メートル先に吹き飛ばされるのみで、血を吐きながらもゆっくりと立ち上がった。


ー岩を自分に着けてスーツの様にする事で、体の一部の様に岩を操れる様になった、ー


 愛梨は尚も冷静にそう脳内で結論づけると、沙耶と同じく地面を強く踏みつけ、浮き上がった石を弓と矢に変化させると、それを構えて目を細めた。


「ほんと、、人間やめてる」


「そうかも、、私も、もう自分がどれくらい能力に侵食されてるかは分かってないよ。...けど、みんなを守りたい。そのためには貴方を行かせるわけにはいかない。それだけは、、間違ってないって。そう、思うから」


 沙耶は束ねたポニーテールの髪を風でなびかせながら、真剣な表情で、一歩。また一歩と愛梨に近づく。


「神崎さん。貴方をみんなのところには行かせない。そして、私が貴方を止めて、、貴方の事も救う。争いを止めさせるって事は、、みんなを救う。みんなの心を救う。...そういう事だと、思うから」


 僅かに視線を落とす愛梨に、沙耶は真正面から彼女を見据え、強くそれを告げたのだった。

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