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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
21/299

21. 支配者

キャラクターファイル22

竹内将太(たけうちしょうた)

能力:爪


運動能力:5

知能:4

速度:3

パワー:2

成長力:3

「戦わなきゃいけなくなる、、ねぇ」


 剣を向けられ怯んだものの、自信のある表情をする将太(しょうた)


「能力は、剣、?」


 沙耶(さや)がそう呟くと、樹音(みきと)は柔らかく微笑んで言う。


「あ、まだ言ってなかったねーー」


「おい。対戦相手が目の前にいんのに、呑気に話してんなよ」


「っ、その割には君もお喋りだね」


 将太が樹音が言い終わるよりも前に割って入ると、それに応えるように樹音も挑発的に笑った。


「ふっ、途中から入ってきて図に乗るなよ」


 折角(せっかく)2人を追い詰めたという時に入って来た事もあり、少し樹音に苛立ちを覚える将太。


「一気に3人戦えるんだから、君的には嬉しい事じゃない?」


「3人ぶっ飛ばせないと意味ないけどな」


 沙耶の攻撃により、ダメージを受けている将太は無傷である樹音と戦う事を恐れている様だった。


「3体1で君はダメージを受けてる。こちらが優勢だけど、戦うつもり?」


 樹音の言葉を聞き、何かを察した碧斗(あいと)は慌てて叫ぶ。


「駄目だ!円城寺(えんじょうじ)君は竹内(たけうち)君を生かそうとしてるのかもしれないが、こいつにマーストの家がバレたんだ!このまま返すわけにもいかない」


 それを聞き樹音は「そうだったんだ」と呟くと将太に向き返り、笑みを浮かべる。


「じゃあ、ここで帰らせるわけには行かないね。怪我したくなかったら大人しくついて来てほしいんだけど、」


「はぁ?誰が戦わずして付いてくんだよ」


「そういうわけにもいかなそうだね」


 提案に食い気味に声を上げる将太を前にし、微苦笑(びくしょう)を浮かべる樹音。


「じゃあ、伊賀橋(いがはし)君。水篠(みずしの)ちゃんを連れて先に家に行ってて、マーストさんが待ってると思うから」


「なっ、おい、そんな事出来るわけないだろ。確かに竹内君はダメージを受けてはいるが、あまり甘くは見ない方がいい。能力を完全に使いこなしてるぞ!」


 碧斗の言葉に、隣で首を縦に振る沙耶。その様子を見て、樹音は微笑む。


「そっか、じゃあ少し離れてて。丁度僕の能力も見せてあげたいところだしね」


 そう言うと、樹音は攻撃を仕掛けようと態勢を整える。だが


「なぁ、おい。さっきからずっと喋ってるが、気付いてるか?」


 将太の不気味な笑いに眉を潜める樹音。


ー気づいてる?一体何の事だろうかー


 自信満々に声を張る将太の様子を見る限り、その言葉の意味は策があると言う事なのだろう。だが「見える範疇(はんちゅう)」にはそのような物は見えない、だとすると。


「言っといたよな?呑気に話してんなって」


 そこまで言うと、一呼吸置いて「忠告はしたぞ?」と呟く。


「まずい、下だ!」


 「見えない」のであれば、先程と同じく地中からの攻撃であると予想した碧斗は、樹音に向けて声を上げる。


 すると、狙い通りに地面から巨大な爪が出現する。が、その数は5本。碧斗達に1本の爪だけで攻撃して外していた事を学習したのか、確実にダメージを与える為に本数を増やしたのだろう。


「おっ!」


 声を漏らしたものの、剣を回転させて爪を弾く。その後、爪の反動の隙を狙い樹音を囲うように出現した爪から脱出する。


「っと、」


「チッ、逃げたか」


「下からは予想してなかったね、ありがとう伊賀橋君」


「ああ。おそらく足の爪を土の中で伸ばしてたんだろうな。円城寺君との会話は、竹内君の時間稼ぎだったみたいだ」


 碧斗の考察に図星を突かれたのか、将太はバツが悪そうに顔を背けた。


「ありがとう。早速助けられちゃったね」


「てめぇが剣ならその剣と対等な爪じゃなけりゃあな!」


 そう言うと、将太は恐竜の爪のように鋭く尖ったものに変形させ、走り出す。


「来いっ」


 樹音は剣を構えてそう呟く。次の瞬間、素早く樹音に爪が斬りつけるように目の隅に現れる。


「くっ!」


 反射的に左に迫った爪を剣で止める。だが、右からも同じ長さの爪が迫ってくる。そう、剣より勝る爪の特徴は両手という点である。さらに、自分の体の一部であるがゆえに自在に操ることが出来るのだ。長い棒を操る剣よりも素早い行動が出来るのは一目瞭然である。


 それでも、樹音も一筋縄ではいかず、その場にしゃがみ込み将太の脚を蹴る。バランスを崩した将太は一瞬戸惑いの様子を見せたが、地面に倒れ込むより前に空中で足の爪を伸ばして、次は脚での攻撃を試みる。


「危なっ」


 足の爪を剣で弾き、その反動で後退る。将太が地面に横たわる瞬間を狙い、その隙に攻撃をしようとすぐさま将太の元に駆け寄る。が、地面に手を突き(また)もや脚で攻撃を仕掛ける。


 勢いをつけ走り出した樹音は突然の攻撃に避ける事が出来ず、剣で爪を防ぐ。蹴りを受け、隙ができた樹音に、跳躍(ちょうやく)して空中から体重をかけた襲撃をするも、それも剣で弾かれる。


「はぁ、意外に力強ぇみたいだな」


「君こそ、はぁ、その傷でそこまでの動きが出来るとは正直、予想してなかった」


 今の様子を見る限り、樹音には瞬発力と運動神経が良いことが窺える。だが、それに追いつける将太も相当な力を持ち合わせているのだろう。だが、ダメージを受けている事により、動きが鈍くなっていくのは時間の問題であろう。


「ならこんなのはどうだ?」


 先に体力が尽きると考えた将太はそう言うと、爪を驚くほどの速さで伸ばし、それを何等分にも切った。


「え!?」


「なんだよ、あれ」


 状況が理解できない碧斗は声を漏らす。切り取られた爪は、もの凄いスピードで伸びた勢いもあり、スピードは衰えずに樹音の方向に飛んでいく。


「くっ!」


「爪を取る事は出来ないが、伸びた爪を切ることは出来る。それを勢い良く飛ばす事により、柔らかく、鋭くはない爪だとしても威力は増すって訳だ。これは」


 そこまで言い、沙耶の方を見て笑う。


「そこのお嬢さんに教えてもらった事だ」


「えっ!?」


「なるほど。先程の小さい石でも威力があれば強くなるという理論を利用して来たか」


「ど、どうしよ、私のせいで、」


「いや、正直この案を考えた俺のせいな気がするが、」


 だが、その弾丸のような爪を1つ1つ防ぐ樹音。やはり彼は素晴らしい動体視力を兼ね備えているのがわかる。


「くそっ、化け物じみた目してんじゃねーかよ。なら」


 防がれると悟った将太は裏から周り、樹音の裏を取る。未だ爪を防ぎ続けている樹音の背中は隙だらけであり、爪を尖らせて一撃で致命傷を狙う将太。


「ここだっ」


 腹を5本の鋭い爪で貫こうとした瞬間、剣を大きく回して前の爪と背後からの将太の爪を同時に防ぐ。その瞬間に樹音は横にずれて、前からの爪を避ける。その爪は樹音が避けた事により、後ろの将太に向かう。


「てめぇ!俺の攻撃を利用してっ!?」


 伸ばした爪を顔の前に構えて小さい爪を防ぎ、驚きの声を上げた。


「利用したのはお互い様でしょ?」


 爪を防いでいる将太のガラ空きの横腹を狙い、峰打(みねう)ちをしようとする。が、即座に土に潜り攻撃を避ける将太。


「もう少しだったのに」


「何処から出てくるか分からない!周りをよく見て気をつけろ!」


 碧斗の言葉に「りょーかい」と短く返すと、再び身構えて辺りを見回した。


ー次は何処から来るだろう。やっぱ、また近くから狙うかな?それとも一旦引く?ー


 樹音が思考を巡らせた瞬間、後ろで(わず)かに土が盛り上がる。


「そこだっ!」


 その真上を切るも、そこに将太の姿は無くただ宙を斬る。


「ちょっと早かったな、馬鹿が!」


 飛び出すタイミングを遅らせて襲いかかる将太。隙を作る為の作戦だろう。


「残念、馬鹿は君だよ」


 先程の空振りの勢いを残したまま、回転して将太の右腹に棟打(むねう)ちをする。


「なっ!?」


 慌てた様子で将太は右手の爪で剣を止める。腕は震え、保つのがやっとという状態である。


「そろそろ限界なんじゃないの?」


「おめぇも、そろそろ、じゃないか?」


 余裕のある表情を無理に作って応える将太だったが、体力勝負となると圧倒的に彼の不利になるだろう。それを察した将太は、剣を弾いた力で樹音と距離を取る。


「はっ、はぁ、確かに、ちとキツいかもな」


「諦めて一緒に来て欲しいんだけど」


 真剣な眼差しで告げる樹音に歯嚙みする将太。余裕がなくなったその表情を見る限り、対処法はもう無いようだ。


「クソッ、誰がお前らについて行くか、、よ」


 弱々しくそう言うと、将太は崩れ落ちて膝をついた。戦闘中はずっと無理して戦っていたのだろう。


「傷、治すから」


 樹音はそう呟くと、息を荒げている将太に手を差し伸べた。


「お、お前、」


 少し泣きそうな顔をした将太だったが、直ぐに取り繕って


「敵に善意を見せてんじゃねぇよ、全く」


 笑ってそう言うと、樹音の手を強く握った。


「い、良い人そうだね、、良かった」


「うん。だね」


 沙耶と碧斗は安堵しながら、優しく微笑んだ。だが、樹音が将太を立たせようとした瞬間、何処からか現れたフックガンのような物が将太の襟に引っかかり、森の奥に引き摺り込まれるように消えていった。


「なっ!?」


「え!?」


 樹音と沙耶が突然の出来事に声を漏らす。


「クッ、やっぱりか」


 碧斗は何かに勘づいたのか、表情を曇らせる。


「ど、どうしたの、?伊賀橋君」


「やっぱりって、何か分かったの?」


「ああ。あいつは、竹内君は、俺らを捕まえろと"言われてる"と言ってた」


 碧斗がそこまで言うと、樹音は気づいたように目を見開いた。


「つまり、上の存在が出来てる。って事、だね」


「う、上って、どういう」


 沙耶が首を傾げて碧斗の方を見る。


「転生者達の中でカースト制度が出来てる可能性が高い。全員がそうだとは思えないが、少なくとも何人かの"グループ"が出来てるって事だ」


「え!?じゃあ、私達を捕まえる為にチームができてるって事?」


 碧斗と樹音はバツが悪そうに頷く。あの様子を見ると、将太はチームの「目上の人」からの指示でここにやって来たという事だ。おそらくそれを実行出来なかったからその人が回収したのだろう。


「と、とりあえず、家に戻ろう。2人とも怪我ない?」


「あ、ああ。大丈夫だ」


「わ、私も、大丈夫」


 家の場所がバレ、碧斗は不安に押し潰されそうになったが、今は事が去ったことに安堵し、ただ「その時」が来ない事を祈る事しか出来なかった。


           ☆


「おい。俺は連れて来いと言った筈なんだけど」


「あの剣が居なけりゃ勝ててたよ!」


「言い訳は聞きたくない。俺は1つしか命令していない筈だったが、それすらこなす事が出来ない無能なのか?」


「ち、ちげぇーよ、ただ、」


「ただ?なんだ、また言い訳か?」


「いや、ちが、くそっ」


 圧をかけられ、将太は言葉を濁す。俯いている将太を引き摺りながら、その男は呟く。


「まあ、あいつらのアジトは分かったから、"お仕置き"は無しにしてやるよ」


ー剣、というのは、おそらくあいつの事だろうかー


 その男は何かに気づき、不気味な笑みを浮かべて王城へと足を進めるのだった。

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