表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
208/299

208.雲上

「あ、碧斗(あいと)君、」


 膝を着き、俯く碧斗を見つめ、樹音(みきと)は思わず声を漏らす。その、碧斗の反応に、その重大さが理解できた。それ故に、彼のみならず、皆表情を曇らせた。


「あははっ、これは流石に予想外だった?まさか大将直々に出てくるとは思わないもんねぇ。あ、言っておくけど、大将って言うだけあって一番強いし、頭もきれる。水篠沙耶(みずしのさや)の時みたいに、一対一でも勝てる〜!信じてる〜っての、意味ないから希望抱かない方がいいよ」


 その一同の様子を見下ろしながら、微笑む奈帆(なほ)。やはり、そうだったか。そう、碧斗は思いながら、ゆっくりと立ち上がった。


「そうか。だが、そっちも理解してないところが一つあるぞ」


「ん〜?何々?強がってるの?」


「違う。相原(あいはら)さんが、そんなに馬鹿だと思うかって話だ」


「「「っ」」」


 奈帆だけでなく、その場の皆が目を僅かに見開く。美里(みさと)は、今まで幾度と無く機転を効かせた作戦を立てていた。智樹(ともき)の時なんて、彼女の作戦によって勝利した様なものだ。


「大将が来るか、智也(ともや)君が来るか。それは行ってみないと分からないし、一か八かの賭けだったが、大将が相原さんの相手をしてるなら、問題ない」


「それは〜、どういう理屈?」


「相原さんは、一番強い奴を、止めてくれるって言ってるんだ」


「プッ!はははっ!何それ!結局信じてる理論じゃん!そんなっ、期待しても絶望が待ってるだけだって!」


 強気に放ったそれに、奈帆は思わず吹き出す。それはそうだ。それに、何の根拠も無い。だが。

 "こうなる事は、既に読めていた"のだ。

 碧斗と美里は、奈帆の放った愛梨(あいり)の情報を耳にした後、必ず裏があると意見が一致し、美里が向かった先に誰かが待ち伏せしているだろうと予想。それは、碧斗も同行した場合も含めて、大将こと涼太(りょうた)と智也の二人が居る可能性があると互いに認識していた。そのため、それ以上の作戦自体は考えてはいなかった。だが、美里ならば。

 それが分かっていて下手な行動をする様な人では無い。

 その彼女の性格を理解しているからこそ、碧斗は確信出来たのだ。

 そしてーー


「はははっ!も〜、ほんと、笑わせないでってば、、っ!」


「「「っ!」」」


 奈帆が空中に居るからか、いち早くその異変に気づき目の色を変える。

 そう。王城の四棟。恐らく美里と涼太が出会っているだろう場所。そこからーー


 ーー煙が上がっていた。


「まさかっ」


「なるほど、、そうきたかっ!」


 奈帆が目を剥き、碧斗が微笑みながらそれを理解する。その光景に、樹音と大翔(ひろと)は意味が分からないといった様子だったものの、その立ちこめる煙の発生元に、僅かに炎による揺らぎの様なものを見つけ美里によるものだと確信した。


「えっ!?あれってやばいんじゃ、」


「いや、あれで良いんだ」


 碧斗はニヤリと微笑み奈帆へと視線を向ける。と、案の定彼女は歯嚙みし、焦りを見せている様子だった。

 つまり、美里は自身で火事を起こしたのだ。それによって、王城には被害を出してしまうものの、それを見つけた王城の人達は確実に集まってくるのだ。騎士の方々は王城の被害を抑えるべく鎮火作業に。他の転生者達はまた戦闘が行われていると察し、戦いを求めて。

 先程、涼太は一人である方が本気を出せると話していた。美里は聞いていない筈ではあるが、それを理解してか、あえて人を集める行動を取ったのだ。それが自身の敵になろうとも、涼太の本気を、阻止するために。


清宮(せいみや)さんの反応で確信した、、やはり、他の人が近くにいると色々とマズいみたいだなー


 碧斗は奈帆の表情を見上げる形で見つめて脳内で呟く。


「どうした?何かマズい事でもあるか?」


「っ!あんた、」


 碧斗の、その分かった上での反応に奈帆は歯嚙みしながら、声を震わせる。


「火事が気になるなら行けば良いよ。自分の目で確かめた方がいい」


 碧斗は奈帆に向かってそこまで告げると、少し間を開け目つきを変えて低く付け足す。


「でも、その代わり、俺達三人もついて行くけどな」


「っ」


 そう。こちらと同じ状況を、彼女にも作り上げたのだ。たとえ助けに行きたくても、そこに行けば今引き付けている我々という名の敵が、一斉にそちらに流れ込んでしまう。そうなった場合、人数差で考えるとパニッシュメント側が圧倒的不利になるだろう。

 故に。


ー動けないだろ?清宮さん。これが、俺らの気持ちだったんだー


 碧斗は挑戦をする様に。挑発的な表情で奈帆を見据える。と、それを受けた奈帆は、突如。


「なら、」


「「「?」」」


「ここで全員狩る!」


「「「!」」」


 奈帆は突如翼を広げ、大量の羽根を飛ばす。


「ハッ!頭脳で負けたら力技でゴリ押しか?お前こそ脳筋じゃねぇかよ!」


 大翔は皆の前に割って入り、飛ばされる羽根を腕で防ぎ、拳で打ち落としながら声を上げる。


「あんたと一緒にしないでくれる!?」


「ダガーストライク!」


 奈帆が叫び、羽根の数を増やす中、樹音が名を叫びながら空中に更に多くのナイフを出現させて対抗する。

 その様子に、碧斗は脳内で彼女に問いかける。

 どうだ、と。今の現状、先程のパニッシュメントの思考と同じ。一人ずつ倒すという考えに、嫌でも当てはめてしまう。それを考えていた奈帆だからこそ、尚更それが自身に降り注いだ時、意識してしまうだろう。

 そう。

 ここで、奈帆だけは確実に倒すと、我々が考えているという事を。

 即ち、これは奈帆に対する心理誘導でもあったのだ。彼女がこれから我々に倒されてしまう。そう、そんな悲観的な思いが、僅かでも脳内に現れてしまう様な。


「クッ」


 そのため、奈帆は焦りを見せていた。それを、容易に見抜けてしまうほどに。


「そうはっ、させないよ〜!」


 奈帆はそう声を上げると、焦りを隠すためか、あえて微笑み空中で樹音のナイフを避け、隙間を見つけては羽根を撃ち込むのを繰り返していた。その様子に、碧斗は確信する。美里の行動故に、少しは焦りを覚え、攻撃の頻度を高めてはいるものの、彼女は空中に居るのだ。故に、元々彼女から攻撃のする必要の無かった作戦である。それを理解しているのに、無理に責めることはしないだろう。

 そう、即ち。"空中に飛べない我々を相手に、無理に向かう必要は無い"という事である。

 そのため、自身に大きな攻撃は放てないと思っているのだ。実際に、空中の奈帆へ攻撃出来るのは樹音のナイフと、それを利用して大翔が跳躍する事。だが、大翔の攻撃は、空中に居る奈帆からすれば隙だらけ。一瞬で空中に移動出来ない以上、彼女に致命傷を与えるのは不可能に近い。そのため、奈帆は遠距離攻撃である樹音のナイフにだけ注意を払い、我々が逃げ出さない様に攻撃を隙を見つけては放つ。それを繰り返しているのだろう。

 ならば、と。

 碧斗は目つきを変える。


「樹音君、大翔君、、清宮さんに勝つには、空中を制すしか方法は無い」


「それは分かってるけどよ、、さっきから俺らもやってるが、中々、」


「俺が、行く」


「「!」」


 碧斗が、陸に居る二人にしか聞こえない声量でそう呟くと、同時に彼らは目を見開く。


「それ、どういう事だよ、」


「碧斗君、何か、、案があるの?」


 二人はお互いに、奈帆への攻撃を劣らせる事なく碧斗に疑問を投げかける。そう、彼女に聞こえてはならない話だと、碧斗のそれで察したのだ。それに、歯嚙みして、バツが悪そうにしながら碧斗は放った。


「ああ、俺の能力の煙は、その噴射力によって空中へと押し上げられる可能性がある能力だ。この間、グラムさんの裏庭で挑戦したけど、、中々上手くいかなかった」


「っておい!上手くいかなかったのかよ!?」


 碧斗の言葉に、大翔は思わずツッコむ。それにだが、と。碧斗は申し訳なさそうにしながら、その確信の無い作戦を小さく告げた。


「...だが、、原理は同じ。上手く調整が出来ればいけるはずなんだ、、だから、、頼む」


「あ?どういう事だよ」


「つまり、、碧斗君がその力を上手く使える様になる時まで、僕らで清宮さんを相手して欲しいって事、、かな、?」


「っ、そうなのか、?碧斗」


 樹音の予想に、大翔が促すと、碧斗は無言のままゆっくりと頷いた。すると。


「おい、ふざけるなよ。そんな、出来る確証の無い作戦のために、俺らに時間稼ぎなんて甘っちょろい事させんなよ」


「...え、?」


 出来る確証も無ければ、原理を理解しているだけで、人でそれが実際に出来るかすら分からないものだ。そのため、反対されるのは予想していた。がしかし、皆の意見の矛先はそこでは無く。


「俺らは本気でいかせてもらう。その間碧斗を守るとか、それを待つとか、そういうの好きじゃねーんだ」


「碧斗君、僕もごめん。碧斗君は今までギリギリの中で作戦を成功させてきたから、、出来ると心では思ってるし、碧斗君の作戦の理由も分かる。だけど、もし出来るならその前に終わらせて沙耶ちゃんのところに合流したいんだ」


 その、予想とは違った答えに、碧斗は微笑む。今まで、沢山無理な作戦を口にしたり、実行してきたりした。だが、それを皆は受け入れてくれたのだ。それは皆が優しいから。それもきっとあるだろうが、何よりも。


「っ!ああ!そうだよな!みんなでさっさと清宮さんを止めて、水篠さんと相原さんのところに援護に行こう!」


「うん!」「おう!」


 想いが、同じだったからだ。


「あははっ!なんか気合い入ってるけど、意味ないよ〜。結局、負けるんだからさ」


 そこが、パニッシュメントとの違いだと。まるでそう告げる様に碧斗は奈帆に視線を送りながら、手の平を地面に向けた。


「ん、?」


 その変化に、奈帆が僅かに目を細めると、それに意識を持たせまいと。


「能力応用、ダガーステージ」


 樹音がそう呟き自身の周りに無数のナイフを出現させ、そののちそれを空中で浮遊させながら足場を作る。


「大翔君!」


「おうよ!」


 それに続いて大翔は跳躍し、そのナイフに飛び乗ると、その上でナイフを蹴り上げる形で更に跳躍し、その前方に用意された別のナイフに飛び乗る。


「ははっ、さっきと変わらないじゃん!だからその攻撃はもう見たって。さっきも、こうされたでしょっ!」


 奈帆はニヤリと微笑みそう放つと、大きく広げた翼を畳む事によって風を起こし、その風圧で向かう大翔を吹き飛ばす。


「がはっ!」


「やっぱ脳筋。残念だったね〜。結局やる気はあっても変わらないのが現実だよ」


「ハッ、よく喋るなっ!相変わらず人の不幸を見るのが好きか?奈帆!」


 大翔はあえてそう返し、空中で体の向きを変えて足で着地をすると。


「おらっ!」


 足に力を込めて強く地面に踏み込む。

 そして、それによって。


「っ!」


 地面が砕け、その破片が目の前に飛散した。


ーまさか、さっきのナイフは罠、?これが本命だとしたら、さっきの速度はー


 奈帆はそこまで考えた矢先。大翔はそこから跳躍し、自身の着地によって空中に舞った地面の破片を飛び移りながら彼女へと向かう。そして、奈帆の予想通り、その向かう速度は、先程の倍以上。先程のナイフによる空中跳躍が奈帆に隙を作るための策だとするならば、二度目の本命はそれを遥かに上回る速度を出してくるはずだ、と。そう、即ち。

 先程のナイフを飛び移りながらの攻撃時には、本気を出していなかったという事である。


「そろそろ同じ土俵でやり合おうぜ」


「っ」


 故に大翔が目の前に一瞬で現れ、拳を構える。叩き落とすつもりだろう。そう、奈帆は微笑んだ。確かに作戦は悪くはない。だが、それでも遅いのだ。


「空中では私の方が速いから」


「っ!?」


 奈帆は、瞬時にそれを回避し、大翔に蹴りを入れ、逆に彼を突き落とす。


「がはっ!」


 口から空気を吐き出しながら声を上げたものの、どうやら大きな傷にはなっていない様子だ。


「脳筋が、、っ!」


 ふと、奈帆は気づく。何かがおかしい。背後に気配を感じる。それもそうだが、それ以上に。三人も居るというのに、ここまで単純な作戦で挑むだろうか、と。それを思うと同時、奈帆は陸地に大翔と碧斗の姿しか見受けられない事に気づき、ハッとしながら背後を振り返る。

 と、そこには。


「っ!」


 既に目の前に、ナイフを足場としてここまで登って来ていた樹音が、手に剣を構えて迫っていた。


「やば」


「終わりだよっ!」


 が、しかし。


「っとぉ!あっぶなぁ、」


「「!」」


 大翔と樹音が同時に目を見開く。奈帆は翼で自身を守る様にして、その剣の刃を防いだのだ。翼の感覚は共有される。その筈である。現在奈帆の翼は彼女にとって手の様な感覚になっているのだ。即ち、刃を受けたら、その痛みが襲う筈なのだが。

 この翼は、鋼の様で。樹音の剣を、ビクともせず受け止めた。


「クッ、」


「ざんねんっ!」


 奈帆はそう意地悪に笑うと、翼を払い、その勢いによって樹音の剣は弾かれる。

 だが。


「っ」


 樹音はその勢いのまま回転し、改めて奈帆に剣を突きつける。

 そう。樹音は一瞬にして剣を生成する事が可能。それ故に、先程の攻撃はフェイク。奈帆が一度防いだ翼は一本目の剣を弾くために大きく開かれており、現在彼女本体はがら空きであった。

 それを、あえて狙ったのだ。


「ここだっ!」


 それと同時。樹音はそう声を上げ、峰打ちをするため大きく振る。その速度はいつも以上。いくら空中だろうと、先程のは剣を弾くレベルの勢いだ。直ぐに体の向きを戻す事は不可能だろう。

 そう、思われたが。


「っ!?えっ!?」


 瞬間、樹音はバランスを崩し、突如遠くに飛ばされた。


「なっ」


「ふふふ〜、、やっぱ馬鹿じゃん」


 ニヤリと。奈帆は遠くから驚愕の表情で見据える樹音を見つめる。


「...私の能力、忘れた?元々は翼の能力。物に翼を生やす事が出来る能力だよ?...つまり」


「っ!」


 奈帆はそこまで告げると、樹音の足元を指差し微笑む。


「君が足場にしてるナイフも、その"物体"に区分されるんだよね〜」


 その言葉に、樹音は目を見開き冷や汗を流す。現在足場としているこの剣に。剣と同じ大きさの翼が生えていた。


「君っ、、もしかして、」


「何想像してるかは分からないけど、私は物に翼を生やせる。だから、たとえあんた達が能力で生み出した物であろうとも、それは生成された瞬間に立派な物質となるわけだから、翼を生やして動かす事が可能ってわけ。まあその物体を、その物体を生成した本人が動かす事が出来るのは変わらないけど、それでも違和感があるよね?何か大きな力に堰き止められてるみたいな」


「クッ!」


「な、、何やってんだ、あいつら」


 上空での状況を把握出来ずに大翔は声を漏らす。と、対する樹音は力を込めたものの、上手く足場となっている剣が動く事は無かった。即ち、動かせはするものの、奈帆の言う通り強く押さえつけられている様な感覚であった。


「どうする〜?いくら力を込めても、私も同じくらい力を込めるから、バランスが悪くなってその上に居られなくなるのがオチかなぁ。それに、もし自分の力を強めて、私が突然力を込めるのをやめたら、あんた一人で、自分の力によって吹き飛ばされるわけだから、どっちみち集中しないといけないわけだよね〜」


 奈帆はそこまで言うと、だから、と。突如樹音の背後に現れ呟いた。


「っ!?」


「完全に私本体への意識が疎かになる」


「ごはっ!?」


 背後に現れた奈帆は、突然樹音を蹴り飛ばし、地面に吹き飛ばす。


「っ!させねっ、、よ!」


 それを既のところで把握し着地点でキャッチした大翔は、樹音を下ろすと安否を確認した。


「大丈夫か、?樹音、」


「うん、ありがとう。大翔君こそ、、大丈夫?」


「ああ、問題ねぇよ。こんなんでくたばってたまるか」


 樹音をキャッチした事による衝撃。それに、先程から吹き飛ばされては激突している身だ。彼も既に相当限界が近づいている事だろう。だが、そんな心配を他所に、大翔は奈帆に負けじと微笑んだ。


「あははっ、何それ。勝ちますオーラ出してるけど、全然届いてないよ?私に」


 先程の攻撃により理解した。これは、厳しいと。そう感じた樹音は、怪訝な表情で小さく耳打ちをする。


「大翔君、、清宮さんとの能力の相性は悪そうだよ。今までやってなかっただけで、遠距離攻撃のナイフでさえ、翼を生やせば思うように動かせちゃうわけだから、」


「でも、逆に言えばその能力に、俺らの能力が勝てばいいんだよな?」


「そ、そうだけど、つまり、、耐久戦?」


「いや、持久戦だ!」


 大翔の言葉と同時に樹音もまた奈帆へと走り出す。その後ろで地面に向かって、ただ無言で煙を出し続ける、碧斗に目を向けさせないために。


「クッ!うっ!クソッ!?駄目、か、」


 そんな中、碧斗はひたすら煙を一点に集中させて、高温のものを出し続ける。絶対浮いてみせる。力強い意志と、そのシュミュレーションを何度も行いながら。


「ダガーラッシュ!」


「あれ、?もうヤケクソ?...はぁ、脳筋と違ってあんたはもう少しいけると思ったんだけど」


 樹音は、先程翼により軌道を変動させられたというのに、未だナイフを生成しては放ち続ける。それに、馬鹿だなと。そう息を吐きながら、奈帆はそれぞれに翼を生やした。


「残念。そのままお返しっ!えーっと、なんだっけ、?ダガーラッシュ?」


「!」


 樹音はその大量のナイフに生えた翼に驚愕しながら、その一本一本を右手に握る剣で打ち落としていく。だが、数が多すぎる。走りながら、上手いこと一本ずつこちらに到達するよう仕向けてはいるものの、流石に限界というものもある。


「はははっ!自分で自分の首絞めるんじゃ、まだまだだねぇ」


 その逃げ惑う姿に笑みを浮かべながら、奈帆は追撃の如く言葉という名の攻撃を放つ。が、その瞬間。


「それはお前に言ってんのか?まだまだだな。ジャスティスフィスト!」


「えっ!?」


 それと同時。ノーマークだった大翔の声が、突如として背後から聞こえ、奈帆は慌てて振り返る。何故だろうか。そんな疑問が脳内を埋め尽くす中、奈帆の腹に、大翔の一撃が打ち込まれた。


「ごはっ!」


「っとぉ!」


 が。


「フッ」


「!」


 奈帆はその一瞬で、拳を翼で体を包む事で威力を軽減し、その後ーー


 ーーそこから、大量の羽根を放った。


「グッ!?うっ!?うわっ」


 と、それにとどめをさすように。奈帆は続けて彼に蹴りを入れ、地面に叩き落とした。


「いやぁ、女の子に躊躇いも無く殴りとか、ちょっと育ちが良くないんじゃない?」


「お前のやってきた事を振り返って、まだ自分が可愛い女の子だと言えるのか?」


「ははっ、失礼ね。そんなんだから、金蔓にされちゃうんだよ」


「関係ねぇだろ。腹黒女」


 奈帆の挑発に、大翔がそう喧嘩腰に返すと、少しの間ののち、うーんと零して口を開く。


「...なるほどね〜。翼を生やすのに限界は無いけど、体力の問題が出てきちゃうわけだ。今みたいにあまり多くの翼を生やしすぎると、その威力が弱くなる。つまり、ナイフの翼に集中し過ぎて、私の翼の精度を疎かにしちゃったわけだね」


「俺の分からない事をベラベラと説明どうも」


「こちらこそ、新たな発見をどうもありがとう」


 バチバチと。見えない電気が発せられている様子だった。形勢は現在不利。そう見える大翔だったものの、彼は尚も笑って見せた。


「だが、こっちは三人。こっちが体も頭も一枚上手だ」


「え?」


「?」


 大翔の自信げなそれに、奈帆は純粋に首を傾げる。


「いやいや、ごめんごめん。何言ってるのかなって」


「は、?」


 今度は大翔が首を傾げる。対する奈帆は嘲笑うかの様に微笑み、手を口の前にやって小さく零した。


「え、だって、」


 奈帆はそう呟いたのち、大翔の後ろを指差し、ニヤリと微笑む。


「そのうちの一人。もう居ないけど」


「っ!?」


 大翔はその一言に、慌てて振り返る。その先にはーー


「っ!?嘘だろっ」


 ーー樹音が、羽の生えた数本のナイフに突き刺され、赤黒い液体の上で倒れ込んでいた。


「樹音ぉぉっ!」


「はははっ!意識を奪われてたのはどっちかなぁ?」


「てめぇ!」


「確かに私は円城寺(えんじょうじ)樹音の方に意識を集中させて攻撃を続けてた。でも、それは私の中で優先順位があったから。ま、だからこそ、こうしてあんたとは話をしながら時間を稼いだってわけ。私だけが見える範囲に、翼を生やしたナイフで円城寺樹音を誘導させながらね」


「クソッ!」


 大翔は奈帆の方へと向き直り、足を踏み込む。それを見据えながら、奈帆は嘲笑しそう付け足す。


「そう、円城寺樹音を、確実に殺すために」


「ふざけんなっ!」


「っ!やめろっ!大翔君!」


 そんな中、大翔が怒りに任せて奈帆へと跳躍したその瞬間。碧斗がこの現状に気づき目を見開いたのち、大翔の行動を見て名を叫ぶ。


「オラッ!」


「ははっ!残念!」


 大翔は跳躍した空中で奈帆に殴りを入れるものの、空振り。彼女は空中で上手くそれを避け、笑いながら距離を取る。が。


「残念はお前だ。今のこれはっ!」


 大翔はそう口にしながら落下する。と。


大地をも砕く鉄槌(アースブレイカー)!」


「っ」


 その勢いを利用し急降下し、地面を大きく破壊して舞った岩に飛び乗った。


「あれぇ?またその手法?やっぱ芸がないなぁ」


「とらっ!」


「クッ」


 奈帆が余裕の笑みを浮かべる中、大翔は空中に舞う幾つかの岩からほど良いものを蹴り、彼女へと放つ。

 それにより、目を離した。一瞬の隙に。


「終わりだ。拳を貫く(キープザフィスト)!」


 彼は彼女に今まで以上の一撃を放った。

 と、思われたが。


「ごふぁあっ!?」


「...ぷっ!」


 口から大量の血を吹き出し、力無く倒れんだのは。


 大翔の方だった。


「大翔君!」


「なっ、、クソッ!んだよっ、、これっ、、っ!お前、」


 どうやら碧斗の嫌な予感が当たってしまったようだ。

 大翔が倒れ込みながら、薄れた意識で振り返り、その人物を見据え把握する。


 そこには。


「...な、何、、やってんだよ、」


 円城寺樹音が、血に染まった剣を大翔に向け立っていた。


「...クソッ!こんな事が、」


 碧斗もまた絶望を見せる中。そんな樹音の、剣が握られた右手と背中には、それぞれ小さな翼が生えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ