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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
206/301

206.特殊

「絶対、行かせない」


「凄い、自信げ、」


「えっ、こ、これはっ!意思を表してる、というか、、その、何というか、」


 木の上で矢を構える愛梨(あいり)の前。沙耶(さや)もまた岩の上で宣言した事を、冷静な彼女の声音もあり顔を赤らめ答えに迷った。すると、一度愛梨は息を吐くと、踵を返した。


「え、?」


「ここで戦うのは色々と面倒、王城の前まで来て」


「えっ、えぇっ!?」


 これは、ついて行っていいものか。沙耶は敵である彼女の促しに思考を巡らせたものの、ここで岩の力を全力で出したら確実に王城に被害が出ると。それを察して、渋々彼女の後を岩を更に伸ばして形を変形し、橋の様にして追った。


ーつ、、ついて来ちゃったけど、、大丈夫かな、?ー


「罠じゃ無いよ」


「えぇ!?こ、心読めるの!?」


「?...キョロキョロしてたから」


 どうやら、警戒心を露骨に出していたらしい。沙耶は思わず赤面した。


「元々これ自体が作戦だったから」


「え?さ、作戦、?」


「うん。戦力の分散」


「分散、、でもっ、今頃みんなは向こうで合流してっ」


「してる。でも、また分散する」


「え、?」


 何を言っているのだろう。沙耶は話がよく分からずに首を傾げるものの、とりあえずは自身を一人にして、一対一の状態で勝利するのが目的なのだろう。それを理解した沙耶は真剣な表情を浮かべる。


「な、何だか難しいけどっ!私、負けないから!」


「...うん。頑張って」


「えっ、っ!?」


 瞬間、愛梨は瞬時に矢を放ち、沙耶の頰を掠る。早過ぎる。弦を引いたのを目視出来なかった。がしかし、反射的に避ける事に成功した沙耶は、それによる負傷を最小限に抑えた。筈だったが。


「爆弾」


「えっ!?嘘っ」


 瞬間、沙耶の頰で突如爆破の魔石に変化した矢は、それと同時に小規模な爆破を起こした。


「くぅッ」


 それを慌てて岩で防ぐがしかし、爆風によって大きく吹き飛ばされる。


「っ!」


 と、それに続いて今度は目の前に矢が迫り、それは光の魔石となり沙耶の視界を奪う。


「ひゃっ!?」


 すると、目を思わず瞑った沙耶の足元に二本の矢が突き刺さり、それが大きく爆破する。


「うくぅぅっ!?」


 ポケットに入れていた岩を変化させる事により直接それを受けるのを避けた沙耶は、荒い呼吸で愛梨に視線を戻した。


ーは、早い、、それにっ、なんか怖いよっ!...な、何も喋らないから、、攻撃も読みづらい、次は何処からー


「っ!」


 瞬間、今度は沙耶の周りに。三本の矢が突き刺さり、逃げ道を塞ぐ。


「嘘っ!?」


「これぞ本当の三本の矢」


 と、矢先。その矢はまたしても魔石へと変化。そう思われた次の瞬間。それは岩へと変化し沙耶を閉じ込める様に伸びて囲った。


「自分の能力で、負けて」


「っ!」


 それに焦りを見せていたその隙に。岩と岩の間から上手く矢を滑り込ませ、沙耶の横腹を掠った。


「クッ、、っ!?」


 それと同時に。その矢は見た事のない魔石へと変化し、そこからーー


 ーー煙が放出された。


ーこっ、これっ!?伊賀橋(いがはし)君のっ!?ー


「ぐっ!?けほっ、けほっ!」


 碧斗(あいと)が起こした煙ほど苦しくは無い。だが、周りが岩で囲まれているのもあり、視界は妨げられ、呼吸は難しく、意識は朦朧とした。

 と、その後。


「っ!えっ」


「んっ」


 突如、三つの岩が崩れた。と思われたその時、目の前からまたもや矢が二本飛ばされ、沙耶を挟む様な軌道で向かうと。


「っ!もうっ、そうはさせないっ!」


 沙耶を横切る瞬間、またもや爆破の魔石へと変化するがしかし。沙耶も二度は同じ手に引っかからないと。岩を地面から生やしてその魔石を上へと突き上げ空中で爆破させる。


「それ」


「っ!」


 まるで、それを狙っていた。そう言うように、愛梨は小さく呟いて、今度は三本の矢を沙耶目掛けて放った。

 そう、沙耶自身に、自分の逃げ場を消させるための策略だったのだ。


「うっ」


 それが目の前に差し迫った瞬間、沙耶は岩を崩して防ごうとしたものの、その前に。

 大きく爆破を起こした。



            ☆


「へ、変換、?」


「んだよ、、それ、」


 奈帆(なほ)の言葉に、樹音(みきと)大翔(ひろと)は怪訝な表情を浮かべた。が、対する碧斗と美里(みさと)は、それぞれ納得したように頷いた。


「なるほどね。能力は"変換"。って事は、物体を変化させる能力。つまり、放った矢を、それぞれ魔石に変換させて攻撃してたってわけね」


 美里が一言でまとめると、碧斗もまた思い返す。考えてみれば、全てそうだったのか、と。元々、愛梨は矢を放っていて、それが上手く命中した際に変化させていたのだ。"あの時"の、手枷も同じように。


「そう。能力の話をすると、そのまんまだけど、ちょっとあの能力には色々とルールがあるの」


「ルール、?」


 美里は眉間に皺を寄せる。それに、樹音は冷や汗を流した。

 こんな大切な話。敵であるパニッシュメントの言葉で信用していいのかと。そんな不安もあったがしかし、それがどちらであろうとも、彼の不安は変わらなかった。

 それは、奈帆が明らかに"時間稼ぎ"をしている。それが、見て取れたからだ。


ーこれを聞いてたら沙耶ちゃんの方に行くのが遅れる、、でも、この話がもし本当だとしたら、、これを聞いてからじゃ無いと、神崎(かんざき)さんには対抗出来ないかもしれないー


 樹音は、そんな事を考えながら額の汗を拭う。が、作戦を恐れている事など知らない美里は、尚も投げかける。


「ルールって何?能力なのに、規則があるわけ?」


「はぁ、やっぱなんかあんたの事嫌い〜。話し方とか」


「それ今関係ないでしょ」


「はぁ、、まあ、いっか。それくらい言っても」


 奈帆はそこまで前置きすると、改めて一同を見下ろす形で口を開いた。


「変換の能力は、体力や体に直接影響が出やすいの。だから、ルールは、愛梨ちゃん自分の中で決めた事で、能力を使っていくうちに理解した事」


「...俺の能力、、みたいなものか、」


 奈帆のそれに、碧斗は小さくぼやく。もしかすると、愛梨も似たように能力に関係する何かを抱えているのかもしれないと。


「まず、物体の変換は二回まで。例えば、本を一度ペンに変形させて。その後時計にでも変換させたとする。そしたら、後は元の本に戻すしか選択肢がなくなるってわけ」


「...元の物と合わせると、物体が変化するのは三回までって事ね、」


「そう。そして、同時に変換出来る物体は五つまで。最高は、五つの物を同時に二回変形させる。そこまでが耐え切れる限度って感じかなぁ。そして、ここが重要」


「んだよ、、さっさと言え」


「はぁ、脳筋は黙ってて。そして、変換出来る物体は、一度手で触れて"取り込んだ物だけ"なの」


「「「「!?」」」」


 急かす大翔を流しながら呆れたように放ったそれに、皆は目を見開いた。取り込む、とは。どういう事だろうか。


「取り込む、?吸収って、、事か、?」


「んー。まあ、それに近いかな。でも、能力が能力なだけであの子は普通の人間。だから、取り込む時は激痛だったと思う。あの性格なだけあって何も言って無かったけど、本当は嘘みたいに痛くて苦しかったと思う、、だって」


 奈帆はそこまで言うと、皆を見つめ。いや、そのもっと先を。遠い目をして付け足した。


「全ての魔石を取り込んだんだから」


「「「「っ!」」」」


 一同はまたもや耳を疑った。一つでも激痛が伴うだろう発言をしていたその行為を、何度も繰り返したというのだ。そんな事をして、体が保つのか、と。それを思うと共に、碧斗はもう一つの点に目を剥く。


「...取り込んだら、、それはもう元には戻らないのか、?」


 何か心当たりがある様な表情で、碧斗は奈帆にそう疑問を投げかける。それに奈帆は悩む素振りすらせずに、ただ首を縦に振る。


「うん、そうだね。まあ、言うなれば取り込んでコピーの元にするわけだから、体内にでも入ってるんじゃないかな?原理はよく分からないけど、その取り込んだ物をオリジナルとして、いつでもその情報を他の物質にコピーする形で変換させる事が出来る。それが愛梨ちゃんの能力だよ」


 その発言を聞いて、そういう事かと。碧斗は察して頷く。以前の王城内の武器や装備、道具。更には魔石が盗まれているとの話があった。あの時は我々がその容疑者とされていたが、それは恐らく愛梨の仕業だろう。彼女が使用している弓矢や手枷などの道具も、全て王城内で取り込んだ物だったという事だ。それを思う中で、碧斗は一つ疑問だと改めて問う。


「その話から察するに、、能力を得てから触れて取り込んだ物しか対応して無いんだろうけど、なんで弓矢にしたんだ、?それにする必要があったんだろうか、」


「え?別にそこはおかしくなくない?」


「碧斗。お前ズレてるぞ」


「え!?嘘、マジ、?」


 美里と大翔がそれぞれ口にする中、碧斗は冷や汗混じりに返す。と、それに奈帆もまた首を傾げたものの、ああ、と。声を漏らして情報を与えた。


「...それは、愛梨ちゃんが弓道部だったからだよ」


「え?そ、それこそ、そんな理由で、?」


「そう。一番扱い易かったのが弓矢だっただけ。それに、変換の能力にはデメリットも存在するから」


「デメリット、?」


 碧斗はその単語に耳を傾ける。だが、それとは対照的に、怪訝な表情をする樹音と同じく、頭の何処かでおかしいと悩む自分自身も、確かに存在していた。ここまで話していいものか、と。


「そ。まず、これは身を持って体験したから分かると思うけど、変換した物の威力は下がるって事」


「ああ、、そういえば」


 碧斗が零す中、美里は頷く。


「それも、変換した分だけ、半分になっていくの。例えば、元々爆破の魔石があったとして、それが十だとすると、そこから別の爆破の魔石に変換させたとしたら、その爆破威力は五となり、その後更に変換させたとしたら、爆破の威力は二.五くらいになる」


「変換の数分、半分になっていくって事ね、」


「後、もう一つのデメリット。...それが、変換させて生み出した物体は、動かないって事」


「え、?」「何?」「んだと?」


 奈帆の放った二つ目のデメリットに、一同は声を漏らして首を傾げた。


「どういう事だ。だとしたら、爆破の魔石も爆発してない筈じゃないか?」


「魔石は別。あれは動くとかじゃなくて、変換された瞬間発動する様に出来てるから」


「発動間近の魔石に変換させてるって事?」


「まあ、簡単に言うとそうなるかなぁ」


「それが、、弓矢に繋がるってわけか」


 樹音が簡潔にまとめ返すと、奈帆は首を傾げながらも頷いた。それに、碧斗はそう零す。

 動かない。即ち、それは銃や兵器は使えないという事だ。その物の中で動き、何かを起こす装置は使用できない。そこで、愛梨が扱い易く、尚且つ彼女の聴覚の良さを利用した遠距離。それを踏まえた上で考えると、弓矢にした理由は納得出来る。弓矢はそれ単体で動くものではなく、扱う人間が弦を引き、矢を放つという行動によって、それが原動力となっているからだ。

 恐らく、美里も同じ気持ちだった事だろう。それを碧斗と二人で目配せしたのち、美里は突如踵を返した。


「あ。どこ行くつもり?」


「っ!」


 奈帆は軽く。突如この場から逃げ出そうとした美里に声をかける。その様子に、樹音は冷や汗混じりに目を剥いた。


「駄目だっ!相原(あいはら)さん!」


「えっ」


「樹音君、、どうしたんだ、?」


 樹音の言葉に、美里は思わず立ち止まり、碧斗は怪訝に口にする。


「...やっぱりなんかおかしいよ。相原さんを、清宮(せいみや)さんは嫌いだった筈だ。普通、ここでそんな簡単に逃すわけがないし、さっきから都合が良すぎるよ」


「それは俺も同感だ。何考えてやがる」


 樹音に続いて、大翔も口を開く。


「別に?私は何も言ってない。ただ貴方達に情報を与えただけ。どうせ愛梨ちゃんには勝てないって分かってるから」


「ハッ、それなのに情報をくれたのか?結局記憶が消えるんだから話す理由が無いとかほざいてた奴の言葉とは思えねぇな」


「っ」


 奈帆に返した大翔の発言に、目を剥く。その様子に、碧斗もまた察する。

 恐らく、人数を考えても、一人この場から撤退した方が奈帆からすればありがたいのだろう。いつもは行わないそれ。我々から逃げずにここで仕留めなくてはならない理由が彼女にあるのならば、おおよその察しはつく。

 ここで倒さなくてはならない以上、人数差で不利になったとしても戦わなくてはならない。だが、少しでも負担を減らすため、一人でもこの場から立ち去らせたいと。そう考えるのならば、あえてその情報を流し、沙耶の方へとそれを伝えに行かせる人を出した方がいいと。そう考えたのだろう。

 明らかに、罠だった。

 それが外れていようとも、罠である事には変わりはない。

 明らかに怪しい。それは、分かっていた。だが。

 

「樹音君の言いたい事は分かる。俺も、、正直罠だと思ってるし、それを理解した上で向かうのは覚悟がなきゃ出来ない事だ。...でも、水篠(みずしの)さんがどうなってるかは、清宮(せいみや)さん含めみんな分からない。...だから、、お願いだ」


 碧斗はそれを理解した上で、沙耶のところに行って欲しいと。美里を見つめる。それに、愚問だと。美里は無言で。強く頷くと、そのままその場を後にした。


「...碧斗君、」


「分かってる、、けど、不安なのは俺も一緒だ。だからこそ、俺はここに残った」


「え?」


 美里を見送ったのち、碧斗は奈帆に向き直りながら樹音に告げる。


「三人で急いで清宮さんを倒して、合流するぞ」


「っ!...うん。そうだね」


 真剣な表情で奈帆を睨む碧斗に、樹音は表情を明るくさせて。大翔は当たり前だと立ち上がりながら、奈帆に向かう。

 が、しかし。


 彼女は微笑んだ。


「...ねぇ。なんか盛り上がってるところ申し訳ないけど、、私らまだパニッシュメントなんだよ?」


「...え?」


「それがなんだ」


 その様子に怪訝な表情をしながらも、樹音は声を漏らし、大翔は対抗する。と。


「なんか勝手に私二人と三久(みく)ちゃんで構成されてるって思われてるけど、、私達パニッシュメントだよ?」


「っ」


 奈帆の言葉に、碧斗は目を見開く。そんな表情を見つめながら、奈帆はニヤリと微笑み、少しの間ののちそう告げた。


「まだ、残ってるじゃん、"一人"。メンバーがさ」


            ☆


「はぁっ!は!はぁ!」


 廊下を、ひたすらに走る。あれから数分後。美里は皆を信じて、沙耶を守るため。彼女に愛梨の能力についての情報を話すため、必死に向かった。


 が。


「よう」


「っ!」


 美里が向かう廊下の目の前に。角からゆっくりと男性が現れ軽くそう挨拶をした。


 そう。目の前に居たのはーー


「数日ぶりだな。...もう、同じミスはしないぞ」


「クッ、」


 ーー大内涼太(おおうちりょうた)だった。


             ☆


「ふぅ。呆気無かった」


 爆破によって濃い煙が漂う中、愛梨は息を吐きながらその中を覗いた。


「貴方の能力、調べてたから。残念だけど、行動パターンも分かってた。...可哀想だから、これだけ。私の能力は変換。ちょっと特殊な、特殊能力」

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