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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
200/300

200.告白

「はぁっ、はっ!クッ、う、うぅ!?」


 爆破を起こした王城一階。それを避ける様にして走った碧斗(あいと)達だったが、それを追うようにして三久(みく)による音波が迫る。


「なっ、こっ、これって、!?」


「クソッ!またかよっ」


 僅かな頭痛によりそれを察した美里(みさと)大翔(ひろと)は、それぞれが走りながら怪訝な表情を浮かべる。爆破は間違いなく愛梨(あいり)によるものだった。それに追い討ちをかける様にして、三久もまた音波で、我々を追い詰めているのだ。即ち、彼女の言った通り、王城の人達全員が敵。そんな状態である。

 だが、それから逃げ切るべく、碧斗は息を切らしながらも皆に振り返って、階段を指差し声を上げた。


「はぁっ!はっ、みんなっ、音波もまた空気の振動だ。つまり目には見えないのと、人より少し速いだけで、我々を追ってきてるだけの状態である事には変わりない。だからっ、二階に逃げて音を分散させるぞっ」


「はぁっ、はっ、なるほど、、そうすれば、高低差と面積の変化でマシになるわけね」


 碧斗の掛け声の如く放ったそれに美里がそう理解すると、一行は二階へと足を進めた。

 だが、その二階に到着したや否や。


「っ!マズい」


 碧斗が背後を振り返り声を漏らす。

 そう、二階を徘徊していた騎士の方々が、廊下の奥からこちらに気づいたのか、足を早めて近づいて来ていた。


「クソッ!でも音は消えたっぽいぞ」


「今度はあの人達から逃げなきゃ行けないわけだけどね」


 皆が歯嚙みする中、大翔は僅かな希望を口にしたものの、目の前に近づく騎士の方々に美里は息を吐いた。

 だが、無能力者である分、幾分マシである。更には、運良くマーストの居場所が分かるかもしれない。そう思いながら碧斗は試す様に口を開こうとした。

 が、その瞬間。


「良かった。予想通り」


「「「「っ!?」」」」


 割れた窓の外から、突然三久の声が聞こえた。それと同時に、皆が崩れ落ち、耳を塞ぎたくなる様な音波を強く、大量に放った。


「なっ!?クッ、、嘘っ、だろ!?」


「うっ、うぅっ、あた、まがっ」


 声を漏らす大翔と沙耶(さや)に、碧斗はまさかと。そう悪い予想が脳を過ったと共に、窓の外から三久が現れる。

 当の彼女は、翼を大きく広げた奈帆(なほ)に抱き抱えられており、彼女によって二階まで到達した事が伺える。

 がしかし、問題はそれでは無い。一番の問題は、この人体に悪影響を及ぼす程の音波に騎士の方々が向かって来ているという事である。

 これではまたもやこの世界の人に被害を出してしまうと。そう思う気持ちは皆同じだったのか、沙耶は「駄目っ」と小さく零して必死に手を前に出し力を込める。が、それでも尚何も起こらない現状に、沙耶が小さく「あっ」と声を漏らすと、碧斗と美里は確信する。

 我々は、まんまと誘導されてしまったのだと。


「クッ、無理にでも戻らないとマズいなっ」


「あ!?なんで戻るんだよ!?向こうに逃げれば良いだろ!」


 掠れた声で一階に戻るよう促す碧斗に、美里もまた頷くがしかし。大翔は何故その様な提案をするのか分からずに、騎士達が向かってくる方向とは逆を指差し声を上げる。

 がしかし、大翔の言うように現在逃げ場があるとするならばその方向にしか存在しないだろう。三久が我々に合わせて動いてくれると信じ、碧斗は仕方がないと。大翔の言葉を聞き入れ階段とは反対方向である、騎士達と対極に足を踏み出す。


「なっ!?クソッ、あいつらついて来んのかよっ!?」


 頭痛が増す。どうやら予想通り奈帆と三久は我々に合わせて移動している様だ。そんな中、唯一声を上げられる大翔が口にすると、碧斗は割れるような痛みに耐えながら小さく口を開く。


「こっ、このまま、、行って、、反対側の階段で戻ろうっ、、そう、すれば」


 碧斗の提案に、美里と沙耶は頷く。そう、彼女らの作戦は、一番"厄介になりそう"な存在。水篠(みずしの)沙耶の能力を封じる事である。

 故に、彼女が岩を生やせない二階へと誘導したという事だろう。

 こんな時のために、沙耶は前もって石をポケットに入れていた。がしかし、先程の悠介(ゆうすけ)に化けていた大翔を逃すまいとして使用したそれで、最後となっていたのだ。

 悠介と繋がっていたのであれば、それを見越していたのも頷ける。恐らく、まだ余っていたとしても、これはその残りの石を消耗させるための手段に過ぎないのかもしれないが。

 だが、このペースで走り続ければ一階への階段へと到達出来るだろう。彼女達が我々を追ってくれたのに感謝しながら、碧斗はほんのり僅かに微笑んだ。


ーよしっ、このままなら、戻れー


「っ!」


「びっくりしたな。いきなり出て来たよな?国王」


「一ノ(いちのせ)君どうなったんだ?」


 一階への階段に差し掛かった瞬間、碧斗は冷や汗を流す。そう、一階から、転生者らしき人物達が話しながら近づいて来ているのだ。

 このままでは挟み撃ちに遭う。それを察した碧斗は、歯を食いしばってその階段を通り過ぎた。


「おっ、おいっ!碧斗っ、何やって」


 それに驚愕した様に、大翔は声を漏らす。先程一階に戻ろうと促したばかりである。その反応は当然だろう。だが、それに拳を握りしめるのみで、碧斗は言葉を探す。

 と、それと同時に。


「はいはい。もう鬼ごっこは終わり。そろそろ、本当に捕まえなきゃいけなさそうだしね」


「言ったでしょ?今の貴方達はこの王城全体が敵。どこに逃げようと、そこが王城である以上、安息はない」


「クッ」


 どうやら、わざと速度を落としていた様だ。奈帆は突如速度を上げて我々を追い越し、碧斗の数メートル先で足を着き、三久と共に立ちはだかった。

 数メートル先とは言え、以前とは違って声を出すのは困難だがなんとか足で立てている状態であった。

 恐らく、以前よりも三久は能力を弱めに設定しているのだろう。更には、背後にいる奈帆が痛みを見せる素振りを一切していない事から、我々の方向にのみ音波を放っているという事になるだろう。故に、この一本道である廊下を選んだのか、と。碧斗は目を細める。


「うっ、うぅ!う!」


 と、そんな中沙耶は必死に手を出し、岩で塞ごうとするものの、やはり二階にまで届かせる岩を地面から直接生やすのは困難なのか、呻き声の様なものを零してその場に倒れ込んだ。


「大丈夫か沙耶!?」


「沙耶、ちゃん、っ!」


 大翔と美里がそれぞれ焦りながら沙耶に駆け寄る。そんな一同の動きを、碧斗はただ歯嚙みしながら見つめた。こうなったら、仕方がないと。そう覚悟を決めながら。


「そうか、それが、、水篠さんを封じるのが、目的だったんだな」


「別に目的も何も。そうした方が確保出来る確率が上がると推測したから」


 冷や汗混じりに放つ碧斗に、三久はいつもと同様淡々とした様子で返す。が、そんな彼女に、碧斗はフッと笑い、歯を見せ声を上げた。


「でも残念だったな。前の戦闘で分からなかったか?一番注意すべき相手は俺だっ!」


 碧斗はそう放つと同時に、三久と奈帆の周りに煙を放出させる。それも、有害なものだ。が、すると。


「グッ!?」「がっ!?」「うへっ!?」「があっ!?」


 それに負けじと。三久は更に音波を強くした。

 やはりこうなるか、と。碧斗は歯嚙みする。以前と同じ構図である。このままでは、前と同じ我慢比べになり、皆に被害を出しかねない。

 だが、だからこそ碧斗も同じく煙の密度を高め、三久の気管を更に追い詰める。


「クッ、うっ、うぅっ!?」


 それに呻き声の様なものを上げる三久。そんな彼女の姿に、碧斗もまた頭を押さえ倒れ込む。ただでさえ頭蓋が割れるほどの音波。そこに、彼女の苦しむ姿という、「あれ」を思い出させる様なものが加わり、碧斗は既に限界を感じていた。

 が、その矢先。


「「「「っ!?」」」」


 突如連続で三つの矢が、碧斗達のそれぞれの間を狙って放たれる。それが地に突き刺さり、皆の視界に収められたその瞬間。

 それはまたもや魔石へ変化し、爆破を起こした。


「「「「クッ!?」」」」


 それに、間近にいた碧斗達はそれぞれ腕を前に出し体を守りながら、壁まで吹き飛ばされ激突する。


「クッ、、こはっ、、はぁっ、、クソッ」


 その先で、碧斗はボロボロの体で三久と奈帆を見据える。今の衝撃で、思わず煙の能力を解除してしまった様だ。二人は咳き込みながらも、呼吸を整え目つきを変えていた。

 それを見つめた碧斗は、理解する。これが、彼女らの作戦だったのだ、と。

 先程言った様に、我々の敵はこの王城全体。それを突きつける様に、騎士の方々や三久本人。また、パニッシュメントである奈帆や愛梨も加わり、一斉に狙っているのだ。それを考え恐らく、と。碧斗は何かを察して窓の外を見据える。

 すると。


「...クッ、」


 やはりか、と。

 案の定、碧斗の予想通り向かいの棟から、愛梨が弓を構えこちらを見据えていた。

 そう、元々それを狙っていたのだ。だからこそ、彼女達の脅威は碧斗では無く、沙耶の方だったのだ。

 確かに碧斗の能力と三久の相性は悪い。がしかし、その相手が数人となるならば話は別である。碧斗もまた人体に有害な煙を出す様になったのは最近である。そのため、数メートル先が限度だろう。愛梨程の距離に、ピンポイントで発生させる事はかなり難儀だと言えるだろう。

 だからこそ、"大勢相手に形勢を全てひっくり返せる能力の持ち主"を警戒したのだ。


「チッ、、それが水篠さんって事か、」


 思わず舌打ちが漏れる。いくら音波で岩が砕けようとも壁を作り隙を作る事は可能である。それを避けるための策略だろう。

 碧斗はそれが阻止された今、どうするべきかと。目を細め考える。そんな中、美里と大翔、沙耶もそれぞれ起き上がり、歯を食いしばる。


「...嵌められたって事ね、」


「クソッ!どうすんだよ、、逃げるしか手はねぇんじゃねーか?」


「で、、でもっ、円城寺(えんじょうじ)君が、、まだ見つかってないよ、?」


「あいつは大丈夫だ。きっと、、多分!俺は信じるぞ!」


 それぞれの言葉に、大翔は頼りない返答を口にする。だが、確かにその通りである。樹音(みきと)には魔石を大翔に託した後、光の魔石の効果を利用して王城の探索やマーストの居場所を探して欲しいと話してあった。が、もし何かトラブルがあったら問題である。更には悠介がまだ野放しの状態だ。逃げるのも一つの手か、と。碧斗は逃走ルートを構築し始める。

 が、そんな中。


「ふ〜、、なんかバチバチになってきたね〜。でも、私は正直あの子に興味があるから。他、頼んでも良い?」


「うん、好きにして。一人くらい、大して変わらない」


 奈帆が突如、改めて美里を指差し口にする。すると、隣の三久が普段と変わらない声音で返す。

 と、そののち、慌てて顔を背ける。


「ああっ、、今の、なんか言い方良くなかったかな、?なんか勘違いされてたらどうしよっ、、大して変わらないのは清宮(せいみや)さんが居てもいなくてもって意味じゃ無くてっ、、ああ〜っ、どうしよっ」


 そんな慌てた様子で口にする三久を他所に、奈帆はそれじゃあと。先程の返事にニヤリと微笑み、突如ーー


「えっ!?」


 ーー翼を広げ、美里に飛びかかった。

 その突然の攻撃に、美里が驚愕に声を漏らした。が、その瞬間。


「おらっ!」


「はぁ!?」


「させっかよ!」


 それを阻止する様に、大翔もまたその奈帆に飛びかかり、彼女を全身で押さえた。


「はっ、離れろって!馬鹿っ、このっ!脳筋がっ!」


 その重量によって、奈帆の浮遊はバランスを崩し、軌道を変える。


「ハッ!そんな簡単に離れるかよっ!お前の相手はこの俺だっ!琴葉(ことは)の事っ!話してもらうぞ!」


「は!?いつから私の相手になったんだよ間抜けっ!だからその話はどうせ記憶消えるんだし意味ないって言ってるでしょうが!」


 奈帆はそう叫びながら、大翔を引き剥がすために壁に打ちつけ、彼で窓を割った。がしかし。


「ハッ!んなもんで、離すわけっ!ねぇだろ!」


「なんなのキモすぎっ!?脳筋なのは知ってたけど、イカれ過ぎじゃないの?」


 奈帆はそう叫ぶと同時。更に速度を上げて窓を突き破り、そのまま王城の外へと消えていった。


「ひ、大翔君!?」


 その光景に、碧斗は驚愕し声を上げたものの、そんな心配をしている暇はないと。三久は更に音波を強くした。


「クッ!?」「「うっ!?」」


 それに、碧斗のみならず遠くの沙耶や美里もまた声を漏らして崩れ落ちる。

 マズいと。碧斗はこの現状に何かを察し、冷や汗を流す。と、それの答え合わせをする様に。三久はゆっくりと近づきながらそう告げた。


「近くの味方が消えた。これで、気にせず本気の音波が出せる」


 そう。奈帆がこの場を離れた事により、こちら側にだけ音波を放つ必要が無くなったのだ。つまり、意識する点が減り、音波の強さにだけ集中すれば良くなったということである。

 その発言に、碧斗意外の皆もそれに気づき、同じく冷や汗を流しながら、拳を握りしめた。


            ☆


「はぁっ、はぁ、、なんっ、なのっ!マジで、」


「言った、だろ、?話、聞かせてもらうって」


 王城の裏にまで飛行を続けた奈帆だったが、大翔の重さに耐えきれなくなり、王城裏の芝生に互いに墜落した。


「だーかーらっ!ここで話してもどうせ忘れるんだから、意味ないでしょ!?」


「いいや。ここだから意味があるんだ。現世じゃもうお前とは出会えねぇ。違う高校になったしな。それに、忘れたならお前に聞きに行く事すら忘れてる。なら、同じ忘れるなら聞いて忘れた方がいい。ひょっとすると、忘れない道も、あるかもしれねぇからな」


 墜落したのち、奈帆と大翔はお互いに立ち上がり、睨み付ける様な形相でそう言葉を交わした。


「はぁ。ほんと、しつこいね。だから琴葉に嫌われたんだよ」


「てめっ!」


「はいはい。話聞く気無さそうだね〜。このまま第二ラウンド行っちゃう?」


 苛立ちを見せながら足を踏み出す大翔に、奈帆がそう切り出すと、彼は歯嚙みして目を逸らし、そののち真剣な表情で改めた。


「なんなんだよ、お前。なんであんな事したんだ、お前らは?俺が、、俺が何したっつーんだよ!?俺の、何が不満なんだよ!?」


「あんたへの不満は全部。それに、何が不満なのはこっちの台詞」


「あ?どういう事だよ?」


「あんなに頼られて、、お金出して欲しいって迫られて。必要とされて、何が不満なの?」


「は、?」


 奈帆の放ったそれに、いまいち話が噛み合わないと。大翔は冷や汗混じりに頭を掻いた。


「お、おい、、なんの話だよ。琴葉が俺を騙してて、金目当てだったの、知ってんだろ?」


「うん、知ってる。ほんとっ、あの時は惨めだったね〜。可哀想だった。みっともなくて、そんなんだから捨てられるんだなぁって、すぐ分かっちゃったよ」


「てめぇ!?じゃあなんでーー」


「でも、そんな、、そんなあんたに、、琴葉は頼んだの」


「は、?」


 大翔がまたもや足を踏み出すと、奈帆は歯嚙みして震えながら、俯いて声を発した。


「私の方が、、私だって、頑張れたのに、、あんたにだけあんな風に言って、、私には、何も言ってくれなかった、っ!全然、頼ってくれなかった、」


「お、おい、、どうしたんだよ、?」


 プルプルと震えながら声に力がこもり始める奈帆に、大翔は異質なものを感じ恐る恐る声をかけた。がしかし、尚彼女は続ける。


「私の方だってお金出したのにっ!どんな手を使ってでも集めたのにっ!あんたよりもっ、もっと私の方が出来たのにっ!私の方が上手く出来たっ!あの子の力になれたっ!それなのにっ、、それなのにっ!琴葉はあんたにばっかり頼んでっ!」


「おい、、落ち着けって」


 既に、大翔の声は聞こえていない様子であった。奈帆はそこまで声を上げると、次の瞬間。

 顔を上げて。今度は掠れた、今にも泣きそうな声で、そう付け足した。


「私はっ、、私だって、っ!あんたくらい、、ううんっ!あんたよりっ、琴葉の事、大好きだったんだからっ!」


「...は、?」


 その、話の見えない言葉に、大翔は驚愕の表情と共に、そんな力無い言葉を零した。

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