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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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02.転生

 1ページを恐る恐る観た碧斗(あいと)。だが、そこにあったのはどこにでもあるただの小説文だった。


「あ、あれ? ただの本、?」


 確かに不気味な雰囲気と、宗教的な内容に一瞬たじろいでしまったが、興味を惹かれる内容でもあったため、好奇心で読み始めたはずの本を、今では無意識にページをめくるようになっていた。


 随分と時間が経ったであろう。あんなに分厚かった本も残りわずかとなり、夜になっている事にも気づいていなかった碧斗。


 両親は共働きであり、1人で過ごしているため時間の感覚がなくなる事はよくあるのだが、ここまで何かに熱中したのは久しぶりであった。


 内容というのは1人の戦士が1つの国を救うといったよくありがちな話であったが、何の宗教の内容ともそぐわない話に惹かれるところがあった。


 だが、それと同時にこの本の謎が深まるばかりだった。


 その2つの感情によって次々と読み続けてしまった。腹の音とともに現実に戻された碧斗。まだ本は何ページか残っていたが、財布に入っていた割引券を栞代りに挟み、空腹に音を鳴らす腹を満たすため、席を立ったのだった。


「おっす、おはようぞ」


「おう」


 短い会話文を交わし、いつもと変わらぬ景色の中、1日が始まった。碧斗は学校でも変わらずスマホで情報を探していた。


 未だに本の話題が耐えない教室に、ほんの少し耳を傾けながら碧斗は"聞いていない"フリを装っていた。


「あれ、魔道書らしい」


「読んだら死ぬっぽい」


 色々な情報がクラス内で出回る中、俺生きてまーす と内心で思う碧斗だった。

 本の事も気にはなっていたが、この前の件もあり美里(みさと)の事も気になっていた碧斗。遠目で目が合わない程度の場所を見据えながら彼女を見る。


 いつも通り本を読んでいて、変化はない様子に少しホッとする碧斗だったが、カバーに隠れた"その本" を、見えないはずが碧斗はどこかで見たことがあると疑問を抱くのであった。


           ☆


 今回も有力な情報は出てこなかった。そそくさと教室を出てまっすぐと家に帰った碧斗。とくにどこかに寄る場所もないので帰って続きを読み始める。


 3時間くらいが経っただろうか、ようやく辞書のような本を読み終わった碧斗は余韻に浸っていた。久しぶりの小説というのもあり、なかなかに面白かったと言えるだろう。


 謎が取り巻いていた事はすっかりと忘れ、ただただ目の前に置かれた"小説" に魅了されていた。


 ふと、最後にページが残っているのに気がつき完結の文字が書いてあるページを更にめくる。


 後書きか何かだと思った矢先、そこに描かれていたのは、見た事もない魔法陣の様なものであった。


「なっ!? 何だよ、これ、」


 謎の本というのを思い出させるようなそれを見た碧斗は思わず言葉が漏れる。


「これは一体、どこかの国の古代文字かなんかか、?」


 周りには異国語の文字がずらりと並べられていた。


「これはすぐにでもネットに、、」


 そう思い、席を立とうと思った碧斗だったが、


「え?」


 体が動かなかった。固定されているように固まってしまった体を無理やりにでも動かそうとする碧斗。まるで本から離れるなと言われているように固まった体を動かす事は出来ず、とうとう本からも目を離せなくなったのだった。


「クッ、ソ! どうなって、」


 1分ほど経っただろうか、その時、意識が遠のくのが感じられた。目の前に光が広がり、真っ白に包まれたのであった。


           ☆


「ん、ここは、、一体、?」


 薄らと映し出された光景を前に、驚いて勢いよく起き上がる碧斗。


 目を覚ますとそこは、何処か古びた小屋のような場所だった。


「目覚めましたか、14人目の勇者様。」


 碧斗の横には、騎士のような服装をした男性が立っていた。


 隣に人が居た事にも驚いたが、それよりーー


「こ、ここどこだよ!? それに、勇者って俺のことか?」


 突然過ぎる出来事と、話の内容に頭が全く着いて行けない。頭脳には自信があったはずなんだが。


 そんな碧斗を差し置いて「さて」と前置きを踏まえ話を再開する男。


「貴方達には魔王を倒してもらうためこの世界に転生されました。」


「は?」 何を考える事もなく口から出てしまった碧斗。


「いや、ちょっとまて! てか、さっきの俺の話聞いてた!? 質問に答えーー」


「詳しい話は国王様からおっしゃられるはずです。私からは必要最低限の話をと命令されておりまして」


 碧斗が話し終わるよりも前にその男が割って入る。


「こ、国王? ま、マジでここどこなんだよ、」


「貴方は"煙"の能力を持っています。残念ながら1番必要性が無いと言っては申し訳ないですが、良い能力ではないかと、」


 これは、夢だな。なんだかまだよく分からない事を言っているのが聞こえるがそんな事を聞くより前に、碧斗の脳は夢であるという結論を導き出した。


 そう思った瞬間。男は少し声の大きさを上げ、碧斗に語りかけた。


「では、ここで試しに1度煙を出してみてください」


「え?た、試しって言っても、どうすればいいんだ?」


 たとえ夢だとしても出せと言われて出せるものでもなく、ただただ気合を入れる事しか出来ない。


「初めてなのですから慣れないとやりずらいかもしれませんが、気持ちを高め、身体からそれを放出する感じで」


「いや、全く説明になってないぞ!」


 だが、しないと先に進めないようなので仕方なく構えてみるがやはり何か起こる気配はない。


「やっぱできなーー」


「集中してください。」


「はい!」


 家庭教師か何かですかとツッコミたいところだったが、そんな雰囲気でもなかったので渋々気合いを入れ直す。神経を集中させて、それを、出す!


 その瞬間、静かな音と共に周りには煙が放出しているのに気がついた。それと同時に、内側から熱せられるような熱さととてつもない脱力感にこれは確実に"現実"であると理解した碧斗。


「はい。少し制御は出来ていない様子でしたが、一応条件クリアです」


 圧倒的な疲れに襲われ、倒れ込む碧斗を前に男は話をし始める。


「改めましてようこそ、14人目の勇者様。この世界での幸運をお祈りいたします。」


「はぁ!?」


 そんなまずい事に巻き込まれたと理解するには十分過ぎる台詞に、碧斗はため息混じりの言葉を吐く事しか出来なかった。

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