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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
199/301

199.介入者

「助けて相原(あいはら)さんっ!」


 悠介(ゆうすけ)は以前と同じく純粋に美里(みさと)に助けを求めていた。

 場所は二棟の一階。階段の隣にある空間。恐らく、悠介は彼女を見つけるまで透明を維持していたのだろう。

 彼女は突然現れたであろう悠介の姿に驚いている様子だ。


「クッ」


 その姿に、思わず拳を握りしめる。恐らく、沙耶(さや)の時と同じ事をするつもりだろう。だが、現在は沙耶と大翔(ひろと)を含めた三人が彼を敵対視している。この状況からどう信用を得るのだろうかと。碧斗(あいと)は足を踏み出したが、瞬間。


「っ!い、伊賀橋(いがはし)君!?や、やめてっ、来ないでっ!」


 見事なまでの恐怖心を演じてみせる彼は、そう叫ぶと慌ててその場を去ろうと四棟側へと走り出した。と、それを目にした碧斗は逃すわけにはいかないと。体の向きを変えようとしたがしかし。待てよ、と。彼の行動理由を察して留まる。

 彼が突然走り出した理由。そして、美里に言い寄るリスクを考えた上での、その選択。まさか、と。

 がしかし、対する大翔はそんな事はお構い無しという様に。


「逃すかよっ!」


 彼を、急いで追った。


「待てっ!駄目だっ、それも奴の作せーー」


 バスッと。碧斗が言い終わるよりも前に鈍い音が響く。

 一瞬であった。

 僅かな、瞬きの間で。


「っ!あんたっ、何やってんの、?」


「クッ、」


 悠介と大翔は、入れ替わっていた。

 その様子に怪訝な表情を浮かべる美里。そう、彼は我々の作戦を参考に、一人で自作自演を作り出したのだ。大翔が追って近づいた一瞬の間に。見た目を大翔にした悠介は、ただ悠介に姿を変えられた大翔を殴り、彼に罪を擦りつける事に成功したのだ。

 即ち、彼は光を操る能力。それは、自分から発光させるものから、空気中の光の変化も含まれている。

 つまり他人の姿も、自分の好きな様に変換させる事が出来るのだ。


「あ、相原さんっ!これは、違うんだ。彼は一ノ瀬(いちのせ)悠介。能力が光で、反射率を変更させる事によって幻覚を、」


「そんな言い訳っ、、酷いよっ!自分達の都合のいい様に言葉巧みに言い換えてっ!」


「っ」


 碧斗が美里に放ったその瞬間。彼女が碧斗に視線を向けていた僅かな時間内である。

 その一瞬の間に、悠介は能力を解除し、自分自身の姿で美里に詰め寄る。恐らく、長く見た目を変更しているわけにはいかないのだろう。実際、大翔がそれを理解したら、逆手に取って彼を殴る選択肢を取ると思われるからだ。

 一度美里に大翔が敵である事を見せた今、後はただ自分の潔白さを証明するだけで良いのだ。悠介はそれを必死に弁明するべく、美里の前に座り込んで同じく懇願する。


「...」


「本当はみんな争いを終わらせようとなんて思ってないんだ。おかしいと思わない?争いを終わらせるために争うなんて、、相原さん、お願いだ。僕には敵意は無い。みんなを繋ぐ役割になるから、僕を信じてくれないかな、?」


 沙耶の放った言葉を覚えていたのだろう。彼女が"碧斗の賛同出来ないという点"を上手く使いながら、最もな理由付けをして自分の意思を放つ。

 が。

 パシンッと。


「えっ」


「え、?」「えぇっ!?」「なっ」


 美里は悠介の言い分を聞き終えたのち、彼の頰にビンタを喰らわした。


「な、ななっ、なんでっ!?」


「はぁ、、伊賀橋君がなんの理由も無く、いくら敵対する転生者であろうとも突然戦ったりはしない。彼の行動は、必ず大きな理由があっての行動だから。それに、あいつは突然攻撃する程、肝が座ってるとも思えないしね」


「っ」


 美里の言葉に、碧斗は目を剥き僅かに微笑む。どこか褒め言葉とは受け取れなさそうな言葉も混じっていた気もするが、碧斗は改めて口元を綻ばせて思う。

 美里は、やはり美里だと。


「あんたの敗因は、大して相手の事を分かってないのに深く踏み入った様な工夫をした事。...伊賀橋君の矛盾のある作戦をみんなに促したこと。それ自体は本当だけど、敵対してこない人に戦闘を申し込む程馬鹿じゃ無いから。伊賀橋君はどうすれば勝てるのか。敵対する相手には、攻略する糸口を掴んでからじゃ無いと攻撃なんてしない」


「...クッ、クソッ」


 美里の発言に、思わずそんな愚痴が悠介の口からは漏れる。がしかし、彼は一度俯き諦めを見せたものの、その後直ぐに微笑み顔を上げた。


「でも、もう君達は終わりだよ。この状態。確かに仲間内での仲違いは失敗したかもしれないけど、僕の作戦には次のプランがある」


 微笑みながら悠介は、碧斗と美里にしか聞こえない声量でそれを呟くと、遠くから近づく足音を聞きつける。

 恐らく、彼らの事だろう。彼はあえて碧斗に転生者を引き付けさせる行動を取らせ、自分自身で追い詰める結果へと誘導させたのだ。


「クソッ、、逃げられるけど、それをした場合悠介君を逃す事になるって事か、」


 彼の作戦はここで我々を捕えることでも倒す事でもない。自分の逃亡だ。彼はまたもや姿を眩まし移動するだろう。背後から近づく転生者達を撒く場合、ただでさえ姿の見えないがために見つけるのが難しい彼を追う事は困難。

 やられた、と。碧斗は歯嚙みしたがしかし。対する美里は浅く息を吐くと、碧斗に小さく耳打ちする。


「別に今は逃してもいいんじゃ無い?どっちみち会話でどうにかなる相手じゃ無いんだし、無理に今対応する必要は無いと思うけど」


「でも、どこかで厄介になってきそうな気がするんだ。...彼を、ここで逃すのはリスクが大きい気がする」


 美里の言い分も最もである。更には迫り来る数人の転生者に、焦りを見せる大翔と沙耶は、それぞれが早く逃げるよう促していた。それが得策だろう。だが、彼の笑みを見ていると、この選択は危険であると。そう感じずにはいられなかった。

 が、だからこそ。


「いや、分かった。ここは逃げよう。みんな、まだ走れそう?」


 碧斗の促しに、皆が頷き、大翔と美里があんたには言われたく無いと零した。その選択にあーあ、と。やらかしたと言わんばかりの表情を浮かべる悠介を横切り、その場を後にした。

 恐らく、それもまた作戦なのだろう。ここで逃すわけにはいかない。今までの積み重ねによって警戒心が強くなった碧斗に、あえてそう思わせる様な行動をした。とするならば、それこそ彼の思惑通りであり、手の平の上で踊らされているに変わりない。そう自分を納得させて、今はただ生き残る事を最優先させ皆は走り出した。

 と、そんな後ろ姿を見つめたのち、後から駆けつけた転生者達に、悠介は口を開いた。


「伊賀橋碧斗達が向こうに行ったよ。人数は四人。もう少しで捕まえられそうだったんだけど、」


 悠介が僅かに残念そうに呟くと、それを耳にした転生者達は「やっぱりこっちだったか」と、声を漏らし後を追って行こうとした。

 が、しかし。

 そんな一同を見つめたのち、悠介はニヤリと微笑み、彼らを呼び止めた。

 碧斗達はそう簡単に諦める人達では無い。逃げる選択肢を取ろうとも、きっと王城の外には逃げないだろう。更に、と。悠介は先程の光景を思い返し口元を綻ばせ、その事実を、彼らに放った。


           ☆


「えっ、見られた!?」


 一方の碧斗は、走りながら呟いた美里の驚愕の一言に、目を見開いた。


「ごめんなさい、、さっき、みんながもう地下に戻ってる可能性もあると思って、、確認してるところを、」


「じゃあ悠介には地下の場所バレてるっつーのかよ!?」


「...ごめんなさい、」


「お前なぁ!」


 目を逸らす美里に、大翔は憤りから声を荒げた。仕方のない事だ。と、碧斗は声を上げる大翔に「まあまあ」と、宥める様に告げたが、碧斗もまた大翔と同じく怒り。いや、焦りを覚えていた。マーストが作り上げてくれた最高の環境。

 (わたる)理穂(りほ)には既に知られてしまったものの、我々を狙う人物達にはまだ知られていない地下室である。これからの作戦に最も必要になるものだ。それを、知られてしまったのだ。よりにもよって一ノ瀬悠介。彼に。


「マズいな、」


「も、もしかすると、、先回りされてるって事も、」


「いや、それは無い」


 不安げに呟く沙耶に、碧斗は首を横に振る。悠介ならその様な事はしない。彼ならば、きっと。


「悠介君は多分転生者みんなにその事を話すつもりだ」


「えっ」「なっ!?」


 驚愕する二人とは対照的に、その状態ならば自分もそうするだろうと。美里は同じく頷いた。と、その様子に。


「おいっ!相原お前っ、何分かってる感出してんだ!?元はと言えばお前のせいでーー」


「分かってる!だから謝ってるでしょ!?」


「や、やめてよっ、こんな時にっ」


 二人の仲裁に入る沙耶に続いて、碧斗もまた目つきを変える。


「そうだよ。...もうこうなった今仕方ない。せめて地下の存在を公にしない様に今は努力するべきだ」


「あいつ、、探すの?」


 美里の問いに、碧斗が無言で頷く。と、その瞬間ーー


「「「「!?」」」」


 耳を覆いたくなる程の音を鳴らし、皆が走る廊下の窓ガラスが割れる。以前の智樹(ともき)との戦闘後、唯一残っていた窓ガラスだっただろうに。国王には同情する。

 そんな事を考えながら、しゃがみ込んだ碧斗はゆっくりとその外を見据える。すると、そこには。


「っ!...あんた、」


「やっぱりか、」


 案の定、というべきだろうか。一階の外。王城の中庭に、三久(みく)の姿があった。


「作戦失敗したみたいだし、私がリカバリーする」


「悠介君とグルだったの認めるんだな?」


「別にグルとかない。もう既に王城に居る殆どの人が貴方達を捕まえようとしてる。つまり、言い換えるなら全員がグル」


 碧斗の問いかけに三久は相変わらず淡々と返すと、それに割って入る様にして。


「「「「っ」」」」


 突如、碧斗達の前に矢が突き刺さった。それに、驚愕し目を剥いた、その瞬間。

 それは、赤黒い色の石へと、変化した。


「っ!マズいっ!みんなっ、逃げっ!」


 と、それと同時。碧斗が叫び終わるよりも前に。


 それは爆破を起こしたのだった。


            ☆


 ぞろぞろと。転生者を引き連れた悠介が先程の階段近くへと案内する。


「多分、ここら辺に、」


 そう呟きながら、地下に続く扉を探すため、地面を手で触ったり、足で踏みつけたりを繰り返した。その様子を、冗談半分で見つめる転生者達の中。

 その後ろから。


「っ」


 樹音(みきと)が現れた。


「...」


 そんな彼に気づき、悠介は目を細める。これは、一体何なのだろうか。樹音の姿を見れば、皆は何かしらの反応を見せるだろう。だが、敵対は愚か、反応すらしていない。これはつまり、光の魔石によってまたもや姿を眩ましているという事だ。

 思い返すと、彼だけは魔石を手放したところを見ていない。

 ジーっと。悠介は樹音を見つめる。問題はそこではない。そう、彼は、一体"誰に"変化しているのだろうか。まず、そんな事をするメリットがあるだろうか。

 一体何を考えているのか、と。悠介はそこまで考えたのち、確認のためにも息を吐いて口を開く。


「誰、?そこに、紛れ込んでるの、」


 慎重に言葉を選んでそう小さく口にした。それを聞くや否や、周りの皆と合わせて、樹音もまた周りを見渡す。


「そこの人、なんだけどな、、一緒になってキョロキョロしてる、君っ」


 悠介は、無邪気に微笑みながら彼を指差す。が、しかし。


「え、?誰の事?」


「えっ」


 周りの皆は、何を言っているんだと。首を傾げる。明らかにそこに居るのだ。背後にも誰も居らず、指を差した先には樹音だけが居るはずだ。ならば、どうしてそんな反応になるのか、と。悠介は首を捻ったが、次の瞬間。

 それに、気づく。


ーそうか、今度は"誰にもなってない"んだ、、ただ姿を消してるだけ。でも、、一体何のために?僕を止めようとしてるなら、光の影響を受けない僕にはそれは得策では無い筈、、だとすると、他に理由が、?いやでも、相手は見たところ円城寺(えんじょうじ)君一人だ。...なら、そこまで思考が回ってない可能性もあるかなー


 それを思いながらも、慎重に悠介は笑みを浮かべ、あえて続けた。


「ごめんごめん。勘違いだったよ」


「何だよ紛らわしいなぁ」


 あははと笑う悠介に、皆が息を吐く中、改めて地下室への入り口へと向き直る。さて、どう動くか、と。

 悠介は一度樹音の方へと視線を向ける。すると。


「っ」


 お、と。目を見開く。

 そう、樹音はゆっくりとこちらに近づいて来ていたのだ。なるほど。彼に攻撃をさせない様に動いたら、明らかにおかしな行動と皆には取られ、怪しいと。そう思われるという事だ。恐らく、それを狙っているのだろう。"こいつに話を聞く価値は無い"と、思わせる事が、彼の作戦なのだろう。

 だが、と。

 悠介はニヤリと微笑み、ただ待った。


「っ」


 それに、樹音は目を見開く。悠介は、分かっていたのだ。この状況を作り上げて動揺させようとしていただけで、「彼自体攻撃なんて出来ない事」を。


ー君は人に危害は加えられない筈だ。さあ、どうする?ー


 まるでやってみせろと。そう言う様な表情で樹音を見据える。皆にはどう映っているかは不明だが、そんな樹音の表情からは焦りが見て取れた。故に、悠介はその確信を得た。と同時、微笑み皆に地下室の存在を口にしようとした。

 その瞬間だった。


「...?」


 ザワザワと。転生者達が小さく声を掛け合い、話している。何かがおかしい。

 それに驚いているのは悠介だけで無く、樹音もまたその様子であった。だが、ザワザワと話す他の皆は、明らかにーー


 ーー樹音を見ていた。


 それを受けた樹音は顔色を真っ青にする。

 どういう事だと。悠介は怪訝な表情を浮かべ硬直する。今は実体があるのだろうか。皆から認識出来る対象へと姿を変えたのだろうか。だが、それは考え難かった。樹音は、自身の姿が周りから見えているこの状態に、酷く焦りを見せている様子であり、何か作戦があってのものとは思えなかった。

故に、察する。これは、事故だと。


「あれ?どうしたの?こんなところに」


 それならば利用しなくてはと。悠介はそう口にする。まだ、樹音が変化している対象は不明であったがために、曖昧な言葉を放ったものの、その発言に皆は更に驚いている様子だった。

 何故その様な反応をするのだろうか。そんな事を思った矢先、遠くから王城の騎士達が駆けつける。恐らく、転生者達の動きを見て、こちらに碧斗達がいるのだと察したのだろう。そんな騎士達に悠介は口を開こうとした。

 が、その一同はやがて樹音達の元にまで駆け寄り目つきを変える。


「ど、どうして、こちらに、?」


「「?」」


 悠介だけで無く、樹音もまた首を傾げる。と、その騎士達の反応。周りの転生者達の反応。それをそれぞれ見据えたのち、悠介はある可能性を察する。

 まさか、と。


 そう、樹音。今現在、皆から見えている彼の姿はーー


「早くお戻り下さい。国王様」


 ーー国王、その人だった。


 それに樹音もまた気づいたのか目を見開いたのち頷くと、悠介の方へと視線を移す。すると、騎士達もそれに釣られて悠介の方へと視線を動かし口を開く。


「随分と馴れ馴れしい話し方でしたね」


「ああっ!いえっ、それは、その、」


 恐らく、先程の切り出しを聞かれていたのだ。悠介はそれに歯嚙みしながら次はどうするべきかと。その後ろでそそくさと撤収する転生者達を睨みつけながら考える。

 と、その瞬間。


「あれ?まさか、貴方地下に行こうとしましたか?」


「そ、そう、ですけど」


 別に問題は無いか、と。悠介は素直にそう答えた。が、しかし。


「勇者様は地下室の使用が禁止されています。一度話をするため共に来てもらいます」


「えぇっ!?な、し、知らなかったんだよ!?」


「知らなかったのは分かっています。何せ、教えておりませんので。ですが、それを使用しようとしたのが問題なのです。ですから、一度ご同行願います。そちらで、経緯を説明していただきますから」


「クッ、ふざ、、クッ、、分かりました」


 彼は考える人だ。そのため、ここで抵抗したり、反発した方がリスクが高くなる事は察しているだろう。故に、彼は悔しそうに、歯嚙みしながらも騎士の方々と共にその場を後にする。しかなかった。

 それを見つめる樹音に振り返り、悠介は一度睨みつけると、また戻るぞと言わんばかりの表情で、視線を前へと戻した。


「それでは国王様。お戻りーーって、まだどちらかに行かれるおつもりで、?」


 それを背後から見つめながら、その中の一人の騎士が樹音にそう切り出すがしかし。

 彼は無言で手を軽く振ると、その場をゆっくりと後にし、近くの陰に隠れた。


「な、、なん、で、?」


 冷や汗が額から溢れる。確かに、樹音は光の魔石を持ち、それを使用して自身の姿を消していた筈。それが、いつの間にか。

 自分の知らぬ間に国王の姿へと変化していたのだ。

 即ち、第三者によるものでは無いかと。樹音は理屈は不明だが、そう考察し震えた手を握りしめる。


「い、一体、、誰が、?」


 そんな、不可思議な現象に、国王の見た目をした樹音は驚愕の表情を浮かべ、隠れ続ける事しか出来なかった。

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