195.役者
「...なんで黙ってるの?」
沙耶は震えながらそんな事を口にした。がしかし、碧斗はそれに答えることは出来なかった。
恐らく、ここで何を言おうとも現状は変わらないだろう。今の碧斗が、何を言っても、信憑性に欠けるのは一目瞭然だ。故に、碧斗はどう対応するのが適切かを、ひたすらに悩む。すると、それに唇を噛み、表情を曇らせた沙耶が痺れを切らして割って入る。
「伊賀橋君、、私、思ってた事があるの」
「え、?」
「ごめんね。あの時は言い出せ無かったけど、やっぱり伊賀橋君の作戦にはちょっと反対だった、」
「さ、作戦、?」
勇気を出して話したであろうそれに、碧斗は首を傾げる。と、沙耶はその問いに頷くと、目を泳がせながらもしっかりと意思を告げる。
「その、、戦ってみんなに事情を分かってもらうっていうの、、そんなの、争いを止めさせるって言うか、、なんて言うか、ただ争いを進めて、私達も一緒になって早めて、終わりを迎えさせようって言ってるのと同じかなって、、思ったの、」
その言葉に、碧斗は眉を顰める。確かに、それは自身もまた感じていた事だ。一番最初に悠介に言われたあの言葉。碧斗もまた自身に問いかけていた。
本当に、我々のしている事は正しいのか。ただ自分達で正当化しているだけで、第三者から見たらそれは同じく争いに加担している存在では無いかと。沙耶の放ったそれは正論であり、碧斗もまた感じていた事だ。
だが、それを何故ここで話すのだろうか。
それを考えると、碧斗はそれに続く言葉を察して歯嚙みする。
「だから、俺を信用出来ないって、事?」
「っ!そ、そう言ってるわけじゃ、」
「...」
ここで熱くなっては悠介の思う壺だと。碧斗は口を噤み出かかった言葉を飲み込む。その中で、悠介は一言も口を開かなかった。ただ悪知恵が働くだけでは無く、ある程度の道理は理解している様だ。怪しい行動を、細心の注意を払ってしない様にしている。言わば、彼は役者だと。碧斗は歯嚙みし目だけで悠介の方を見る。と、沙耶がそれに続ける様にして、目つきを僅かに鋭くして放つ。
「でも、、橘君も巻き込んだのは、、許せないよ、」
「それはっ!その、、ごめん。俺の能力は範囲型だから、、巻き込む形になったのは、否定はしない。だけどっ、本当に悪気があったわけじゃーー」
「碧斗はっ、、嘘は言ってねぇ、、本当に、大井川三久がっ、さっきまで居たんだ」
こんな事を言っても信じてはもらえないだろう。自分ですらそう感じる中、助け舟の如く、突如大翔が割って入った。
「え、、そう、なの、?」
倒れ込みながらも懸命に事実を告げた大翔に、沙耶がそう呟くと、それに悠介が頷き話し始める。
「居たのは事実だよ。...だけど、僕から話をしてただけだったんだ」
「「なっ!?」」
「話、?」
悠介がまたもや出鱈目を口にする中、二人は声を漏らし、沙耶は首を傾げた。と、悠介は至って真面目な表情で、一度頷いたのち続ける。
「君達を狙ったのは事実だけど、あの人も国王から言われただけの人だ。だから、、僕は、、いや、僕なら、弁明が出来ると思ったんだ!」
「弁明、?」
「うん。みんなから狙われてる伊賀橋君達じゃ、きっと話は聞いてくれないだろうから、僕が間に入って、君達は本当はどんな人達で、何を目的としているのか。それを間接的に伝えようと思ったんだ、、だけど、」
悠介はそこまで呟くと、苦笑いを浮かべ碧斗に視線を移す。その表情と声音で何かを察した沙耶は、僅かに頰を膨らませる。
「...話し合いをしようとしたところを、俺が攻撃したって言いたいのか?」
「事実でしょ?」
「お前っ!いい加減にしろよ!?」
「やめて」
碧斗が低く放つと、悠介はさらっと返す。それに怒りを抑えきれなくなった大翔は歯嚙みして立ち上がるものの、沙耶は冷静にそう呟く。
「分かった。もう、、こんなのやめよ?どっちが事実とか、そんなの、証明のしようがないもん、、仲違い、したくないから」
「水篠さん、」
恐らく、沙耶自身が一番冷静に物事を見ているのでは無いかと。碧斗はそう感じ彼女の名を呟いた。だが、こちらが真実なのだと。大翔は我々を疑っている状態なままの沙耶に表情を曇らせていた。
「そ、そうだよねっ!ごめん、、やっぱ内輪揉めは良くないよ。とりあえず今は相原さんの事が先だ」
そんな一同を一瞥したのち、悠介は清々しい笑みでそう切り出す。その演技に大翔がまたもや殴りかかりそうになる手を押さえる。すると、対する悠介は皆をそっちのけで沙耶に声をかける。
「ところで、水篠さんの方はどう?相原さん、居た?」
「ううん、、ごめん、まだ見つからない、、音に釣られて、来ちゃったから、」
「そっか、、ちなみに、円城寺君は?」
「少し先で円城寺君が誰か来ないか見てくれてる。私達がここに居る事、王城の人達にバレたら、困るから」
そこまでを耳にして、碧斗は目を剥く。三久の最初の音波は、恐らく我々に危害を加えるものでは無く、沙耶をこちらに誘導する作戦だったのだ。それに対抗した碧斗が、有害な煙を放出するタイミングに合わせる様に。
ーそして水篠さんが来たタイミングで大井川さんは逃げた。...そうか、これは元々仕組まれていたものー
それを確信すると共に、碧斗は一つ確認したい事が脳裏に浮かんだ。と、それを聞いた悠介はまたもや張り付いた笑みで頷き、そう切り出した。
「そっか、、じゃあ、とりあえずまた水篠さんと円城寺君でお願い。僕らも、捜すのを優先して頑張るよ」
「だ、、大丈夫、なの、?その、この、メンバーで、」
沙耶が不安になるのも無理はない。今の現状を見れば、メンバー変更を考えるのは妥当である。だが、悠介はそれに反対するしかない。一度我々を敵に仕立て上げようとした時点で、沙耶とチームになれば必ずその現場を見られてしまうのだ。
故に、悠介は笑顔のまま首を横に振り、「大丈夫。僕も、、みんなに認められる様に。疑われない様に頑張るよ」と。そんな見え透いた嘘をさも綺麗事の様に放った。
「そっか、、うん、そうだよね」
そんな薄い言葉に、沙耶は悶々とし頷くと、碧斗と大翔に視線を移して続けた。
「もう、手出したら駄目だからね。絶対一ノ瀬君に手を出さないって、約束して!」
「なっ!?お、おい!手を出したのはこいつもーー」
「約束して!」
「っ」
沙耶の言葉に、大翔は真実を告げようと奮闘するものの、遮って念押しされたそれに、弱々しく頷くのだった。それに続いて「伊賀橋君も!」という促しののち、碧斗もまた頷いた。
それを見届けた沙耶は信じてるからと笑顔で放つと、「私達は上の階見てくるね」と残しパタパタと樹音の方へと戻って行った。
「それ聞いてくる時点で、、疑ってんじゃねーかよ、」
その後ろ姿を見据えながら大翔が拳を握りしめると、そんな彼にゆっくりと近づき悠介がニヤリと微笑んだ。
「残念だったね。長く一緒に過ごしてきた筈の相手に、まだ信用されてないなんて、、僕の方も演技が楽で有難いね」
「てめぇ!?ふざけんなーー」
「やめておけ」
またもや胸ぐらを掴む大翔に、碧斗は割って入る。
「どうせ反発してもこいつの手の平の上だ」
「クソッ!んだよ、、マジ、どうすりゃいいっつーんだよ、、このままじゃずっとこの調子になっちまうんじゃねぇか、?」
大翔が唇を噛んで碧斗に小さく呟き告げる。と、対する碧斗は真剣な表情で首を横に振った。
「いや、問題無い。水篠さんの話で分かった」
「何、?」「へー、何が?」
碧斗は悠介の方へ振り返りながら、あえてそれを彼に伝える。
「お前が俺達を貶めようとしている。その証拠を出せばいいだけだ」
「...フッ!」
碧斗が真剣に放つと、悠介は思わず吹き出す。
「何を考えてるのかと思ったら、、何も考えてないじゃん!何が証拠だよ。この世界には携帯も何もない。現状況を証拠として形に残す方法なんて無いよ」
ニヤける悠介に、碧斗は確かにそうかもな、と。そう対抗する様に口角を上げた。
そののち。
「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!相原さんを捜すぞぉぉぉぉぉっ!どこだぁぁぁぁっ!どこにいるぅぅぅぅっ!」
「なっ!?馬鹿っ、おいっ!」
「?」
突如碧斗は踵を返し、一棟全てに聞こえる程の声量で叫びながら、廊下を走り出した。
ー確かに証拠を残す事は出来ない。だが、こいつが好き勝手出来ない状況を作り上げる事は可能だ!ー
碧斗は笑みを浮かべ声を上げ続ける。あえて、腹から、力強く。
「おいっ!碧斗!何やってんだよ!?そんな事してたらっ、侵入してんのが他の奴らにーー」
「今の声、、なんだろ」
「もしかしてあいつら?」
「向こうから、聞こえた」
「っ!」
暴走する碧斗の肩を掴み、大翔が割って入るがしかし。それを言い終わるよりも前に彼の言った様に王城の人達に気づかれ、数名の足音が向かう。
「や、やべぇぞ、、碧斗!何考えてんだ!?とりあえず今は逃げーー」
「いや、逃げなくていい。"まだ"、な」
「は、?何言ってんだよ、」
碧斗が焦る大翔にそう放つと、その反応に彼は本当に我々を裏切るのでは無いかと不安の色を見せる。
と、そんな二人に後からゆっくりと歩みを進めた悠介が、首を傾げ口を開く。
「ねぇ。突然どうしたの?早くしないと、君達全員捕まるよ?」
「チッ、、悔しいがその通りだ碧斗。このままじゃマズい。早く逃げねぇと」
「いいから」
更に冷や汗を流しながら続ける大翔に、碧斗は一言だけ口にすると、目つきを変え声の聞こえた方向に向き直る。
と、その先から。
「っ!あれって」
「見つけた」
「なぁんだ、、あいつじゃん」
拓矢と愛梨、奈帆の三人が顔を出した。なんだか珍しい面々だが、恐らく一棟の人間が総出で探している状況なのだろう。チームごとに動いているわけでは無さそうだ。だが、完璧なメンバーだと。碧斗は僅かに口角を上げると、大翔の方へと振り返ろうとした。
が、その瞬間。
「みんな!連れて来たよ。こいつら!」
「あ!ゆうくんじゃん!って、なぁんだ、もう捕まえてる状況なんだぁ、つまんないの」
悠介の言葉に、大翔は険しい表情を。碧斗は驚いた表情をそれぞれ浮かべた。と、それを耳にした奈帆は息を吐き、愛梨はいつも通り。拓矢は僅かに表情を曇らせた。
その一同の表情を一人ずつ確認した碧斗は一度目を瞑ったのち、悠介の方へ振り返る。
「ありがとな。今ので確信になった」
「え?」
碧斗がニヤリと微笑みそう呟くと、続けて悠介を見下ろす形で口を開いた。
「まだ分からないか?この状況」
「な、何?どういう事?」
碧斗の問いに、とぼけた様子で悠介が口にする。それと共に、大翔もまた首を傾げると、答え合わせの如く付け足した。
「明確に敵意のある人間が現れた。それはつまり、俺が能力を使用してももう被害者ズラ出来ないって事だ」
「っ」
「っ!そうか!」
碧斗の一言に、悠介と大翔は目を剥く。そう。要するに、悠介が被害者になれず、碧斗が加害者として扱えない状況にすれば良いのだ。そのためには、言い訳の出来ない状態を作る必要があった。
それが、パニッシュメントのメンバーをこの場に一人でも誘き出す方法だったのだ。
「清宮さんが来てくれたのは有り難かった。あの人は多分、逃げる事はしないだろうし、もし俺が攻撃する光景を水篠さんに見られても俺の意見を通せる」
「つまり、これでようやく戦えるわけだな。ちゃんと」
「ああ。更には俺達が囮になっている内に、二人は相原さんの捜索が出来るって事だ。ここからは小難しい事は考えなくていい。いつも通り、行くぞ!」
「おうよ!」
碧斗と大翔がそう言葉を交わしたのち、構える。その姿に、奈帆達がまだ戦う気なのかと。僅かに喜びを見せる。
そんな中。
「フッ、やっぱ、君だけは少し頭がキレるみたいだね。そういう頭の使い方をしてくれて、助かったよ」
「ん、?どういう意味だ」
碧斗が怪訝にそう返すと、悠介は顔を歪めて笑う。
「みんな馬鹿だなって事だよ」
「何?」
「んだと!?てめぇ!」
「たっ、助けてっ!みんなっ!」
「「!」」
悠介の発言に大翔が怒りを見せながら拳を放つと、その瞬間を狙って大声を上げる。それにハッとしたのも束の間。
それと同時に後ろの三人もまた身構えた。
「なっ、何をしようとしてるの!?君達!?」
「あーっ!ゆうくんに手出したら許さないからねっ、この脳筋馬鹿が」
「正確に、仕留める」
「クッ、こっちにも演技かよっ!?」
拓矢と奈帆、愛梨の言葉に反射的に振り返りながら、大翔が歯嚙みしそう放つ。
と、その瞬間。
「はははっ、せいぜい頑張る事だね」
「っ!お前っ、まさかっ」
碧斗に聞こえるか聞こえないかという瀬戸際の声で呟いた悠介は、突如姿を消した。
すると。
「二人はここで頑張ってね。こんなんで伊賀橋君はイキってるのかもしれないけど、大切な向こうの仲間達も忘れない様に」
そんな皮肉のこもった言葉が、どこからか碧斗の耳に届いた。それ故に、碧斗の顔から笑みが消える。まさか、彼の目的は。
「マズいっ!あいつっ、俺がこうするの分かって!わざと誘導したんだ!俺達がこっちで戦う内に、ガラ空きになった樹音君と水篠さんを狙うようにっ」
「なっ、それっ、ほんとなのかよ!?」
碧斗はそう大翔に伝えると、ここは頼んだと言わんばかりの表情で頷き、三人から放たれる攻撃を避けながら悠介の通ったであろう廊下を走った。
「あーっ!ちょっと、逃げたよ!」
「大丈夫。確実に、仕留める」
奈帆がそれを目にし声を上げると、愛梨が無表情で呟き弓を構え放つ。
が。
「おらよっ!」
大翔がその軌道の先に現れ矢を破壊する。それと同時に背後の碧斗は煙を放出し、行方を眩ます。
「あーあぁ、、逃げちゃったぁ。愛梨ちゃん!追えそう?」
「うん。いける」
「よっし!また二人の共同作業いこっか!」
「言い方、」
奈帆と愛梨がそんな会話を交わすと、"あの時"の様に二人でくっつく。それを目にした大翔はハッとし察する。
それは。その構えはーー
「とうっ!」
奈帆が声を上げると共に愛梨が矢を放つ。すると、その矢の羽の部分が変化し軌道を変え、大翔を避ける様にして煙の中へと進んでいく。
が、しかし。
「させっかよ!」
大翔は足を破壊する勢いで向きを変え飛び出すと、能力を全て使用する様にして矢に追いつきそれを折る。
「っ」
「うっそ、何あの脳筋、、ほんとに頭筋肉で出来てんじゃない、?」
その光景に引き気味に呟く奈帆に、大翔は改めて振り返り、目つきを変える。
「あいつのとこには行かせねぇ。その代わり、、琴葉との事、教えてもらうぞ」
「はぁ、、何も交換条件になってないけど。もういいや」
大翔の覚悟に、奈帆はそう息を吐くと、愛梨を気にしながら彼女もまた目つきを変えて一歩前に出た。
「さっさとあんた倒して、伊賀橋碧斗を追う」
呆れた様子で。だが戦う意志を見せながら放ったそれに、大翔は「させるかよ!」と叫び飛び出したのだった。
☆
「...こっちも人が多いね、」
「二、三人、、上手く分散させられれば、行けない事もない、と思うけど、」
階段の影に隠れながら、沙耶の呟きに樹音は周りを見回し返した。
元々二階から捜索していた二人は、現在三階の捜索へと移っている最中であった。恐らく一棟に集まっていた転生者、そして騎士達はそれぞれ分担して一棟内を徘徊しているのだろう。この一棟に来るまでに悠介以外の転生者を見なかったがために、樹音はそう考えた。
が、それと同時に。
「...とりあえず、ずっと一棟を探索するとも思えないし、みんなが去った後に僕達は、、っ!」
樹音はふと、沙耶の方へと振り返ると共に目つきを変える。その様子に首を傾げる沙耶。
その後ろに。
悠介が、剣を持って近づいていた。
「危ないっ!沙耶ちゃん!」
「えっ!?」
既のところで彼女を守り、樹音もまた剣を生成したものの、それを見た悠介は突如廊下の奥へと走り出した。
「なっ!?い、一体何を考えて、」
「ど、どうしたの、?今の、、一ノ瀬君、だよね、?」
不安げに呟く沙耶を一瞥したのち、樹音は悩む。なんだか、ここで彼を野放しにしてはいけないと。そんな気が、心のどこかでした。
故に、樹音は一度深呼吸をすると、沙耶に向き直り小さく告げた。
「僕、ちょっと様子見てくるよ。沙耶ちゃんは、ここで待ってて。絶対、ここに居てね。みんなにバレると困るし、僕も、見つけられなくなっちゃうし」
樹音が爽やかで優しい笑顔を浮かべそう伝えると、沙耶もまた少し不安げだったものの強く頷き返す。
その様子に、大丈夫だと確信した樹音は、目の色を変えて悠介の後を追った。
すると、少し走った先。以前智樹との戦闘により破壊された壁の前で佇む悠介に近づく。
「何、企んでるの?」
「...」
「...ま、まさかっ」
一歩、また一歩と。破壊された壁に向かって足を進める悠介。
その行動と光景に、樹音はハッとし手足が震える。嫌な予感がした。
ーまさか、、自分からー
自害。それが、頭を過った。現世での出来事と重ねて、樹音は思わず。
震えた足を強引に動かし、悠介を止めるため彼の肩に手を置いた。
「駄目だよっ!何を考えてるか、、僕にはまだ会ったばかりだから分からないけど、でもっ、、っ!」
が、しかしーー
ーー肩に置いた筈の手は、体を突き抜け貫通した。
「っ!まさかっ!?」
「そう、その通り。気づくの遅かったね」
「っ!?」
すると瞬間。樹音の目の前の悠介はゆっくりと消え、背後から。
突如悠介の声と共に、本物が、逆に樹音の肩に手を置く。その、矢先。
「じゃあね」
「やめっ!?っ!」
悠介の短い別れの言葉と共に、彼は肩に置いた手を背中へと移動させて強く押す。
ギリギリの場所にまで幻覚の悠介は到達していたため、樹音もまた少し足を踏み違えば転落する恐れがあった。
そんな場所で、背を強く押されたのだ。故に。
「ふふ、」
樹音は何も出来ずに転落した。
「はははっ」
それを見据え、思わず笑いを零す悠介。そんな彼の背中に。
追いついた碧斗は、既にもう手遅れな現場で何も知らずに鋭い目つきを送ったのだった。




