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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第7章 : 関わり合いと処罰する者(パニッシュメント)
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191.介入

「それにしても、予想外の収穫だったな」


 王城の地下室。ひたひたと音も無く不気味な中、物が散乱するこの場で、地べたに座り大翔(ひろと)が天井を見据え声を漏らした。


「そうだな、、ここで(あかつき)さんに会うとも、清宮(せいみや)さんが居るとも思ってなかったから」


「予想外の収穫といえば、大翔君の方の話は、、その、僕のせいであまり聞けなかったみたいだけど、、何の話だったの?」


 碧斗(あいと)に続いて話す樹音(みきと)に、大翔は「あー」とぼやきながら宙を見据え返す。


「別に、大した話じゃねぇし、、この世界とは関係ねぇ。...だからこそ、奈帆(なほ)はそれ以上の事は言わなかったわけだ」


(たちばな)君、、大丈夫、?」


「ん?ああ。大丈夫だ」


 大翔の、普段とはどこか違った雰囲気に、沙耶(さや)は不安げに声をかける。


「私の事、受け止めてくれたんだから、、私も、大翔君の話、聞くからね!」


「...沙耶、」


 沙耶の励ましに、大翔は目を細めると、目を瞑って一度深い息を吐いた。


「ああ。何も分かんなくてごちゃごちゃしてたけど、俺らしくねぇよな。分かんねぇ事は、分かるまで聞いてこそだ。次奈帆に会ったら、意地でも俺が納得するまで話させてやる」


 ニッと。歯を見せ強く微笑む。その、どこか無理をしている様にも見える姿に、沙耶はどこか心配そうに微笑み返すと、改めて大翔が口にする。


「で?ここからどうするつもりだったんだ?色んな事が重なっててあれだったが、マーストとはどんな話だったんだ?」


 手を地面に着き宙を見ていた大翔は、突如腕を組んで前のめりになると、碧斗に向けてそう口にした。

 それに頷き、碧斗もまた皆に作戦を告げる様に前屈みになって返す。


「とりあえず、マーストの支援でここで生活して、時間帯を見てここから出て王城の探索と一同の説得をする予定だった。王城の探索は転生者が居ると出来ないから、転生者に説得する中で、探索してもらおうと思ってた。つまり、説得チームと探索チームに分かれるって形だな」


「で。でも地下がこんな有様になってたわけね」


 碧斗の予定の話に、美里(みさと)が現実を添える。それに、碧斗は渋い表情で頷くと、続けて目つきを変えた。


「でも、転生者によってこうされたとは思えないんだ。勝手な、憶測だが」


「そうね。まず私達同様、地下があるとは思わないだろうし、もし気づいたら、皆を連れて私達を罠に嵌めれば良かったと思うし。こんな有様になってるのは恐らく事後。マーストさんと何かあったに違いない。...そう解釈するなら、」


 美里がそこまで考察を施すと、碧斗と目を合わせたのちそれを同時に呟く。


「「王城関係者の可能性が高い」」


 美里と碧斗の息の合い方にも驚きながら、皆もまた頷く。


「でもよ、転生者が俺らを誘き出すために、マーストを人質にした線もあるくないか?」


「その可能性もあり得る。それなら、もう時期行動を起こしそうな気がするが、さっきの清宮さんの反応を見るに、パニッシュメントの仕業では無さそうだ」


「確かに、、何も知らなそうだったもんな」


 碧斗の指摘に大翔が唸る中、樹音はとりあえずと。手を叩いて声を低くし告げる。


「それよりまずは、マーストさんの救出が先じゃ無いかな?どこに居るかも分からないし、本来ならここで待ち合わせする予定だったんでしょ?」


 樹音の提案と質問に碧斗が頷くと、改めて皆を見据えて切り出す。


「樹音君の言う通り、まずはマーストの居場所の特定と、場合によっては救出が先だ」


「だが、もし王城関係者だったら、また敵を増やす事になるんじゃないか?」


「っ、、ま、まあ、確かにそうだけど、、って」


「「「「「え?」」」」」


 碧斗の言葉を遮って放たれた、その無気力で、覇気のない淡々とした声に、一同は目を剥きその方向へと振り返る。


 と、皆が並んで座る中、一番端に居た碧斗の隣にーー


 ーー見慣れない、"黒髪ストレートの男子"が同じく座っていた。


「ふぇっ!?だ、誰っ!?」


「どっ、どちら様でっ!?」


「あんたっ」


 皆が声を上げ退く中、碧斗はハッとする。

 確か、この人は始めの訓練中、能力を一度も使用していなかった二人組。S(シグマ)と一緒に居たもう一人の人物だ。故に、碧斗は目の色を変えて身構える。


「お前らっ、一体何考えてるんだ!?」


「ど、どうしたんだ?碧斗」


「お前らって、?」


 碧斗が声を荒げると、大翔と樹音はそれぞれ首を傾げ呟く。と、それに碧斗は歯を食いしばりながら、一歩。その人物に近づき口を開く。


「この人は、確かSと一緒に行動していた人物だ」


「「「「っ!」」」」


 だから、何か理由があるのかもしれないと。碧斗は目を剥く一同に、まるでそう言う様に目線で促すと、察した美里もまた一歩前に踏み出す。


「あいつはどこにに居るの?」


「あいつ?」


「Sのこと!」


 ボーッと美里を見つめながら首を傾げるその人物に、怒りを露わにしてその名を告げる。


「あー、悪い。今はちょっと分からない。最近は別行動してたから」


「あんた、」


「別に危害を加えるつもりはない。まずは座ってくれ」


 皆が身を構え立つ中、その人物だけが地べたに座り込みながら淡々と呟く。すると、その反応に大翔は頭を掻いて碧斗に耳打ちする。


「お、おい、、こいつ本当にやべぇやつなのかよ?本当に危害加える気無さそうだし、こんな奴から強大な力が出るとは思えねぇぞ」


「その油断が命取りだと思うが、」


 大翔の問いに、碧斗が怪訝な表情でそう返すと、続けて放った。


「おい、Sの場所が分からないならそれでも良い。ただ、何故Sと一緒に行動してる?奴は一体何を企んでる?それくらいは、分かるだろ?」


 と、そんな疑問に、対するその人物は表情はそのままで、浅く息を吐いて口を開いた。


「皆、Sを知ってる雰囲気みたいだな。だが悪い。俺は別にSと行動を共にしてるつもりも、協力しているつもりもない。情報になってあげられなくて悪かった」


「クッ」


 その、全くと言って良い程反省の見られない彼の謝りに、美里が拳を握りしめると、改めてその人物は立ち上がり口にした。


「だからSの本当の名前も、能力すら知らない。でもその代わり、俺の能力も名前も、彼は知らない」


「名前も?」


 割って入った樹音の反復にその男子は頷くと、息を吐いた。


「隠してるつもりはないけど。...だから、何も教えられない代わりに、俺の名前だけでも聞いて行ってくれ。俺は不破渉(ふわわたる)。今まではボッサ君とか、ブッサ君とか呼ばれたことがある」


「な、なんだそのひでぇあだ名は、」


「ちなみにどちらも同じ人からだ」


「だ、、大丈夫、ですか、?いじめられているとか、?」


「いやっ、まずそんな名前とかはどうでもいい。それより、まず俺達に接触する理由はなんだ?後、どうしてここが分かった?」


 渉と名乗った彼の言葉に、反応を見せる大翔と沙耶。だったが、それを遮る様にして放つ碧斗に、渉は視線を移動させ伝えた。


「ここは、元々知ってた。地下があるのは紙に書いてあったし、ここに来たのも、接触した理由も。そして、俺の最低限の情報を与えたのも、全てはそれが理由だ」


「紙、?一体なんのことだ?」


「そして、接触した理由の質問をさせてもらう。お前達は206号室の棚について知ってるか?」


「棚、?」


 渉の淡々とした返し、及び疑問に、同じくそのまま返す碧斗。それに「その反応知らなそうだな」と零すと、じゃあ質問を変えようと仕切り直して問うた。


「鍵を探してる。小さめの鍵だ。どんなものでも良い。正確にはどんな鍵なのかは知らないんだが、とりあえず鍵を探してる。心当たりはないか?」


「鍵、、なんて、あったか?」


「な、無い、、よね?」


 渉の疑問に、皆はざわつきながらそんな事を話すと、その反応に顔色を変えずにそうかとだけ呟くと、踵を返した。


「あっ、ちょっ、ちょっと待てっ!要件はそれだけなのか!?」


「ああ。元々、違う理由で地下に来ていたからな。その時君達を見つけたから、一応聞いておこうと思っただけだ」


 去ろうとする渉に対し声を上げる碧斗。そんな彼にそう返すと「外の可能性は低いか、後、あの農民との接点も」となんだかボソボソとぼやきながら歩くと、ハッと。ほんの僅かに目を開き、振り返る。


「そうだ、一応知らないという情報をくれた。だから、一つ俺からも言っておこう」


 渉の一言に目の色を変える一同に向けて。彼は少し間を置き告げた。


「この世界には、何かが隠されている。桐ヶ谷(きりがや)修也(しゅうや)があんな行動をとった理由も、恐らくそれが関係している」


「なっ!?隠されてるって、、一体何が!?」


「それを今探しているところだ。それを探るのは俺に任せて、君達は修也の思惑を暴いてくれ。...きっと、遠回りだが、一番の近道にも感じる」


 その一言を耳にし身を乗り出す碧斗に、渉はそう淡々と返すと、地下の奥へと姿を消した。

 その光景を、ただ怪訝に見つめる一同は、互いに顔を見合った。


「...今の、本当かな、?」


「さぁ。でも、確信がない以上、本当とは言えないと思うけど」


「...きっと、みんなはみんな、それぞれ俺らの様に何かの目的のために動いているんだろう。本当か嘘かはどうでもいい。とりあえず俺らのやる事は変わらない。俺らの目的は、この争いを終わらせる事だ。これ以上、話をややこしくする必要はない」


 樹音と美里が話す中、碧斗は目を瞑りそう答え、踵を返した。と、それに、それもそうだなと大翔は頷くと、皆も同じく踵を返したのだった。


「話が途中になったけど、まずはマーストの行方を探る。詳しい話はそれからだ」


 碧斗が指揮をとって促すと、一同もまた頷き地下の出入り口を開けた。


            ☆


 その後、それぞれ別れて捜索をする事となった皆は、碧斗と大翔、そして樹音。美里と沙耶のチームで棟ごとに捜索する形となった。

 初めは不安だったものの、まだ病み上がりの碧斗は、息の合う二人である樹音と大翔チームに割り当てられ、智樹(ともき)との戦闘で命をかけたコンビネーションを見せた美里と沙耶が別チームとなった。

 パワー系の沙耶と大翔。遠距離トリッキー系の美里と樹音だ。悪くはない編成だろう。美里と大翔のチームは色々と問題がありそうなため、最終的に男女で分けたこの様な結果となった。


「よしっ!まずは牢獄の確認だな!」


 四棟の担当となった樹音チームは、四棟にある牢獄へと足を運び大翔が腕を鳴らした。が、しかし。

 以前の事があり、四棟はほとんどが壊滅状態だったため、マーストが捉えられていそうな場所は見当たらなかった。


「チッ、なんだよ、牢屋もゴリゴリに破壊されてるじゃねーか、」


「仕方ないよ、いくら魔法がある世界でも、そう簡単には直せないだろうし、」


 大翔が残念そうに頭を掻く中、碧斗は不安げな表情で一棟を見据えた。


「...」


「や、やっぱり、マーストさんが心配、、だよね」


 そんな碧斗に、樹音は恐る恐る声をかけると、ハッとし手を振った。


「いやっ、まあ、確かにそうなんだが、、それよりも、なんか静かだなと、思って、」


「た、、確かに、」


 ふと、思い返してみる。現在は朝方。王城に来た時は、理穂(りほ)と出会い、大翔は奈帆と接触した。お互い偶然通りかかったと口を揃えており、渉に関しては分からないが、皆移動している様子だった。

 即ちーー


「もしかして、、今、朝食の時間、、だったか、?」


「「!」」


 碧斗の呟きに、樹音と大翔は目を見開く。

 既に王城生活から数ヶ月経っているため、昼食や夕食はまだしも、朝食の時間など、既に覚えていないのだ。故に、碧斗は冷や汗を流す。

 食事は一棟で行っていた。そして、今一棟を捜索しているのは。


「二人が、もしかしたら危ないかもしれないっ!」


 奈帆が戻ってから襲撃がないのも不自然である。パニッシュメントのメンバーは、いつも連携が取れているイメージだ。詳しい事は知らないが、我々が侵入している事を即座に報告しに行くに違いない。ならば、本来であれば既にこちらに来ていてもおかしくないのだ。

 その予想によって、より焦りを覚える一同は、慌てて一棟へと体を向け走り出す。

 どうしてこちらに来るまでそれが予想出来なかったのだろうと。自己嫌悪し歯を食いしばる碧斗だったが、心のどこかで轟音や振動が来ていない事に可能性感じていた。

 が、その瞬間。


「うわっぷっ!?」


「おい、何やってんだよ碧斗」


 突如、何もないはずの場所で、何かにぶつかった様な感覚だけが碧斗の左腕周辺に感じた。

 思わず声を漏らした碧斗に振り返り声をかける大翔を見据えながらも、周りには何も無いがために答えようが無い。

 おかしい。

 明らかに、ぶつかった様な感覚がしたはずだ。

 物ではない。明らかに、すれ違う時に肩が当たってしまった様な感覚。即ち、人である。

 おかしい。


「おいっ、早く行くぞ!マズいんだろ?」


「大丈夫?碧斗、」


 小走りしながら振り向いて声を上げる大翔に続いて、樹音が心配を口にする。そんな一同の姿に、とりあえず今は一棟に向かうのが先だと。碧斗もまた「悪い悪い」と声をかけ走り出した。

 が、それと同時に。


「ぶつかっちゃったぁ」


「!?」


 ふと、碧斗にだけ聞こえる様な声で、何者かが。

 確かに、そう呟いた気がした。

 それに、反射的に振り返ると。

 目の前の空間が、ほんの僅かに歪んで見えた。それはまるで、水の中の様な光景。

 それが、"人の形"をしていた。


「まさか、」


 碧斗が冷や汗を流すと、背後で大翔が呆れた様子で振り返る。と、その矢先。


「みんな、どこに向かってるの?」


「「「っ!?」」」


 目の前に突然、小柄で華奢な体。サラッとした質感の髪をセンター分けにした、そんな小さく可愛らしい男子が現れた。

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