189.理穂(1)
あれは、物心のつく前の事であった。
元々、暁家は家柄が良かった。名の知れた会社の経営者である父を持つ理穂は、周りからはお嬢様と呼ばれるようになっていった。
だが、そんな良いものではないのだ。理穂は、理想と現実を比べため息を吐く。
家柄により制限も多くあり、それを理由とした花婿候補も多く寄せられた。まだ子供だというのに、既に将来を考え、父はお見合いの候補を並べ始めていた。それが、苦痛であった。
そんな中、一番の候補として一人の男子と会う事となった。見た目は、悪くは無いだろう。着こなした服装や整えられた、漆黒でストレートの髪。そこからは、いかにも誠実そうなそれが見て取れた。
また、会話も弾んだ。喋らなすぎるわけでも無く、うるさいわけでも無い。理穂に合わせた対応が出来る人だった。
だが、それがあまりにも出来過ぎていて、理穂はそれが気持ち悪くなった。
相手は将来を考え、理穂と近い中学生の人であった。その人物の家もまた、会社の代表の家系であり、暁家も、その相手の家も。双方なんとしても関係を深めたい様で、親からの圧力も多く感じた。
故に、理穂は察したのだ。目の前のその男子もまた、操り人形で、被害者で。きっと、本当はそんな人でも無いのだろうなと。
出来過ぎた対応、話、見た目。その全てに、結論づけ違和感を感じてしまったのだ。だがしかし、親同士の思惑は大きく、それはだんだんと本格的になり。その相手は許婚となっていった。厳密に言えば、双方の納得があり、きちんとした契約がなされたわけではない。だが、時期にそうなるだろうと。周りからもそう言われていた。
それから逃げようにも、幼い理穂には逃げられなかった。
また、恋愛だけでは無い。学校生活にも、支障が現れ始めた。
父から、他人の家に上がる事も、家に招き入れるのも反対されていた。やはり、それも家柄の事が公にされるのを避けるためだろう。そこに、理穂を普通の生活をさせたいからなんて上っ面の理由を提示してきたが、友人と家で遊ぶ事を拒む時点でそんな配慮はしていないだろうと。理穂は歯嚙みした。
そのため、時期に断ってばかりの理穂の周りには、友人が居なくなり、学校に至っても孤立していった。
だが、嫌な事ばかりでは無かった。それは、もう少しで中学生だという事である。即ち、小学校を卒業して新たな環境へと移行するという事だ。
理穂は、そんな未知の世界に、新たな希望を見出していた。
そして迎えた中学校入学。初めての授業日。自己紹介の際に立ち上がった瞬間、周りはざわつき始めた。
「っ」
思わず、理穂は息を呑んだ。なんだ、この反応は、と。すると、その矢先に。
「あの子、お嬢様らしいよ」
「なんか一般の人とは関わらないらしい」
「何それ、感じ悪っ」
「はぁ、、はぁっ、はぁ、はぁっ!」
理穂は、段々と視界が歪み、息が荒くなった。どこに行っても変わらない。きっと、これからもずっと。
中学校は、小学校からそのまま進級し入学した生徒が多いだろう。故に、このクラスにもまた、"あの時"の理穂の噂が、多く出回っていたのだ。
「はぁっ、はぁ」
頭を抱えたかった。人間は、噂一つで、真意も確認せずそれにレッテルを貼る。理穂は、まだこのクラスで一言も喋ってはいない。なら、と。理穂は唇を噛んで、それを呟いた。
「ならっ、あんた達に私の何が分かんのよ」
「え、?」
その小さなぼやきに、隣の席の人物が声を漏らすと同時に、耐え切れなくなった理穂はその場から「保健室に行く」と告げ離れた。
「...はぁ、」
保健室前で座り込み、理穂は息を吐いた。
ーほんと最悪、、第一印象終わったぁ、、もうどうやってあのクラス戻れって言うのよー
そんな盛大な失敗に、理穂は曲げて座る足に顔を埋め、長らく脳内で自身と会話をするという名目で言葉を並べていた。
すると、瞬間。
「...どうした?こんなところで」
「え、?」
突如、隣から声をかけられた。
それは、先程の。隣の席の人物であった。
髪は癖っ毛で跳ねており、制服も着崩している男子。言うなれば、フィアンセの真逆の存在である。
「あ、いや、なんでも」
正直、理穂はこの様なタイプの人間が得意では無かった。そのため、声をくぐもらせ目を逸らしたが、しかし。
「なんでもって事ねーだろ?保健室行くって言っといて、様子見に来たら保健室前で座ってるって、なんか変だぞ?」
「...なんで、貴方はここに居るの?」
「え?いや、授業終わったから、暇だし見に来ただけだぞ?寝てたらそのまま帰ろうと思ったんだけど」
「え!?もう終わってたの!?」
「チャイム聞こえなかったのかよ、」
すっかり考え事に集中してしまっていた。時刻的に、現在は給食前だろう。それに気づき、何をやってるんだと理穂は額に手をやった。
名前は暁。自己紹介は最初だったはずだ。即ち、約一時間レベルで座っていた事になる。我ながら驚愕だ。
「ははっ、お前バカだなぁ」
「は?」
「おうっ、こっわ、」
その姿に男子が笑みを浮かべると、それを遮る様に理穂が睨み付ける。すると、その男子は改めて微笑み口を開いた。
「いや、なんか面白い人だなって思っただけだ。俺は桐ヶ谷修也、自己紹介の時いなかったろ?」
その修也と名乗った人物に小さく頷き返すと、彼は笑みを浮かべ続けた。
「それでっ?お前はなんて言うんだ?」
初め、自身の名を言うのを躊躇った。
可能性は低いが、苗字を知っている可能性もあるのだ。だが、それを聞きたいという彼の純粋な表情に負け、理穂は恥ずかしげに小さく名乗った。
「あ、、暁、理穂です、」
「おっしゃ!この学校で、初めてお前の名前聞けたな」
「っ」
ただ本当に喜ぶ彼の姿に、理穂は目を見開いたがしかし、よく考えると、と。理穂は少しの間ののち小さく返した。
「いや、、小学校一緒の人居るし、それに入学式で名前呼ばれてるし」
「なにっ!?」
それに驚く修也に、理穂はそっちこそ馬鹿では無いかと。自然と笑みが溢れる。
そんな、初めての感覚と共に訪れた春が、修也との出会いだった。
それからというもの、二人は友達となり、兄妹の様に共に過ごした。元から友人がいなかった理穂には新鮮で、どれもこれもが輝いていて、嬉しくて。男女でいる事に、思春期あるあるの恥ずかしさなど微塵も感じなかった。
家に呼ぶのは禁止されているため、基本的に二人で出かけて遊ぶ事が多かった。
「うおっ!すっげ!あれヘラクレスじゃね!?」
「...はぁ、あんた昭和の人間?今の時代こんな格好で虫取りしないって、」
「なっ!?理穂はほんと冷めてんなぁ。俺が取ってきてやるからっ!かっこよさを教えてやるよ!」
夏の日には半袖に短パンと。絵に描いたような少年となっていた修也が虫取りを楽しんでいた。
二人は、どちらかと言えば都会寄りの場所に住んではいたものの、都会の中で言えば田舎に近かった。
故に、服やゲームに大した思い入れのない修也は、家に居るのも堅苦しいのか、理穂を呼んで外でアグレッシブに遊ぶ事が多かった。何故わざわざ理穂を呼ぶのかは分からない。
「ほらっ!どうだ!」
「うっ、、別にかっこいいわけじゃ無いし、、それに、それ虫でしょ、?」
「なんだよカブトムシも無理なのか?」
軽々と木を登っては彼の求めていた虫を虫カゴに入れて見せびらかせる。それが、理穂にはウザったらしく感じていたものの、彼のその無邪気な笑顔が、どこか輝いて見えて、心の底から嫌だとは感じなかった。
「べっ、別に、無理じゃ無いし!」
「なら、ほらっ!触ってみろよ!カッケェぞ!」
「だからっ!カッコよく無いからっ!」
「おまっ、やっぱ苦手なんじゃねーかっ!ほらっ、待てって!」
昔から、修也は運動神経が良く、体を動かす事と虫が好きだった。その両方は全て、理穂が嫌いなものである。先程、理穂を呼ぶ理由が分からないと言ったが、ただの嫌がらせの可能性もある。
そう思い嘆息する理穂が、対して好きなものは。
「さぁ!今日は私のに付き合ってもらうわよ」
「はぁ、、うぃ〜、」
「何よ浮かない顔して」
「だってよぉ、、服興味ねーし、」
ファッションや音楽、映画鑑賞が趣味であった。それに付き合わされる修也もまた、理穂の趣味は全て嫌いなものであった。
彼曰く、服は機能性。音楽はサビだけ聴けば曲の良し悪しが分かる。映画は眠くなる。だそうだ。恐らく、これからも相容れないだろう。だが、そう言う修也もまた、文句を言いながらも楽しそうに理穂と過ごした。
そんな二人はごく一般的な関係の様で。その時だけは家柄の事を忘れていられた。
だが、中学生の高学年になったある日。この家柄の重要さに気付かされる事となった。
理穂は昔から、随分と思い詰めた様な表情をする事が多かった。それに対し修也は不審に思って声をかける事が何度かあったがしかし。何かあったのかと聞いても理穂は首を振るばかりで、何も話そうとはしなかった。
故に、修也もまた深く踏み入る事はせずに、ただ話を流す事が多かった。それが、友人という関係の距離感なのだ。言いたくない事は聞かない。一人にして欲しそうならばそっとしておき、何か気の利いた言葉をかけるわけでもない。
今までは、ずっとそうだったのだが。
「...じ、実は、、私、もう少しで、結婚の話を進めなきゃいけないの、」
「はっ!?お前が!?」
「な、何よ、」
「物好きなやつもいるんだな」
「なっ!ちょっとそれどういう意味!?」
「...で、?それがどうしたんだ?良い事だろ?」
唐突に告げられたその情報に、修也は僅かに動揺を見せたのち、そういつも通りの返しをした。が、しかし。
「...う、うん、、そ、そう、だよね、、いい事だよね。相手も、普通にいい人だと思うし、、うん、そうだよ、悪くないかなって、、思うし、」
「...そうかよ」
理穂が少し声を小さくして、無理に笑って返す。それに、修也はハッと目を丸くしたのち、バツが悪そうに視線を落とし聞こえないくらいの声でそう呟いた。
すると、対する理穂が少しの間を開けて、声を低くし零した。
「...結婚が早いとか、、思わないのね」
「...別に、、女性は十六からだし問題ねーだろ。...ん、?待てよ、十八になったんだっけ?」
「修也は、、何も、変わらないね」
「は、?それどういうーー」
修也は様々な感情により歯嚙みしながら、代わりにそんな言葉が口から漏れ出る。それに、理穂は「なんでもない」と小さく微笑むと、そのまま駆け足で家へと戻って行った。
「あっ、、チッ、なんだよっ、」
そんなそそくさと帰る後ろ姿を見据え、修也は愚痴を垂れたのだった。
だが、その次の日の事だった。
学校への登校時に、学校前で修也と理穂は顔を合わせた。その時に浮かべた理穂の表情は、昨日とは一転。
辛く、苦い表情が、そのまま浮かび上がっていた。
「...どうしたんだ。昨日はあんなにはしゃいでただろ?」
「...別に、はしゃいでは無かったけど」
「はしゃいでいようがいまいが、どうしたんだ?なんか様子変だぞ」
顔を覗き込む様にして、修也は問う。そこに、何の感情も無かった。ただ、純粋な心配という感情のみが、そこには見てとれた。故に、理穂は抉れそうになっている心臓を押さえるように胸に拳を当て、深呼吸し、返した。
「...やっぱり、、決まり、だって、」
「...は、?それってどういう、」
「結婚の話、、決まっちゃったの!」
「え、?いや、別にそれでいいんじゃ、」
理穂が掠れた声でそこまでを告げると、そのまま。
静かに涙を流した。
「あっ、いやっ、お前っ、何泣いてんだーー」
「なんでよっ!なんで分かってくれないの、?」
「分かってって、、言わなきゃ分からねーよ、」
声を荒げたのち、理穂はだんだんと掠れた声になっていった。修也は、その迫力に押され、声を小さくしながら拳を握りしめて呟き返した。
すると、理穂は自身の中で何か結論付けたのか、改めてそう口にした。
「仕方ないでしょ、、ずっと、ずっとこうなんだから」
「えっ、、だから一体何言って、」
「私、何するにも許可が必要で、、勝手な事出来ないの」
「...は、?それどういう、」
「なんで知らないの!?私の家、変に有名で、私お嬢様って呼ばれてたんだよ?皮肉たっぷり込められてさ!だからっ、、親から、制限されてるの、何をするにも、」
「なっ、それじゃあお前、、そんなの親の言いなりじゃねーかよ」
修也の言葉に、理穂は大粒の涙を溢しながら、腕でそれを拭って掠れた声で続ける。
「ねっ、、おかしいよっ、、おかしいよね!?...私だって、、もう少し普通の生活したかった、、自分でやりたい事やって、、友達と遊んで、、彼氏とか作って、、学校とそれに通える今を、楽しみたかった、ただ、それだけだったのにっ!それすらも駄目なの!?私にはっ、、何も、させてくれないの!?おかしいよ!ほんとっ、、私の好きな人とも一緒に居れない、、クラスの人と仲良くする事も出来ない、こんなのっ、間違ってるよ、」
「...っ」
理穂が吐き出した、ずっと隠してきた胸の内。それを耳にした途端、修也は目を見開き動揺を見せた。ずっと、こんな環境だったのだろうか。確かに、修也もまた親から言いつけの様なものを受けてはいたものの、これは度が過ぎている。
言われてみればと。修也は思い返し理解した。
以前から、理穂が自分以外の人と交流を持っている様子は無かったのだ。それはただ、静かである性格上、友人を作りづらいのかと勝手に思い込んでいたものの、家柄という理由があったのかと。修也はその事実に目を逸らしながら、そのまま思った事を呟く。
「そ、、そんなの、破っちまえばいいじゃんか」
「...」
「...」
「...簡単に言わないでよ」
「っ」
理穂は、修也の言葉に低くそう唸ると、そのまま学校へと足を進めた。だが、これを逃してしまってはもうこんな話は出来ない。そう強く思った修也は、覚悟を決めたのち、彼女を追いかけた。
「ちょっ、ちょっとっ!待てって!」
「...離してよ、、なんも、聞いてくれなかったのに、今更何、?」
「は!?だからっ、言ってくれなきゃ分からねぇって言ってーー」
「じゃあなんで聞いてくれなかったの?あの時!ヘラヘラ話してばっかで、私が結婚なんて、もっと聞く事あったでしょ!?」
修也が行手を遮る様に前に出ると、理穂は胸中の思いを叫んだ。それを耳にし、修也は「き、聞く事、?」と首を傾げた。
「そう。もっと、なんで結婚の話がもう進んでるの?とか、それは親が進めてるの?とか、相手のこととか!」
「あ、相手の事は、、言ってただろ?いい人だって」
「いい人なだけで好きなんて言ってないよ!」
「っ!」
その一言で、ようやっと気づいた様だ。修也はそれに度肝を抜かれ、目を丸くしていた。そうか、そういう事かと。修也は再認識する。理穂は、相手との結婚に反対だった。それを思うと、今までのそれが全て理解できた。
と、それに気づき思考を巡らす修也を置いて、理穂は早足で学校へと向かっていく。
「あっ」
そのどんどんと遠ざかる背中に手を伸ばしたものの、修也は何も言う事は出来なかった。今まで、その予兆の様なものが、言動や行動の節々から感じ取れたのだろう。だが、それを知らないフリをして、そっとしておくという一見すると良いイメージであるその言葉に置き換えて、修也は気付けなかったのだ。彼女の、苦しみを。
そんな人間が、今更何を言えばいいのだろうと。
それを思うと、心配の言葉が口から飛び出す事は無かった。だが、お互いにそれぞれ学校に行く道中、修也は真っ直ぐ前を見て、その瞳の奥には燃え盛る炎が見て取れたのだった。
☆
その日は、何事も無く夜を迎えた。登校後は、なんとか感情を落ち着かせることに成功し、普通通りの日課を送った。
その間、修也とすれ違う事も多々あったが、その時どんな表情をしていたのかは、自分では分からなかった。下校時もまた、普段は修也と共に帰る事が多かったのだが、今日はそんな気分でも無く。いや、それ以前に合わせる顔が無く、理穂はそそくさと家へと戻った。
「はぁ、」
中学生という小さな体にしては広すぎる部屋で、理穂は大きく息を吐いた。もう少しで中学生も終え、高校生になる。今までは、なんとか耐え切れたものの、これからも長い人生でずっとこの調子なのかと考えると、気が重くなった。
これからもこうして縛られ、娯楽に触れる事も許されず、同性の友人もおらず、親に決められた人物と将来を歩む。
やはりこれは異常だと。本人もまた気づいていた。
『そんなの破っちまえばいいじゃん』
「...どうすればいいって言うのよ、、ほんと、こっちの気も知らず、簡単に言わないでよ、」
修也の放ったそれを思い返しながら、膝を曲げて座り、頭を抱える。
修也は純粋で、相手のことを思って話す人だった。だからこそ分かっていたのだが、他人事の様に返しているだけだと。そう思わずにはいられなかった。
が、それを思ったと同時。その瞬間ーー
ーーコンコンと、窓に何かがぶつかる音が聞こえ、理穂はハッとし振り返る。
彼女の背後にあった、この広い部屋に侵入を防ぐためか一つしか備え付けられていない、そんな窓から。鈍い音が響く。その音を頼りに、理穂は窓から何かと覗く。と、そこには。
「おーいっ!あ・け・ろ!」
窓越しに。窓の下にしがみつきながら口を大きく開け、口の動きでそれを伝える修也の姿があった。
「えっ!?ちょっ、何!?」
それに慌てて、理穂は窓を開ける。と。
「ふぅ、、やっと気づいた、、俺、結構窓にノックしてたんだぞ?」
「えっ、、そうだったんだ、ごめん。気づかなかった」
開口一番に放たれた僅かに怒りを乗せた言葉に、理穂はバツが悪そうに謝る。と、修也は「別にいいけどよ」と呟くと、部屋へと。手に靴を持った状態で上がり込み、座り出す。
すると、今度は理穂が首を傾げて口を開いた。
「それで、、どうやってここに、?ここ二階なんだけど、、ってか、どういう状況?なんでここに居るの?」
「ああっ、もう、一度に何個も聞くな!」
「あ、ごめん、」
理穂が思った疑問をそのまま修也に聞くと、彼は頭を掻きながらそう声を上げる。と、それに理穂が謝ったのち、修也は一度深呼吸すると、目つきを変えて返す。
「まず、理穂の家は有名らしいし、小学校一緒のやつに聞いた。でも家の場所まで知ってるやつはいなかったから、ついて来た」
「つっ、ついて来た!?」
さらっととんでもない事を話す修也に、理穂は声を上げる。と、それに修也は「オーバーだな」と言うように目を細めた。
「え、?だって普段一緒に帰ってるから分かると思うけど、途中から私迎え来てるんだよ?その後どれ程警備が厳重か分かってる?」
「分からなかったから危なかった。お前車で送り迎えされてんだな。あれは腹たったけどよ、なんとか走って追いかけた」
「は!?走って!?」
「ギリギリだったけどな。赤信号が続いて助かった」
と、もっと詳しく聞きたい様なそれを、簡単に告げたのちそう続けた。
「その後、窓には近くの木から乗り移った。窓の縁にしがみついてたから危なかった。後、窓から来た理由と、ここに居る理由は」
修也はそこまで息を吐きながら告げると、その後少し間を開けて、真剣な表情で答えた。
「お前を、ここから連れ出しに来た」




