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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
188/300

188.追憶

「それって、、どういう意味だよ」


 王城二棟の廊下。攻撃を止めた奈帆(なほ)から、その無音の中放たれた信じきれないそんな言葉に、大翔(ひろと)は眉を顰めそう聞き返した。


「どう?何も知らなかったでしょ」


「だからどういう事だって聞いてんだろ!?」


 大翔はその勿体ぶる様な言い草に腹を立てながら、前へと踏み出す。


「どうもこうも言った通り。君、本当に見て取れなかった?...それとも、言うほど琴葉(ことは)の事見てなかったんじゃないの?」


「クッ」


 奈帆の物言いに、遂に我慢の限界がきた大翔は、声が漏れる程強く歯嚙みしたのち、顔を上げ彼女に飛び上がる。


「お前こそ何が分かんだよ部外者が!俺の気持ちっ、なんも分かってねぇで!」


 大翔は怒りに任せて奈帆に殴りを入れる。だが、彼女もまた翼でその殴りを防いだ、直後。


「部外者とか、、お前のせいだろ!」


「っ」


 奈帆もまた怒りに任せて翼を強く広げ大翔を吹き飛ばす。


「何も気づかなかったお前のせいだよ!」


「俺のせい?ハッ!笑わせんな。全部お前らのせいだ。お前らが俺を馬鹿にして、、そして琴葉はまた新しい奴とーー」


「え、?」


「なんだよ」


 大翔が吐き捨てる様にそう放つと、奈帆は今までとは一転、絶望の色を見せ戦意を喪失する。


「...まさか、、新しい人と、付き合ってるの、?」


「...ああ。そうか、、お前、高校は違うもんな」


 大翔が思い出したくもないと言う様に目を逸らしながら自傷的な笑みで微笑むと、奈帆は震えた足でゆっくりと後退る。


「なんで、、嘘、まだ、、まだなの、?なんでっ、、なんでよ!なんでっ、、言って、、なんなの!もう!最悪!」


 そののち、突如声を荒げて頭を押さえる奈帆に、大翔は睨み付ける様な双眸で近づく。


「おい。勝手に頭ん中で整理して、勝手に絶望すんなよ」


「は、、はは、いいよね、君は、琴葉と同じ高校で!」


「クッ、何がっ」


 奈帆が頭を押さえながら口にした皮肉のこもったそれに、大翔もまた声を漏らすと、彼女の胸ぐらを掴む。


「何がいいんだよ!?何も良くねぇよ。あいつの、、あんな顔もう見たくねぇんだよ!新しい犠牲者と、、俺以外に見せるあの表情が、本当にウゼェんだよ!」


「...」


 奈帆は、それを真顔で聞き入れたのち、無言で大翔の手を払う。


「気安く触んないで。女子の胸元触るとか最低」


「おまっ、、今はそんな」


「ね?分かった?」


「は、?」


 大翔が怒りに震えながら放つと、奈帆はそれを遮って聞き返す。


「辛いでしょ?近いのに、遠くて。もう見向きもされなくて、自分以外に、自分以上の幸せを見せて、そして」


 奈帆はそこまで告げると、一呼吸開けたのち、大翔に近づき付け足す。


「何も、言ってくれない、そんな環境」


「...だから何が言いたい?」


「君に教えるのは癪だなぁ。何も知らないのに、無条件で教えてもらおうとする傲慢さが、腹立つよ?」


「俺が話した今の内容、お前は知らなかったんだろ?なら、俺も話を提供してやった事にならねーか?」


「ならないよ」


「何っ」


 即答で返されたそれに、大翔は声を上げる。すると、彼女は尚も続ける。


「だって、君は何も知らずにそれを話した。その事の重大さが分からない君のその話は、情報でも無ければ意見でもない。...ただの、事実確認だよ。だから、それは情報交換の対象にはならないなぁ」


「チッ、さっきからああ言えばこう言う、」


 体を大きく震わせながら、大翔は絞り出す様にそう放つと、その矢先。


「ならっ、力尽くでも話させてもらうぞ!」


 大翔は、大きく飛びかかった。


「おお!さっすが脳筋。そう来なくっちゃ!」


 奈帆が意外にも元気にそう返すと、翼を広げ軽く後ろに退()がり、またもや羽根を飛ばし対抗する。


「どう?この廊下は私の翼にピッタリの大きさなの!前もやったと思うけど、君が私のところに来れるとは思えないなぁ」


 ニヤリと微笑む奈帆に、大翔はそれを腕で防ぎながら、同じくニヤリと微笑む。


「ああ。この戦い方は二回目だよな。神崎(かんざき)とお前二人の時も、王城の廊下でタメ張った」


「いや、別にそっち三人だったし、タメ張ってはないし」


 大翔の自信げな言葉に、奈帆は呆れた様に返すと、直後。大翔は体の向きを廊下の壁へと移し口を開いた。


「んな事はどうでもいい!とりあえず、この構図は二回目って事だ!」


「っ」


 すると、大翔は突如現在も未だ補強工事中である廊下の壁を、脆くなっているのをいい事に、蹴りで破壊し、一瞬でーー


 ーー奈帆の背後の壁を破壊して、現れた。


「外に出る選択を取りゃいいのも同じだぜ」


「っ!このっ、脳筋がっ!」


「ハッ、それしか言えねぇのか!脳筋はどっちか、見ものだな!」


 大翔は、それに一瞬で対応した奈帆が背後に羽根を飛ばす中、それを避けながら足を早める。


「クッ」


「どうした!?俺を馬鹿にしてたんだろ!?琴葉と一緒に!それを、少しでも悪く無かったように理由付けたくて、んな適当な事言ってんだろ!?ほんと最低はどっちだ!?」


「っ」


 歯を食いしばる奈帆に、立て続けに大翔は言葉を放つと、それに彼女は目を剥き翼を手を叩くように畳んで、風圧で彼の足を止める。


「クッ、うおっ」


「琴葉は何も悪くない」


「は?」


「琴葉をっ」


 奈帆はプルプルと震えながらそう呟いたのちーー


「何っ!?」


「悪く言うなぁぁっ!」


 ーー頭上に集まっていた、壁を破壊してできた瓦礫を落とした。


 そんな、大量の瓦礫に翼が生えて真上に集まっていた事に、今の今まで気づいていなかった大翔は声を漏らしたのち、抵抗すら出来ずに下敷きになる。

 と、思われたがしかし。


「はぁ、はぁ、、間に合った、」


「っ!沙耶(さや)!?」


 奈帆の背後に沙耶が現れ、大翔の周りから岩を生やしてはドーム型に変形させて彼を守った。


「...なんで邪魔するかな、、私達の、話だったのに」


「ただ話をしてた様には見えなかったけどな」


 奈帆が一同を睨んで唸ると、碧斗(あいと)もまた声を低くし睨み返す。それに続いて、樹音(みきと)美里(みさと)、そして理穂(りほ)が角を曲がり顔を出すと、この現状に目を見開いた。


「おいおい、なんか若干一名混じってねーか?」


 その面子に、大翔は目を細め呟くと、奈帆もまた全員を見据えたからか、大きく息を吐き上を見上げる。


「はぁ〜あっ!萎えちゃったなぁ、、もういいや。こんな大勢相手に一人は分が悪いしね」


 奈帆はそこまで大きな独り言のようなものを呟くと、翼を広げ破壊された壁から飛び出した。


「なっ!?お前っ、待てよ!話は終わってねぇぞ!?」


「終わったよ。...正直、今ここでそんな話しても何も変わらない。せっかくいい話を聞けても、結局ここで転生者に殺されたら記憶は消える。ここでの話ならいいけど、現実世界の話は、、ここでするもんじゃないよっ」


「っ」


 奈帆の言葉に、大翔は僅かに頷けてしまったものの、それでもと。真剣な表情で足を進め、その壁から大きく跳躍する。

 がしかし。


「ざーんねんっ!今度は違うお話しようね!その時は、他のみんなも相手してあげるから!バイバ〜イッ!」


 大翔の伸ばした手は、既のところで躱され、奈帆は笑顔でこちらに手を振りながら、そのまま空へと消えていった。


「...クソッ、」


 そんな彼女の姿を見据えながら、大翔は力無く、小さく感情を漏らす事しか出来なかった。


「はぁ、はっ、はぁ、、ひ、大翔君、、大丈夫だった?」


「ああ。俺は問題ねぇが、、話を聞きそびれたな、」


 そんな大翔に、奥から碧斗が息を切らして声をかけると、空を見たまま、小さく零した。すると、続いて樹音が奥から現れては、表情を曇らせ切り出す。


「ごめん、、僕達が邪魔しちゃったから、」


「...いやっ、、大丈夫だ。あの様子だと、どっちみち教える気は無さそうだったしな」


 ため息混じりに、大翔は分かっていたと言うように肩を落とす。そんな一同に、後からやって来た美里は駆け寄ると、怪訝な表情で口を開いた。


(たちばな)君、、あんた、あいつと知り合いなの?」


「そうだ、、俺も気になってた。前から、知ってる感じだったよな?」


「え、?知ってたの?」


 美里に続いて碧斗が口にすると、皆は彼に振り向く。


「ああ、いや、前に俺が清宮(せいみや)さんの話をした時、逆に大翔君から知ってるのか的な事を言われたから、」


 美里から放たれる、どうしてその時詳しく聞いておかなかったのかという視線に、碧斗はしどろもどろになりながらそう返す。

 と、そのまま視線を大翔に向けると、その張本人は一度息を吐いて、顔を上げる。


「実は、、その、琴葉との話、しただろ?」


「う、うん」


 大翔が少し間を開けて放ったその人物の名に、樹音は冷や汗混じりに頷き、その後ろの沙耶は良い記憶でないそれを口にする姿に唇を噛んだ。


「その時に、一緒になって笑ってた奴の一人。それが、清宮奈帆だ」


「「「「!」」」」


 大翔の呼吸を正して放った事実に、皆は目を見開く。それと同時に、美里は目つきを変えて奈帆が逃げ出した方向へと強く足を進める。


「あ、相原(あいはら)さん、?」


 恐る恐る碧斗が名を呟くと、美里は真剣な面持ちで顔だけで振り返り口を開いた。


「寄ってたかって、辛い思いをしてる人を笑うなんて、、ほんと最低。一番許せない、、それが、あいつだって言うなら、私が直接話をつけてくる」


「ちょっ、ちょっと待て相原!」


 グラムの話の時からそうだが、美里は誰よりも強く彼を嘲笑っていた連中に嫌悪を見せていた。その人物が我々をずっと狙って来たパニッシュメントの一人であり、その中でも特に美里との接点の多い奈帆だったのならば、尚更許せないだろう。

 故に、やる事は一つだと。美里は今にも戦闘を始めそうな勢いで足を進めていたがしかし。大翔が追いかけ、慌てて止める。


「...何、?あんた、言われっぱなしでいいわけ?」


「よくねぇよ。でもな、これは俺らの話だ。悪いが、奴と直接やり合うのは、俺にさせてくれ」


「...」


 強い視線と共に放ったそれに、美里は一度ため息を吐くと、目を逸らして僅かに頷いた。


「分かった、、確かに、あんたがやられた本人だもんね。...ちょっと、、第三者なのに過剰になり過ぎた、」


 美里は珍しく申し訳なさげに返す。

 大翔もまた、思うところがあるのだろう。彼女に言わせたい事もあるだろう。謝罪は勿論、その時の事。そして、その真実を。


「謝る事じゃねーだろ、、それに」


「それに?」


 大翔が勿体ぶるようにして、視線を泳がせたのち、告げる。


「俺のことに怒ってくれて、、普通に嬉しかったぜ、」


「はぁ?何それ、キモ。あんたが言うとなんか似合わないわね」


「なっ!?お前っ、せっかく俺が勇気出してっ!いや、勇気出してっつーか、、なんつうか、、それにっ、そこはもうちょっと相原も恥ずかしがるところだぞ!?」


 美里の素っ気ない返事に、大翔は顔を赤くし、誤魔化す様に声を上げる。それに、呆れたように息を吐く美里だったが、どこかいつもより優しく微笑んで見えた。


「なるほど、やっぱりそこに繋がりがあったのか、、だから、、そうか、繋がりがそこで、」


「何か分かったの?」


 そんな皆を見据えながら、その中の理穂はぶつぶつと何やら小声で呟く。それを耳にした碧斗は、怪訝な顔で問う。まるで、一人で勝手に理解して納得するなと。そう言う様に。


「...そうね、、確信はないけど、なんとなく」


「なんとなく、か、」


「それで?清宮奈帆はもう追いかけられなさそうだし、改めて話を聞かせてくれる?」


 理穂のぼんやりとした返しに、碧斗が目を細め聞き返すと、美里が改めてそう切り出す。

 それに、理穂は「貴方達の情報次第かな」とぼやくと、ひとまず地下室へと向かったのだった。


            ☆


 あれから少しの時が経ち、皆は地下室の地べたに座り込んだ。そこで、大翔が居なかった際の話を一通り彼に伝えたのち、本題に入った。


「それで、、あんたが教えてくれる情報は何?」


「前も言ったでしょ。私と桐ヶ谷(きりがや)修也(しゅうや)の関係。そして今までの生い立ち。まあ、そっちの提示する情報によっては、転生してからの修也の情報も与えるけど」


「随分と上からね。相変わらず腹立つ」


「もしかして自分に言ってる?貴方達も情報が欲しい身なのに随分と威張ってるのね」


 相変わらず美里と理穂が喧嘩腰で会話をする最中、修也を名で呼んでいる事に耳を塞いでいた沙耶の隣で、二人を宥めながら樹音が口にした。


「まあまあ、とりあえず、話す事は決まってるよね?情報次第って言ってるけど、(あかつき)さんが聞きたいのは、この間の海山(みやま)君が起こした王城テロの詳しい出来事。そして、その代わりに話してくれるのは、二人の生い立ち。それなら、それを言い合えばいいんじゃないかな?まずは、僕らから」


「こっちから話して逃げられたらどうするわけ?」


「だからそれは無いって」


「はぁ、なんか疑ってばっかでめんどくせぇからよ。さっさと言おうぜ。ケツ痛ぇし」


 大翔の切り出しに、美里は納得いかない様子で目を細めたものの、碧斗もまたいつまで経っても埒があかないと感じたのか、それを促しその時の情景や実情。智樹(ともき)の攻撃方から我々が感じた痛みや苦しみまで。

 その全てを曝け出し告げた。


「...なるほど、、そこに、修也も居たって事よね、」


 一通りを聞き終わった理穂は、それを噛み締める様に頷きながら聞き入れ、そう呟いた。すると、それからは何を言うでも無く考え込む理穂に、苛立ちを見せながら大翔が切り出した。


「おい。こっちはちゃんと全部話したぞ。今度はそっちの番だ」


 そう大翔が言うと同時に、美里は「だから言わんこっちゃ無い」と言う様に、浅い息を吐く。

 が、対する理穂はそうだったと。意識を変えて、彼女もまたそう語り出した。


「...はぁ、そうそう。桐ヶ谷修也は、、私を、連れ出してくれた、、大切な人。...私みたいな、"闇"に埋もれた、、そんな人間を」


「「「「!?」」」」


「え、」


 そんな、思い返す様に呟いた一言目に、沙耶は力無くそんな声を漏らした。

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