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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第6章 : こびり付いた悪夢(コシュマール)
187/301

187.誤想

「なんだよ、、これ」


 荒らされた地下室を前に、碧斗(あいと)達は皆目を疑い声を漏らした。以前あった筈のベッドは破壊され、椅子やテーブルも解体されていた。マーストが皆が過ごせるよう環境を整えておくと話していたのだが、それどころか用意すると話してくれていた食事さえも無惨な有様となっていた。

 それ故に、碧斗は察する。

 何者かが、碧斗達がこの場に来る事を知っており、その前に対策を打ったのだろうと。


「...一体、誰が」


 碧斗が小声で呟き眉間に皺を寄せる中、背後の皆もまたそれぞれ怪訝に口にした。


「これ、ど、どういう事、?」


「元々はこんな場所じゃ、無かったの、?」


「誰かが、先に来た、って事になるわね、」


 樹音(みきと)が周りを見渡し呟くと、続けて以前の地下室での記憶が曖昧な沙耶(さや)は首を傾げた。それに、美里(みさと)はただ頷き碧斗と同じく考察をする。

 が、そんな皆を引き戻す様に、その場。いや、王城全体に音が響き揺れる。


「「「「っ!?」」」」


 皆がハッとし揺れた根源であろう上の階を見据える。


「う、上からだ、」


「何か、、あったのかな、?」


「...っ!待って、大翔(ひろと)君が居ない」


「っ」


 碧斗がぼやき、沙耶が震えて頭上を見る中、樹音は皆を見回し一人足りない事に気づく。と、碧斗は目を剥き改めて周りを見渡した。

 どうやら、地下室へ気を取られていた様だ。皆への意識が行き渡っていなかった事に歯嚙みしながら、碧斗は口を開いた。


「マズいな、、恐らく上で戦ってるのかもしれない。とりあえずこの地下室の件は後だ。せっかく用意してくれて悪いけど、このまま攻めるぞ」


 碧斗の提案に、仕方がないと頷く美里を含め、全員の意見が一致し地上に足を着く。

 と、そこには。


「あれ、?何?あんた達、揃って」


「「「「!」」」」


 地下室の入り口から数メートル先。

 (あかつき)理穂(りほ)の姿があった。


「っ!貴方、」


 その姿を視界に収めたや否や、沙耶は瞬間的に目つきを変える。その、美里よりも早い表情の変化に、碧斗と樹音が驚く中、沙耶は険しい表情のまま一歩彼女に近づく。


「な、なんで、ここに居るの?」


「え?何でって、逆にそれはこっちの台詞だけど。私は元から王城に滞在してるし、音が聞こえたから見に来ただけ。それよりも、もしかして貴方達地下に入り浸ろうって言うんじゃ、」


「あっ!いや、えっと、そうじゃ無くて、」


 理穂が疑いの目で見据えると、碧斗は慌てて手を振り否定を口にする。理穂は修也(しゅうや)と繋がっているのだ。我々の居場所を安易に教えるわけにはいかないと。相手が何も話してくれてはいないがために、碧斗はそのまま口を噤んだ。

 すると、そんな碧斗の隣で。

 沙耶がふと、口を開く。


「もしかして、やっぱり貴方だったんですか、?桐ヶ谷(きりがや)君に、私達の家の場所を教えたの」


「「「えっ」」」


 沙耶の突如放たれたそれに、一同は目を剥き驚きを露わにした。


「ど、どういう事?」


「この間、桐ヶ谷君が家に侵入したって言ったでしょ?」


「あ、うん、、そ、それが、?」


 彼女に碧斗が問うと、沙耶は真剣な表情で答える。それに、何かを察してハッとする美里とは対照的に、碧斗は頷き聞き返す。


「多分、暁さんが私達の場所を教えたんじゃないかなって、、思って」


「っ」


 沙耶の考察に、そうかと。碧斗は目の色を変える。


「グラムさんの家の場所を知ってる人はまだ居ない筈だよね、?もしパニッシュメントのメンバーが知っていたなら、もう既に攻め入って来てもおかしくないし、他の転生者でも一緒。最初は大井川(おおいがわ)さんを少し疑ったけど、あの人は私の居場所を正確には突き止められてないし、桐ヶ谷君と繋がりがあるとは思えなかったから、、暁さんが怪しいかなって、、思って、」


 沙耶が口にする考えに、一同は目を剥く。修也の事となると頭が働くのだな、と。碧斗はその中で冷や汗混じりではあるが、その心強さに微笑んだ。そんな失礼な言葉を呟きながら。

 と、それを耳にした理穂は、一度大きなため息を吐くと、頷く。


「そう」


「「「「!」」」」


「そこまで言われたらもう黒でしょ。言い訳を言うつもりはない。...ただ、だからってそれ以上の事は私も知らないから」


「そ、それは、どういう?」


 さらっと自白する理穂に、碧斗は怪訝な表情で聞き返す。


「確かに私は修也に貴方達の居場所を教えた。彼の情報と引き換えにね」


「「「「っ!?」」」」


 少し間を開け付け足されたそれに、一同は動揺を見せたのち、またもや碧斗が身を乗り出した。


「じ、情報って、?」


「前も言ったでしょ。私は貴方達から話を聞きたいの。それを話してくれない限り、情報提供は出来ない」


「こういうやりとりを、あの殺人者ともしてるってわけね、」


 碧斗に対する答えに、美里は疑いの目を向けながら零す。恐らく、前回の我々との接触同様、修也にも情報が欲しいという理由で話しかけ、その代わりに我々の居場所を話したのだろう。美里の呟きもあり、碧斗はそう結論づけた。


「だから、私はただ教えただけ。それを知ってどうするのかも知らなかったし、私が何か誘導する様な事を言ったわけでもない」


「あくまでも目的は情報って事だね、」


「それって本当なの?申し訳ないけど、安易に信じるわけにはいかない」


 呟く樹音に続いて、美里が眉間に皺を寄せ放つ。と、それに理穂は鼻で笑い。


「信じないなら別にいいよ。そんな様子じゃ、私から話を聞き出したとしても信用しなさそうね」


 そう嫌味を込め告げた。

 そんな彼女の態度に鋭い目つきで対抗する美里だったが、対する碧斗はそれを信じる事として話を続ける。


「実は、昨晩修也君に俺らは襲われたんだ」


「!」


「「「「っ」」」」


 碧斗は彼女のそれを見るべく、あえて事実をそのまま。包み隠さず告げた。

 その瞬間に見せた、彼女の本当の動揺。目を見開き、僅かに開いた口から小さく息が漏れ出たのを感じた。そう、この反応。即ち、その事実を知らなかったということになる。


「やっぱり、何も知らされてないんじゃ無いか、?」


「でも、それも演技の可能性あるでしょ」


「そんな、天才役者じゃあるまいし、」


「女は皆、時には女優になるもんなの」


 それを前に、碧斗は美里に耳打ちするものの、一向に意見を変えない彼女に続いて沙耶もまた首を縦に振った。


「み、水篠さんまで、」


「...そう、、やっぱり、何か、」


 碧斗が弱々しく名を呟く最中、理穂は小声でそれをぼやく。その言葉を聞き逃さなかった碧斗は、その言葉の意味を考え、どう声をかけようかと一呼吸開けたのち、続けて放った。


「やっぱり、?って事は、何かこの事態を予想出来るものがあったって事だよね?」


 それは一体何かと。修也と二人で話した内容だというのはおおよそ分かっていたがために、碧斗は責めた。

 それに、理穂はまたもや息を吐くと、目を僅かに逸らして返した。


「だから教えるわけないでしょ。それに、私が聞きたかった事は聞けなかったから、大した情報は無いけど」


「聞けなかった、?なら、俺らの居場所と何の情報を交換したんだ?」


「はぁ、、どうにかして聞き出そうとしてるみたいだけど、それ意味ないから。こうして、貴方達が話したらこっちも話すって。せっかく交渉を持ちかけてるのに、どうしてそう一人勝ちしようとするかな」


 理穂の呆れ混じりのそれに、確かにそうだと。碧斗と美里は頷く。ならば、ここは素直に従い、以前の智樹(ともき)との出来事について詳しく話した方がいいかと。碧斗は考えを改めるがしかし。美里はそんな碧斗の様子にそれを察し、腕を掴んで止めた。


「...話しても、あの人が本当の事を言うか分からない」


「でも、なるべく情報は手に入れたい。それが、たとえ嘘か誠か分からないものであったとしてもね。...それに、智樹君との戦闘時の話なんて、聞かれて困る話でもないんじゃないかな」


 碧斗の言葉に、美里は少し悩んだのち、渋々頷く。それに、同じく頷く一同の中、沙耶は安堵と共に修也との話を僅かに拒む気持ちの両方を覚える。

 が、その瞬間。


「「「「「!」」」」」


 またもや、廊下の奥で音が響き、振動が伝う。それによって、碧斗は目を剥く。


「そうだ、それよりも前に大翔君の方だ」


 轟音が途絶えていたがために、忘れていたと。碧斗は踵を返し放つ。と、それに続いて足を進めようとする一同の中で、美里は振り返り理穂に呟く。


「勝手に逃げたりしないで。これが終わったら、ちゃんと話聞かせてもらうから」


「はぁ、逃げるって、、ここから動く理由が、私には無いでしょ」


「ああ、あんたの役目は観測だったわね。なら、一緒について来たら?その方が話が早いんじゃない?」


「言われなくてもそうさせてもらうわ。仕切りたがる人ってほんとめんどくさいわね」


 淡々と返す理穂に、美里は眉間に皺を寄せ怒りを見せる。と。


「二人ともっ、とりあえず、早く行かないと!」


 そんな雰囲気を破る様に、樹音は皆に、今の我々のやるべき事を、強く促した。


            ☆


 奈帆(なほ)との出会いは、クラス替えであった。

 中学の頃、初めはただのクラスメイトとしか考えていなかったものの、その人が琴葉(ことは)の友人である事を知ってからは、軽い会話をする様になっていった。

 あの日が、訪れるまでは。


「なんだよっ、突然!」


「あんたがっ!適当な事言うからでしょ!」


 突然攻撃の威力を強めた奈帆に、大翔はそれを避けながら、冷や汗混じりに返す。


「なんだよ適当って。全部本当の事だろ!?琴葉の本当の気持ち知ってて、その上で俺を笑ってたんだろ!?そうやって群れて、馬鹿な奴一人を狙って。ほんっと、二人揃って最低の奴らだな!」


「だからっ!それが適当だっつってんだろ!」


 奈帆は声を荒げ、羽根の量と威力を増す。


「クッ、んだっ、これ!?」


 それに大翔は避け、空中で見極め殴りで打ち落としながら、接近戦をするため一歩ずつ近づく。


「あんたはっ」


 そんな彼に対し、奈帆自身は翼で飛躍し距離をとって、羽根を尚も放ち続けながら声を上げた。


「あんたはっ!琴葉の事をっ、ちゃんと見てなかったんだよ!」


「...は、?」


 奈帆が感情に任せ放ったそれに、大翔は怪訝に返す。


「どういう事だよ。ちゃんと見てくれてなかったのは向こうの方だ!俺はっ、、俺は本気だったんだぞ!」


 大翔は、奈帆の言葉に釣られて、ずっと抑えていた感情を出す様に声を上げる。がしかし、それを放ったのち、何かに気づきハッと目を見開く。


「まさか、お前、、わざとそういう風に言って、また俺のそういうところを見て笑うつもりか、?」


「違う!」


「っ」


 そんな手には乗らないと。大翔は冷や汗混じりに微笑みながら放つ。が、対する奈帆は尚も真面目にそう返した。


「...何も、分かってない、、琴葉の本当の気持ち、、それと、私の、気持ちも」


「...どういう事だ?お前らの気持ちなんて、分かりたくもねぇよ」


 唇を噛んで目を逸らす奈帆に、大翔はぶっきらぼうに返す。その様子に、更に怒りを覚えながらも、「だが」と。自身を見直して奈帆もまた視線を落とした。


「でも、、私も、結局琴葉の気持ち、分からなかった」


「だから、、なんの話だって聞いてんだろ?」


 大翔が羽根を打ち落とし終えたのち、痺れを切らして声のトーンを下げて問う。すると、奈帆は一度深呼吸をしたのち、羽根を放つのを止め、目つきを変えた。


「琴葉は、、ずっと助けを求めてたの」


「...は、?」


 その奈帆の放った予想外の一言に、大翔のあんぐりとした口から、そんな息の様な声が、僅かに漏れ出た。

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