183.告白
白である事を証明する。そんな発言をした直後、対する三久はジト目を向ける。
「ち、、ちょっと、勝手にっ、、進め、かはっ!」
「はぁ、は、ごめん。...でも、能力を、解除、してくれないから、、だよ」
勝手に話し始める皆に、三久は掠れた声で放つ。それに、碧斗もまた掠れた声でそう返すと、突如。
「あ、」
彼女の能力が、解かれた。
既に息が限界なのかと、碧斗は察し能力を解除した、ものの。
「はぁ、かはっ、、はぁ、はぁ」
彼女は碧斗の煙のみならず、能力の多用によっても、限界がきていたのだ。そのまま崩れ落ちる彼女は、もう音波を放てるような状況では無かった。
「はぁ、はっ、クッ、、この、ままじゃ、、国王に、なんて、言えば」
淡々としているが、ネガティブに捉えてしまう人物なのだろう。今までの、小さく呟かれていた彼女の小言は、どれもこれも不安を口に出している様であった。
故に、近づいた碧斗は、彼女の目の前で口を開いた。
「...大井川さん。貴方は失敗はしていない。俺らが、予想以上の戦力だった。それだけだ。だから、貴方が責任を感じる必要はないよ。寧ろ、五人相手に一人で立ち向かわせた方が問題だから」
「...違う、」
「え、?」
碧斗の言葉を遮るようにして、彼女は話し出した。
「元々、他の人にも、頼んでいたらしいの。それで、、結局私だけになったって」
「「「「「っ」」」」」
恐らく、他の転生者は面倒だと感じそれを拒否したのだろう。代わりが居なかった点を考えるとバックれたのかもしれない。我々としては助かったものの、どこか胸の奥がざわめいた。
転生者は、どうしてこうも協調性が無くなってしまったのだろうかと。
「...どっちにしても、五人相手は無理だよ。諦めた方がいい」
少し言葉に迷ったものの、とりあえずこの場から逃げ出さねばと。碧斗はそう告げたのち皆の方へと向き直った。
それに、皆が安堵の表情を浮かべている事を確認したのち、そのまま戻ろうと。一同に視線で促す。と。
「はぁ、、はぁ、待っ」
「...諦めが悪いね。でも、もう君は能力を使える体力が残されていない。もし使えても、俺の能力が上回ってしまう。だからこそ、帰る体力は残しておいた方がーーって、えっ」
どうやら、相当恥ずかしい事をしてしまったようだ。
我々を引き止めたのは、三久では無く、隣で人質にされていたその女性であった。それによって相手の女性の方は「あ、あの、えと」とよく分からない様子で呟く。
「あ、その、す、すみません」
思わず謝罪が口に出た碧斗に、美里は少し引き気味にジト目を、樹音は「あ」といった様子で手を出して、沙耶は心配そうに覗き、大翔は顔を背け笑っていた。
そんな皆を見て、少し微笑んだのち、改めるようにしてその女性は放った。
「あの、、助けて下さってありがとうございます。...勇者様、、ですよね、?」
そう切り出す彼女に頷くと、「私にはこんな事しか出来ませんが」と最初に付けて、ついて来るよう促したのだった。
☆
その後、一行はその女性に言われた通りついて行き、とあるお店に到達した。これが罠であったら、恐ろしい程チョロい勇者である。そう美里は頭を抱えたが、連れて来られたこのお店は、どうやらその女性のお店だと言うのだ。
「あの、、お洋服が、少し、、その、古くなっていらっしゃったので、」
「「「「「あ」」」」」
一同は自身の服を見て気づく。普段は美里に縫い合わせてもらっていたものの、今回に限ってはグラムに直してもらっていたのだ。グラムが極端に下手だとも、美里が極端に上手いというわけでは無いが、いくら魔石によって速攻に洗えるからとは言えども、王城を出てからというものずっと同じ服装である。それは限界も訪れるだろう。
「お礼と言っては何ですが、新しいお洋服を仕立てさせてくださいませんか?」
「え?」
碧斗はそう声を漏らし、改めて内装を確認する。と、そこは洋服店だったようで、その言葉の意味を理解する。
「わ、悪いですよ、」
「でも、、そろそろ限界なのは、事実、だよね、」
「そのご好意に甘えちまえばいいじゃねーか!別に、助けた事に対する見返りだ。悪いもんじゃねぇ。それに、ちゃんとお礼を返せた方が、向こうもありがたいだろ?」
樹音が手を振り、沙耶が小さく呟く中。大翔は「これで貸し借りなしに出来るしな」と付け足しニッと微笑む。
それには一理あると。碧斗もまた頷くと、店の奥へと足を進めたのだった。
☆
あれから一時間程が経ち、新たな服に着替えた一同は深く頭を下げる女性に感謝を告げ後にした。
少し夏に差し掛かっているからか、はたまた戦闘をしているからか、暑い日が続いている様に思える。そのため、碧斗は半袖のTシャツにジーンズ。樹音は半袖のオープンカラーシャツを身に纏って薄地のワイドパンツ、大翔はタンクトップに半袖の上着を羽織っている。
また、沙耶は以前と同様ノースリーブの上から半袖のカーディガンを羽織り、美里は肩が露出したブラウスに膝までのスカートを履いている。
なんだか、目に毒であった。勿論、良い意味でだが。
そんな事を考えながら、碧斗は先程の女性の話を思い返した。
皆が着替えている中、服にあまり興味がない。いや、シンプルな服装が好きだと言っておこう。そんな碧斗は、皆より先に終わり、お店の女性と話すタイミングがあったのだ。
勇者様の皆様、今回は助けてくださりありがとうございました。そんな一言が、碧斗の心を締め付けた。
こんな目に遭わせた人物もまた、勇者なのだと。心のどこかで、その女性も察していただろう。能力を持つのは転生者のみ。即ち、勇者である。
感謝を口にはしていたものの、内心ではどう思っていたのだろうか。智樹の件もあり、本当にこれが勇者であっていいのかと。先程の協調性の無さも考え息を吐く。どうして、こうなってしまったのか、と。
そんな一同がグラムの家に戻ると、案の定驚かれた。主に、グラムにだが。
「ど、どうしたんじゃ、?その服は、」
「す、すみません、、せっかくお直ししてくださったのに、、こちらも、勿論着させてもらいますけど、今日は、この服装でーー」
「そういう意味で言ったわけじゃないわい!」
服を縫い直してくれたグラムに碧斗が小さく頭を下げると、彼は遮る。どうやら、それをどこで手に入れたかを聞いていたようだ。
正直、グラムにこれ以上の隠し事をするわけにはいかないと。昨晩グラムに以前家に王城の方々がやって来たと話してくれたそれと合わせながら、碧斗達は今日の出来事を話した。
王城で狙われており、それによって我々を狙った転生者に襲われた事。そして、その際に助けた女性によってこの服を手に入れたということを。
「はぁ、、ヒロトよ。それは気持ちだけ受け取るもんじゃぞ?」
「お、俺だけの判断じゃねーぞ!?碧斗だって頷いてーー」
「人のせいにして逃げるんじゃ無いよ」
どうやら、大翔は軽く注意された様だ。彼の話に出てきた、当の本人である碧斗は、その言葉に目を逸らし少し後退った。
現在、リビングにはグラムのみが居た。シェルビは、碧斗が立ち直ったのならばもう起きている必要は無いと、そのままベッドに入ってしまったという。
それに、僅かに安堵した。シェルビは、いくらグラムに助けられ、こうして平然と家に居るものの、皇女である。隣の国であろうが、もし我々が犯罪者であり、指名手配犯である事が分かれば、何をするかは分からない。
もし、この国の国王に話でもされたら、一巻の終わりである。我々だけで無く、グラムにまで影響が出てしまうかもしれない。まあ、恐らくシェルビの事だ。グラムには不利にならない様にするとは思うが。
そんなこんなで、この場にシェルビが居ない事に胸を撫で下ろしながら、碧斗は続けて皆を集めて向き直り、自身の過去について話した。
本当は巽碧斗であった事。その中で、どんな生活をしていたのか、どんな環境だったのかを。そして、碧斗を苦しめていた、忘れるはずもないあの日の出来事。その後伊賀橋家に引き取られて現在に至るまで。それを、きちんと。一つ一つ丁寧に話した。
途中、苦しくなり頭を押さえたり、崩れ落ちる様な事が何回かあったものの、時間をかけてそれを話し切る事が出来た。
そんな碧斗の頑張りに続いて、美里も自身の生い立ちや今までの事を話した。それは全て、あの日碧斗に話した内容と同じであった。だがしかし、その中でも皆には話していない思いも多々見受けられた。自分自身が嫌いだということを始めとした、自身の弱さを曝け出す様なそれは、皆の前では伏せていたのだ。それに対し、碧斗は皆には言い辛い事だったのだろうかと、首を傾げた。
それに続いて、更に沙耶が話を始めた。個人営業の店である家業を手伝っていた事。それによってギリギリ入れたのがあの学校だったという事。そして、その中で襲われ、そこを助けたのが修也であった事。
それを聞き眉を顰める碧斗は、脳内で整理を始めた。この話が本当であるならば、やはり修也はこの様な事を行う人間では無いと。そう考える中、樹音が恐る恐る口にした。
「その、、こんな壮大な話の後に言うのはあれだけど、この間の岩倉君の話をするね」
樹音の切り出しに、碧斗と美里は目を開く。が、対する沙耶と大翔は首を傾げた。その様子に気づいた樹音は、その経緯から話し出した。
この間王城で決闘を挑まれた事。理由は定かでは無いが、樹音に恨みを持っている事。それを告げたのち、続けて彼の情報を口にした。がしかし、樹音自体は何があったのか把握していないがために、中学の時にクラスメイトだったという情報だけしか、情報と呼べる事は無かった。が、それに続いて。
「その人、前に私に話を持ちかけて来たんだよね、」
「「「え、?」」」
美里が小さく、そう呟き皆は声を漏らす。どうやら、以前美里がこの家を出て行った際に「樹音には気をつけろ」と話をしにきたと言うのだ。
以前に沙耶と樹音で居た際にも、拓矢は彼に対して何か憤りを感じている様子だったという。
即ち、過去に何かがあり、樹音に執着している点は確実だろう。問題は樹音が覚えていないという部分である。心に傷を負った方はいつまでも覚えていると言うように、拓矢は根に持っているのだろう。反対に、それを行った人物の方は深く覚えてはいないと。その言葉通りである。
「まあ、、その人が樹音君のクラスメイトで、何かが過去にあって、それによって樹音君を嫌っているのがなんとなく分かったから、、とりあえずは置いておこうか。無理に思い出させるのも、ちょっと辛いしな」
碧斗は自身の知らなかった「それ」が知れただけで十分だと言うように呟き、思い出そうにも思い出せない樹音を労わってそう放った。
樹音は心優しい人物である。少なくとも、碧斗はこの期間でそうだと信じている。だからこそ、もし自身のせいで誰かを不幸にしてしまった事実を思い出した時、彼は辛くなるだろうと察し、碧斗は切り替えたのだ。
それには異論はないようで、皆もまた頷き、それをただ黙って聞いてくれていたグラムに向き直る。
「その、、ごめんなさい、勝手に話を進めちゃって」
「いや、いいんじゃよ。それよりも、お主らの事をよく知れて、良い機会になったわい」
いつものように優しくも豪快な笑みを浮かべ、グラムは答えると、一同は顔を見合わせ恐る恐る口を開く。
「その、、王城から狙われている事、、前にも話しましたけど、、これ以上話が大きくなったら、流石にマズいかも知れません、」
樹音は、追い出すなら今の内だと、遠回しに伝えながらグラムを見据える。それに、グラムは小さく微笑み、首を横に振る。
「いやぁ、いいんじゃ。儂も、正直思うところがあっての。お主らに少し希望を抱いとるんじゃ。それに、あの人の、、事もあるしの」
「...それは、あの命の恩人。ですか?」
碧斗がグラムの話に乗っかって真剣に放つと、彼は濁した返事で頷いた。これは言うべきだろうか、碧斗は脳内で幾度と無く自問自答を繰り返したのち、覚悟を決めて口を開く。
「その、、俺達もみんな自分の話をしたので、その、グラムさんもーー」
「話は聞かせてもらいましたわ!」
「「「「「「!?」」」」」」
碧斗が長く時間をかけ覚悟を決めたその問いに被せて、廊下からシェルビが現れる。だが、その場の皆は話を遮られたという事よりも、シェルビのその一言に、目を剥いた。
「は、、話、、とは、?どこから?」
恐る恐る、碧斗は問う。それに、シェルビはさらっと。キッパリと答える。
「他の勇者から狙われて、その中で女性を助けたという話からですわ!」
「あ、」
「いや最初じゃねぇか!」
終わったと。一同はそう確信しただろう。
皆碧斗と思考は同じだった筈である。シェルビにこの話が聞かれるということは、国に関わるということだと。が、そんな碧斗達の思いとは裏腹に、シェルビは息を吐き放った。
「全く、衣服の一着や一式くらい、全然買えますのに」
「え、?そっち、?」
「まあ、あなた方には買いませんけど」
「いや傲慢だな」
碧斗がツッコミを入れたのち、大翔もまたその言葉に呟く。それに、碧斗はいやいやと、話を戻す。
「あの、俺達の話、全部聞いてらしたんですよね?」
「そうですわ。なんだか大して気にもなりませんことを長ったるく話してましたわね。わたくしも、別に聞きたくて聞いた訳ではなくてよ?」
皆の過去はどうでも良いといった様子でシェルビが口にする中、碧斗はまたしてもそっちでは無くと口を開く。
「違いますよ、、俺達、国から、狙われてるんですよ、?それも、聞いていたんですよね?」
ごくんと。一同は生唾を飲む。このまま話を戻さずに忘れ去られる事を待った方が良かったのではないかと、中には思った者もいたかもしれないが、碧斗はこれ以上何かを周りの人に隠しているのが辛くて、解放されたかったのだ。
すると、シェルビはなんだとまたもや浅く息を吐いて頷く。
「聞いてましたわ。...ですが、正直この国の違法行為はこの国が決め、罰するものですわ。他国の皇女であるわたくしに、とやかく言う権利はありませんでしてよ?」
「そ、、そう、ですか、」
思ったよりも物分かりが良いと、碧斗は凝縮する。そういう点では、やはり国を背負う存在だという事だろうか。いや、ならばもっとこの話を利用して色々してきそうな気がするが。そんな事に思考を巡らせていると、シェルビは続けて小さく呟く。
「皆、この国には少し疑いの目を向けていますの。ですから、安易にあなた方が悪いとは言えませんわ。それに、、もしそれが理由であれば、」
だんだんと声を小さくしていきながら、シェルビは顎に手をやり考えをまとめる。その様子に、何があるのかと、疑問に思った碧斗は声をかける。
「その、、何か、あるんですか、?この国には」
「まず、こうして勇者様を、別の世界から召喚し、その責務を任せる時点で、信用なりませんわ。武力の劣る国である事を世間に知らしめているようなものですし、そんなの納得する筈がありませんわ」
確かにその通りだと、碧斗達は頷く。
つまり、シェルビが言うには。突然召喚され、魔王を倒すという責務を与えられた我々勇者もまた犠牲者であるがために、国から追われているという情報だけでは黒と判断出来ないと。そういうことだろう。
その理由に納得する中、シェルビは突如「そうですわ!」と声を上げ立ち上がった。
「もう少し、この国の事を知りたいと思ってましたの。グラムはなかなか連れて行ってくれないですし、あなた方、案内してくれませんこと?」
「え、?あ、いや、」
「決まりですわ!そうと決まればよそ行きのドレスを仕立ててもらわなくてはなりませんわね!」
「あ、その、あぁ、」
我々は追われている身であると。それを聞いていた筈だというのに、シェルビは我々に拒否権というものを与えずにパタパタと奥へ行き魔石で使用人を呼び始めた。
「す、すまんのぉ、、ああなると言うことを聞かなくてな、」
「あんの傲慢姫、人の話を聞いて考えるってことをしないのかよ」
グラムが隣で謝ると、続いて大翔が拳を握りしめる。
皆が同じく不安げにする中、碧斗はそれと同時に、先程の話を思い返す。
確かにシェルビはこの国の住人ではない。だが、だからこそ、何か話せる事があるかもしれない。別視点から、先程の様な異様な部分。我々が転生されて来た事の話。
それぞれを、シェルビからこの世界の事について聞けるのでは無いかと、碧斗はこの争いを終わらせる鍵が隠れているかもしれないと、ため息を吐きながらも計画を立て始めた。




