165.覚醒
「水篠さん、」
「沙耶ちゃん」
空は漆黒に染まり、王城の灯りも破壊されたが故に消え、その場は真っ暗になっていた。
その筈なのだが、星の数々が照らす、岩が崩れて大翔の手を取る沙耶は、とても美しく、この世界には月の様な衛星が無いのにも関わらず光輝いて見えた。
「あ、」
「っと」
大翔は、それにより力無く倒れ込む沙耶を抱え、岩が崩れたために足場を無くした彼は力を込め地面に足で着地した。
すると、そんな二人に碧斗と樹音もまた駆け寄る。
「...ごめん、、沙耶ちゃん。分かった様な事言って、何も分かってあげられて無かったんだね」
「...ううん。言われないと分からない事だってあるもん。円城寺君は何も悪く無いよ。私だって、自分自身きっと気づかなかったし、今まで大して相手を理解してないのに、話しちゃった事もあったから、」
沙耶もまた、今までの自身を思い返し、抱える大翔の顔を一瞥して返す。だが。
「でも、たとえ分かってなくても、情熱を持って、めげずに受け止めようとぶつかって来たら、なんか、許せちまうもんだ」
「ありがとう、橘君」
少し遠い目をして、以前の自身と沙耶の事を話す様に呟いた彼に、感謝を告げたのち、腕から飛び出し足を着く。
が。
「あ、」
「おっと」
「大丈夫!?」
その瞬間、沙耶はぐらりと。蹌踉たのち倒れ込む。
そんな彼女を、倒れる前に大翔は受け止めると、沙耶は荒い息で目を開いた。
「はぁ、はぁ、お、おかしいな、、なんでっ、だろ、、力、、はいん、ないっ」
「当たり前だよ。あれだけの力。完治もしてないのに、耐え切れる筈無いよ」
今までの能力多用が、意識を取り戻すと同時に一気にやってきた様だ。作戦の中では沙耶の力を借りたい部分があったのだが、どうやらこれでは動く事もままならなそうだ。
「とりあえず、沙耶ちゃんはまた地下室でーー」
「がはっ!」
「「「!?」」」
樹音が、沙耶に優しく放つのを遮る様に、背後の二棟から、爆発したかの様な轟音と共に美里が吹き飛び現れる。
どうやら、またもや巨大な茎を生やし、美里に叩きつける形でぶつけたのだろう。いつの間にか二階に移動していた智樹は、吹き飛ばされた美里を見据えていた。
「クソッ、マズいっ、向こう忘れてたぜ」
「沙耶ちゃんは僕に任せてっ!あの距離と、あの吹き飛び様、大翔君じゃ無いと受け止められなそうだからっ!相原さんは任せたよ!」
その光景に、大翔と樹音は目の色を変え、吹き飛ばされた高さを確認し地面に叩きつけられた時のダメージの大きさを理解すると共に提案する。
それに、大翔もまた「おう!」と短く返し、沙耶を樹音に託そうとした。
が、その時。
「っ!駄目っ、やめてっ!」
「えっ」「何?」
沙耶が突如呟き、それに二人が聞き返した。と、次の瞬間。
「美里ちゃんをっ!傷つけないでぇぇぇぇっ!」
「うわっ」「おおっ」
沙耶が叫ぶと同時に、彼女の前から巨大な岩が生える。と、その後形が変化し、それはやがて先程の人形のものと同じーー
ーー腕に変化して美里を吹き飛ばした智樹を。
思いっきり殴った。
「えっ」
「絶対っ、許さないっ!」
「っ」
その、普段沙耶は絶対に行わない、致命傷を与えるかもしれない強力な一撃。それを放つ沙耶の形相を含め、その姿を目撃した樹音は声を漏らし、大翔は目を見開いた。
「...フッ、ああ!それでいい!許せねぇやつに、無理に優しくする必要なんてねぇよ!」
少し間を開けたのち、大翔は笑顔を浮かべ沙耶に放つ。
すると、もう一方から、今度は左腕であろう形の岩が生え、吹き飛ぶ美里を優しく掴み地面に戻した。
「へっ、、えっ、あ、水篠ちゃん、、もしかして、水篠ちゃんが、?」
美里は、何が起こったのか分からないといった様子で辺りを見渡すと、沙耶の姿を見て精神状態の安定を察してそう放った。すると、それに。
「うん。そうだよっ。...ありがとう、美里ちゃん!無事で、、無事でっ、本当に良かった、!」
泣きそうになりながら、沙耶は美里に向けて。いや、自身を心配しその間を必死で繋いでくれたその場の皆に向かって、そう感謝を述べた。
そんな沙耶に皆が優しく微笑むと、その時。
「良かった、、みんなっ、無事で、」
遅れて、四棟から碧斗が息を切らして、駆け足で現れる。
「おせぇぞ碧斗」
「ご、ごめん、出遅れたな、」
荒い呼吸で、膝をつく碧斗は、微笑みながら放つ大翔にそう返すと、改めて沙耶に向き直った。
「ごめん。俺、水篠さんと一番長く行動してた筈なのに、、全然分かって無かった」
「...いいんだよ、、さっき、円城寺君からも言われたけど、私は決して無理してた訳じゃ無いし、自分も知らなかったから」
沙耶はいつもの様な笑顔で返すと、碧斗もまた優しく口を綻ばせ、ふと目つきを変えた。
「そしたら、いきなりでごめん。作戦があるんだ」
それだけを前置きすると、碧斗は沙耶に詰め寄り作戦概要を耳打ちする。それは、どこから智樹がやってくるか分からないがためである。
その後数分。それを一通り告げ終わろうとした、その時。
「それでいいよ!それでいいんだ水篠沙耶さん!君はやっと、本当の自分に気付けたっ!」
智樹は笑みを浮かべ、殴られ吹き飛ばされた先である二棟を巨大な茎で破壊して、その植物に乗った状態で現れる。
が、それを僅かに見据えた、次の瞬間。
「ごぶっ」
沙耶の目の前からまたもや巨大な腕の様な岩が生えては彼を掴み、王城の裏へと大きく投げ飛ばした。
その光景を目の当たりにしたのち、碧斗は
「あ、思ったより強引にやるんだな、」
「あっ、え!?こ、この方が早いかなって」
沙耶に苦笑いを浮かべながら放ったがしかし、直ぐに微笑み直すと碧斗は優しく口にした。
「ああ。それでいい」
碧斗のその言葉に安心した様に微笑み返した沙耶に対し、大翔が「な?心配する事なんて、何もないだろ?」と小さく耳打ちする。
すると、そののち沙耶が笑顔で頷き、続けて碧斗が真剣な面持ちへと変えては一言を呟く。
「...後は、頼んだ」
と、"沙耶と美里"はお互いに隣に立って、同じく真剣に。
「「うん」」
力強く返した。
☆
「く、くふふ、いいねぇ。人に躊躇しなくなった彼女はやっぱ最高だよ」
吹き飛ばされた先である、王城裏の森の中。智樹は仰向けで倒れながら、夜空を眺めた。
「っと。でも、森は駄目でしょ、森は。俺が有利過ぎるって」
智樹はそう小さく零しながら、吹き飛ばされて激突する衝撃を、地面の植物を伸ばしてクッションとしたそれから立ち上がると、服を叩いて土を落としながら足を踏み出した。
「ここがコンクリートだったら死ねてたかもなぁ」
智樹は寂しそうに。感慨深そうに呟きながら空を見上げる。
が、その瞬間。
「おっ、と」
目の前から、メラメラと滾る真っ赤な炎が近づき、智樹は既のところで避けた。
するとーー
「なるほど、さっきの放り投げで殺そうとはしてなかったわけだ」
「今のも、別にあんたにダメージを与えるためのものじゃ無い。なんでこんなとこに放り投げたのか、私が何も考えてないと思った?」
「と、いうことは」
美里の言葉から何かを察したのか、智樹はゆっくりと先程の炎が飛んで行った先を見据えた。
すると、そこには。
「!」
先程の炎により、木々が燃え盛る光景が目に飛び込んだ。
「なるほど」
「正直、あんただけが有利な場所に飛ばすわけないでしょ?森は私、炎の得意分野でもあるから」
「...さっきの、聞いてたんだ。盗み聞きは良く無いなぁ」
目つきを変える美里に、同じく睨む智樹。すると、その瞬間。
「お」
智樹の周りの草が、まるで彼を囲う様に円型に燃え盛る。
どうやら、木からの飛び火や根を利用して燃え移り、意図した場所を発火させる事を可能としたのだ。つまり、美里の炎の能力もまた、燃え上がるための燃料の多い森は最適な場所なのである。
すると、続けて美里が指を上に上げると同時に、炎もまた上に燃え上がり、彼を囲うカーテンが出来上がる。
その炎を裂く様にして、内側から巨大な茎が数本現れては木々を突き刺し暴れる。それを必死に避けながら見据えた美里は、確認すると共に。
「水篠ちゃん!」
「任せてっ、美里ちゃん!」
美里の背後から、茎にも負けない巨大な岩が現れ、先端の尖ったそれは、それぞれに伸びて別れた植物を斬り刻んだ。
だが、美里の言葉に反応した当の本人。水篠沙耶の姿はどこにも無かった。すると。
「やっぱやるねぇ、水篠沙耶さんんっ!?」
その光景に歓声を上げた智樹だったが、彼女の名を言い終わると同時に、彼の足元から岩が勢いよく生え、それにより浮いた彼の体に追撃する様にして美里の背後から生えた岩は殴りを入れた。
それによって吹き飛ばされた智樹だったが、空中で向き直りその場で草木を生やしてその威力を止めようと試みる。だが。
「がはっ」
それをするよりも前に。智樹の背後に突如としてこれまた巨大な岩が生え、無抵抗な彼はそのままそれに激突した。と、その後、その岩が砕けてその背後にいた、"沙耶"の姿が現れる。
「っ、水篠さ、ごふぁっ!」
「...」
智樹が零すと同時に。まるでそれを阻止するかの様に、彼の真下から岩を生やして智樹の頭に直撃させた。
だが。
それにより、頭を軸とし吹き飛ばされた智樹は、尚も表情を崩すことはせずに空中で回転して、茎を地上から生やした。
「やっぱ動きが違うね水篠さん!俺は嬉しいよ」
「それはっ、ありがとうございますっ」
沙耶に一斉に向かう茎を避け、防ぎ、岩で裂きながら、智樹の笑顔に同じく返す。すると。
「ぐはぁっ!」
沙耶は僅かな隙を突かれ、左足の踝のあたりを茎に突き刺される。それには思わず揺らぎ、弱々しく血を吐き出した。ものの。
「ぐおっ」
それにも負けじと、智樹の周りから岩が生えては彼を掴んで投げ、空中で多量の石で一斉に直撃させて攻撃したのち、岩同士で挟んで包み込む。
が、しかし。岩で智樹を封じる手は既に突破されている作戦である。故に、それは直ぐに内側からの巨大な茎で破壊され、そのまま沙耶に向かう。
「うっ、くうぅ!」
沙耶は足に突き刺さった先程の茎を意識しながらも、こちらに到達する前に、向かう茎を岩の破片で一掃する。だが、本当の攻撃はここからだと言わんばかりに。
「ひゃっ」
先程足に突き刺した茎が突如動き出し、沙耶を持ち上げては大きく振る。それに驚き声を上げながらも、沙耶は智樹への攻撃を緩める事無く続ける。
対する智樹もまた、彼女から放たれる岩や破片の数々を防ぎ破壊しながら、沙耶に突き刺さった茎で操り続ける。
「んっ!くう!」
沙耶は空中で向きを変えて、ポケットに忍ばせていた破片を取り出すと、その石を大きく、先の鋭いものへと変化させ、突き刺さる茎を斬り取った。
その後、沙耶はまたもや向きを変えて、智樹の背後から岩を生やし、それで殴りを入れる。
が、しかし。
「えっ!?」
斬り取った筈の茎が、またもや復活しており、沙耶はその力で同じく振られる。
ーな、なんでっ、こんなっ、、!ー
沙耶は、そう脳内で呟きながら同じく茎を斬り裂いたのち、理解する。
「っ」
何度切り離しても、足に突き刺さった部分の茎は除去出来ないのである。即ち、それだけでも操る事の出来る智樹によって生み出された植物は、その傷口から蔓を伸ばし、地面に伸びては地中に戻り、根を張って再生を繰り返していたのだ。
「くっ!う、嘘っ!?」
つまり、その茎から逃れる事は出来ないと。そう言っているのだ。
岩で殴りを入れられながら、その背後からの美里による追撃に対応する智樹は、明らかに追い詰められている様子であり、こちらが優勢にも思えるがしかし。
このままでは、沙耶はずっとこの苦痛を感じ続ける事になる。
いや、違う。彼が、智樹がこんな事をした本当の、大きな理由はーー
ーー彼を"殺さない"と、痛みから解放することの出来ないこの状況。それを、作り出すためだったのだ。
「水篠ちゃん!」
「っ!」
そんな事に頭を悩ませていた矢先、美里が突如沙耶に声を上げる。
「それは、どうやら再生するみたい。...だからっ、再生が間に合わない速度で逃げれば、、もしかするとっ」
「っ!そっか、ありがとう美里ちゃん!試してみるっ!」
美里は、智樹への遠距離及び、周りの草木を燃やす事による攻撃をただ続けながら、そう提案を口にする。それに、沙耶はハッと表情を明るくさせて同じく茎を切り裂いたのち、今度は岩を何度も生やしてその上を走り、美里の背後へと移動する。
がしかし。
「ひゃっ!?」
「っ」
どうやら、人の速度ではそれには敵わない様で、沙耶の足に突き刺さったそれは、先程同様地面から生えていた。
「や、やっぱり、駄目みたい、」
沙耶は、そうはにかみながら美里に向き直る。それに対し、美里は表情を曇らせて小さく口にする。
「...てことは、燃やさないといけないんだろうけど、、足に埋め込まれたその部分を燃やすとなると、足を燃やす事になる、けど、、っ!?」
美里がそれを話す最中、沙耶はその茎が突き刺さった足を出す。
「お願い、」
「え、、嘘、」
「でも、、もうこうするしか無いん、、だよね?」
「茎を焼き払うくらいの熱量よ、?足だったら、、どうなるか、きっと、これ以上に凄く苦しいに、決まってる」
美里は震える手を前に出しながら、確認を含めた発言を零す。すると、沙耶は突如ハッと何かに気づいた様に目を開く。
「分かった」
「え、?」
沙耶はそう呟くと少し屈んで、石を生やしそれを手に取って変形させる。
「まさか、」
沙耶が手に持ったそれは、その矢先ナイフの様に尖ったそれへと変化していた。
「どうせ苦しむなら、一瞬の方が、、いい、よね、?」
沙耶はそう引きつった笑みを浮かべて放つと、次の瞬間。
沙耶はその尖った石を思いっきりーー
足に突き刺した。
「ああああああああうっ、ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」
「やめてっ!」
その叫びは数分間響き渡り、息を荒げながら、不器用に石を動かして切断した足を、その後修復する様に岩で義足を作り上げた。
「はぁ、はぁっ、はぁぁぉっ、うぅ、うぐ、、はぁ、」
「み、水篠ちゃん、?」
「は、はぁ、や、やっぱり、、どっちも痛いね、」
青ざめた顔で、沙耶は無理に笑ってみせる。その姿が痛ましくて、苦しくて。今までの彼女とはかけ離れた行動と姿に、思わず美里は彼女に抱きついた。
「えっ!?み、美里ちゃん!?」
「ごめん、、ごめんなさいっ、私が、水篠ちゃんが自分で突き刺さる前に燃やしてたら、」
自分が沙耶を苦しめたくはなかった。そんな立場にはなりたく無かったと。そんな事から逃げていただけだったのかもしれない。
そう自己嫌悪に陥りながら歯嚙みして嘆く美里を、沙耶は優しく頭を撫でる。そんな二人に、智樹は笑顔で近づく。
「凄いね。成長したよ、水篠さん」
「ありがとう。...で、いいのかな?」
「その足。俺とお揃いだ」
智樹は沙耶に対して蔓で巻き付け補強している腕を見せながらそう放つ。それに、負けじと沙耶も微笑んで。
「同じだね。私達」
どこか寂しそうに目を細め返す。
その姿が、どこか遠いところに行ってしまった様で、美里は沙耶を怪訝に見つめる。
「美里ちゃん、、作戦、どうしよっか」
「水篠ちゃんが岩でやれば一撃な気がするけど、」
「...そうすると殺しちゃうから、、力の制御が出来ないの。...殺したくは、無い、」
沙耶は、前よりもハッキリとした口調でそう返す。その事実を理解し、美里は唇を噛み頷く。
「そっか」
ならば、言われた作戦を実行するしかない。いや、元はと言えば美里本人が考えた作戦だ。ここで食い下がるわけにもいかない。
そんな事を、僅かに震えながら考えていると、背後から。
「っ!美里ちゃん危ないっ!?」
「へっ」
茎が目の前に迫る。それが、炎を放つよりも前に到達するであろう距離に達した、その矢先。
「スラッシュスライス!」
突如、その茎が折れる様にして二等分され、その後ろから。
ーー樹音が現れた。
「っ!はぁ、はぁ、、何、?その名前」
「ははは、今考えた」
「うん!凄くいい技名だと思うよ!」
頭に手をやり樹音が笑うと、沙耶が笑顔で近づく。だが。
「...チッ、水篠さんの覚醒に君は邪魔だ。おもしろく出来ない外野は引っ込んでいてもらいたいね」
対する智樹はその乱入に憤りを見せながら構える。と、彼のその一言で目つきを変えた一同は、目を見合わせ向きを智樹へと戻すと。
一斉に、彼に向かった。
☆
「ど、どうする?」
「どうするって言ったって、ここで待機していなさいと命令があったでしょう」
「だが、本当にこれでいいのでしょうか?」
「それに、相手は勇者様ですよ?国王様の身の安全も確認出来ていないのに、」
ガヤガヤと、一棟の控室に集められた王城関係者の一同は、この現状にお互いに慌てた様子で声を掛け合っていた。
だが、そんな控室に。
「おい!てめぇらこいつがどうなってもいいのかぁ!?」
「「「!?」」」
突如、扉を乱暴に開けたその人物は、王城の騎士であろう人物の首を腕で組む様にし、拳を顔に近づけていた。
「早く出せねぇと、本気で殴るぞ!?出さねーなら死ぬまで殴る!出すまで殴り続けてやる。分かったら、さっさと魔術師をよこせ!」
「ま、魔術師!?...そ、それは、、す、すみません、、現在魔術師は、誰も、」
「ああ!?舐めてんのかぁ!?」
「ひぃ!すいません!」
この人物の荒い言葉に、騎士の一人が身を守る様に縮こまって放つ。と、拳を突きつける彼の後ろから、更に協力者であろう細い人物が現れる。
「おい。すいませんじゃねーんだよ。そんなすぐバレる様な事言わなくていいからさっさと魔術師をよこせ。居ないんなら連れてこい。さっさとしろ、こいつが居なくなってもいいのか?お前らの関係はそんなもんなのか?」
騎士の一人に、その人物は声を低くして放つ。
「す、すみませんっ、、でも、本当に、居ないんですっ!」
「どうかっ!どうか命はっ」
皆が命乞いをする中、その細身の男性は息を吐く。
「同じ王城の人間の居場所も分からないのか。自分の命乞いより先にこいつの心配しろよ」
その男子はそう呆れた様に放つと、振り返り。先程の、騎士の人質に拳を構える男性に放つ。
「おい。そいつ、やれ」
「お、おう。了解」
酷く冷酷に、細身の男性は低く放つ。それに、動揺を見せながらももう一人の男性は拳を振り上げた。すると、その人質となっていた騎士が突如、声を上げる。
「やっ、やめてくださいっ!お願いしますっ!わ、分かりました!私が案内します!案内しますからぁぁぁぁ!」
が、その瞬間。
「ちょっと待て」
「ん?」「お?」
その中の一人が。拳が、涙目で懇願する人質の顔に迫ったその時、小さく遮る。
「...俺は、転職する前は元魔術師だ。魔力はそこらの魔術師の中でも一番多い。俺が出よう」
「っ!?」
その彼の一言に、その場の騎士と人質を掴む男性が目を見開く。すると、もう一人の男子は表情を変えずに放った。
「それじゃあ、着いてきてもらおうか」
その男性が答えると、元魔術師だと言う騎士は立ち上がる。それを見届けたのち、細身の男子は背後の人質を掴む男性に促した。
そう。その、突如として騎士達の前に現れ、平和を乱した荒い人物はーー
「...離してやれ。大翔君」
「おう、碧斗」
伊賀橋碧斗と、橘大翔であった。




