160.達成間近
「あれ〜?あの二人どこいったの?」
煙が薄れ、攻撃を終えた奈帆はその場に居た筈の碧斗と美里の姿が無い事に目を丸くした。
「それに、水篠沙耶も居ないな」
「あ、ほんとだ」
それに智也が割って入ると、ふよふよと浮遊しながら奈帆はハッと気づく。
「もしや逃げた?」
「...あのタイミングで、、逃げられるのか?」
その不思議な出来事に、奈帆と智也は顎に手をやり思考を巡らす。だが、その時。
「あっ!愛梨ちゃん!どうしたのっ?」
「...二人とも、大将から、命令」
「おっ」
廊下の奥からパタパタと愛梨が現れ、伝言を口にした。
「状況が変わった。一回引き上げる。だって」
「状況?」
「次から次へと、、何考えてんだよ全く。大将は」
思考を変える涼太に、僅かな怒りを感じながら智也は息を吐いた。そんな智也の発言に返す様に、愛梨が変わらず淡々とした声音と表情で、付け足した。
「ここに、桐ヶ谷修也が、居るらしい」
「「っ!」」
☆
パニッシュメントの面々が話し合いを行う中、奥の四棟では大翔が帰還し、美弥子の相手をしていた。
「おらぁ!」
「あら、単純ね。でも、そういう気合いだけで行動するわんちゃんも大好きよ」
「勝手にっ!犬にすんじゃねぇ!」
彼女の言う通り、気合いのみで殴りを放つ大翔に、微笑みながら華麗にそれを避ける美弥子。どうやら、疲労が現れたか、大翔の攻撃には隙や粗が見受けられた。
「いえ、貴方は犬よ?可愛い可愛い、頭のごなしに彷徨う野良犬。どう?私のペットにならない?」
「おことわりだっ!」
大翔は意気込む様にそう区切りながら叫ぶと、全ての力を込めて彼女の腹を殴る。がしかし。
「っ!」
その感触は柔らかく、まるでスライムの様だった。
そう、自身を守る様な形で、腹の周りに固まった水を凝縮させて固定していたのだ。
「残念だわぁ〜。せっかく忠実な飼い犬ができると思ったのに。それじゃあ、時間を使わせちゃったお詫びに、ご褒美あげる」
それを放つと、同時に。
「ぶはっ!?」
腹に巻いていた水が突如形を変えて飛び出し、それが大翔の腹に命中する。
「ごはっ」
その水圧は凄まじく、大翔は廊下の端から端にまで吹き飛ばされる。
「ごめんなさーい。あげるご褒美を間違えちゃったわ。丁度倒れてるわけだし、跪いたら、助けてあげるわ」
「クッ、、てめぇ。どこまで歪んでやがんだ」
息を漏らしながら大翔を見下す美弥子に、思わず歯嚙みし、怒りを口にした。
と、刹那。
「...あ。もう過ぎてる」
一方、何かに気づいた様に目を見開いた智樹は、起き上がり、新たな茎を生やしてそれを足場に一棟の屋上へと向かう。
と、そこには。
「国王様」
「はぁはぁ、、な、なん、だ」
蔓が巻き付き、身動きの取れない様固められた国王が居た。
「誠に申し訳ございません。現在、既に就寝の時間を過ぎていました。ご勝手で、差し出がましい事とは存じますが、私に時間超過のお許しをいただきたいと思うのですが」
「っ、そんなものっ!...いや」
律儀に頭を下げ、お願いを口にする智樹に、一度は怒りを感じたものの、直ぐに「待てよ」と。国王は考えを改めた。
「...良いだろう」
「左様でございますか?」
智樹は、国王のその反応に目を見開き笑顔を浮かべる。
が、国王は「だが」と。一度咳き込んで続ける。
「その代わり、私の事を防衛すると誓いなさい」
「守る、、承知いたしました」
智樹は、国王様の命とあればと言わんばかりに、深く頭を下げ、彼を更にーー
ーー蔓や茎で包んだ。
「なっ!何をっ!?まさかっ、裏切るのかっ!?」
「...その中が一番安全ですよ」
どんどんと植物に飲み込まれていく国王を背に、智樹は歩き始めながらそう零した。
と、そののち。
「はぁ、ほんっと」
智樹は誰にも聞こえないくらいの声量でそうぼやくと、対面の四棟で争う大翔と美弥子に目をやり声を荒げた。
「ここの奴らは言いつけを守らないやつらばっかだなぁ!」
「なっ!?」「んん?」
智樹の叫びと同時に、巨大な茎がまたもや一棟から生え、四棟を貫通させて突き刺した。
それを瞬時に察した二人は、それが突き刺さるよりも前に脱出に成功する。
が。
「うおっ!...ぶねぇ。まだ懲りねぇのかよ」
それを避けるため跳躍した大翔の、背後に。
「もう時間が押してる。悪いがもう終わらすよ」
「はっ!?」
智樹の声が聞こえ、大翔は目を剥き振り返ろうとした、刹那。
振り向いた先には既に。智樹よりも近くに、茎が迫っていた。
「やっべ!?ごふぅっ!?」
それに、大翔は為す術も無く、人を吹き飛ばすには十分過ぎる大きさの茎が腹に命中する。
と、大翔は僅かに血を吐き出すものの、それは貫通しておらず、どうやらこの茎は先端の尖っていないものの様だ。
が。
「がはばはばはばはばはばっ」
その、まるで拳の様な茎が、何度も。何本も何度も。大翔の腹に空中で打ち込まれる。
「がはあああああああああああっ」
何度も何度も。大翔の、トレーニング及び能力で超越された肉体を、破壊する様に。何度も。
すると数十秒後、とうとう終わりがやってきたのか、今までで一番大きな茎が腹に打ち込まれると共に、大翔は四棟内部に大きく吹き飛ばされた。
「がはっ!」
それによって、四棟の一室の壁に、廊下の壁を貫通して激突する。と。
「ぐべぇっ!?」
トドメを刺す様に、その大きな茎の先端が尖ったものに変化し、腹に突き刺さった。
「が、があ、。」
「...とりあえずそこで張り付いてて。残りの奴らもやってくる」
赤い液体が伝う手を力無く垂らし、壁に茎を貫通させて固定された大翔に、智樹はそれだけを伝えると踵を返してその場を後にした。
まずい。碧斗達が狙われる。
早く碧斗達に伝えなくては。
そう思いながらも、大翔の体が動く事は無かった。どうやら、既に限界を越えたらしい。
「あ、い、、と、」
意識が遠のきながらも、最後に皆の顔を思い浮かべ、ゆっくりと、深く目を閉じたのだった。
☆
「っ!上が大変な事になってるな」
マーストと再会を果たした碧斗は、その感動も束の間、轟音と衝撃の数々に冷や汗を流した。
「私も、長らくこの地下室におりましたが、もの凄い衝撃でした」
「そう、だよな」
碧斗は、淡々としながらも外の状態や皆の安否を心配するマーストに、バツが悪そうに目を逸らし返した。
マーストは仲間想いな優しい心の持ち主である。それ故に、大勢の騎士が亡くなったとは、口が裂けても言えなかった。
特にマーストは同業者なのだから。
「...もう少し話していたいけど、外が大変なのは変わらない。なるべく早く、手を打たないと」
「っ、そう、だよな」
二人の反応に、美里はそう切り出す。
もう少し平和な時に再開したかったという気持ちはあるが、碧斗は目つきを変えて辺りを見渡す。
「...ちなみに、ここは?地下室なんて王城にあったのか?」
「はい。法を破った者が収容される場ではございますが、通路としても使用され、幅広く活用されております」
「そうなのか、知らなかった、」
碧斗は、驚いた様にその一室を見回す。
「まずは、ありがとう。あの時、地下室へと引っ張って、助けてくれたんだよな」
「いえ。担当者として、当然の事をしたまでです」
感謝の言葉に、マーストは首を振って優しく返す。そうだ、これだと。碧斗は短くも長く感じた一ヶ月前を思い出し、目の奥が熱くなる。
と、そののち碧斗はハッと気づき、目を見開く。
「そ、そういえば、水篠さんは!?」
「...はぁ。遅いっての。ほら、向こうで寝てる」
「っ!」
美里がため息を吐きながら呆れた様に言って、部屋の奥に目をやる。
その先には、碧斗と同じくベッドの上で横たわる沙耶の姿があった。どうやら、地上で彼女の姿が無かったのは、既にこの地下室に助けられていたからであろう。
「実はこの地下室は通路で繋がっておりまして、王城全体の下層部分にこの様な地下室が存在しております。そのため、ところどころに出入り口があり、そこから水篠様の救出を行いました」
「そ、そうなのか、良かった、」
碧斗は思わず安堵の息と共に言葉が漏れ出た。
「相当なお疲れの様です。回復は行いましたが、少し時間がかかるかと思われます」
「いや、十分だよ。本当、ありがとう」
少し表情を曇らせ、申し訳なさげに放つマーストに、碧斗は柔らかな表情で答える。と、その後碧斗は目つきを変えて付け足す。
「ただ、水篠さんが起きた時に、全てを終わらせていればいいだけだ」
そう意気込んだ碧斗は、続けて作戦を構築し始める。
「とりあえず、地上には主に秋山さんと海山君。大翔君と樹音君がいる」
「円城寺君は、さっき橘君が助けて難を逃れてる筈だけど、、回復出来てるかは分からないし、逃げられたとも言い切れない、」
「そうだね、、正直、俺達の圧倒的不利」
「そのお二方で戦ってもらう事は不可能なのですか?」
碧斗と美里が神妙な面持ちで視線を下げ現状確認をすると、マーストが割って入る。
「出来ない事は無い。実際、一度はそれに近い事が起きてるんだ。...ただ、そうすると、王城がもたない。それに、街に被害が出るのは確定だ」
「それだけは、回避しなきゃね」
「み、美里さま、」
マーストが、美里の一言に反応し目を向けると、碧斗もまた続け様に立ち上がり放つ。
「ああ。この世界の人達は一度きりの命だ。重みが違う。俺達は少なくとももう一回生きられるんだ。俺達が逃げるわけにはいかない」
「それに、逃げても被害は受けるだろうけどね」
「碧斗さま、」
碧斗の発言に、美里はクスッと笑い付け足す。その皆の反応に、マーストは込み上げてくるものがあったが、直ぐに思考を変えてそう口にする。
「それでは、なんとかしなければなりませんね。他の勇者様方はどうなされていらっしゃるのでしょうか」
考えを改めたであろうマーストの一言で、碧斗は言おうとしている事を大体理解した。恐らく、皆の協力を仰ごうということだろう。
だが。
「みんな全然出てくる気配はない。部屋で寝てるか、篭ってるか、既に逃げてるかのどれかだな」
「正直、こんな関わったら死にそうな現場に関わるなんて、ああいうヤバい奴しか居ないでしょ」
「ヤバい奴って」
小さなテーブルのようなものに腕をついて割って入る美里に、碧斗は苦笑を浮かべる。
すると、マーストは「左様ですか」とぼやきながら、宙を見つめ思考を巡らす。どうやら、親身になって作戦を考えてくれている様だ。だが、この状況は既にどうする事も出来ないだろう。
「それと、考えてなかったが、パニッシュメントもまた俺達を狙い始めたんだったよね」
「そう。正直お手上げ。四方八方敵だらけで四面楚歌状態。どうにかしてフォーカスがあっちで向き合ってくれるといいんだけど」
「それでも、俺らは名前を広めすぎたし、パニッシュメントに関しては俺らだけを狙ってる状態だ。そんな奇跡的な環境には恵まれなさそうだな、」
碧斗は目を逸らす美里に続いて、そう歯嚙みし現実を受け入れる。
何か案は無いだろうか。
その場の皆は、出鼻を挫かれた様に沈黙を貫いた。と同時、それによって感じるものがあったのか、碧斗ら俯き口を開く。
「...その、ごめん。俺のせいで、、後少しだったのに」
「その話は今する事じゃ無いでしょ。伊賀橋君のその攻撃だけで仕留められる保証も無かったんだし、その時のリカバリーが出来なかった私にも責任はあるから」
「...それでも」
碧斗は、既に手も足も出ない状況である事を察し、自身のミスの重大さを改めて感じる。あと少しだったというのに。
自分が失敗しなければ、あんな事にはならなかったのにと。碧斗は悔やんだ。
そんな罪悪感と劣等感に苛まれている最中でも、他の皆から作戦と呼べる案は飛び出さなかった。
「クッ」
碧斗は、汚名返上をするために拳を握りしめたのち、意識を変えて次の作戦を考え始めた。
何かないか。
現在の我々が出来る事で、最善である行動。
いや、それ以前に、まず人数が足りな過ぎるのだ。
ー相手はチーム一組と二人。いや、もしかすると更に増える可能性もある。...それを踏まえると、みんなと合流しないといけないがー
碧斗はそこまで考えたのち、ハッと。
ふと、目を見開きマーストに向き直る。
「そういえば、さっきこの地下室は王城全体に広がってるって言ってたよな?」
「は、はい。左様でございますが」
マーストの短い答えに、ニッと。碧斗は笑みを浮かべて口を開いた。
「なら、俺に考えがある」
☆
「クッ、、つ、強いっ」
二棟の樹音は、目の前の拓矢が発する暴風に耐えながら、そう言葉を漏らした。
「話し合いをするんだろ?話したらどう?」
「こんなっ、、状態でっ」
対する樹音は足を踏み込み、剣を杖にして必死に立っていた。
進の能力と根幹は同じである。それが圧力か風となったかの違い。なのだが。
「クッソッ」
「どう?結構強いでしょ?風を舐めちゃだめだよ。俺の能力は"風"。だから、風には耐性がある。つまり、どれ程強くしても、俺には被害が無いって事だ」
「っ!」
そうか、と。樹音は理解する。進の能力はあくまで空気圧。圧力の際は問題なかったものの、それが台風へと変化した際は、彼の能力とは離れたものと認識され、風の影響を彼は受けていた。
即ち。
ー岩倉君は、手加減しなくていい、のかー
進とは対照的であると理解し、樹音は剣を握る力を強くする。更には、樹音に因縁を持っており、復讐心を燃やす人物である。そんな相手ならば、尚更手加減はしないだろう。
だが、少し違和感があった。自分には影響が無いがために、思いっきり能力使用が出来る。そう言う割には、彼の能力には僅かに甘えが見て取れた。
それは、樹音に対して手を抜いているという事だろうか。だが、それを行う彼の表情からは、とてもその様なものは見受けられない。
ならば、と。樹音は思考を巡らす。
何故彼は本気を出さないのだろうか。自身を、人一人を吹き飛ばす威力なんて簡単に行える筈なのに、それを良しとしないのは何故か。
いや、それが出来ないのだ。
そう、その理由はーー
ーそうか。ここは二棟。上には普通に転生者達が居る。...岩倉君は、みんなに配慮してるんだー
樹音はそう納得すると共に、ならばと。
少し力を抜いて、あえて吹き飛ばされた事により拓矢と距離を取る。
「どうした?もうボロボロか?」
そう問う拓矢に、樹音は目つきを変える。
ーなら、風が少し弱まるところまで距離を取って、遠距離攻撃をすればー
樹音は、そう攻撃方法の変更をすると、ナイフを数本空中に出現させ、彼に向かって一斉に飛ばす。
だが。
「お前、考えてる?」
「っ!」
拓矢に到達するよりも前に、風によって数本のナイフはバランスを崩し、最終的にはーー
ーー樹音の方へと向かった。
「マズいっ!?」
声を漏らしながら、樹音は自身が放った筈のナイフを剣を使用し弾く。がしかし。
「グッ」
僅かに弾ききれなかったナイフが樹音の体に少しずつダメージを与える。
どうするか。樹音は必死で彼に攻撃を与える方法を練る。
体はボロボロ。意識は朦朧。頭はクラクラ。既に、正常な判断など出来ない状態ではあったものの、必死に。無理矢理自分を正す様に一度強く目を瞑り見開く。
近距離攻撃は、拓矢の風によって近寄れないため、出来る可能性は低いだろう。現在の体を考えれば、尚更である。
が、かといって遠距離攻撃を行ったとしても、ナイフは阻害され、逆に利用されてしまう。
ならば、どうする。
巨大な剣を生成しても重さが耐えられないだろう。ならば、と。
樹音は自身の可能性を信じ"それ"を生成する。
「ああ。ちゃんと考えてるさ」
「?」
生成したそれは。いつもと同じの、至って普通の西洋風の剣であった。
それを意気込んで生成するものだから、拓矢は肩を撫で下ろした。
が、それを樹音は構えたのちーー
「うおらっ!」
大きく自身が回転して回す。
ー投げるつもりか?さっきので学ばなかったか無能め。大きさを変えても意味はないぞー
その行動に、拓矢は鼻で笑う。がしかし。それは程よいタイミングで。
「っ!」
刃の部分が、突如極端に伸びる。
「うぉぉぉぉぉぉっ!」
樹音は気合いでそれのバランスを保ち、能力で伸ばし続ける。と、それは拓矢にまで達し、それと同時に。
「ぐふっ!?」
彼の横腹に、峰打ちする。
樹音の全身を使った全力による振りと、伸ばした時の反動による威力が合わさり、拓矢は思わず口から空気を吐き出す。
それに、樹音は更に足を踏み出し力を加えた。がしかし。
「クッ!うぉぉぉぉっ」
拓矢も負けじと、剣の威力を跳ね返す様に逆方向に暴風を吹かせる。
「クッ」「うっ」
お互いに、力と力がぶつかり合い、一向に動く気配が無い。そう思われた、次の瞬間。
「がはっ!」
樹音の腕に限界がきたようで、その風による反発で体は大きく反れ、そのため前からの暴風に吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
王城の廊下に何度も叩きつけられながら吹き飛ぶ樹音を前に、拓矢は下を向き、息を荒げる。
と、そんな時。
「樹音君」
「えっ、、な、何、」
突如、何処からか声が聞こえ、慌てて周りを見渡す。
すると。
「下だ」
「っ!碧斗君!?」
「しー。今、相手も体力がキツくて下向いてる。今のうちだ」
疑問符だらけの樹音に、話は後だと言わんばかりに碧斗は目つきを変えて頷くと、その入り口から。
彼を引っ張り入れたのだった。
☆
「と、とりあえずありがとう。助かったよ、」
樹音は、地下室内を見回しながらそう不思議そうにしながらも感謝を口にした。
「ああ。俺も助けられたんだ。こうやって」
「え」
碧斗が、こういう事だと言うように一度部屋の奥を見ると、それに続いて樹音も覗き込む。
「っ!え、ま、マーストさん!?」
「お久しぶりでございます。円城寺様」
「...っ!ご、ご無事だったんですね、」
樹音が、泣きそうになりながら言葉を漏らすと、それに続いて碧斗が切り出す。
「マーストのお陰で俺も助かった。実は王城の下には地下室があって、こんな感じで全体に巡っているらしいんだ」
「そ、それで、、僕の居場所を、」
「円城寺君探すの一苦労だったんだから」
「っ!相原さん、、良かった。無事だったんだね」
マーストを含めた三人の部屋に、分担して樹音を探していた美里が、入室する。それに、樹音は皆が無事であった事に胸を撫で下ろすと、続けて問う。
「あ、その、、沙耶ちゃんは?」
「大丈夫だ。向こうで寝てる」
「っ!よ、良かった、、じゃあ、とりあえず無事なんだね、、後は、大翔君だけか」
樹音は表情を曇らせてそう呟くと、それに碧斗は口を開く。
「それよりも、樹音君は、さっき誰と、」
「ああ、、その、回復の魔石を探しに行こうとしてたんだけど、その前に、、その、知り合いに会って、」
「あの人が知り合いか、、仲がいい。とは、言えなそうだったが、」
碧斗は、イケメンの知り合いは皆イケメンなのでは無いかと思いを馳せながら、先程の光景を思い出し放った。
「うん、、まあ、色々あって、ね。とりあえず、、みんなのお陰で、今は大丈夫そうだけど」
樹音が切り替える様に張り付いた笑みを浮かべると、すかさずマーストが割って入る。
「あの、、よろしければ、こちらを」
「えっ!?こ、これって」
マーストが手渡しをした綺麗なもの。それは、回復の魔石であった。
「い、いいん、、ですか?」
樹音は困惑しながら皆を見て放つと、一同は頷いたのち、碧斗が告げる。
「今のところみんな回復してる。マーストは少し魔力があるから、彼の魔石には更に効果があるんだ」
「そ、そんなもの、、僕が、」
罪悪感を感じながら樹音は呟くと、碧斗が力強く頷く。
「ああ。そして、少し聞いて欲しい事がある」
「!」
そう放つ碧斗は、何か作戦があると言う様な双眸を向けながら、樹音に詰め寄った。
☆
ゆっくりと地下から一階へと繋がる戸を開ける。
ーよし、、周りには誰も居ない。今のうちにー
辺りを確認した美里は、そう内心で思うと共に、足を踏み出す。
が、その瞬間。
「おやぁ?そんなコソコソとどちらに?」
「っ!あんた、」
廊下の奥から、聞き馴染みのある声。
その主、秋山美弥子が現れる。
「な、なんで、、ここに?」
美里は、焦りを隠す様に必死で取り繕いながら訊き返す。先程、大翔や智樹と共に交戦していた筈であろう。それなのに、何故。
「あらあら?そうやって強がってもバレバレよ?可愛い」
「答えなさい!」
「ふふ、質問に質問で返しておいて大口叩くのね。いいわ、可愛いから答えてあげる」
美弥子はそう前置きすると、破壊された壁の外。奥に見える王城へと視線を向ける。
「ほら。あれ」
「っ!」
美里の見つめた先。そこにはーー
四棟内。壁に大きな茎で突き刺された、大翔の姿があった。
「嘘、、でしょ、」
思わず、膝から崩れ落ちそうになるが、必死で立て直す。と。
「あんた」
美里は美弥子に向き直って鋭い目つきで睨む。
「ん?あたしがやったんじゃ無いんだけど。でも、そうやって崩れた精神を必死に保とうと目の前の人を攻撃するか弱い子犬ちゃん。やっぱり可愛いわぁ。...ほんと、壊したくなっちゃう」
頰に手を添え、息を荒げる美弥子に、美里は目を細め、内心でーー
ーー微笑んだ。
そう、これこそが作戦なのだ。
大翔の事は予想外で崩れかけたが、美弥子の誘導。これが、今回の作戦の肝であった。
『海山智樹は、そろそろ痺れを切らしてる筈だ。もう就寝時間は過ぎた。彼は、ルールに縛られる人間だからな』
『っ!なるほど、、じゃあ、私の不確定な王城誘導も、それがあったから確信してたってわけ?』
『ごめん、確かにそれもあった。でも、相原さんの頑張りは無駄じゃ無いよ』
『はぁ。それは分かってるけど』
『そこで、お願いがあるんだ。その事があるから、多分、放っておいても事態は収束する。でも、あの秋山さんって人が問題だ』
『つまり、私が止めろって事ね』
『ごめん。でも、あの人、相原さんに執着してたと思うから、相原さんにしか頼めないんだ』
『...はぁ、分かった。私、敵が多いもんね。でも、確信はあるの?』
『あ、ああ。相原さんが体を張ってくれてる間、俺はーー』
美里が美弥子と接触している同時間。
碧斗は、対する三棟で顔を出した。
「よし。...いけるな」
「っ!相原さんが見える、」
呟き地下から抜け出す碧斗の、背後を歩く樹音が、対面の二棟に目をやり、声を漏らした。
それに気づいた碧斗は、慌ててしゃがみ、彼に耳打ちする。
「マズい。なるべく視線をこっちに向かせない様にとは言っておいたけど、もしもの場合もある。隠れながら、行くぞ」
「うん」
そう。対する碧斗の目的は、大翔の回収と時間内の間、智樹を止める事。
他の参入者が居れば、また智樹は攻撃を再開し、戦いを求めるだろう。それを、無くすのが我々の任務である。
智樹はルールを守る人物だ。そのため、就寝の時刻にはきちんと自身の部屋へと戻る事が予想出来る。それを逆手に取り、それまでの間、彼を一人で居続けさせる。それが、今回の作戦である。
碧斗と樹音はそう自身の役割を再確認し、目を合わせて頷いた。と、そののち。
「行こう」「うん!」
二人は大翔の回収のため足を踏み出した。
が、その瞬間だった。
「ごふぁっ!」
「...え?」
何かが突き刺さる音と共に、樹音が血を吐き出す声を上げる。それに、冷や汗をかきながら、碧斗はゆっくりと振り向く。
いや、ありえない。
先程確認した際には誰もいなかった。
智樹が帰って来たという事も無いだろう。これ程、我々は過敏に警戒していたのだ。
ならば、と。
碧斗はそれを目撃し目を剥いた。
ありえない。
信じたくは無いと。
「ごふぁ、、あ、碧斗、くっ」
「はぁ、はっ、はぁ!はぁ!なんで、なんでだよっ!」
痛みに耐える様に歯を食い縛りながら放つ樹音の背後。
碧斗はその人物を見据え、息を荒げた。
そこに居たのは。
樹音の体をナイフの様な形状の"石"で突き刺すーー
ーー水篠沙耶の姿だった。




