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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第5章 : 啀み合いと狂気(フォリィ)
158/301

158.攻撃体勢

「はっ!?」「へ、」


 地面及び一帯が薄暗くなっている事に気づき、碧斗(あいと)美里(みさと)は短く息を漏らす。

 と、それの理由が空から降り注ぐ。いや、まるで天の青がそのまま降ってくるかの如く、大量の水分がこちらに向かった。


「嘘だろっ!?」


 碧斗は慌てて辺りを見渡す。言わずもがな、美里と碧斗は泳げないのだ。この場一帯が水で覆われたら、中庭が巨大プールとなるだろう。

 ここで溺死する事だけは避けねばと。碧斗は何を思うでも無く走り出す。


相原(あいはら)さん!早くっ!逃げないと!」


「っ!」


 絶望に空を見上げたまま遠い目をしていた美里に、碧斗はそう促すと足を早める。

 が、しかし。


ーマズい、これじゃあ間に合わない。それに、やっぱみんなを置いてはいけないか、ー


 碧斗はそう半ば諦めと改めをし、向きを変える。


「おぉ〜。凄いなぁ、これが水か」


 と、対する智樹(ともき)は関心を口にし空を見上げる。

 それに、碧斗は最後の足掻きと言わんばかりに、沙耶(さや)を持ち上げようと、彼女に駆け寄った。

 刹那。


「いが、は、しっ、くん」


「えっ」


 沙耶が最後の力を振り絞って名を零すと同時、碧斗と沙耶。美里、大翔(ひろと)と。その場の全員が岩で覆われた。


「み、水篠(みずしの)さん!?何やってんの!?」


「ぅ、ぁ、、だって、、みんな、死んじゃう、」


「そんなっ」


 それだからってと言いかけて、碧斗は口を噤む。恐らく、自身も沙耶の立場であればそうしていただろう。

 碧斗は「正しい」判断をした、左腕の無い小さな身体を必死で抱きしめ、目つきを変えた。

 こんなにも抵抗無く女子の体を触れたのは初めてだろう。碧斗はそんな自身への成長すら忘れて、沙耶を絶対に助けると胸中で覚悟を決めた。

 対する岩の外では、突如として降り注いだ多量の水によって、王城の窓は圧力で破れ、破壊された壁から侵入し、洪水の如く城の中を水浸しにした。

 と、その後。


「うっ、っ!」


 その、薄暗い沙耶と碧斗の二人だけの空間に、目を覆いたくなる程の光が差し込む。そう、岩が砕けたのだ。それによって。


「うわっ!?うっ!...って」


 水が押し寄せると予想した碧斗は、情けない声を上げるがしかし。既に半分以上の水は王城の窓及び壊れた壁を使って外に出ており、中庭には「水が降った跡」のみが、至る所に染みという形で現れていた。

 そしてそんな悲劇が起こった矢先である事を、足元の裾に浸かる水が物語っていた。

 その大量の水分が王城を破壊し外部へ逃げた事を理解するのには十分過ぎる有様を前に、碧斗は思わず震えた。


ーなんだよ、、これ、こんなの、災害じゃないか、、こんな事して、、いや、それよりも、王城の人達は大丈夫なのか、?ー


 碧斗は、その能力によるものとは思えない悲惨な有様に、度肝を抜かれながら辺りを見渡した。と、それと同時に。

 碧斗はそのまま隣で横たわる沙耶に視線を落とす。


ーこれに耐えれる耐久度を持った岩を作り出してくれたのか、、水篠さんはー


 それを思うと胸が痛くなった。ならば尚更死なせるわけにはいかないと。碧斗は周りを見渡した時に発見した、「それ」に。

 奥でゆっくり起き上がる美里を経由して目線を動かす事により、彼女にそれを訴えると、碧斗は考えるよりも前に足を踏み出す。


「っ!これって、」


「相原さん!とりあえず今は逃げるよ!」


 碧斗は同じく驚愕する美里を横切りながらそう促すとその先に浮かぶ、"沙耶の左腕"を掴み、足を早め彼女の元へ戻る。


「に、逃げるって言っても、」


 沙耶を持ち上げようと奮闘する碧斗の隣で、美里はそう言葉を濁した。

 それは碧斗も同じである。この中庭で横たわっているのは、沙耶だけでは無いのだ。だが。


ークソッ、、大翔君は俺達二人で運べるとは思えないし。樹音(みきと)君は無事かどうかも危うい。...食虫植物の消化は遅いって言ってたし、もし危険な状態ならいち早く向かうべきだが、、あの落とし穴にあの量の水が降ったと、するとー


「クソッ」


 碧斗は、後ろ向きな考えが脳を過り、必死で頭を振る。と、そののち。


「とりあえずだ!まずは水篠さんを王城内に運ぶ!他のみんなはそれからだ!」


 碧斗は、この限られた時間で出来る事を。まず残された我々で出来る事を即座に考え、美里に必死に促す。と、それを美里も受け取った様で「分かった」と力強く頷いた。

 すると、それがまるで合図だったかの如く、美里が碧斗の隣に足を進め、沙耶を二人で一緒に持ち上げると同時。

 中庭を覆い尽くす程の煙を放出した。


「おおぉぉぉ。一番やっちゃいけない事しちゃったなぁ」


 少し今までよりも感情がこもった声音で、智樹は空を見上げながら中庭で立ち上がる。


「あれ程の水量。水害。経験したかったのに。俺をこんな岩で守って」


 そこまで宙に向かって放つと、拳を強く握りしめて先程碧斗達の居た方向へと視線を動かし付け足す。


「おもしろくない」


 そう歯嚙みした智樹の背後。四棟の三階から美弥子(みやこ)が顔を出す。


「あら〜?どうやら、見逃しちゃったみたいね」


「どこかのお節介のせいでね」


 その発言に、怒りを露わにしながら智樹は振り返り、言葉を返した。と、そののち。

 智樹は怒りを露わにしたまま、今度は美弥子を睨みつけて口を開く。


「それにしてもさ。何やってるの?」


「え?」


「こんな大洪水起こして。覚えてないの?国王様への冒涜及び無礼は禁止だって。最初に言われたよね?」


 更に声を大にし、美弥子に詰め寄る。それに対し、彼女はキョトンとした表情で首を傾げる。


「へぇ?君、そういうのは気にするんだ。可愛い」


 と、美弥子は智樹の一言で何かを察し、ふふっとニヤケながら手を頰に添えそう続けた。


「もっとやりたくなっちゃうわぁ」


「碧斗君といい、美弥子ちゃんといい。どうしてここにはルールを守らない調和を乱す様な存在しかいないのかな」


 言葉こそは淡々としていたものの、智樹は足を何度も地面に打ち付けており、怒りが溜まっているのが見て取れた。

 と、次の瞬間。


「ルールを乱すなら、去れよ」


「っ!」


 智樹が声のトーンを落として、美弥子を見つめて放つと共に、中庭の焼き焦げ水浸しになった地面から。

 突如巨大な樹木が、王城の縦一・五倍程の大きさまで伸びて、その後ーー

 ーーそれと同じ程の巨大な茎が全方向に。

 王城を全壊させる程の勢いで生えては建物ごと貫き荒らす。


「あらぁ〜。怒っちゃったの?...でも、そんな事したら君の言う国王様に危害加えちゃうんじゃ無い?」


 尚も歪んだ笑顔を崩さずに廊下内で茎を避けながら、美弥子は挑発的に放つ。すると、智樹の背後。

 一棟の屋上から。突如巨大な植物が現れたかと思うと、それがゆっくりと開き、中に蔓で巻きつけられた"それ"を美弥子に見せつけるかの様に露わにする。


「安心してよ。俺はルールを破る人間とは違う」


 誇らしげに微笑む智樹の背後で、蔓に巻きつけられていたのは、他でも無い。

 国王。本人であった。


「うっ、クッ!?わ、私をっ、どうしようと!?」


「大丈夫ですよ。安心してください。私は勿論、貴方様に危害を加える気は微塵もございません」


「なるほどね。そういう事」


 国王と智樹が互いに言葉を交わす中、美弥子は攻撃を交わす中で目を細める。


「い、一体どうなっているんだ!?私の宮殿はっ!?みんなはっ!?」


「だから安心してくださいって。国王様に危害は与えませんよ」


「...な、なら、この戦いを収めてくれないだろうか。そ、それか、この(いくさ)の間、私もこのまま護ってくれさえすればーー」


「何言ってるんですか?」


「え、?」


 必死に周りの状況を確認しながら"国王の名に相応しい態度"を作ろうとしていたものの、更に絡まる蔓や、更に激しくなる茎の攻撃に、国王は情け無くとも自身の命を乞うた。

 が。


「この世界のルールで言われていたのは、貴方様に冒涜や暴行、罵倒、無礼を行うのは禁止って事だけですよね?」


「え、ええ」


「別に、"貴方を守れ"なんて条約は、告げられていない」


 無慈悲にも、智樹はそう短く国王に返す。と、そののち。


「へぇ〜。そういう顔も出来るのね。素敵よ、智樹君っ?」


 それを見届けた美弥子は、茎から逃れる様に王城から跳び出すと、空中で笑い大量の水をまたもや放ったのだった。


            ☆


「っ!ま、またかっ!」


 空中で笑って放たれた大量の水によって、一棟の館の一部が破壊され押し流される。


ーこのままだと街の人達がー


 その光景及び衝撃に反応した碧斗は、反射的にそちらに振り返る。

 がしかし。


伊賀橋(いがはし)君危ない!」


「っ!」


 その一瞬が命取りだと言うように。碧斗が沙耶を連れ逃げた先である廊下を破壊し、そこで蠢く巨大な茎が、突如こちらに向かい美里は慌てて声を荒げる。


「っ!ふ、ふぅ、ふー、あ、あんたねぇ!」


 と、既のところで美里の炎が壁を作り、なんとか難を逃れた碧斗は、彼女の怒りに冷や汗混じりに謝罪を返した。


「...と、とりあえずっ、逃げられたのは逃げられた、、けど、」


 息を正し改める様にして、茎の攻撃を避けながら美里は切り出す。


「...水篠さんを、なんとかしないといけない、、が、」


 それに、碧斗も茎を避けながら言葉を濁す。現状、この突如として始まった彼の異常なまでの攻撃を避けるのに精一杯である。

 更に、沙耶を守りながらならば尚更だ。故に、樹音や大翔の回収は愚か、彼女を回復させる事も困難となっていた。

 そのため、二人は限界の近づく体を必死に可動させながら、諦めを僅かに考える。

 と、その時だった。


「っ!」


 更にその思いに拍車をかける様に。

 我々の居る廊下。いや、この館全体の廊下にーー

 およそ三メートル程の高さを誇る、ギザギザとした葉が特徴的な、緑色の植物が大量に。僅かな隙間を残して生える。


「な、なんだっ!?これっ」


「っ!?駄目っ!触れないで!」


 その姿を目にし、突如目の色を変える美里。


「ど、どうしーー」


「それはっ、ジャイアント・ホグウィード。ちょっとでも触れたら、皮膚が壊れて、体を蝕むの!更に触れると液体が出て、もしそれが目にでも入ったりしたら見えなくなる」


「なっ!?そ、そんなっ!?み、水篠さんは!?」


 碧斗は、その耳を疑う様な狂気的な植物に、動揺から言葉がおかしくなったものの、ならば沙耶はと言わんばかりに、慌てて振り返った。

 と、その先。なんとか沙耶にはそれが触れていなかった様で、僅かであったが碧斗はホッと胸を撫で下ろす。


「気は抜けない。これは既に普通の植物じゃ無くて、あいつの能力なの。動く事がない植物が、突然動く可能性だって高い」


「っ!...ま、まずいな、それは」


 ギリッと。碧斗は歯軋りして危機感を露わにする。これでは、茎の攻撃を避ける事が出来ないではないかと。辺りにジャイアント・ホグウィードが生えたがために、移動敷地が狭まったのだ。


ーこれじゃあ、水篠さんも、大翔君も、、樹音君も、っ!ー


 最悪な状況を察して拳を握りしめる。このままでは、碧斗を含め皆が死んでしまうと。いや、それよりも、もっと広いかもしれない。この凶悪な植物が王城全体に生えているのであれば、何人犠牲者が出るか、知れたものでは無い。

 皆を救うために争いを終わらせようと行動し、罪のない人々を巻き込ませないために王城に来たと言うのに。これでは、逆効果では無いか。

 王城の人達は我々と違い本当の命である。

 それを理解すると共に、碧斗は胸が締め付けられた。と、刹那。


「伊賀橋君!何やってるわけ!?」


「っ!まずっーー」


 碧斗は横から回り込んで向かってくる茎を、考え事によって視界から外しており、慌てて避けようと体を反った。


 ーーが、今度はそれによって。


 彼の背後に、ジャイアント・ホグウィードが迫っていた。


 駄目だ。

 逃げられない。

 手を前に出す美里が、遠ざかって行く。

 それを理解した瞬間、触れた背中の表面から始まり、爪先にまで電撃の如く激痛が駆け巡る。


「がああぁぁぁぁぁぁっ!?」


 もっと、楽な死に方で終わりたかった。


「伊賀橋君っ!?」


 もっと、綺麗な死に方が良かった。


「うっ、ぐぁぁぁぁぁぁっ!?」


 もっと、かっこよく、皆の役に立って死にたかった。


「はぁっ!はぁぁっ!クゥ、うぅぅぅぅぅぅぅっ!」


 もっと、戦いたかった。

 もっと、みんなと共に居たかった。

 もっと

 もっと


 ああ。

 もっと、生きたかった。

 いや。

 いやだ。

 死にたくない。


「っ」


「!」


 そう強く思い目を瞑ったと同時。廊下に生えたそれを全て刈りながら、触れそうになるそれを伐採し、碧斗の目の前にーー


 ーー樹音が現れる。


「樹音っ、君、」「円城寺(えんじょうじ)君!?」


 碧斗と美里がそう驚きを露わにすると、目の前の彼は振り返り綺麗な汗を袖で拭き取りながら笑顔を作った。


「お待たせ。碧斗君」


 そう放つ樹音は、美里を含めた我々の周辺の植物を全て斬り刻み、息を吐いた。


「円城寺君、あんた、、一体どうして、」


「相原さんの言う通り、消化に時間がかかるみたいだね。僕の速度が勝ったみたいだ」


「でも、、円城寺君は地中にいたわけだし、あの量の水を、どうやって避けて、、あっ!」


「...気づいた?僕の能力は刃。剣じゃ無いからね。あの時咄嗟に穴を掘って移動してたんだ。熊手(レーキ)を作って、ね」


 碧斗を一瞥したのち、またもや美里に振り返り、剣を持つ反対の手にレーキを作り上げて見せる。


「グラムさんの農作業で使ってたし、いつも見てたから、僕でも作れないかとずっと観察してたんだ。まぁ、中庭の土が硬かった事が救いだったかな」


「...あんた、」


 そう笑う樹音に、体の力を抜く様に、美里は息を大きく吐く様にそう優しく言葉を漏らす。と、こうしてはいられないと、樹音は碧斗に向き直り、しゃがんではポケットから"それ"を取り出す。


「碧斗君、大丈夫。まだ大した時間は経ってないから、症状は浅い。これでなんとかなるはず」


 そう言うと、樹音は取り出した先程の魔法石を碧斗に(かざ)して治療を始める。

 一、二分後、美里が茎の相手をしてくれていた事もあり、碧斗の状態は完治まではいかないが、動けるまでに回復した。


「あ、ありがとう、、樹音君」


「ううん。早く着けて良かった。そのお陰で直ぐに終われた」


 罪悪感を感じながら、弱々しく感謝を伝える碧斗に、手を差し伸べながら樹音は優しく放った。それにも。


「ありがとう」


 それしか思い浮かばなかったと言われればそうだが、この言葉が一番適切だろう。碧斗はそれ以上は要らないと言うように強く彼の手を掴んだ。


「よっし。それじゃあ、ここからは任せてくれ」


 樹音の助けを借り起き上がった碧斗は、目つきを変えて美里に口を開く。


「え、」


「樹音君。魔力はまだいけそう?」


「分からないけど、碧斗君には大した魔力は使ってないと思うよ」


 意味が分からず振り返る美里に、碧斗は樹音に問う。と、そののち、その答えに一度頷くと、碧斗は美里に足を進めそう続けた。


「お願いだ。水篠さんの回復を頼めないかな?それと、まだ残ってたら、相原さんも」


「え、何言って」


「そうだね」


 碧斗が真剣に伝えると、続いて樹音も微笑んで魔石を美里に託す。


「私はまだーー」


「分かってる。でも、水篠さんを診られるのは相原さんだけだ。作戦に必ず必要な俺と、回復が済んでる樹音君。最後はこの二人でなんとかしなきゃいけないから」


「私はっ!...ん、ううん、、わかった。絶対、、絶対、だからね」


 美里を横切り、巨大な茎とジャイアント・ホグウィードを前に、碧斗はふと振り返り告げる。

 それに、反対を口にしようとした美里だったが、その本気の瞳を前に、口を噤んで樹音から魔石を受け取った。

 すると。


「相原さん。それと、最後のお願い。僕の剣に、、お願い」


「っ!...分かった」


 美里は樹音の一言で察し、彼が前に差し出す剣の刃に炎を纏わせる。


「消さないでよ?」


「ははは、しないよ」


 美里が炎の鎮火を冗談混じりに注意する。それに、樹音は同じく冗談めかして笑って答えると「ありがとう」と。今度は真剣な表情で感謝を述べて、碧斗の方へ足を進める。


「それじゃあ、、行くぞ。作戦、最終フェーズ」


「うん。これで、決める!」


 二人が徒競走のスタートラインの如く、並んで構える。

 と、二人のその発言と共にーー


「「おぉらぁぁぁっ!」」


 ーー足を強く踏み出した。


 先陣を切って、樹音はジャイアント・ホグウィードを全て刈り、巨大な茎を斬り刻んで進む。その後ろから、彼より少し遅く。いや、碧斗にとっては精一杯の速度で追う。

 すると、そんな中。


ーっ!大翔君、!?ー


 足を早めながら、廊下の外。中庭にふと目をやる。そこには、大翔。


 彼の姿は無かった。


ー流されたのか、?いや、それは無い。さっき横たわっていたのを確認した、、その時の場所を考えると、、その後の一撃で流されたとは考え難い、、だとするとー


 碧斗はそれに僅かな希望を抱きながら、少し口角を上げて前に向き直る。

 すると、それと同時。

 樹音は"その場所"に到達し、足を止めたと思われた、次の瞬間。

 巨大な茎を斬り裂いた際に跳躍した、そのままの状態で、空中に刃を生成してはそれに足を着き、その上で向きを変えてーー

 ーー中庭。そう、智樹のいる方向に。

 思いっきり、突き進むために刃を蹴る。


「っ」


 それに気づいた智樹は、美弥子を前に目を逸らす。すると、その隙にと言わんばかりに、彼女による水の集中攻撃が、肩を貫く。


「ぐふっ」


「あらぁ?お話中によそ見なんて、随分生意気になったのねぇ」


 今しか無いと。樹音は回転をかけて、智樹に向かう。

 その向かう先は、左腕。

 そこに向かう樹音の剣は、"炎は纏っていない"。普段と同じものであった。


「くらえぇぇぇっ」


 樹音は声を大にし、刃を智樹に立てる。が。

 その矢先。


「グブォェッ!?」


 樹音の右足を。足に刺さるには大き過ぎる茎が突き刺さり、樹音のその勢いは絶たれる。


「がはっ!」


「君のそれは、、おもしろくない。言ったでしょ」


 先程美弥子の攻撃を喰らったのにも関わらず、智樹は至って平然とした態度で息を吐く。それに、怒りを感じーー


 ーーるわけもなく。寧ろ樹音は、彼に向かって。


 ニヤリと微笑んだ。

 それはまるで、碧斗の様に。


「僕、そこまで平和ボケしてると思う?」


「っ」


 それに、僅かに目を剥いた。刹那。

 背後から飛んで来た「炎の纏った剣」が、智樹の左腕を抉り、引きちぎれる。と、それだけでは終わらず。

 智樹の背中に、ゼロ距離で生成されたナイフが大量に突き刺さる。


「ブフッ!」


「まあまあ、びっくりしちゃうわぁ」


「飛ばせるのはナイフだけだとっ、思わない事だね!僕はいつも短剣ばっかり放ってるけど、僕の能力は生成と、それを操る事。剣も、その生成物の一つっ!」


 血を吐き出す智樹に、それに震える美弥子。そんな姿を一瞥しながら、樹音は最後の力を振り絞って笑みを浮かべる。と、そののち。


「そして、これで」


「終わりだ」


 樹音が掠れた声で促すと、その背後。

 廊下から足を踏み出した碧斗は、足を早めたまま能力を起動させる。


 一酸化炭素を含んだ、有毒な煙を。

 あの時と同じ様に、智樹に纏わり付かせる。

 能力の調整で、絶対に離れず。

 彼の体内に、確実に異常をきたす程の量を。

 碧斗は指を鳴らし、彼の顔周りにそれを発生させようとした。


 ーーが、その瞬間。


「っ!?」


 ぐらりと。目の前が大きく歪み、碧斗はその場に走って現れたのもあり、勢い良く倒れ込む。


「がはっ!」


「えっ、碧斗君!?」


 あと少しだった。

 勝利が目前に迫ったその瞬間に訪れた、そんな衝撃の事態に、足に突き刺さり宙ぶらりんとなっている樹音は、絶望と驚きと共に、不安げに振り返った。

 そんな樹音の視線を受けながら、全身が麻痺した様に痙攣し、視界が狭まり、頭が割れる程の頭痛が襲っている碧斗は、瞬間、意識が途切れた。

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