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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第5章 : 啀み合いと狂気(フォリィ)
153/300

153.秘密

「クッ!」


「やっ!」


 目の前に現れる植物の数々を、樹音(みきと)沙耶(さや)がそれぞれ裂く中、碧斗(あいと)は思考を巡らせた。


ー次の作戦を、、早く、早く考えないとー


 皆がボロボロの体で戦う姿を目にし、焦りを覚えながら碧斗は辺りを見渡した。

 だが、その瞬間。


「グハッ!」「ギィ!?」「ガアッ!」


「「「「っ!?」」」」


 突如、茎は王城の廊下へと伸び、その場に居た騎士達を貫く。


「嘘だろ」


 思わず声が漏れた。智樹(ともき)は。いや、この化け物は、本当に無差別に行なっているのだと。

 それにより、王城の人やパニッシュメント。他の転生者全員の標的を智樹に移し、協力して勝利する。そんな碧斗の作戦が、既に王城に突き刺さる巨大な茎によって出来なくなったという事である。

 そんな絶望が脳を過り、首を振る。

 それが第一に頭に浮かぶなんて。騎士達の命の心配が先ではないかと。

 僅かに狂い始めた自身の価値観に、慌てて修正を(ほどこ)す碧斗は、改めて目つきを変えた。


ーどうする、?俺達が今駆けつけたところで、回復なんてものは出来ないし、運ぶにしても、標的が俺達なんだから逆効果かー


 それ以前に、この状況をどうにかせずに、救助には向かえないと。碧斗は歯嚙みする。

 と、それと同時。


「っ!」


 斬り付ける樹音や沙耶との間に、僅かに出来た距離。

 そこからーー


 細長くも鋭い茎が生え、碧斗に向かった。


「っ、碧斗君!」「「伊賀橋(いがはし)君!」」


 それに気づいた一同は、反射的に名を叫んだ。がしかし。それぞれ皆にも茎が向かっており、そちらに対応するのは不可能であった。

 故に、碧斗は自身で避けようと身を捻る。が、次の瞬間。


「よぉ!さっきからウザいんだよねぇ、そーゆーの。だからさ、黙っててもらえる?」


 そう大声を上げ、智樹の方向へと跳躍したーー


 ーー渡り廊下から現れた、智也(ともや)


 彼はそこまでを大きく放ったのち、電気を利用して屋上へと壁に手をつき軽々と跳び上がり、声を低くしてそう付け足した。


「一生ね」


「君、懲りないね」


 智樹が微笑んだまま放つと、瞬間。

 その場一帯が、閃光に包まれたのち雷鳴が鳴り響いた。


「「「「「クッ」」」」」


 その場の全員が、目を強く瞑り息を飲む。

 阿久津(あくつ)智也は、海山(みやま)智樹に自らが近づき、電気に耐性のある自身を経由して、強大な(いかずち)を彼に直撃させたのである。

 が、しかし。


「っ!」


「効かないって、言った筈だけど、、あ、いや、君はその時ここに居なかったか」


 瞬時に木を成長させて自身を守る様に、包み込む様に形状を変えた智樹は、ゆっくりとその樹木を動かして、生きている自分の顔を智也に見せつけた。

 すると、刹那。


「なっ、にっ!?」


 阿久津智也の足を、がっしりと。足元から生えた蔓が掴み、大きく振り上げ、そのまま放り投げる。


「がふぁっ!?」


「智也君、」


 それにより、一棟の屋上とは対極に位置する、四棟の壁に勢いよく激突し智也は緩まった口から血を吐き出す。

 その悲惨な姿に、碧斗は思わず、弱々しく名を呟く。

 が僅かに、智也の口元は綻んでいた。


「こうしちゃいられない、早く本体をどうにかしないと」


「そうだね。まずはこの状況をなんとかしないと」


「私が防ぐから、その隙にみんなで攻撃すれば、、いける、かな?」


 智也の攻撃によってこちらに向かう茎が、一瞬ではあるが動きを止めた事により、美里(みさと)と樹音、沙耶はそれぞれ止まった茎を一掃しながら口々に呟いた。と、そののちーー


「なっ」


 突如、背後から茎が生える音が聞こえ、碧斗は思わず振り返る。

 すると、そこには。


「クソッ」


 弱々しく壁にもたれかかる智也に向かって、とどめと言うべきタイミングで追撃を行なっている光景が広がっていた。


「させない」


 が、直ぐにそれを止めるべく、愛梨(あいり)が矢を放ち茎に突き刺したのち焼き払う。

 その僅かに訪れた安息の時間に、碧斗は安堵した。がしかし。


「えっ」


「っ!」


 それを阻止した愛梨の背後には既に、細長く、注意を向けていなければ気づかないであろう太さの茎が。

 彼女の腹に迫っていた。


「マズーー」


「ゴフッ!」


 碧斗が声を上げようとしたと同時に、愛梨の横腹を。

 茎が抉る様にして突き刺さった。


「あ、愛、、梨」


 歯を噛み締め、智也が呻く。

 だが、内心でーー


 智也は作戦通りだと、目つきを変えた。


ー碧斗。お前はすげぇよ、俺達も、王城の人も、仲間だって。みんなまとめあげた。全員が自分を狙ってた状態から、標的を変える作戦でだ。でも、俺だってそれくらい、、それくらい出来る。やってみせるー


 智也は、張り合う様な、挑戦的な目つきで碧斗を一瞬見据えたのち、その視線を二棟の方へと動かす。


ー全員の標的を智樹に移す方法。それは、簡単だ。みんなが彼に怒りを感じればいい。その第一段階が俺への攻撃。そして、第二段階は愛梨への攻撃。...この、第二段階だけで一人は確実にいけるー


 智也がそこまで胸中で思うと同時に。

 目線の先、二棟からはーー


「愛梨ちゃんに、、何やっとんじゃボケェーッ!」


 ーーそう声を荒げ、清宮奈帆(せいみやなほ)が翼をはためかせ現れた。


「「「「っ!」」」」


 その場の皆が目を見開いた瞬間、奈帆は空中で一回転したのち翼を大きく広げ、樹木や植物の数々に紛れた智樹に向かって、大量の羽根を放った。

 しかし、それを巨大な茎を自身の前に隔て、羽根を全て防ぐ。まるで、こんな細いもので勝てると思ったのかと問う様に、彼女を見つめて。

 が、奈帆もそれのみでは無く、多量の羽根を放ったのち、空中で回転を始める。


「これはっ、愛梨ちゃんの分ッ、仕返しだぁーっ!」


 奈帆は叫ぶと共に、回転しながら防いだ茎に近づくと、その勢い及び回転威力を糧にして蹴りを入れる。

 だが。


「うわ、、全然動かないじゃん」


 ビクともしない茎に冷や汗をかくと、そののち。

 その茎から枝分かれするようにして蔓が生え、彼女の蹴りつけた足に巻き付き、それを持ち上げるとーー


「うえぇっ!?」


 愛梨の方向へと放り投げた、が。


「っとぉ!全然反省してないねっ!」


 奈帆は空中で吹き飛ばされるのを封じ、体を一回転させると翼を広げまたもや羽根を大量に放つ。


「そうか、空中でも自由に動けるのかぁ」


 と、その姿に智樹は目を少し見開く。

 それを、前に隔てた茎で同じく防いだのち、智樹 はその姿を確認するべく前にある巨大な茎を僅かにズラす。

 が、それと同時にーー

 ーー茎を動かし、一瞬露わになった智樹の顔面に向かって。

 矢が。目で捉えるのがやっとという速度で、放たれる。


「お」


 それに、小さく吐息の様な呟きを漏らすと、次の瞬間。

 彼の場所で、強大な爆破が起こった。


「へへへいっ!どうだ!」


 その光景を見届けた奈帆は、空中で胸を張って笑うと、愛梨もまた得意げに鼻を鳴らした。

 そんな彼女に気づいた奈帆は、慌てて振り返る。それに、愛梨は少し息を切らしながらも、優しく微笑んで無事である事を目で訴える。


「愛梨ちゃん、大丈ーーぶっ」


 安否の心配を口にしながら、愛梨の元へと降下する奈帆に、小さく手を伸ばす愛梨だった。が。

 彼女に到達するよりも前に、奈帆の開いた口からは言葉で無く赤黒いものが吹き出し、それを眼前に捉えた愛梨からは、先程の優しい笑顔がゆっくりと消え失せた。

 奈帆に向けられたその視線は、静かにその「元凶」なる部分に移り、その先。奈帆の"足"には植物が突き刺さったのち巻きついていた。


「くぅっっ!いぃっだっ!クッ、、あんたーー」


 奈帆が痛みに声を荒げながら、怒りを智樹に向け振り返る。

 だが、それを言い終わるよりも前にーー

 ーー脚に巻きついたまま、彼女を持ち上げて。今度は地面に叩きつけた。


「ぐはっ!?」


 奈帆はその威力により血を吐き出したのち、駆け寄る愛梨を横目に地に這いつくばり智樹を睨みつける。

 と、その表情と双眸に。


「いいね。思ったよりいい目してるよ」


 先程よりも火傷の跡が広がった顔で、智樹は笑みを浮かべる。

 がその後、隣から怒りを見せながら涼太(りょうた)が割って入る。


「お前。俺のメンバーに何やってんだ。俺達の邪魔すんなって、今さっき言ったばっかだよな?」


 歯嚙みし、愛梨に攻撃をした事に対する怒りを見せた。がしかし、対する智樹は悪びれる様子もなく、その幸せが溢れそうになる満面の笑みで振り返った。


「メンバー?君のメンバーの事は知らないよ。別に俺はメンバーの一員じゃ無いし。いいじゃん。それよりも、涼太君。君の能力をまだ喰らって無いんだけど。ほら、邪魔したよ。だから見せてよ、感じさせてよ。死に直面する恐怖を。それによって実感する生という名の甘美を」


「...ハッ、相変わらずとち狂ってるな。正直、俺達の目的を達成するのに、お前は一番邪魔だ。順序を大事にしたい主義だが、仕方ない」


 そんな智樹に鼻で笑うと、涼太はそうぼやいたのち、声のトーンを落とし突きつけた。


「安心しろ、直ぐそれを味合わせてやる。...ま、それを実感するのはあの世でかもしれないけどなぁっ!」


 涼太はそう声を荒げると、構えて放とうとする。

 が。


「ごぶぅっ!?」


 次の瞬間訪れたのは、智樹の死では無く、涼太の両脚と腹、胸にそれぞれ茎が突き刺さった現実だった。

 その現実を目にし、智樹は笑顔を崩さずにそれを放った。


「セイタカアワダチソウ」


「ハッ、なんだそれ」


 口周りを赤く染め、痛みに耐えながら、涼太はそう引きつった笑みを浮かべたのだった。


            ☆


「うっわ、、やってるやってる」


 王城の裏。大回りをし四棟の裏に到着した、一人の男が屋根上から僅かに見えるその様子を地上から遠目で観察し、苦笑を浮かべ思わず呟いた。


「やっぱこうなるか、、あれで拍車がかかったか?それとも、あいつか」


 そう零し目を細めるーー


 ーー桐ヶ谷(きりがや)修也(しゅうや)は、地面に軽く手をついて目つきを変えた。


ーどちらにせよ、この状況は使える。集まってるこの隙に、全員秒殺して、さっさと戻るかー


 胸中で呟いたのち、修也は手に力を集中させて氷山を生やそうと能力を発動する。それを利用し、屋上へと昇ろうというのだ。

 だが、それを実行に移すよりも前に、背後からゆっくりと。


 芝生を踏む足音が近づく。


「...なんだ?」


 それに気づいた修也は、息を吐いて構える姿勢を正し体を起こすと、前を向いたまま息を吐いて放つ。

 と、それに。


「ねぇ。何する気?」


「何って、、お前俺のこと分かってるだろ?どんな奴かって事くらい」


 首に手をやり捻りながら、呆れたように返す修也。


「皆殺しがお望み?」


「ご名答」


 それを告げられ初めて、修也は振り返り口を開く。

 そこに居たのは青がかったストレートロングの女子であり、凛々しさを感じる容姿であるものの、服装はヒラヒラとはためかせた可愛らしいものであり、好みも性格も真逆な。

 鶴来愛華(つるぎあいか)の姿であった。

 彼女は修也を穴が開く程睨みつけながら、ゆっくりと近づいた。


「にしても珍しいな。戦いに興味は無いんじゃなかったのか?」


「碧斗を殺そうとしてるんでしょ?なら話は別。そんな奴、放って置けない」


 威圧感を表へ剥き出しにしながら、愛華は数メートルの距離にまで迫るとふと立ち止まる。

 すると、修也はため息を吐いて疑問を告げた。


「それなら、屋上に居るあいつもそうだろーがよ。伊賀橋碧斗を殺そうとしてんのは、俺だけじゃねんだぞ?」


 まるで、自身だけが止められる事が不公平である様に、修也は文句の混じった返しを口にする。

 が、しかし。


「問題はそこじゃ無いよ。碧斗は今、、いや、ずっと。命懸けで戦ってるの。だから、今更止めるつもり無いし、するつもりも、、そもそも、そんな資格もない」


 一同が激戦を行いながら王城へと向かっていた姿を追って来たであろう愛華は、少し視線を落としながらしっかりとした声音であったものの、声量を段々と下げながらぼやいた。

 恐らく、何か。いや、彼らと比較しているのだろう。

 だが、その後直ぐに目つきを変え、声を上げる。


 「だから」と。


「だから、私が言ってるのはそうじゃ無い。今、必死で命懸けて戦ってるみんなの、邪魔はさせないって話」


 胸を張り、力を込めて口にする愛華に修也はそんな願いでしか無い様な発言に苦笑すると、嫌味の様に返す。


「ならどうする?代わりに俺と戦うか?殺すか?」


「ううん。戦わないし殺さない。それに、まず...攻撃すらしない」


「何?」


 修也の返しに、動揺すら見せずに、すぐに答えてみせる。


「私は修也に傷一つ負わせないし、危害は加えない」


「ハッ、ならどうすんだよ。攻撃しねぇとみんな殺るぞ?」


 能力で空中に氷柱の様なものを出現させ、修也は攻撃体勢へと移る。

 だが、愛華は尚も真剣な表情で、負けじと体勢を整えて告げた。


「私の能力で貴方を、全てが終わるまで、止め続ける」


            ☆


「ふぅ、、逃げてきて正解だったぁ。もうぐっちゃぐちゃじゃーん」


 四棟の三階へと逃げて来た歩美(あゆみ)は、先程自身がいた二棟を眺めながら息を吐いた。


「ほんと、みんなやばいね。現実世界がいかに最悪な場所か思い知らされるよ。いや、寧ろ逆?うーん、難しい」


 皆の争う姿を見下ろしながら、歩美はそう苦笑いを浮かべたのち首を捻った。

 と、その後一度息を吐いて、窓に映る自分の姿をうっとりと見つめて小さく零した。


「まあ、私は違うけどね」


 それだけを放つと、無言のまま窓に手をやる。が、その時ーー


「そこに居るのは、、碓氷(うすい)歩美、だったか?」


「お、私の名前覚えてくれてたんだ」


 背後から近づき名を放つ、黒髪ストレートの男子を窓の反射越しに見据えると、歩美は笑顔を作った。


「こっち、見ないのか?」


「んー。もうちょっとだけね」


 尚も窓を見据えたままの彼女に、その男子は短く放つ。

 それに口を窄ませ悩んだ様に呟くと、数秒後振り返る。


「オッケー!それで?どうしたの?」


 そう切り出すと、首を傾げる。そんな歩美の姿に、その男子は少し息を吐く。


「そんなに自分が好きか?」


「これも研究の内だからね!」


 自信ありげに返された、意味の分からない返しに、その男子は落胆する。と。


「そういう君は、、えーと。あ、名前教えて貰って無かったんだっけ」


 名を思い出そうと顎に手を添え考えたのち、歩美はその事実を思い出しハッとする。


「逆に教えてくれない方がいいなぁ。覚えやすい」


「どういう理屈だ」


 淡々と。声のトーンや上げ下げが一切見受けられない声音で、その男子は短く返す。


「別に教えたく無い訳でも教えない訳でも無い。誰も聞いて来ないからだ」


「えっ、、な、なんか、ごめんなさい」


 彼の言葉にマイナスな捉え方をした歩美は、自身の浅はかな発言を悔いる様に頭を軽く下げた。


ー別にそういう意味では無かったんだがー


 顔色一つ変えずに、男子は脳内で思うと、改めて口を開く。


「教えないのもあれだ。俺の名前はーー」


「いやちょっと待って!」


「...」


 男子が口にするよりも前に、歩美が手の平を前に出して止める。

 すると、その後少しの間を開けて瞑っていた目を開く。


「名前いい!逆に名前言われない方が覚えやすいから」


「はぁ、そうなのか」


 呆れ半分で男子は反応すると、手を戻して微笑む。


「だから、代わりの名前を私がつけるよ。えーと、ボッサ君ってどお?」


「...それは俺がボサッとしてるからか?」


「ピンポンッ!よく分かったね。いつも無気力な感じするし、能力も使ったとこ見た事無いし、訓練にも来ないし、目がいつも死んでるし!まあ、地毛が直毛なのが救いかなぁ」


ーなんだか散々な事を言われてる気がするなー


 表情には出さずに、男子はそのネーミングに酷く心を痛めた。


「それよりも、聞きたい事があるんだが」


「あ、そういえば話しかけた理由聞いてなかったね。何?ブッサ君」


「結局覚えられないなら自分で名前つけた意味無くないか?それに更に酷くなってるが」


 目を細め指摘を口にすると、歩美はごめんごめんとはにかんで「それで?」と、話を促した。


「ああ。お前、部屋番号206番だったよな」


「えぇ〜、、そんなの覚えてないよ」


 普通毎日部屋を探していれば覚えるものだと思うが。と、男子はまたもや嘆息すると、言い方を変える。


「じゃあ、二階の一番右から三番目か?」


「あっ、そうそう!そうやって覚えてる」


 自身の見解は正しかったと息を吐くと、男子は改める様に僅かに近づき続ける。


「そこに、鍵のかかった引き出しは無いか?」


「...」


 その一言に、瞬間歩美はーー


 ーー表情を変える。


「うん、あるよ。もしかして、その事?」


「ああ、それを見せて欲しい。少し前にそこに何かあるという紙を見つけた」


 未だに淡々と話す男子に、歩美は笑顔のまま声のトーンのみを落として答える。


「いいけど、その鍵は持ってるの?」


「いや、それはそこには無かった。だが、頑張ればこじ開けられるんじゃ無いかと思ってな」


 それを放つと瞬間。

 歩美は僅かに下を向いて足を踏み出し、その男子の胸目掛けてくっつき、その後顔を上げて微笑んだ。


「行ってみてよ。きっと、いや。絶対に開かないから。開けられないから」


 いつもと同じ様な笑顔である筈の歩美のその表情は、どこか黒いものを感じた。

 その状況にすら動じずに、顔を見つめてただただ男子は口を開いた。



「お前は、一体何者なんだ?」

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