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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第5章 : 啀み合いと狂気(フォリィ)
148/299

148.痕跡

 時遡る事、数分前。

 碧斗(あいと)達一行は、一棟に入るや否や、ドアの向こう側の人の気配を感じ取って確認しては、片っ端から部屋に入室した。


「ここはどうだ!?」


「しーっ!声大きいよ大翔(ひろと)君」


「わ、わりぃ」


「ここには無さそうだな。もう少し、書類が集められてる部屋だ」


 樹音(みきと)の指摘にニヤリと苦笑いをしながら頭を掻く大翔。

 そんな流れを横目に、碧斗は部屋を見渡しながらそう呟いた。


「っしゃっ!じゃあ次行くぞ」


 と、大翔の言葉に続いて、一同は部屋を変える。

 騎士の方々が奈帆(なほ)愛梨(あいり)の方へと向かっている隙を狙い、一棟にあるであろう「あるもの」を探していた。


「ここもキツそうだぞ」


「...書物はあるが、書類は無さそうだ。次に行こう」


 誰にも聞こえない程の声量で、視線や表情を含めたコミュニケーションを取る。

 いくら騎士達を向こうに集めたからとはいえども、こちらに一人も残っていない確証は無いのだ。

 一瞬の気の緩みが、命取りとなる。

 皆集中力を高め、辺りを見渡しながら次の部屋へと移る。

 と。


「ここは...倉庫か?」


 ただでさえ豪華な王城の中でも、一際豪勢に彩られた独特の内装をしている一棟。

 この場所は、その雰囲気を壊す事のない見た目の、赤いカーペットの引かれた物置の様な場所であった。


「この中にあるかな?」


 物を収納する棚も、他の棟とは異なり王室の様な、金で出来た高級感のある引き出しだった。


「...ここら辺は宝石か、?」


 棚を物色しながら、大翔はそう呟く。

 それに反応し、碧斗は振り返ると。


「っ!それ、宝石じゃ無くて魔石だ。本で確認したやつと一緒の見た目をしてる」


 碧斗はその神々しく輝く、カラフルな石の数々に近づき、顎に手をやる。

 火の魔石、水の魔石、風の魔石、爆の魔石、回復の魔石など。

 碧斗が以前図書館で学んだものが多く置かれていた。

 だが。


「ここの方は、俺も分からないな」


「って事は、こっちは普通に宝石か?」


 そこには、真っ赤なものを始めとした、単色で輝く宝石がいくつか置いてあった。

 僅かにオレンジがかった火の魔石とも、赤黒い爆の魔石とも違った、鮮やかな赤色。反射がとても美しく、思わず見惚れてしまう。

 それが、ウルトラマリンブルーやエメラルドグリーンなど、様々な色のものがそれぞれ存在していた。

 目が惹きつけられるという点では、宝石の可能性が高いが。


「こっちは無かったよ〜。って、ちゃんと捜してる?」


「あ、すまない」「わりぃ」


 と、そんな事を考えた矢先、樹音が仏頂面で割って入る。

 その反応に慌てて、二人は近くの引き出しを開けながら、確認をしていた雰囲気を装う。

 と、その瞬間。


「ん?お、ここら辺全部紙だぜ?」


「お」「本当!」


 碧斗と樹音は、目を見開き大翔に寄る。

 覗き込んだそこには、王城の方々が使用するであろう書類を始めとし、報告書の様なものや連絡用のものも存在していた。

 これ程までに必死で。この騎士が居ない僅かなタイミングで、碧斗達は目を凝らし探す。

 そう、そこまでして探し出したもの。それはーー


「あ、これかも!」


「本当か!?」「おっ、来たか!?」


 大翔の言葉を受けた皆は、揃って書類が管理されている棚一列を並んで探していた。

 と、その矢先。

 樹音が突如として紙を掲げ声を上げる。


「これじゃない?」


「...っ!ああ、これだ、、っ!間違いない」


 顔を覗かせ確信を得た碧斗は、それを見つけた樹音に感謝を口にし、口角を上げたのだった。


           ☆


「はぁ、はぁ、、そ、それで、?何をお求めですか?」


 息を切らして尚惚ける目の前の騎士。

 桐ヶ谷(きりがや)修也(しゅうや)の担当であるルークに、大翔はぶっきらぼうに放った。


「言っただろ。桐ヶ谷修也の情報だ。担当なら、少なくとも何かしら情報はあるだろ」


 直接関係するもので無くてもいい。ただ、糸口となる情報が欲しかったのだ。

 だが、対するルークは鼻で笑ったのち、一度落ち着こうと言うように優しい表情で手を下げる。


「それよりも、どうやって私の部屋を特定なされたのでしょうか」


「訊いてるのはこっちだぞ。自分の状況分かってんのか?」


 大翔は、その態度と対応に歯嚙みして彼の目線に合わせる様にしゃがむ。


「承知しておりますとも。ですが、私も好奇心というものがございます」


「...言ったら、お前も言うのか?」


 大翔の問いに、曖昧に微笑むルーク。

 だが、どちらにせよ既に済んだ話である。

 作戦の内容故に、最終的には国王から敵意を向けられる結果になるのは間違いないのだ。

 即ち、それを告げたところで、損はない。

 そう大翔は考え、揺さぶりを含んだ物言いで彼に答えた。


「一棟にあった、書類だ」


「書類?」


「ああ。お前ら騎士達が、それぞれ誰の担当になるか、表になって記載されていた書類をな。探しに行ってたんだよ」


「...ですが、我々の名前も、勇者様の番号も公表はしていなかった筈です。それに、担当が私であると認識したとしても、場所の特定にまでは至らないと存じますが」


 碧斗考案の作戦を、自信満々に放つ大翔に、穴を見つけたと言わんばかりに微笑んでルークは問う。

 だが。


「普通ならそうかもな」


「...普通、?」


「あいつはまずその書類だけじゃ無く、もう一つ探してたものがある」


 大翔はルークが逃げられないように腕を押さえながら、目つきを変えて続ける。


「ルーム表だ」


「っ」


 僅かに、ルークは目を剥く。


「で、ですが、勇者様の番号はーー」


「それも普通はそうかもしれねーが、あいつは別だ。以前から、桐ヶ谷修也の勇者番号を知ってたみたいだ」


「なっ」


 ルークはその異常な事実に、動揺を見せる。

 つまり、表に記された勇者番号を碧斗が読み取り、修也の番号の列に記された担当者の名を確認。

 続いてルーム表に書かれた、それぞれの騎士達の部屋を見比べて、担当者の名と同じ名が記載されていた部屋に先に潜入し、張り込む。

 これが、碧斗の二重に囮を用意して行った作戦の全貌である。


「あの場にはナイフが転がってたし、煙も残ってたからな。だから俺がこの役に抜擢(ばってき)されたわけだ」


「ど、どこから漏れていた、?こ、こんな事が知れたら、、私達は、」


 大翔の続け様に放つ解説など耳にもくれず、勇者の番号が漏れていた原因を思い返しながら、その事実に冷や汗を流した。

 すると、少し歯を食い縛り悩んだ末、ルークはハッと目を開き小さく呟く。


「っ、マーストか、」


 クソッと。

 ルークは爪を噛み目を逸らす。

 そんな彼に、大翔はもう十分だろうと口を開く。


「さぁ。そろそろそっちの番だ。全部話してもらおうか?」


 脅すように大翔は顔を近づける。

 それに対し、少しの動揺と恐怖を見せたものの、直ぐに取り繕うように微笑む。


「私は何も知りませんよ」


「...は?」


 その見え透いた嘘に、大翔はルークの胸ぐらを掴み壁に叩きつける。


「ぶざけんなよ!」


「...そんなに怒らないでいただきたい。私は嘘なんて申しておりませんよ?13番目の勇者様の異変の原因は何か。それは彼の責任であり私せいではございません」


「...何言ってんだ?」


 大翔は頭を悩ませた。

 こんな時、碧斗はどのような選択をするのだろう。どう行動するのだろうか。

 相手の言葉を読み解き、考察し、解釈する事が出来ないがために、大翔は碧斗を待つ選択を選ぶしか無かった。

 だが。


ー碧斗の方は、、まだやべぇか。そういや囮の方の作戦と、この後の作戦聞いて無かったなー


 そう思ったのち、大翔は冷や汗を流す。

 だが、ここまで来たのだ。目の前にカギとなる人物が居るのだ。

 ここで引き下がるわけにはいかない、と。

 大翔は目つきを変えて、尋問が苦手なりに必死で演技を続ける。


「...おい。正直に言わねーと、ここで殺すぞ?」


「...よろしいですよ、別に。もし、私が嘘をついている事を想定した上で、ここで私が本当の事を言ったとしても、殺される未来は変わりません」


「は、?だからなんの話だ!?」


 遠回しに告げるルークに、大翔は彼をまたもや壁に打ち付け声を上げる。


「分からないのであればそれで良いですよ。ですが、13番目の勇者様は自業自得なのです。それだけは、言えます」


 いくら口を割っても、出てくる言葉は意味の分からないものばかりで、話が一向に進まない。

 それに大翔は憤りを感じながらも、会話を覚える事に専念する。


「っ、、はぁ。もう、よろしいですか?」


 すると、突如ルークは立ち上がろうとし、大翔に押さえつけられる。


「まだ駄目に決まってるだろ。俺に分かるように話せ」


「それはもう答えでは無いですか。先程申しましたでしょう。私が口を割っても結局は同じ結末になるのです。ですから、どれ程努力を重ねようが時間の無駄ですよ」


「だからって離せるかよ。碧斗が来るまで待て」


「...なるほど」


「あ?何がなるほどだ?」


「その碧斗様というお方は、果たして来れるのでしょうか」


「どういう意味だ?」


 ルークの呟きに、大翔は眉間にシワを寄せる。


「だってそうでしょう。貴方の発言から、彼らは囮となったのでしょう?身の安全も確信では無く、逃げ出せる状況かも分からない」


 と、ルークは淡々とここまで告げたのち、声のトーンを落として付け足す。


「貴方、、よくそんな事が言えましたね」


「っ!ぶざけんな、舐めた事言いやがってーー」


「おおっと、すみません。ですが、、私も少し言い過ぎました。私を狙っていようがあくまで貴方達は勇者様です。無礼な態度をお許しください」


 拳を振り上げる大翔に、ルークは頭を下げる。

 そう、全て図星だったのだ。

 碧斗が来る確証なんてものは何処にも無い。そんな状況で、碧斗達のところへ助けにも行けずに、尋問もままならない現状。

 自分の無力さに、この無意味な時間に、はらわたが煮え切りそうだった。

 すると、そんな葛藤をする大翔に、ルークは変わらず放つ。


「"あの事"は、私よりも勇者様本人に問いただした方が良いでしょう」


「...修也の事か?」


 大翔は、ルークの放ったそれに訊き返す。

 と、彼はただ頷いたのち、手でズボンを払って立ち上がり、大翔のみに聞こえる声量でそれを続けた。


「...まあ、あのお方は絶対に言わないでしょう。そういうお方ですから」


「はぁ?それくらい修也の事知ってるアピールするなら、何か知ってんだろ?」


 大翔は怪訝な表情でルークの背中に放つ。

 が、その本人は僅かに振り返り。


「ですから、お答えしかねますと、先程から申しておりますでしょう?」


 と返すと、踵を返しその部屋を後にしようと足を踏み出す。

 が、その時。

 大翔は、ニヤリと微笑む。


「なんか、ノリで帰ろうとしてるけどよ。...いや、今回はそれでもいいか」


 その発言に足を止めるルークに、大翔は「でも」と、続ける。


「どっちみち殺されるのは変わらない。お前の運命は決まってんだ。嘘ついた時点でな」


 嘲笑う様に、口角を上げる。

 それに、ルークは少しの間を空けたのち、ふと振り返って睨む様にして返す。


「嘘をついた覚えはございませんよ」


 それだけを大翔に残し、ルークはその部屋から姿を消したのだった。


「...」


 あれから、数秒が経ったのち。


「はぁぁ〜〜〜っ。焦ったぁ、、本当に、これで良かったのか?」


 大翔は突如息を吐いて、膝に手をついた。

 すると、ハッと大翔は何かに気づき、辺りを見渡す。


「おっ、あった」


 そう呟いて手に取った物は、部屋の机の上に立てかけてあったペンと、その上の棚にあった用紙であった。


ーさっき言った事、メモしとかねーとなー


 そう心中で思いメモを残すと、それをポケットにしまい、部屋の物色を始めるのだった。


           ☆


「こ、これで良かったの?」


 騎士達に取り押さえられ連行されながら、樹音は碧斗に耳打ちをした。

 それに、ただ笑って碧斗は頷く。


 まるで、任せろと言うように。


 そう、作戦は目的の書類を発見した時から始まっていたのだ。

 あの場に証拠が無いが故に選んだ。と、本人には伝えていたが、相手に油断させる事の出来る人物である、大翔を接触人として抜擢した。

 彼は、悪い意味でも良い意味でも単純である。そのため、洞察力の長けている人物である程、彼のその部分を見極め油断を見せると判断したのだ。

 故に、大翔には作戦内容を順に説明した。

 部屋に先回りし修也の担当人を待つ。その後、当人が現れ次第、碧斗が事前に考えた脅し文句を唄う。

 それで、事実を話してくれさえすれば問題は無いが、見え透いた脅しなため、そう簡単にはいかないだろう。

 その時点で相手であるルークは"洞察力の長けている人物"となり、そこからは何も考えなくて良いと。

 ただ「彼の発した言葉のみを覚える事に専念しろ」と。

 それのみを大翔には伝えた。

 大翔は難しい事は考えず、ただ"純粋な反応を見せれば良い"。"彼の自然な反応程、相手に油断の隙を与えるものはない"ということだ。

 つまり、こちらは何もしない。相手が変に余計な事まで話すのを待つのみだ。と。

 それが碧斗の「第一の作戦」だった。


 それを樹音に告げた際には、彼から不安の意を向けられた。

 それはそうだ。そんなもの、確証はない。

 だからこそ碧斗は、大翔にもう一つのミッションという名のタスクを要求したのだ。

 それが、ルークの部屋内の探索。

 人は自分に不利な状況になると、反射的にその場から逃れようとする傾向がある。

 それを逆手に取り、彼が部屋から離れた時を狙って、その部屋に何か鍵となるものはないか物色を行って欲しいと。

 大翔にはそれが本当の作戦だと伝えた。

 そして、ルークが部屋から出るその時、彼には揺さぶりをかけてくれと。

 既に処分されている事は否めないが、十分に可能性がある作戦である。中にはまだ、証拠となるものが転がっているかもしれない。

 碧斗は、それにも本気で賭けていた。

 大翔を騙すような作戦となってしまったが、これは彼を信用しているからこそ、彼をよく理解しているからこその作戦である。


ー後は、大翔君に任せるしかないが、、頼んだぞー


 碧斗はそう力強く内心で呟いて、同じく強く目を瞑る。

 と、それに樹音は、小さく耳打ちする。


「碧斗君、、ここからは、?」


 そう、それが問題なのだ。

 囮となった我々が、大翔から情報を得る。そのためにどう抜け出すか。

 それは、まだ完全に案がまとまってはいなかった。

 故に、碧斗は歯嚙みし冷や汗をかく。

 と、その時。


「「っ!?」」


 碧斗と樹音を狙う様に、横から矢が放たれる。


「っ!おやめください。貴方方も牢獄へ連れて行きますよ?」


 それを放った張本人である愛梨(あいり)に向かって、使用人の方々は強い口調で止めに入る。


「...でも、あの人達、悪い」


 愛梨の言葉に、碧斗は唇を噛んだ。

 悪いとはなんだ?

 悪は、殺しを行なっているそちらでは無いかと。怒りが溢れそうだった。

 だが、現在の碧斗には、何も言う事は出来なかった。

 すると。


「確かに、14番目の勇者様(あいと)18番目の勇者様(みきと)は。それぞれ、王城の破壊、国王様への侮辱行為」


ー裁判等があるかは不明だが、それで考えると器物損壊と法廷侮辱罪みたいなものかー


 碧斗が、大勢の騎士の。その中の一人が放つ言葉を脳内で変換する中、その人物は「そして」と付け足し。


「殺害の疑いと盗難の疑いがかけられている状態です」


「なっ!?」「えっ!?」


 その発言に、碧斗と樹音は同時に声を上げる。


「ど、どういうことだっ、、いや、ですか!?」


 碧斗は声を荒げようとしたのち、周りの騎士の方に睨みつけられ、言葉を正す。

 それに見向きもせずに、その人物は愛梨に向き直って続ける。


「ですが、あくまで疑いの段階です。処刑をする様な刑罰の下る行為の証拠がないため、ここで殺してはなりません。貴方達が殺人罪に問われてしまいますよ?」


 その言葉に、奈帆(なほ)と愛梨は口を窄ませこちらを睨む。

 だが、そんな事はお構いなしに、碧斗と樹音は尚も声を上げる。


「どういう事だ!?」


「僕達は殺しなんてしてないし、盗んだわけでもないですよ!確かに、、王城の破壊とかは、、そうですけど、」


「...はい。まだ、疑いをかけられている段階なので。そのお話を伺うために、同行してもらいます」


 取り押さえられながら身を乗り出す二人は、その返しに歯嚙みし、碧斗が小さく呟いた。


「...それは、具体的にどんな容疑がかけられてるんですか?」


「それも詳しくのちに伝えますが、街で最近行方不明になったのち、ご遺体で発見されるという痛ましい事件の容疑者として挙がっています。それと、王城内の武器や装備、道具が一つずつ盗まれている事と、魔法石の大量消失」


「...大量、?」


「それが、、俺達のせいだって、言いたいのか、?」


 容疑の全貌を耳にし、愛梨が驚いた様に小さく呟き、碧斗が声のトーンを落とす。

 我慢の限界だった。

 皆が必死に守り、必死に生きている中で、周囲からは有らぬ疑いをかけられ、犯罪者としてレッテルが貼られていく。

 もう、耐えきれなかった。


「それをのちにーー」


「ふざけんなよ!」


「「「!」」」


 言い終わる前に、碧斗が声を荒げた。


「こっちが、どんだけ大変な事になってるかもしらずに、、絶対。絶対暴いてやるよ」


 碧斗が声を枯らして呟いたのち、顔を上げて樹音の担当である騎士を睨みながら、決意を露わにする。


「本当の、本当の戦いの意味を!理由を!絶対ーーっ!?」


「「「「っ!?」」」」


 碧斗が声を上げると同時、その場に轟音と強い揺れが起こったかと思われた、次の瞬間。


 我々の居る一棟の裏から、中庭内に何かが墜落する。

 それを前に、その場の皆は。

 碧斗は。

 怒りも忘れ、ただただ動揺に目を見開いた。


           ☆


「はぁ、はぁ、クッソォ、、全然見当たんねぇ」


 大翔はルークが部屋を去ったのち、彼の部屋を探索していた。

 だが、一向に見つかる気配は無かった。

 大翔は嘆息し尻餅をつく。

 あれから大した時間が経っていないため、諦めが早いように思えるだろう。だが、既に無いと言い切れるのだ。

 そう、元から、この部屋には物が少ないのである。

 収納の出来るものは一つしか無く、その中にはルークの個人的な物や、仕事に使用するであろう物。そしてその外には鎧や、剣などの戦闘で使用するものなどが陳列されていた。

 無駄な物が無い。

 それが、率直な感想であった。

 そのため。


「もう絶対無いだろ、、はぁ。クソッ、無駄足だって事か?チッ、ここまで来たのに、、ちくしょ...あのやろぉ、捨てやがったか?ま、そんな重要なもん拾ったら捨てるか、、まず自分の部屋に置いとくのが不自然だもんな。こんな、物が無い部屋だったら尚更だ。それだったらまだ、修也の部屋の中で隠せる場所を、、、っ!」


 大翔は独り言を呟きながら物色を続ける中で、ある考えが浮かび目を剥く。


「まさかっ」


 気づいた時には既に、体が動いていた。

 直ぐに向かわなくては。

 そうだ、どうして気づかなかったのだろうと。大翔は自分達を憎む。

 既に手遅れだろうか。

 ルークが部屋を出て、足早に向かった理由。

 先程は図星だったがための。追い詰められたが故のものだと思っていたが、そうじゃない。

 考えが正しければ、"それ"で間違い無いだろう。


「はぁ、はぁっ!」


 大翔はそう胸中で思いながら、足を早める。

 元サッカー部員の、全力を出せと自分に言い聞かせながら、必死で向かう。


 その先はーー


 桐ヶ谷修也の、部屋だった。


「おい!止まれっ、ルークッ!」


 ルーム表を確認しながら修也の部屋を特定し、大翔はそう声を上げてドアを勢いよく開ける。


「っ!」


 そこには、ルークがクローゼットに入りながら、何やら物を探す様な仕草をしていた。

 それは、いいのだが。それよりも。


 その部屋には。


 壁や屋根、床やベッド、棚や物など、部屋中に穴や跡が見られ、荒らされた痕跡が多く見受けられた。

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