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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第5章 : 啀み合いと狂気(フォリィ)
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147. 裏工作

「あ、、無くなった」


 ふと、矢を放ち続けていた愛梨(あいり)が呟く。


「えっ!?大丈夫?多分後ろにまだあった筈」


 その発言に反応し奈帆(なほ)は言うと、言葉の通り背後に足を進める。

 と、その僅かに襲撃を止めた、瞬間。


「「っ!?」」


 突然、先程まで碧斗(あいと)達の居た渡り廊下の窓がーー

 割られる。


「...」


「なっ、何!?どういうこと!?」


 無言で見つめる愛梨とは対照的に、慌てて奈帆は戻る。

 すると、窓を割る行為はそれだけでは留まらず、その隣。

 また更に隣と。

 次から次へと、移動する様に窓が割られていく。

 その光景に目を細めながら、愛梨はそれを行う人物を凝視する。


橘大翔(たちばなひろと)?」


「クッソォ、、あんの脳筋馬鹿がっ!」


  愛梨が目を細めて名を呟くと、奈帆は悔しそうに唇を噛む。

 と、そう認知した、次の瞬間。

 窓の下から突如碧斗が現れ、それと同時に。


 廊下を覆い、外にまで溢れ出すほどの煙を放出した。


「っ!」「なっ!」


 その一瞬見えた彼の顔は、笑っていた。


           ☆


「これでなんとかなるだろ」


 碧斗は冷や汗混じりに、口角を上げて煙を放出したのち、そう零した。


「後は僕達でなんとかするから!」


「もしもの場合は頼んだぞ。碧斗!」


 それと同時に覚悟を決めた様に、二人は体勢を整え声を上げた。

 相手は翼の能力者であり、空気の流れや風の変化を敏感に感じ取ることが出来る点が厄介である。

 だが、裏を返せばそれを読み取りづらくすれば良いのだ。

 窓の破壊により、外気が廊下内に侵入する。よって、我々の呼吸を察知するのに時間を有する結果になるのだ。

 即ち、と。碧斗は目つきを変えて息を止める。

 煙の放出により僅かに気流が変化し、窓を割った事により内部の空気が外部へと流れる。

 煙を放出したため、視覚でコントロールするのは困難だろう。見つける事が不可能とまではいかないが、更に時間を要する事になるのは明確だ。


「っ!後ろっ、来たよっ!」


「おうよっ、まかせろ!」


 碧斗が息を止め、ゆっくりと歩き始めると同時。

 樹音(みきと)が声を上げ、大翔が反応を示す。

 と、発言通り彼の背後に矢が現れ、大翔は拳でそれを破壊する。


 これこそが、碧斗の作戦。

 空気の流れでしか場所を認知出来ない環境を作り、矢を反射的に弾くことが出来る人物を受ける役として待機、残りの一人が風を起こさずにゆっくりと三棟を目指すというもの。

 一見囮に使ってる様に思えるが、誰も傷つかない最善の編成はこうするしか無いのだ。と、碧斗は自身を納得させる様に胸中で思う。

 が、その時。


「「っ!?」」


 もの凄い強風と共に煙は払われ、窓は一斉に。

 綺麗に破壊される。


「とうとう接近でお出ましかよ、奈帆」


「あんたが脳筋プレイしなけりゃ、こんな近くで顔見ること無かったのになぁ」


 翼を動かした風の圧力で窓を破壊した奈帆と大翔は、お互いに睨み合う。が。


「っ!な、なんで?」


 瞬間。またもや目の前がぼやける。

 そう、未だに煙が舞っているのだ。


「どういう、、っ。もしや、まだ出してる?」


 奈帆は何かに気づき、煙で覆われた廊下の先に目をやる。

 そう。現在進行形で、煙を放出し続けているのだ。絶対に阻止されまいと。

 それに、思わず歯嚙みする奈帆。それはそうだ、窓を割ってしまったがために内側の空気は外に流れ出す。

 それは煙も同じであり、煙を放出した場所を察知する事も困難にさせる気流である。


「チッ、余計なこと」


「よそ見は禁物だッ!?」


 瞬間、見えるはずの無い碧斗の姿を睨む様にして浮遊する奈帆に対し、大翔が軽く跳び上がり殴りを入れようとする。

 だが、それを華麗に避けられ、奈帆は廊下の幅、端から端に達する程の翼を広げて三棟側へと向き直る。


「まっ、見えないなら全部やるまでだけどっ!」


 そう発すると同時、その大きく広げられた翼からは大量の羽根が飛び出す。

 だがーー


「っ!」


「邪魔はさせないよ!」


 その中の数本を剣で弾き、樹音が放つ。

 と共に、空中には奈帆の羽根に負けず劣らずの、多量のナイフが現れて防ぐ。


円城寺(えんじょうじ)樹音っ、まぁた面倒くさい奴が相手だよぉ」


 その姿に息を吐く奈帆だったが、直ぐに目つきを変えて声音を落とす。


「まったく、どっちがもつかな?」


 ニヤリと微笑む奈帆。

 が、刹那。

 彼女の横から、大翔の拳が現れる。


「っ!?」


「残念。こっちは二対一なんだよっ!」


 どちらが先に力尽きるかは確実だと言うように笑う大翔に対し、その時。


「フッ」


 その覚悟に、思わず碧斗は微笑む。

 今までは自身が囮の役割を買って出ていたのだが。

 いや、そう見えて、最初から痛みや苦しみから逃げていたのかもしれない。

 またもや皆を苦しめる作戦となってしまった事に罪悪感を抱きながらも、碧斗は自身の役割の重要さを再確認し、皆と同じく覚悟を決めて足を踏み出した。

 が。

 その時だった。


「どう?いけそう!?」


「っ!?」「なんだ?」


 奈帆がそう叫ぶ。

 その突然の言葉に、樹音と大翔。碧斗も同じく動揺し振り返る。

 すると。


「うん。見つけた」


 誰にも聞こえない様な声量で、愛梨が呟くと瞬間ーー


「がっ!?」


 足に、矢が擦り碧斗はバランスを崩す。


ー何、でだっ!?ー


 だが、思わず地面に倒れ込む碧斗に追い討ちをかける様に。


「っ!」「「なっ!?」」


 その場一帯に、爆破が起こる。


「ゴハッ!」「グフッ!?」「ガッ!」


 浮遊の出来る奈帆以外は、爆破により壁に叩きつけられる。

 そんな力無く倒れる一同に、奈帆はニヤリと見下し告げる。


「気流を変化させるために窓を割ったのは良いけど、私達の特技忘れちゃ駄目でしょ〜」


「「っ!?」」


 彼女の言葉に、碧斗と樹音は目を剥く。


「音か」


「ふふふ、あったり〜。窓を割ったのは逆効果だったね。こっちには愛梨ちゃんが居るもん〜」


 額から汗が噴き出す。

 歯を食い縛りながら碧斗が呟くと、奈帆は笑顔を崩さずに続ける。

 即ち、窓を割った事により、こちらの会話や息遣いがーー

 ーー愛梨に聞こえてしまっていたのだ。


「だからなるべく会話する様にしてたんだよ?誰がどこに居るか、分かるように」


 つまり、奈帆がこちら側に到着したのち我々と会話を交わしたあれは、発言を促す誘導の一つだったのだ。

 そのため、その場に居合わせ、言葉を返した樹音と大翔の場所は察知され、碧斗が居ない事を悟られたという事だ。

 後はそんな彼を見つけるための、"他の三人"とは違った位置から発せられる別の音を聞きつけさえすれば、碧斗の位置も容易に感知できるだろう。

 僅かに息を吐いて微笑んだあの時かと。

 碧斗は不覚だった事に後悔を感じながら、奈帆を睨んだ。

 その様子に、作戦が失敗に終わった事を理解した奈帆は、地面に足を着いた。


「もう終わり?今までの足掻きはどうしたの?」


 煽る様に、奈帆は近くに居た樹音の顔を覗き込む。

 そんな樹音も、同じく表情を曇らせて目を逸らす。

 そんな、絶望的な光景を前に。


ーやっぱこうなったかー


 碧斗は、目つきを変えた。

 するとほんの微かに、地に振動を感じた碧斗は、覚悟を決めて立ち上がった。

 と同時。


「大翔君!やっぱあれで頼むっ!」


「っ」


 突然声を上げた碧斗に反応し、奈帆がそちらに視線を向けた瞬間を狙って。

 その場を包み込むほどの煙を、またもや放出する。


「また何をーー」


「おっしゃっ!任せろ!」


「うわっぷ!?」


 奈帆が少しの余裕を見せながら口にするよりも前に、大翔が声を上げ樹音を持ち上げる。


「っ!まさかっ」


 奈帆は煙の中で大翔が移動している事に気づき、逃すまいと羽根を飛ばすがしかし。

 既のところで碧斗もまた、同じように大翔に掴まれ、彼らは窓からーー


 飛び降りた。


「っと!」


「大丈夫?」


「ああ!二階で助かったぜ」


 大翔は着地と同時に心配する樹音にそう返し、足を進める。

 と


「やばいっ!もしかして外逃げた!?」


「うん、居る。狙う」


 慌てて窓から顔を出す奈帆とは対照的に、愛梨は淡々と呟いて弓を構え放つ。

 が。


「当たらない、」


「ご、ごめんっ!タイミング合わなくてっ」


 奈帆の翼の能力効果が適用されずに、矢は碧斗達に向かう事なく地に突き刺さる。


「別に謝る事じゃない。私の狙いが、悪い」


「そんな事無いよ〜っ!愛梨ちゃん普通に狙いは的確だし、可愛いし!流石弓道部って感じだよっ!それに可愛いし!だから無問題(モウマンタイ)だよ〜」


「そんなに言われるの、恥ずかしい」


 奈帆の返しに、少し顔を赤らめ視線を移動させる愛梨。

 二人のそれぞれの場所には距離があったはずだが、鮮明にそれは耳に入った。


「〜〜ッ!可愛い〜〜ッ!...って、そんな事してる場合じゃなかった!早く追いかけないとっ。フフ、逃げられると思ってるのかなぁ?ーーって、何、?」


 奈帆がそう気を取り直し、翼を広げたその瞬間。

 大勢の足音が、彼女の元に近づいて来た。


「ああ〜、、これが狙いだったわけね〜」


 その足音の正体である、国王に仕える騎士の方々が角から現れ、奈帆は引きつった笑みで悟った。


 その騒がしい場を背に、碧斗は口角を上げる。

 そう、即ち空気を入れ替えるためだけの、窓の破壊では無かったのだ。


「やっぱこうなったな」


「ああ、出来れば三棟で待機していたかったんだが」


 走りながら、予想通りの結末となった事に声を漏らす大翔。

 そんな彼に、碧斗は返す。


「窓の破壊で王城の方々を集め、その前に三棟の空き部屋に一人でも入って待機。それが理想の形ではあったが、ルートを変えれば問題ない」


「そこに居る騎士の中に、桐ヶ谷(きりがや)君のお付きの人が紛れてるって、事は?」


「つーか、そもそもあいつの使用人の顔わかんのかよ?」


 樹音と大翔が、会話を交わすようにして碧斗に疑問を投げかける。


「いや、顔は分からないが、修也(しゅうや)君が13番目の勇者である事はマーストから聞いてる。どうにかして会話の中で誘導し、何番の勇者に仕えているかを聞き出せば、見つけるのは不可能じゃない」


「な、なら、そうした方が」


「だが、だからといってあの場に留まるわけにはいかない。正直、確実に居る保証も無ければ、俺達を指名手配犯として認知している王城の方々が話を聞いてくれるとも思えない。更には清宮(せいみや)さんと神崎(かんざき)さんが居るなら、きっと話どころじゃ無いだろう。彼女達を狙うべき相手では無いと騎士の方達に気づかれたら、相手は俺達だけになる。それこそ、終わりだ」


 樹音の問いに、碧斗は目を細め告げる。

 一度は同じ発想をした碧斗だったが、現在の我々の立場と状況。及び、王城側が公にしたくは無い内容であったら話す確証はないだろう、と。


「そっか、、だからこの作戦にしたんだね」


「詳しい内容を話せなくてすまなかった。でも、こうするしか無かったんだ」


「なんか難しかったが、理由があったのは分かった。で?ここからはどうすんだ?」


 申し訳無さそうに目を背けたのち、覚悟を決めたような表情で碧斗は伝えると、走りながら大翔が割って入る。


「とりあえず、この中庭の出入り口が一棟にある筈だ。まずはそこを目指す」


「なるほどね」


「おうっ!任せろ!」


 大まかな作戦を既に伝えていた二人は、碧斗の言葉を聞き入れ、ニッと笑い足を強く踏み出した。


           ☆


「ふぅ、とりあえずなんとかなったか」


「な、なんとかバレなかったね、」


 渡り廊下からの脱出から数十分後。

 一棟に到着した一同は、とある一室から足を踏み出し息を吐いた。

 現在、王城の騎士は転生者に付いているため、駆けつける事の出来る兵は担当の勇者の居ない騎士か、担当の勇者が王城から姿を消した騎士のどちらかのみである。

 故に、既に一棟には大した数の騎士は存在していなかった。


「とりあえず、このまま静かに行くぞ」


 振り返り促すと、碧斗はゆっくりと廊下を歩き始める。

 が。


「「っ!?」」


 シュンッという、風を切る音と共に、またもや矢が頰を掠るように通り過ぎる。


「嘘、だろ」


 ゆっくりと、それが放たれたであろう背後へと振り返る。

 廊下の突き当たりには、少し残念そうに口を尖らす愛梨の姿があった。

 すると。


「あれだけで逃げられると思ったぁ?ざっんねーん。別にあれくらい逃げられるし、騎士の人達に狙われてる訳でもないんだから、あんなの意味無いよ」


「...当たらなかった、」


「ああっ!大丈夫だよっ!寧ろ、今の台詞言えたし当てなくてありがとうって感じ!」


 奈帆が角から現れ、微笑み放つと、小さく呟く愛梨の言葉を聞き抱きつく。


「…はぁ。もう少し時間稼げると思ったんだが」


 碧斗が唇を噛み目を逸らす。

 それに、行動を変えるしかないと、樹音が剣を生成する。


「碧斗君、ここは僕が時間稼ぎするよ」


「おおっ、やる気だねぇ」


 彼の言葉を耳にし、「樹音、」と碧斗は呟く。

 そんな呟きを聞き流し、樹音は生成した剣を攻撃が来る前に、奈帆に投げる。

 が、それを飛ばしたと共に。


「でも」


 と奈帆は付け足し笑う。


「形勢ぎゃくてぇ〜ん」


「っ!?」


 その言葉に、皆が怪訝な表情を浮かべた。

 と、瞬間。


「なっ!?」


 背後から、大勢の足音が近づく。


 そう、王城の騎士達。即ち、先程碧斗達が呼び寄せた者達が、こちらに集まって来たのだ。


「14番目の勇者様、18番目の勇者様。直ちに同行願います」


 集まった中の先頭に立つ人物が、そう口にする。

 その言葉自体には敬意を表すものではあったものの、声音にはそれを嫌味として書き換える程の嫌悪が見て取れた。

 恐らく、彼らも我々を既に要注意人物としているのだろう。

 それの理解と共に、碧斗は歯嚙みする。


「...」


 ここまでか、と。そう嘆息する。

 と思ったか。


「っ」


 碧斗はまだ諦めていないと言うように、奈帆に力強い双眸と、歯を見せ笑う表情を送る。

 それに奈帆は一瞬目を疑うがしかし。直ぐに強がりである事に哀れみを込めた笑みを返す。


「フッ、この状況で何か出来るの?そんな、二人で...っ!」


 瞬間、奈帆の表情が強張る。

 それを一瞥したのち、碧斗は騎士の方々に振り返り樹音に耳打ちする。


「あの人、樹音君の?」


 先程、先頭に立っていた人物に目をやり、樹音に問う。

 それに彼は頷くと、碧斗はそうかと頷き口を開く。


「分かりました。同行いたします」


 口では、なんとでも言える。

 ただ現在は、彼らの言葉に従おうではないかと。碧斗は足を踏み出す。

 と、そんな彼らに近づく騎士達に対し碧斗は放つ。


貴方方(あなたがた)も、転生者の担当だったのですか?」


「...あちらの方々以外の者はそうですが」


 彼が樹音の担当者であった事を理解した上で、碧斗は試すように質問をする。

 と、我々を取り押さえながら、先頭に立っていた人物が、彼の背後に立っていた人達に目をやり嫌々返す。

 それを受け、碧斗は思考を巡らす。

 樹音の担当者の背後に立つ人物数十名を除き、こちら側で取り押さえる人物を含めた、手前に居る方々の七名が転生者の担当であった者である。という事なのだろう。

 そう思うと同時。


「ちょっと待って!」


 突如奈帆が声を上げた。

 が。


「15番目の勇者様、16番目の勇者様。貴方方も、同行してもらいます」


「えっ!?」「...?」


 突如、角から現れた二名の騎士に、二人は取り押さえられる。


「な、なんでっ!?私達は何もーー」


「四棟を占拠していると聞きました。国王様の許可無く使用する事は、違反となります」


 もう片方の騎士が、愛梨を取り押さえながらそう答える。


「はぁ!?な、そ、それはっ!」


 珍しく焦った様子で、奈帆は弁明を試みようとするものの、口からは曖昧な言葉が漏れるのみである。


ー異世界人には手は出さないのか、?ー


 この状況でも抵抗をしない彼女達を見て、碧斗は脳内で呟く。

 それは異世界人であるからか、はたまたパニッシュメントというのは処罰を下す者であるがために、罪の無い者には手を出さないという事だろうか。

 どちらにせよ、有利である事には変わりない。

 碧斗はそれを確信し、またもや思考を戻す。

 新たに二名の騎士が現れた時は驚いたが、転生者の担当であったであろう騎士は、この場に合計九人。

 樹音の担当は確定しているが、それを元にして考えるのであれば彼女達に詰め寄った騎士達は二人の担当であろう。

 ならば、残りの六名は美里(みさと)沙耶(さや)、大翔や涼太(りょうた)智也(ともや)将太(しょうた)。となるだろう。

 ここにマーストが居ないため、そうであると碧斗は予想する。

 修也(しゅうや)の担当や祐之介(ゆうのすけ)の担当、愛華(あいか)の担当など、曖昧な部分もあったが、二、三人の担当者がこの場に来ていない事を理解し碧斗は思わず笑みを浮かべる。


「ふふ」


「っ、、この状況で笑えるんだぁ。だって、さっき居たあの脳筋ゴリラが居ないもんね?」


 碧斗の笑みに気づいた奈帆は、核心を突く様に煽りを送る。

 それに負けじと、碧斗も嘲笑を返した。


「ああ。もう、必要なものは手に入れられたからな」


「...必要なもの?」


 その場の一同は話が見えずに、口を噤み首を傾げるのだった。


          ☆


 コツコツと、とある一室に足を踏み入れる。


「ふぅ、私は彼らに会う事が出来ないのは残念ですね。国王様も、心配症なお方だ」


 息を吐き、騎士の鎧を脱ぐ。

 その人物は、いつもの様に鎧を専用の場所に立て掛けると、首に手をやり部屋の電気をつけた。

 すると。


「おい」


「っ」


 背後に、人が居る事に気づき、"彼"は動きを止める。

 そんな彼に背後から近づき、脅す様にして「大翔」は放つ。


「お前か?桐ヶ谷修也の担当騎士は」


「...」


 口を頑なに開こうとしないその人物に、大翔は彼の頭を掴み、力尽くでこちらに向かせる。


「クッ」


「おい、答えろ。お前なのか?」


「...」


 それに痛みを訴えるよう歯嚙みしながらも、口を噤むその人物に、大翔は拳を振るう。


「話せよっ!」


「ゴハッ!」


 生身で受けた彼は、勢い故に壁に叩きつけられ、もたれかかる。

 正直、心苦しかったが、こうするしか無かったのだ。

 大翔は収まらない胸騒ぎと震えに耐えながら、次の言葉を放つ。


「はぁ、はぁ。ああ、いいよ。言わないつもりなら、言うまで付き合ってやる。まずは指を折るところからだな」


「へっ」


 初めて、彼は言葉を発する。

 その顔は、血の気が引いており、大翔は酷く罪悪感に苛まれた。

 だが、と。大翔は一度目を瞑り息を吸うと、碧斗に言われた様に口を開いた。


「それだけじゃ無いぜ?その次は爪剥いで、その次は切断。それでも足りねーっつーなら、次は足でもう一セット、その次はーー」


「わ、分かりました。はぁ、はぁ、分かりましたから」


 どうやら、観念してくれた様だ。

 大翔は、自身がその様な外道にならずに済んだ事に安堵しながら、彼の手を離す。

 正直、こんな残酷な言葉がスラスラと思い浮かぶ碧斗は残忍である事この上無いと大翔は息を吐きながら、僅かに微笑む。

 元から、するつもりなど甚だ無かったが。と。


「わ、私が貴方の仰る、13番目の勇者様の担当を行なっている者ですっ!」


 目を瞑り、助けを乞う様にそう放つそんな彼に、大翔は「そうか」と確信する。

 と、ふと立ち上がり、声のトーンを更に落として、見下す様に睨みながら。


「桐ヶ谷修也、あいつに何があったのか、知ってる事洗いざらい話してもらうぞ。ルークさんよ」


 大翔は、彼のその名を放った。

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