145.不首尾
「よし、行くぞっ!」
「うん!」「おう!」
碧斗の掛け声と共に、意を決して王城の裏口を開く。
ここには何度来ただろうか。
沙耶とマーストの三人の時。沙耶と二人の時。一人の時が二回。
多く潜入した通路ではあるが、今回のそれは、そのどれよりも心強いものだった。
「こっちだ。ここから上に行く」
「おうよ!」「分かった」
樹音と大翔。
彼らは、この道から。いやそれ以前に、今まで王城に潜入した経験が無いがために、碧斗が先陣を切って案内をする。
「それで?まずは何すんだ?」
「とりあえず、修也君のお付きの人を捜す。関係は分からないが、彼の急変した日にちなどを把握している可能性は高いからな」
階段の陰に隠れながら、碧斗は小さく問う大翔に返す。
「でも、何処にいるの、?」
不安げに呟く樹音に、碧斗は安心させるためにも強気で答えた。
「少なくとも、この棟には居ない。一回目に潜入した時に、マーストが案内してくれると言ってた。その時、侵入口から向かって右側に歩き始めてたんだが、三回目に侵入した時に、水篠さんが居る部屋を見つけ出すため、俺が部屋の中に人が居るかを確認した。だが、その時転生者どころか、人の気配は無かったし、少なくとも使用人の方々が居る控え室では無さそうだった。ちなみにその上の階は、四回目に侵入した時に大翔君が探してくれたんだったよな?」
「あ、ああ!そん時は一つずつ相原と沙耶がいねぇか確認したが、人一人居なかったぞ。ま、3階より上は分かんねぇが」
大翔に促す様に返す碧斗に、樹音は手を顎に持っていく。
「じゃあ、ここの棟はパニッシュメントの使用拠点になってるって事かな」
「だから、一回目で直ぐに右側に歩き出したのは、恐らく階段目当てなんじゃないかと思う。...ちなみにこの棟の他の階は、倉庫として使われてるみたいだ。俺が水篠さんと二回目に侵入した時に、身を隠した場所が二階だったんだが、そうだった。他は、四回目の侵入で、俺は清宮さんと智也君に見つかりそうになった時、二階の部屋に身を隠したんだが、その部屋は普通の部屋だった。でも、同じくダンボールの様な物が多かったし、恐らく他の部屋もそうなんだろう」
「じ、じゃあ、この棟は全体的に倉庫扱いで、空き部屋が多いって事かな?」
「お、恐らくな。他に牢屋も備え付けられていたはずだ。俺が捕まった時は二階だったな、、でも、とりあえず使用人の部屋とは関係ない筈だ」
碧斗が記憶を頼りにそう思考を巡らせると、樹音が考察を施す。
それに対し、碧斗は冷や汗混じりに頷くと「そっか」と呟いて、樹音は改めて続けた。
「なら、この別館を二棟として、向こうの館が一棟で、僕達が過ごしてた場所、?」
「いや、恐らく応接間や食堂など、王室もある"最初の館"が一棟だろう」
「っ!そっか、だとしたら、ここは三棟になるね、、でも、それだと少し問題があるけど」
「問題、?」
碧斗の発言に、一瞬納得がいった様子を見せるがしかし。
樹音は続けて口を尖らせた。
「僕は、その、、みんなに黙って王城に来てたし、碧斗君には三回目、、になるのかな?沙耶ちゃんが捕まってるのを助けに来た時、僕は正面の扉から入って、この別館まで案内されたんだ」
「っ!そ、そうだったのか、」
「でも、その時、食堂とかがある一棟を通って、そのまま僕達が寝泊まりしていた個室が並ぶ二棟。その後渡り廊下を歩いてここまで来たんだ。だから、お付きの人が待機していそうな場所は無かったよ?その中だと、一棟が怪しいかな、?」
樹音の、碧斗が知らなかった情報を添えての考察に、思考を巡らす。
確かに、使用人は普段我々転生者から一時も離れずに、個室の出入り口に立っていた筈だ。
ならば、と。
現在転生者が行方不明になり、その役目を無くした使用人数名が過ごせる場所なら、一棟にあってもおかしくないと思われる。
だが、碧斗はもう一つ。
可能性を感じた考察が存在した。
「でも、、もし、まずここが三棟でも無かったら、?」
「あっ」
考えながら思わず口走る碧斗の発言に、聞き逃さなかった樹音は何かに気づいた様に声を発する。
「いや、、実は、二回目の侵入。相原さんにお礼を言いに潜入した時、俺と水篠さんは食堂で先回りする計画だったんだ」
碧斗はその言葉を、何を言うでも無く頷いて聞き取る二人を見据えながら、目の色を変えて語る。
「その時、俺達が通った道は、なるべく人が少ない道を選んだんだが、、あれは、俺達が過ごしてた転生者部屋とは違う棟だった」
「そうか、、それだったら説明つくかも」
「食堂がある館が一棟だと想定すると、確実に転生者の寝泊りする二棟を通る必要がある。だが、俺はあの時そこを通らなかった。それはつまり、、ここは三棟どころじゃ無くて、もっとあるんじゃないか、?」
樹音が共感に頭を縦に振る。
「僕も何度か屋上に連れて行かれたり行ったりしたんだけど、その時"反対側"にも渡り廊下があったし、、それに、渡り廊下の窓の外にはもう一つの建物が見えたんだ。ずっとどういう造りになってるか分かんなかったけど、もし四つの棟が存在して、それぞれが囲む様に対極に存在してたら、、辻褄が合うね!」
「なら、ほぼ確実だな」
碧斗と樹音が納得した様に頷くと、ずっと二人の会話を難しい表情で聞いていた大翔が割って入る。
「で?どういうことだ?」
「つまり、ここは四棟。一棟、二棟、三棟が他に存在していて、恐らく四角形の形で配置されてると予想出来る」
「し、四角形?」
「そう。多分真ん中には中庭があって、それを囲む様に四つの建物が繋がってるって事だ。王城に居た頃は食堂のある一棟と、俺達の個人部屋がある二棟以外は閉鎖されてたから、構造が分かって無かったな」
「基本、窓にもカーテンがかかってたし、それどころじゃ無かったしね」
大翔に説明するためだったのだが、自身でも振り返る事が出来た。
恐らく、樹音の見たという渡り廊下の向かいに存在する建物は、二棟の対極に位置した三棟という事になる。
それ故に、碧斗は結論を口にする。
「だから、とりあえず三棟を通って一棟に向かう。三棟が使用人の方々が待機する場所の可能性もあるからな」
「お、おい、ちょっと待て!」
碧斗の結論に頷く樹音を差し置いて、大翔が声を上げる。
「ちょっと未だに理解出来ねーけど、それならこの棟の三階以上はどうなるんだ?俺はまだその上は確認してないぞ」
大翔の発言も一理あると頷いたのち、「だが」と。碧斗は続ける。
「使用人は元々騎士だった筈だ。それに、転生者の居る今でも、多くの騎士が探しに来てた。つまり、その人達も使用人と同じ棟で待機してると予想出来る。だが、二回目や三回目、四回目の侵入と。ましてや四回目に限っては大翔君が壁を破壊したのにも関わらず、王城の人達が駆けつけるのに時間がかかってた」
「てことは、少なくともこの棟では無いって事、かな?」
「ああ。それ以前に、そんな王城の方々にバレる様な場所を、パニッシュメントが拠点として使用する筈がない」
「そ、そうか。それもそうかもな」
未だ腑に落ちない表情を浮かべる大翔だったが、確かに四階や五階を確認するには時間が足りないため頷く。
「人は居なさそうだな。みんな、静かに行くぞ」
「うん!」「おう!」
碧斗の掛け声と共に、皆は意を決して。
息を殺して、階段の踊り場から足を踏み出した。
☆
ヒタヒタと。
異様な程静寂に包まれた廊下を、ゆっくりと息を潜めて進む一同。
一度は発見されずに一棟へと進む事が出来たものの、今回は予測が出来ない。
そのため、碧斗は頻繁に振り返りながら、この長く続く渡り廊下を、辺りを確認しながら進む。
と。
「っ、見えて来た、もう少しだ」
碧斗の眼前。
遠くの右側に現れた、部屋の入り口を見据え、そう小さく皆に促した。
それを理解し、二人もほんの僅かに表情を解した。
その時だった。
「「「っ!?」」」
瞬間。左隣に広がる一面の窓が。
碧斗の真横、狙う様にその部分のみが割れる。
それを確認するよりも前に、碧斗の目の前には尖った何かが向かう。
そう、何者かが、碧斗に向かって攻撃を放ち、窓を突き破ったのだ。
割れた原因であるそれが、割れると同時に現れたことにより、目を白黒させる碧斗だったが。
「碧斗君っ、危ないっ!」
既のところで、樹音が割って入り、剣でそれを弾く。
「だ、大丈夫だった?」
「あ、ああ、なん、とか、」
「なんだ?これ」
碧斗の安否を心配する樹音を他所に、大翔はこちらに向かって来た"それ"の正体を確認しようと足を進める。
と。
「なんだ、、矢か?」
「ほんとだ、だ、誰が放ったんだろう」
覗き込む様に、大翔が手に持つ矢を樹音は見つめて、眉を潜める。
と、刹那。
その矢だと思われていたそれが。
一瞬にして濁った赤黒く煌めく、宝石の様な石へと変化する。
「えっ」「は、?」
「ん?なんだ、?..っ!マズいっ!早くそれを捨てろ!」
碧斗が叫ぶと同時。その石はーー
大爆発を起こした。
「ゴハッ!」「グハッ!」「ギッ!」
それぞれがその衝撃故に壁に叩きつけられる。
「ク、う、」
ゆっくりと。
薄目を開けて、碧斗は状況を確認する。
この渡り廊下は崩れてはおらず、巨大な穴どころか、目立った外傷も見受けられなかった。
強いて言うなれば、カーテンを焼き払い、窓が僅かに割れているのみである。
故に、先程の爆破は大きなものでは無かったと予測出来る。
矢が突然変化したその石は魔石であり、グラムの書斎で一度目を通した書物に書き記されていた。
あれは爆発物系統の魔法石なため、碧斗は慌てて声を上げたのだが、間に合わなかった様だ。
ークソッ、い、一体なんなんだ、、誰が、?ー
当然、先程「窓の外」から矢が向かって来たがために、そちらに視線を向ける。
すると、その視線の先。
「っ!」
窓の外、"向かいの棟"の屋上に人影が見え、碧斗は息を飲む。
目はあまりよく無いため、その人物が誰なのかは不明だったが、その存在に気づき目を見開いたが故に、理解する。
人物が二人居る事と、片方の人物が「目立つ水色の髪」をしているという事を。
間違い無い。遠目からでも分かる程の色彩の鮮やかさ。
彼女は、神崎愛梨であった。
「あ、碧斗、君、、大丈夫?」
と、その時。
意識を取り戻した樹音が、目を擦りながら起き上がる。
「マズいっ!樹音君。向かいの棟に二人の人影が居る」
「えっ!?」
碧斗が駆け寄り耳打ちすると、樹音は身を潜めたまま破られた場所でない窓を覗く。
「片方は神崎さんだ。あの彩度の高い髪色は間違い無い」
「...って事は、もう一人もパニッシュメントの一人かな?」
「ああ。面子的にも、清宮さんで間違い無いだろう、、っ!」
そう樹音に呟くと同時、碧斗は何かに気づいた様に突然目を剥く。
「そうか、、マズいぞっ、相手に清宮さんが居るならーー」
碧斗が冷や汗混じりにそれを放とうとした
その直後。
碧斗と樹音の目の前には、矢が現れる。
「「っ!」」
目の前に現れた矢は、普通ではあり得ない向き。
窓の下に身を隠す形で座っていたこちらに、向き直って来ていた。
「危ねぇ!」
と、既のところで、大翔が矢を拳で折る。
「大翔君!」
「清宮さんが居るのは危険だ。あの人は目が良い。多分、こちら側の姿が見えてる筈だ。それに、耳の良い神崎さんも一緒、、クソッ、厄介な組み合わせだ」
樹音が歓喜の声を上げる隣で、碧斗は歯嚙みする。
「そ、そうだったの?」
「おい、そりゃどこ情報だ!?」
「...本人が、言ってたんだ、、自信満々に。それに、それは本当だ。俺が証人になろう」
碧斗のその情報に、詰め寄る二人だったが、神妙な面持ちで呟く姿を見て、頭を掻く大翔と表情を曇らす樹音は顔を見合わせるのだった。
「とりあえず、ここは危険だ。いくら目が良くても狙いが完璧にはならない筈。このまましゃがみながら、バレない様に二棟に急ぐぞ。渡り廊下を越えれば、こっちのもんだ」
碧斗の考えに賛同した二人は、同じくしゃがみ、二棟を目指そうと足を進めた。
が、数メートル進んだ、その時ーー
「「「っ!?」」」
窓が割れる音と共に、碧斗の目の前にはこちらに向かう矢先が現れた。
☆
「ふぅ〜ふぅ〜、、いただきますっ!」
「はいよ!」
薄暗い中ポツポツと、僅かに灯りのつく表通りの出店の前。
鶴来愛華は、満面の笑みで"それ"を口にした。
「ん〜〜っ!やっぱこれだよね〜」
「勇者様は、ほんとこれが好きなんだねぇ」
「はい!これは、、私にとって、大切なものでもあるので、」
手に持った、たこ焼きの様な丸い食べ物の入った箱を眺めながら、愛華は何かを思い出す様に寂しい目をして呟いた。
「そうなのかい?でも、こんな時間に出歩ったら怒られるんじゃないかい?」
「あはは、まあ、私は大丈夫ですけど。それよりもすみませんでした。こんな時間に、無理を要求してしまって」
そう、王城での食事後。
王城で出される料理はどれも美味ではあるものの、普段食べてばかりの生活を行なっている愛華には足りず、"あの味"が忘れられ無かったため、この場所に足を運んだのだ。
言うなれば、高級食材は勿論美味しいと感じるが、それが絶対に自身に合っているとは言えない。
そんな状態である。
「良いんだよ。勇者様以前に、貴方は常連さんだからね」
愛華が頭を下げた先で、ニカっと笑ってその球体の食べ物を作るおばさんは笑う。
それに、「ありがとうございます」と愛華が返すと、同時。
ヒュンと。
風を切る音と共に、愛華達の方向へ矢が向かった。
笑って口へと食事を運ぶ愛華は、店主の方へ体を向けたままであるがために、背に向かっていた矢が無抵抗のまま刺さると思われたーー
だが、その瞬間。
出店を含めた、愛華の数メートル範囲に、突如薄らと透明な膜のようなものが現れる。
それと共に。
その矢は弾かれ、次の瞬間には地に突き刺さっていた。
「なっ!?なんだい、今のはっ!?」
「おお、やってるねぇ。...ふふ、碧斗かな、?頑張れっ、、自分の目指す道を。...今度は、、見て、応援してあげたいな、」
その現状が理解出来ずに目を白黒させる店主とは対照的に、愛華は少し寂しそうな笑みを浮かべ、それが放たれたであろう方向。
王城の方へ体を向けて、呟いたのだった。
すると。
「っ、、あ、あれって、」
今度は王城へ体の向きを変えた事により。
愛華はそちらの方向の街の中から、天へと伸びる"巨大な炎の壁"を目の当たりにし眉を潜めたのだった。
☆
「なるほどぉ。これはおもしろい能力だね」
あれから数分が経ち、涼太に向けられた茎が全て朽ち果てるのを確認しながら、おおよその能力を察した智樹は笑みを浮かべた。
「お前、それ言ったら殺す事になるぞ」
「いいね。その殺され方は確かに興味があるよ。一体どうなるのかな?」
脅す様に放つ涼太に、智樹は不適な笑顔で返す。
ー痛い、痛い痛い痛い、、手が動かない、、動かせない、痛い。足も、、上手く体重を支えられない、でも、まだもう少しだけ、!私には、、やらなきゃ、いけない事が、あるからっ!ー
その光景から、智樹は能力を理解したのだと悟った美里は、涙目で息を荒げながら口を開いた。
「はぁ、はぁ、あんた、、能力の事、知ってる?」
「...」
美里が声を放った相手である智也は、脚を貫かれた影響か、中腰になりながら口を開く事は無かった。
ーこの反応、、別に大きな反応を見せないのは、パニッシュメントのメンバーはあいつの能力を既に知ってるって事、?それを知ってても尚、口にできない理由がある。...さっきあいつが脅しをかけたのを見ると、きっと能力は口にしてはいけないと言われてて、、それを守らなくてはいけない程の弱みを握られてるってのが、一般的な解釈になる、ならー
ならばどう出るのが正解か。
美里は必死に思考を巡らす。
涼太に対し、智也のみならずパニッシュメントのメンバーは反抗心を持っているのであれば、彼が標的になっている今を狙い時とするのが正解だが。
それ以上の忠誠心があるのであれば、それは逆効果である。
それならば、確実である方をと。美里は智也に詰め寄る。
「このままだと、貴方達の言う大将も。その大将の言う命令すらも守れない。だから、ここは一時共闘して、植物の奴を一緒にーーッ!?」
言い終わるよりも前に。
美里の体に、電流が流れる。
「嘘っ、!な、なんでっ、、!」
「悪いな。でも、俺らの目的は、あくまで碧斗達裏切り者の確保。それ以外の事はどうでもいいんだよ」
近寄る美里に手を置いて、電流を流した本人である阿久津智也は、崩れ落ちた彼女を見下す様にして放つ。
だが、彼の表情は、どこか悲しさを感じた。
「哀れだな。相原美里」
「...は、?」
倒れる美里に、涼太が冷酷な瞳をして放つ。
「お前は、裏切り者になるつもりは無かったのに、勝手に巻き込まれて、、可哀想に」
「フッ、うすっっぺらい同情をありがとう。でも、これは私の意思だから」
冷や汗を流しながらも強気の姿勢を崩さない美里に、涼太は嘲笑する。
「ハハ、私の意思、ね。でもさ、長く付き合っていく内に情が入ったのはあるかもしれないが、そうは言っても元からあいつらと手を組むつもりは無かったのは事実だろ?」
「っ!」
苦楽を共にする内に考えを改めた事は事実であるが、彼の発言もまた事実であるため、美里は否定も賛同も口にする事は出来なかった。
それと同時。彼ら彼女らの居る路地裏の陰。
家と家の間。
路地裏から更に細い道へと入った場所を、華奢な体を利用して、沙耶は息を殺し裏を取ろうと近づいていた。
ーど、どうしよ、、思ったより危ない事になってる、、美里ちゃん、大丈夫かな、、ううんっ!私が不安になってちゃ駄目!私より不安なのは美里ちゃんの方だもん。私が、絶対に助けないとー
沙耶は胸に手を置き、その現場を目にして高鳴った鼓動を抑えると、目つきを変えて脚を踏み出そうとする。
が、その時。
「ほんと、残念だったねぇ。水篠沙耶という存在が居なかったら、こんな事にはならなかったのに」
「っ!?」
涼太の声が、路地裏に響く。
「水篠ちゃんが、、悪いって言うの?」
「いやいや、どう考えてもそうだろ。彼女が居なければ、敵は桐ヶ谷修也のみになったのに。...それに、もしかすると逆に、修也相手にみんなが団結した可能性もある。それなのに、あいつが庇ったせいで、数人のチームが出来て、傲慢な奴が出て、反乱して争って、こんな事になったんだ」
「っ」
それを受けた沙耶は、胸が締め付けられる思いだった。
対する美里も、それまた事実なため声を出せずにいた。
故に、その場に沈黙が流れる。が、そんな中、ほんの僅かに薄ら笑って。
海山智樹はその会話に割って入った。
「と、言うより。そもそも、桐ヶ谷修也の狙いはそれだったんだよね」
「えっ!?」「「何、?」」
彼の突如放たれた発言に、沙耶を含めたその場の一同は、思わず目を見開いたのだった。




