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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第5章 : 啀み合いと狂気(フォリィ)
144/299

144.不穏

「いっ、伊賀橋(いがはし)君っ、、ほんとに、良かったの、?」


 美里(みさと)の能力により、壁の如く上がった炎を背に、碧斗(あいと)達は走る。

 そんな中、沙耶(さや)が不安そうに問う。それに碧斗は答える事が出来なかった。

 自身の中で、それが。この選択が正解であったと、確信が持てないからだ。

 故に口を噤んだ碧斗に、釣られて沙耶と樹音(みきと)は表情を曇らせる。

 と、そんな最中。


「おいっ。その前に、説明してくれ!どういうことだ?どうなってんだこれ!?」


 大翔(ひろと)が足を早めながら、何処に向かっているのかも分からないがために疑問を投げかける。

 それに、体力の無い碧斗は息を切らしながら、必死に放つ。


「とりあえず、グラムさんの家に向かってくれっ」


「回復しに行く、って事?」


 察した樹音がそう放つと、碧斗は無言で頷く。

 そののち、碧斗は息を荒げながらも、必死に「あの時」の会話内容を口にした。

 その話だけは。美里の意思は、一番に告げなければならないと。そう感じていたから。


           ☆


「そ、そんなの、、駄目だよ」


 碧斗は、美里に伝えられた作戦に、そう言葉を濁した。


「...そう、、確かに、穴が多いもんね」


「いや、そうじゃ無い。そんな事したら、相原(あいはら)さんが、」


 その作戦というのは、炎で壁を作り、海山(みやま)阿久津(あくつ)、美里だけの環境にし皆と分断する。そのようなものであった。

 美里だけを選別したのは、一番彼に攻撃を与えたのが、炎の攻撃だったためだ。

 そうする事で、阿久津智也(ともや)は嫌でも海山と戦わなければならない環境を作り出す事ができ、その間に皆は回復を行う。といった詳細だった。

 確かに、美里の言う様に穴は多い作戦のようにも思える。

 だが、それよりももっと根本的に。

 美里をまるで、囮にしている様ではないかと。

 そんな感情を、碧斗の表情から読み取ったのか、美里は小さく息を吐いたのち目つきを変えて、口を開く。


「安心して。作戦はそれで終わりじゃ無い」


「っ!」


 思わず目を見開く。


「回復しても、ここに帰って来ないで」


「は、?」


 予想外の言葉に、碧斗は硬直する。だが、対する美里は、尚も続ける。


「みんなでグラムさんの家に行って回復したら、ここじゃ無くて、、王城に行った方がいいと思う」


「なっ!?なんで王城に!?そんな、自ら死にに行く様な、、って、そういうことか?」


「違う!そんな、あんたみたいなネガティブ発言しないから」


 どうやら、いつもの美里の様で、ホッと胸を撫で下ろす。

 と、言うとどういうことだろうか。そう頭を悩ませた、次の瞬間。


「!」


 何かに気づいた碧斗は、ハッと顔を上げる。

 それに、美里は「気づいたようね」と息を吐き呟く。


「そう。多分、このまま私達だけで戦ってもきっとあいつには勝てない。能力以前に、考え方が違うもの。それに、ここで長く戦ってれば、多くの犠牲者が出ると思う。現にさっきの、何も悪くない人も、この騒動に駆けつけた人達も、、みんな犠牲になっちゃった、、わけだし」


 美里は、そう表情を曇らせながら。背後の、血に浸かった数人の遺体を一瞥しそう目を逸らした。

 そののち、だから、と。美里は


「彼を王城に誘導出来れば」


 と、そう放った瞬間。全てを察した碧斗が割って入る。


「命を全て同じく軽いものの様に扱う智樹君(ばけもの)だから、きっと王城の転生者にもフォーカスが向く。それによって、他の転生者も俺達を狙うより前に彼を狙う事になり、形上は共闘出来るかもしれないと。そうする事で俺達からも、国民のみんなからも犠牲者が出ないようにできる。そういう事か?」


 碧斗の考察に、異論は見つからなかった様で、美里は深く頷く。と


「でも、それならなんで、俺達が先に王城に行くの?その、別に俺達全員で誘導してもいいんじゃ」


 碧斗はふと脳内に浮かんだ疑問を、そのまま放つ。


「別に、大した意味は無いの。ただ、距離的にはそのまま向かった方が早いだろうし、少し、その前に王城の人達のセッティングをして欲しくて」


 視線を下げる美里に、碧斗は考えを理解する。

 つまり、転生者達を集めて、我々よりも智樹(ともき)に注目させる様な。そんな状況を作り上げる。

 それが、美里以外の一同の役割であるのならば、この人数配分や、先程の説明の意味も頷ける。だが、それを考えた張本人である美里自身が、不安を見せた。


「でも、この作戦穴だらけだと思う。みんなの回復の時間、私が持ち堪えられるかも確信じゃ無いし、あの電気の奴がちゃんとあの植物の奴を攻撃対象とするかも分からない。もし、結果的に二人が組んじゃったら私に勝ち目は無いし、王城に確実に誘導出来る確信もない、、でも、ここでずっと戦ってたら、また犠牲者を出す可能性が高いの。だから、その、ごめんなさい。伊賀橋君の、考えが、聞きたくて」


 そう呟き、珍しく不安げに、上目遣いをする。

 そんな美里に、思わず目を逸らしながらも、碧斗は思考を巡らす。

 確かにそれは穴だらけだった。

 美里の言った事のみならず、こちらにもそのセッティングが上手く行える確信も無く、寧ろ転生者が揃ってこちらに攻撃を仕掛ける可能性もある。

 だが、碧斗も罪の無い、無関係な人から犠牲者は出したくなかった。

 故に、今までの様に、この状況であるがために一か八か賭けてみるしかないと。碧斗はそう答えたかった。

 が、美里に危険を冒して欲しくは無いと、否定の言葉しか思い浮かばなかった。

 と、その瞬間。


「っ」


 美里を失いたくないという思いから、連想され(しん)の言葉が脳を過ぎる。


ーそうか、、俺らは終わらせなきゃいけないんだ。目の前の敵にばかり気にして、修也(しゅうや)君を倒して情報を聞き出す事ばかりを考えてた。でも、そんな流暢な事は言ってられないー


 そう碧斗は目つきを変えて、本当に争いを終わらすためには何を行わなくてはいけないのかを、改めて考える。


ーそうだ。その俺らが知らない事実を知ったら、智也君も考えを改めるかもしれないー


 碧斗はそこまでを脳内で放ったのち、美里に向き直って提案を口にする。


「相原さん」


「う、うん、」


「俺に、考えがある。俺は相原さんが心配だし、絶対に失いたくない」


「...は?何言ってんの?」


 美里の発言自体はいつもの様なぶっきらぼうな物言いだったが、それを放つ声音は前よりか優しく感じた。

 そんな彼女に、嘘はないと目で訴えながら。碧斗は続ける。


「だから、水篠(みずしの)さんを一番最初に回復させて相原さんのところに向かわせる。そして残った男組が、王城に乗り込む形を取る」


「な、なんで水篠ちゃんなの?あの子の体はもう厳しい状態なの知ってるでしょ!?」


「...ああ。だからこそ、王城には連れてはいけない。それに、海山君に攻撃を与えてたのは、相原さんの炎と水篠さんの岩。多分、その二人の相性がいいんだと思う。だから、、お願い出来ないかな、?」


 碧斗も恐る恐る、自身の作戦を口にする。

 それに、美里は少し腑に落ちない素振りを見せながらも、口を尖らせ頷く。すると


「その間、相原さんの言うように俺達は王城に行く。でも、目的はセッティングじゃ無い」


「え」


「セッティングも何も、多分俺達が王城に潜入した時点で、転生者は集まるだろう。だから、それよりも"今の状況を"、利用させてもらう」


 唐突に放たれた碧斗の考えに、美里は「と、言うと?」と呟く。

 そんな彼女に、碧斗は真剣な表情で、小さく告げるため口を開いた。


           ☆


「も、もう大丈夫そうだよっ!」


 グラムの家へと帰宅した一同の中。

 魔法石による回復を受けていた沙耶が、そう声を上げ魔力を解除する。


「だ、大丈夫なの、?」


 大丈夫そう。と沙耶は言いながらも、ヒビの入った手先に、碧斗達は不安の色を見せた。


「うん、、それよりも、みんなを」


「そ、そう、だね」


 沙耶が笑顔を浮かべ、重傷者である樹音と大翔に魔石を差し出す。

 その行為に、樹音は慌てて手を振る。


「えっ!?ぼ、僕は大丈夫だよ!それよりも大翔君を」


「は!?お前、俺よりも体やべぇじゃねーか。先にやれよ!」


 否定する樹音に、強引に石を渡す大翔。

 そんな中、碧斗は振り返って沙耶に目つきを変えて告げる。


「突然ごめん。言ってなかったけど、水篠さんには、相原さんのところに行って欲しいんだ」


「あっ、うん!そうだよね、、早く行かないと、」


「おい、ちょっと待て。それって、なんか、、沙耶だけを行かせるみてぇな言い方じゃないか?」


 その掛け合いを耳にした大翔は、回復を行う樹音を背に、割って入る。

 そんな問いにも、碧斗は至って真剣に。

 頷いて淡々と答える。


「ああ。そのつもりだ」


「なっ!?おい、なんでだよ!?」


「そ、そんなの、危険だよ!僕達みんなで戦っても勝てないのに、、二人でなんて、」


 その会話に、思わず樹音も割り込む。

 が、碧斗はそれどころでは無いと。またもや沙耶の方へと振り返り小さく伝える。


「ごめん、状況は後で話す。まずは、相原さんのところに助けに行ってくれないかな?多分、相原さんと合流すれば、作戦は教えてくれる筈だから」


「っ」


 今まで碧斗を長く見てきたがために、沙耶は何か策がある事を察して目を見開いたのち頷く。


「分かった!助けてくるね!」


 沙耶は疑問も、小言も。

 何一つとして零さずに力強く放って家を後にする。

 そんな後ろ姿に、碧斗は脳内でありがとうと告げると、真剣な表情で振り返った。

 と、それに。


「お前、どういうつもりだよ。相原も沙耶も。殺す気か?」


「そうだよ、、流石に作戦があるって言っても、二人を危険に晒すのは変わらないよ」


 振り返った先、怪訝な表情で碧斗を見つめる二人。

 そんな彼らに、碧斗は回復の時間を利用し作戦の概要を説明する。


「言ってなくてすまなかった。ごめん」


 碧斗はそう前置きし、頭を下げる。

 と。


「でも、水篠さんを一番最初に回復したのはこれが理由だった。相原さんが炎で壁を作り、俺らと彼らを分離し、回復の時間を作る。そののち、水篠さんだけを助け舟として戻らせ、俺らは相原さんが海山君を誘き寄せる先、王城に先回りする。これが、今回の作戦だ」


「「!」」


 作戦の全貌を知り、目を見開く一同。

 だったが。


「おいおい、そういう作戦なのは分かったが。正直、俺は反対だ。今までも無謀な作戦は多かったけどよ。こればっかりはリスクがデカすぎねぇか?」


 そう思うのも無理はない。

 自身も、全く同じ気持ちだと。碧斗は頷きながらも口を開く。


「でも、相原さんの、元の案の方がもっと危険だったんだ」


「はっ、もしかして、それって」


「相原さんが考えた作戦なの?」


 その事実に対し驚愕する二人。

 それに碧斗は頷き彼女の作戦を告げる。

 すると。


「そ、それが元は相原さんの作戦なんだったら、今の作戦は少しはマシになってるのかもね、」


「こんな無謀な作戦を、その負担を全て受け持つ張本人が考えたとはな」


 そう、バツが悪そうに二人は目を逸らす。

 と、回復量が残り半分になっている事に気付いた樹音は回復を中断させて大翔に魔石を渡し、それと共に疑問を放つ。


「確かに、なんの罪も無い国民の方々に被害を出したく無いのは僕も一緒だよ。だから、王城に誘導するのはいいと思う。...でも、王城のセッティングは大して必要無さそうだし、みんなで助けに行った方がいいんじゃ無いの?その方が誘導も楽に出来るかもしれないし」


 先程碧斗が、美里に対し感じたものと同じ考えを放つ樹音。

 そうしたい気持ちは大きい。

 だが、そうするよりもと。彼の疑問に俯いた碧斗は、そののち顔を上げて述べる。


「俺も元々はそう思ってた。でも、今の状況を利用するべきだと、、俺は思う」


「え?」


「どういう事だよ」


「樹音君、言ってたんだよな?進は、この争いは修也君の疑いを晴らすことで、彼を倒す事で終息するものなんかじゃ無いって」


「そ、そう、だけど、、それってもしかして」


 樹音は、何かに気づいたように冷や汗を流す。

 それに、碧斗は無言で頷くと、それと同時に。


「わ、悪りぃ、、もう、魔力無さそうだぞ、?」


「っ!そ、そうか、そうだよな、、ここ最近でみんなで回復魔力を使い過ぎてるし、、ほんと、この世界の方々に迷惑かけてるな、」


 どうやら魔石の効果が無くなったようで、大翔が割って入る。

 と、この現状に表情を曇らせる一同だったが、それどころでは無いと。

 碧斗は思い立つ。


「とりあえず、魔力供給は俺達には出来ない事だし、後でみんなで謝ろう。それよりも、今は王城に行かないといけない。大翔君、完全では無いと思うが、なんとかいけそうか?」


「あ、ああ。俺は別に、体は大丈夫だが、、それで?どうするつもりだ?」


 状況を理解していない様子の大翔が疑問を投げかける中、碧斗は王城に向かいながら話すと促す。

 と、皆はグラムに謝罪と感謝のみを伝え、罪悪感とモヤモヤとした感情を心に残したまま、家を後にした。


「で?そろそろ聞かせろよ。どうしてなんだ?王城に行くってのは」


 家を飛び出し、数十メートル超えたと共に、大翔は息を切らす碧斗に問う。


「はぁ、あ、ああ。大翔君も、進から伝えられたんだよな?争いは単純なものじゃ無いって」


「ああ。争い自体は単純かもしれねぇが、それに刺激されて、不幸の連鎖が起こる事で拗れるのは大体分かる。きっと、あの殺人鬼が死んでも、疑いが晴れても、少なくとも争いは終わらねーだろうな」


「やっぱ、そうだよな。不幸の連鎖、、か。...それは、智也君も前に言ってたな。そう、だからこそ、早くに終わらさなきゃいけない。もう、犠牲者は出したく無いんだ」


 碧斗が力を込めて放つそれに、進を失った皆は勿論。

 将太(しょうた)も既に亡くなっていた事を知った樹音は、深くそれを認識した。


「だから、俺はこの機会を利用しようと思った。智也君が向こうに居るわけだし、きっと、俺らが王城という敵地に、わざわざ来るとは思わないだろうこのタイミングに。侵入して、"探す"んだ」


「探す?何をだよ」


 首を傾げる大翔に、碧斗は呼吸を荒げながらも真剣に返す。


「彼が、修也君がこの争いを始めた本当の理由をだ。それと、修也君の担当である使用人も捜す。それが、第一歩になると思うんだ」


「つまりは、王城に入って進も言ってた真相とやらを探すって事か?」


 疑問を浮かべながら、確認する様に放つ大翔に、碧斗は頷く。

 だが、対する彼は納得する様子無く続ける。


「でもよぉ、その真相とやらは王城にあんのか?」


 その、的確な問いに、碧斗は一度無言になる。

 が、直ぐに改めて口を開く。


「ああ。確信では無いが、修也君は転生して間もない頃に何かを知ったんだと思われる。転生してからというもの、王城の外に出る事は無かった。可能性としては、、灯台下暗し」


「つまりは、真相は1ステージ目にってやつか」


 碧斗の考えに納得した様子で考え込み、悶々と頷く大翔。

 だったが、今度は樹音が、不安げに話す。


「でも、、さっきの場所に居たのは智也君だけだよね?だったら、王城に他のメンバーが居る可能性は高い筈だよ。その、竹内(たけうち)君は、、あれだけど」


 そう言葉を濁す樹音。それに、首を傾げる大翔。


「確かにそこは不安だな。清宮(せいみや)さんや神崎(かんざき)さん。大内(おおうち)君とか、まだ能力も分かってない人も居るわけだし、俺達の方が難易度は高いかもしれない。でも、逆に考えたら、もし俺達の方にパニッシュメントのメンバーが現れれば、相原さんの方には居ない事になる。だから、自分の方は大変だが、安心は出来るんじゃ無いか?」


 そう無理に前向きな発言をする。

 碧斗も、樹音と同じ恐怖は感じていた。

 だが、海山智樹を「王城」という場所に誘導する道を選ぶならば、どちらにせよぶつかる壁だろうと。

 碧斗は腹を括る。


「そっか、、それもそうだね。...でも、たとえ阿久津君一人しかパニッシュメントのメンバーが居なかったとしても、海山君は最強で、最恐なんだ。やっぱり、心配だよ、」


 智也が共闘してくれない可能性。美里自身も放っていたのだ。不安に思わないわけがない。

 だが、と。

 碧斗は僅かに口角を上げて目つきを変える。


「相原さんの、穴だらけって言ってた部分の中には、智也君が敵対するかもしれないっていう、それも混じってた。でも、俺はそれが穴だとは思ってない」


「え?」「何?」


 話について行けていなかった大翔も含め、二人は声を漏らす。


「正直、智也君が今回相原さんを狙うとは考えづらいんだ」


「な、なんで、?」


「樹音君も分からなかったか?智也君は今回、誰よりも先に俺に攻撃してきた」


「あ?それはぁ、最初にお前に出会ったからじゃねーか?」


 碧斗の解説に、大翔が割って入る。

 だが、対する碧斗は前を向いたまま首を振る。


「いや、そうとは考えづらい。樹音君が来た後も、基本的には俺を標的にしてたし、みんなに言ってた言葉も、俺が居なくなったらとか、俺を主張する様な内容だった」


「そ、それは、確かにそうかもしんねぇが、それがどう結びつくんだ?」


「...それって、、元々、碧斗君を連れてくるように言われてた、、って事かな?」


「っ」


 碧斗の発言に納得がいったのか、樹音は小さいながらも核心を突く言葉を放つ。

 それに碧斗は頷き、それ故に美里は問題ないと告げる。

 がしかし。


「それでも、、不安だよ。それが本当か分からないし、途中で思考を変えるかもしれない」


 それでも尚、表情を曇らせる樹音に、自身もだと。

 碧斗は胸中で思うと共に深く頷いた。

 と、それに「だが」と。

 碧斗は一度共感を見せたのち、そう否定を口にした。


「心配は要らない。もしそれが駄目でも、海山智樹は律儀な人間だ。相原さんが殺される事も、誘き寄せられなくて失敗する事も絶対無い。後者は特にな。...彼は王城のルールに関しては優等生だ。問題無い。...でも、、不安なのは俺もそうだ。だからそう思って、既に手は打ってある」


「「っ!」」


 自信げに。息を切らしながらも笑う碧斗に、二人は目を見開いた。


           ☆


「はっ!」


 美里が、炎を放つ。炎の壁を作ったからか、先程よりもその火力は弱まっていた。

 故に。


「がはっ!?」


 直ぐに避けられ、美里に向かった茎が腹を掠る。

 それによりグラついた隙を狙い、智也は瞬時に近づき体に触れる。


「すまないが、俺は碧斗に用がある」


 そう呟くと、彼は電気を流そうとする。


 が、それよりも前に。


「伊賀橋君達は今王城に向かってるの」


「何っ」


 小声で。智也にしか聞こえない声で耳打ちする。


「どうしてだ、」


「あいつは、覚悟を決めたの。この争いを本当の意味で終わらせる、覚悟を」


「何、?」


 突如放たれた事実に、智也は内容故に動揺を見せる。

 そんな彼に、とどめを刺す様に、美里は目つきを変えて放った。


「王城に秘密があるの。あの殺人鬼が殺人を行った本当の理由。それを知る人物。そして、この争いを根本から覆す何かが、そこに」


「!?」


 それを耳にした智也は、目の色を変える。


「それは、、本当に、王城にあるのか?」


「分からない。私達の憶測でしかないけど、彼の使用人が何かを知ってるのは確か」


 だから、邪魔するなと。

 まるで威圧する様に、美里は彼を強い視線で睨む。

 この様な性格である美里だからこそ。そして、本当の意味で争いを憎む智也だからこそ。

 そんな二人が揃ったから、成し得た作戦である。

 胸中でその発案者である碧斗に、感謝を述べながら美里は強い態度で智也に迫る。

 すると。


「...はぁ、分かった、」


 その威圧感に負けたのか、はたまたその内容に共感したからか。

 はたまたその両方か。

 彼の思考は定かでは無かったが、添えていた手を離し、海山智樹に向き直って小声で零した。


「少し、時間稼ぎくらいはしてやる」


「フフッ、時間稼ぎ、ね」


 その、案外素直な対応に思わず微笑みながら、体の痛みを振り払って美里は立ち上がる。

 二人ならば。

 この二人ならば、勝てるかもしれないと。お互いに一瞥して目つきを変える。

 そんな二人が隣り合わせになり、智樹に攻撃を放とうとした。

 その瞬間だった。


「おい。何が時間稼ぎだって?」


「「!?!?」」


 突如聞こえてきた誰かの声に、慌てて智也が。

 驚愕して美里が、僅かに目を開いて海山智樹が。

 そちらを向く。


 と、そこには。


「っ!?」


ー嘘、ー


 顔から血の気が引いていく智也の隣で、同じく青ざめる美里。

 そこにはーー


 智也の所属する、パニッシュメントの(おさ)


 大内涼太(りょうた)が、屋根の上に立っていた。


「おい。なぁにがっ、時間稼ぎだ?阿久津智也。お前には言っただろ?碧斗を連れ去って、友達ごっこしてるこいつらに現実を教えろと」


 どうやら、お怒りらしい。

 乱暴な声音で、涼太は彼女達を指していると伝えるがために、美里に目配りしながら放つ。

 と、それと同時に。


「ぐあっ!?」


「くっ!?くうぅぅっ!?」


 美里と智也の脚に、それぞれ茎が突き刺さる。


「駄目だよよそ見は」


 それを放った張本人である智樹が微笑んだのち、その笑みは不適なものへと変化し、更に付け足した。


「苦しい顔が見られないじゃん」


 そう放つと共に。

 今度は涼太の方へと茎が生えては、瞬時に向かう。


 だが


 それが向かうよりも前に。涼太から40センチ程手前で全てが枯れる。


「邪魔すんな。こっちにはこっちのやるべき事があんだよ」


 そんな、彼に忠告。いや、命令を怒りに任せて放つ涼太に、反応と光景を目の当たりにした智樹は思わず綻んだ。


「おもしろそうだな。お前」


「関わんな。お前の存在自体が、今の俺には害だ」


 ニヤリと目を細め笑う智樹に、見下す様に睨んで告げる涼太だった。

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