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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第5章 : 啀み合いと狂気(フォリィ)
143/301

143. 形勢不利

「それよりもお前、血行は良い方か?」


 挑戦的に笑う碧斗(あいと)に、智樹(ともき)はニッコリと。表情を変えずに返す。


「うーん。俺は普段から湯船に浸かるし、悪くは無いんじゃ無いかな」


 そんな事を口にしながらも、背後で皆の救助を行う樹音(みきと)に。智樹は茎を生やして貫こうとする。

 が、その瞬間。


「良かった、ならせっかくだ。もっと良くなって帰れ」


 碧斗がそう笑って付け足すと同時。

 突然、碧斗は何かの気配に気づいた様に横にズレる。と、その先。彼の背後から。

 眩しい閃光が智樹に向かって放たれた。


「っ」


 それにほんの僅かに目を開くと、瞬間。

 電撃と思われるそれが、地面。いや、地面一帯に突き刺さった、大量のナイフにーー


 感電する。


「!」


 音になる程の電流と共に、ナイフを経由し地面に電流が流れる。

 この時のための避難だったか、と。智樹は背後で皆を連れ、距離を取った樹音に対し口角を上げる。

 夥しい数のナイフの中央に位置する智樹も、勿論感電し、まるで体が地面に固定されたかの如く硬直していた。すると、続けて。


「なっ」


 そう動揺に声を漏らしたのは、智樹では無く。

 阿久津智也(あくつともや)の方であった。


 即ち、碧斗の作戦は智也と協力する事。では無く。

 強引にこちらに誘導し、「利用」する事であった。

 碧斗に放った筈の攻撃を利用された事にたじろぐ智也を他所に、続ける。


「ナイフは地面に電流を満遍なく流すための手段だった。地面がこれじゃあ、植物は生やせないだろ?」


 煽る様にニヤける碧斗のそれは、まるで今までの借りを返すと言わんばかりの意の現れだった。

 だが


「はぁ」


「...?」


「ガッカリだよ。碧斗君。...もう少し頑張れば、、おもしろくなった筈なのに」


「何、?」


 智樹の心底ガッカリした様子に、碧斗は表情を崩す。

 そんな、「何も気づいていない」碧斗に、智樹は空を見上げ告げる。


「いいかい?阿久津智也君は、君を本気で殺そうとなんてしてないんだよ。そんなの、今までの様子で分かってたよね?何度だってチャンスはあったのに、するのは体を動かせなくする程度の電流ばかり。気絶する程のものを放とうと思えば幾らでも出来た筈だよ」


「...何が、言いたいんだ?」


 恐る恐る問う碧斗に、智樹は尚も残念そうに伝える。


「つまり、電流が弱いんだよ」


「...なっ」


「考えれば分かったはずでしょうに。勉強不足だね。大電流でなければ、抵抗の少ない地面の方に多く電流は流れる。つまり、意味はないって事」


 そう続けながら、背後で距離を取っていた樹音へと。

 茎が伸びては貫いた。


「ぐはっ!」


「っ!樹音君!」


 智樹はその説明を証明するかの如く、樹音を見せしめにする。それに対し苛立ちを見せ、悔しがる。

 と、思われた碧斗は、次の瞬間。

 笑みを浮かべて、智樹に向かって"跳躍"した。


「っ」


 取り乱し、襲う様に飛びつきにかかった。と言うわけでは無いという事が、彼の表情から見て取れた。


「勉強不足?そのまま返してやるよ。弱い電流でも体が動かない程なのは確かだ。それが長時間地面に流れていれば、植物内の細胞にも僅かな異変が現れる筈だっ!」


 残念はお前だと。返す様に碧斗は智樹に向かいながら挑発的に笑う。だが。

 自信げに放つそれもまた、馬鹿を皆に知らしめるための公開処刑だと。

 まるでそれを分からせるために智樹は自身の足元から茎を生やし、それを碧斗に向かわせる。

 が。

 まるでそれが来るタイミング。場所を察していたかの如く華麗な動きで、それをギリギリで避け、その茎をーー

 ガッシリと、手で掴んで碧斗は放つ。


「言っただろ?長時間流れていれば異変が現れる筈だって。つまり茎が伸びた時点で、強い電流は既にここに流れていない事になる」


「!」


「だからこそその行動を待ってた。茎を生やした時点で、それに電流は流れてない証拠になるからな。出来れば流れていて欲しかったが、それでも好都合だ。俺が望んだ"お前だけが動けない"状況を作り上げられたんだからな」


ー地面にナイフを刺し電流を流したのは、植物を生やせ無くするためじゃなくて、どこに行くか分からない智也君の電流を確実に俺に与えるためだったかー


 碧斗は掛け声の様にそう声を上げると同時。

 智樹に使用する事を想定していた、新たな能力の応用を試みようとする。

 と、その時だったーー


「がっ!?」


「?」


 衝撃が、体を駆け巡る。

 この感覚は今日何度も経験したものだった。

 そう、智也による、電流である。


「がはっ!な、なん、」


 あと僅かだというところで、碧斗は力無く地面に落下する。

 そののち、必死で体を起こした碧斗が息を切らしながら振り返った先には、屋根の上から見下ろす、智也の姿があった。


「言った筈だ。俺はお前を捕らえに来た。作戦も他の奴も興味ない」


 迂闊だったと。碧斗は歯嚙みする。

 智也がその作戦が終わるまでの間、何も手を出さないなんて保証は何処にも無かったのだ。

 ただ彼をこちら側が利用しただけに過ぎず、意思が一致したわけではないのだから。


「はぁ、おもしろくないな。おもしろくなりそうなところを邪魔されるのは。...正直腹が立つ」


 少し睨む様に阿久津智也を見つめ、智樹はそう小さくぼやく。

 それに何を言うでもなく、智也はナイフが大量に刺さった地面に電流を放つ。


「「!」」


 その領域の中に居た碧斗と智樹は、高速で巡る電流に体を痺らせ、身動きが取れない状態となっていた。

 そんな中に、屋根から軽くジャンプをして降りた阿久津は、人差し指で智樹を指す。


「悪いが、碧斗はこっちが必要なんでね。お前に殺されるわけにもいかないんよ」


 そう軽くも強く口にすると、今度は強めの電流を指から放つ。


「眠ってろ」


「っ」


 瞬間。身動きの取れない智樹は、あっさりと意識を失い、崩れ落ちる。


「と、、智也っ、君、」


 同じく地に這いつくばる碧斗は、そう彼の名を歯嚙みし呻いた。

 そんな碧斗を、軽々と持ち上げ、遠くで冷や汗を流す一同に声を上げる。


「どうした。言葉も出ないか?お前らの言う化け物が一瞬で破られて」


「...」


 同じく歯を食いしばる皆に、智也はニヤリと微笑む。


「ま、俺もだけど、みんな相当限界が近いな。...これは、、今だったら、全員捕獲も出来るか」


「「「「っ!」」」」


「やめろ!智也君!」


「碧斗は黙ってろ。どうしたみんな?碧斗が。一番ピンチな時に突破口を見つけ出し作戦を与えてくれる碧斗が欠けただけで、もうお終いか?...やっぱり、大将の言う通りだったな。少し残念だ」


 今度はどこか諦めた様子で智也は息を吐く。その発言に、碧斗は疑問に思う。


ー大将の言う通り、?ー


 脳内で呟く碧斗を他所に、智也は一呼吸すると改める様に体勢を整える。


「っし。どうせみんな瀕死だ。今一番の目的は碧斗なんだ。申し訳無いが、連れて行かせてもらうぞ」


「っ、だ、駄目っ!」


 反射的に沙耶(さや)が叫ぶと、智也に向かって岩が放たれる。

 だが、それを見切り、その岩に向かってーー


 抱えていた碧斗を差し出す。


「「「「っ!」」」」


 皆が目を剥く中、思わず沙耶は岩の動力を解除する。


「てめぇ、人質とか、舐めた真似しやがって!」


「この場に及んで、、ほんとあんた、、許せない、」


「碧斗君、」


 その卑劣な戦略に、全員が睨む様にして、憤りを露わにする。


「はは、みんなまだそんな事に怒ってんの?この無法地帯の世界で?」


「んだと?」


 大翔(ひろと)が腕まくりをして首を回すと、智也は少し間を開け、声のトーンを落とす。


「マジで今更なんだけど」


「「っ」」


 争いの残酷さを目の当たりにしている一同は勿論だが、将太(しょうた)の行方を知った碧斗と樹音は、尚その言葉の本当の意味を理解する。


ーきっと、智也君にも想いがある筈だ、、ここまでする理由も、、だが、それでも連れて行かれるわけにはいかない。俺だって。俺達だって、強い想いくらい幾つもあるんだー


 碧斗はそう強く思い、なんとか打開策を練る。

 が、その抵抗も虚しく、智也はその場から立ち去ろうと足を上げる。

 それに、逃すまいと。大翔が跳び上がる姿勢になり、美里(みさと)が手に炎を宿し、樹音が剣を出現させる。

 するとそれに合わせて、沙耶は両手を前に出し、智也の足元に岩を生やそうとする。

 だが、それより前にーー


「っ!」


 智也の脚に蔓が巻きつき、持ち上げられたのち。

 家の壁へと、放り投げられる。


「ぶあっ!?」


 勢いよく家の壁に激突した智也に、追撃を行う様に。その民家の裏から、家を貫通させて茎が飛び出し智也の横腹を削る。


「ぎぃぃっ!?」


 それを受けたのち、力無く地面へと叩きつけられた智也は薄目で「それ」を見据え、眉を潜める。


「嘘だろ?もう動けるん、かよ、」


 呻く様に放つ智也に、立ち上がった海山(みやま)智樹は爽やかな表情で振り返る。


「君が電流を放つ瞬間に、こっちは植物を生やして足の裾から服の中に入れて、体に巻き付けておいたんだよねぇ。智也君は人に放つつもりだから、植物が発火する程のものは放たないだろうし、小さな電流なら絶縁体である植物を纏ってれば大きな損害は出ないよ」


「クソッ、、気絶も、演技、か、」


「まあ、百パーセント防ぎ切れる訳じゃ無いし、少しは効いたけどね。相手にこの世界ではとか、手加減するなみたいな話してたけど、一番手加減しちゃってたのは智也君の方だよね。恨むなら自分を恨むんだね」


「チッ」


 軽く放つ智樹の姿に、怒りを露わにする中。続け様に智樹は「あっ」と呟き付け足す。


「ちなみに、そんな君の手加減で、一人が犠牲になりました」


「「「は、?」」」「「何、?」」


 笑顔と乾いた声で放つと共に、先程智也に攻撃を与えるために家を貫いた茎が、ゆっくりと引き抜かれ地へと戻って行く。その様子に、一同は段々と険しい表情へと変化し、残された穴の空いた民家にはーー


 ーー腹を貫かれ、上半身と下半身がほんの少しの筋と肉で繋ぎ止められている、痛ましい住人が、鎮座していた。


「「「「「「っ!?」」」」」」


 智也を含めた全員が、怪訝な表情を浮かべ、内数名は口を手で覆った。

 また、犠牲者が出てしまった。なんの罪も無い。何も知らない、この世界の。戻る事無い命が。

 皆は、絶望と共に強い思いが脳内を覆い尽くした。

 直ぐにこんな事、終わらせなければ、と。

 そう碧斗は、信じ難く慣れることの無い悲惨な光景に、息を荒げ全身の震えを感じながらも、必死に策を考える。

 同じくそれを感じた沙耶は、このタイミングしか無いと。

 震えながらも、沙耶は先程智也に行おうとしていた行為をそのまま彼に放つ。

 瞬間。智樹の足元が盛り上がり、岩が生えたかと思われた直後、それが浮き上がっては岩が裂け、彼を包み込む様に変形する。


「こっ、これならっ!」


 能力の限界を越えている様で、息も絶え絶えだったものの、智樹を閉じ込める事に成功した沙耶。

 だったがーー


「えっ!」


 突如沙耶の目の前から、太い茎が現れ彼女に向かう。

 突然の出来事と、智樹への能力使用により反応が遅れたが、既のところで樹音が割って入り、その茎を斬りつける。


「だっ、大丈夫?沙耶ちゃん」


「う、うんっ、、ありがとう」


 樹音に対して沙耶が感謝を述べると共に、大翔は閉じ込められていても攻撃を続ける事が出来ると理解し、岩に包まれた智樹を殴りつける。


「ぐはっ」


 それにより岩は破壊され、壁に叩きつけられた智樹は、変わらず笑っていた。


「クソッ!この異常者が、俺がっ!殺してやる!」


 そんな彼に、畳み掛ける様に、大翔は拳を構えて向かう。

 だが、智樹は余裕そうな笑みで、それに応じた。


「殺してみなよ。俺達には能力があるんだ。凶器なんていくらでも用意出来るだろ?」


 それを試す様に。

 期待する様に、智樹は放つ。それに尚怒りを露わにして、大翔は殴りかかる。


「...あいつ、、一体どこで俺達の場所を把握したんだ、?」


 そんな中、碧斗は岩に包まれていた筈だというのに茎を的確に向かわせた事に、疑問を感じて呟いた。すると。

 大きな深呼吸が聞こえたと同時に、隣に近づいた美里が、碧斗の袖を僅かに引っ張る。


「っ、、ど、どうしたの?」


「...伊賀橋(いがはし)君、このままじゃまずい」


「た、確かにそう、だよな、」


 そう。確かに先程碧斗の行おうとしていた作戦の一番重要な点は明かさなかったものの、あの完璧な状況へ立て直すのは、ほぼ不可能に近いだろう。

 作戦の最後を変えずに練り直したとしても、勿論時間を要する。即ち、相当ピンチである事を意味していると。碧斗は頭を掻く。

 が、そんな碧斗に、美里は予想外の提案を口にした。


「私に考えがあるの。伊賀橋君の意見を聞かせて」


           ☆


「やめてっ!」


 沙耶が足を早め、そう言うと共に石の塊をいくつも智樹に向かって放つ。

 そんな彼は、現在大翔と交戦中だったのにも関わらず、自身から20メートル離れた位置から植物を生やし、蔓で石を止める。


「君は、、大翔君は、特におもしろくないかな」


「はぁ!?お遊びみたいに言いやがって、、ふざけんなっ!」


 つまらなそうに大翔の攻撃を躱しながら呟く智樹に、分かりやすく攻撃速度を速める。


「大翔君さぁ、殺すって言ってるし思ってるけど、体ではそうしようとしてないよ」


「は?」


 大翔が思わぬ発言に目を丸くした、次の瞬間ーー

 先程受け止めた石が突如先の尖った、大きな石へと変形し、巻きついていた蔓を切る。


「っ」


 それと同時に、石は同じ速度で智樹に向かう。

 その光景に気付いた智樹は、驚きを見せる。


 わけも無く。ほんのり微笑み、手を地面につけると、彼の足元から。

 巨大な樹木が生える。


「なっ!?」「「えっ!?」」


 それを目撃した、樹音を含めた3人が驚愕の声を漏らす。

 と、下から生えたが故に、その大木の上に立っている智樹は、笑う。


「草の能力は、使いこなして自身の力とすれば木すら、生やす事も可能だし簡単なんだ」


「嘘、、」


 それが生えた事により、放った石は全て樹木にぶつかり、彼に届く事は無かった。

 と同時。


「ぐべぇ!?」


「っ!(たちばな)君!?」


 沙耶の左隣に居た大翔が、巨大な根に足を貫かれる。


「この大木は既に、この場一帯の地中に根を張ってるからね。さっきよりも簡単に、的確に生やす事が出来るってわけだ」


 と、笑顔で放ち大翔に向かったのち、僅かに樹音に視線を移動させて、少し真顔になり付け足す。


「おもしろくない奴は、ここで退場かな」


 それに、大翔が冷や汗を流しながら歯嚙みしたその時。


「そうはさせないよっ!」


 体がボロボロである筈の樹音が、空中に剣を出現させてはそれを蹴り、その大木を斬りつける。

 だが


「はぁ」


 ため息と共に。


「ガッ!?」


 その樹木から直接生えた茎が彼の腕を抉り、思わずバランスを崩す。

 だが、それにすら弱音を吐かずに樹音は足元に新たな剣を生成して、今度は本体である智樹に攻撃を行おうと試みる。がしかし。


「っと」


 そこから、突然智樹は屋根の上へと飛び降りる。


「「「っ」」」


 それに、三人は目を剥いた。刹那。

 目の前には閃光が広がる。ついこの前、経験した光景だ。これはーー


「マズいっ!みんな頭下げろ!」


 血を吐き出しながら大翔が叫ぶと同時。

 それを覚えていた沙耶は、瞬時にそれぞれ皆を囲むように石を生やしてかまくら状に変形させる。

 どうやら、早急な対応のお陰で、目の前で受けた樹音も含め負傷者は出なかった様だ。だがしかし、その場一帯が。


 火の海になっていた。


「危なかったぁ。君が屋根に登ってるのに気がつかなかったら、直撃してたよ...智也君」


「チッ」


 そう、その閃光の正体は、落雷。

 (しん)とは違って、その場で。自身の能力で、直接放たれた(いかずち)であった。

 屋根の上から「その時」を伺っていた阿久津智也は、それをまたもや利用されてしまった様で、海山智樹の対応に思わず舌打ちを零した。

 瞬間。


「「っ」」


 その場に、煙が突如放たれる。


「クソッ、あいつ、、なっ!?」


「っ!」


 漂う煙により、辺りの状況が分からないが故に。

 突然二人は何者かに押され、屋根の上から突き落とされる。

 それに海山智樹は植物を地面に生やし、クッションを作る。

 阿久津智也は四千ボルト以上の電気を放ち、壁にくっつきながらゆっくり降下する。

 それにより地面に無傷で辿り着いた二人は、突き落とした人物を確認するべく上を見上げ、理解する。


「!」


 それを仕掛けたのが、碧斗である事に。


「碧斗!お前、」


「どうやら、嵌められたみたいだね」


 上を見上げ声を上げる阿久津とは対照的に、海山智樹は前を向いて悟り、息を吐く。

 その反応に阿久津は海山と同じ方向へと振り向くと、そこには。


 先程の落雷で火の海と化したこの場の炎が、まるで壁の様に燃え盛る手前で、美里が一人、立っていた。


「っ!まさかっ」


「ありがとな、智也君。助かった。また利用させてもらったよ」


 何かを察した阿久津に、碧斗はそう感謝を述べる。と、そののち。

 碧斗はその場を、屋根を乗り継ぐ形で走って立ち去る。


「おいっ、碧斗っ、待てよ!」


 そんな彼に声を荒げる阿久津智也。その前に、美里が先には行かせないと言うように足を踏み出す。


「っ!相原(あいはら)、、お前」


「だから言ったでしょ。嵌められたって」


 怒りに歯軋りする阿久津智也に、表情を崩さず肩を叩く海山智樹。

 肩に手を置く彼に智也は電流を流そうとしたがその時、美里が目つきを変えて前に出る。


「あんたには相性悪い私と対面。しかもその相性の悪い炎が周りを囲んでる。分が悪い状況になっちゃったみたいね」


 腰に手を当て、息を吐く美里に。「お前達がした事だろ」と放とうとする阿久津智也の前に。


「こっちに相性が悪いのは能力だけだよ。しかも、表向きのね。本当に分が悪いのは誰になるか、楽しみだなぁ」


 まるで、自信満々に宣戦布告する美里の意志を、打ち砕く様に、ねじ伏せる様に。

 海山智樹が、乾いた笑みで返すのだった。

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