139.異常感覚
「な、なんとかするって、、相原さんも既にそんな状態で、」
碧斗は無理に勇ましく佇む彼女に、不安の言葉を放つ。
確かに、美里は何事にも怖気付く事なく行動し、努力する人物ではあるがしかし。碧斗の知っている限り、彼女は痛みに弱い。
それは誰しもが同じだろうが、今までの戦闘の中で美里の反応は目立っていた。
掠った傷や、吹き飛ばされて負った擦り傷などで涙目になっており、腕や足などに突き刺さった際には僅かに涙を流していた。碧斗の言えたことでは無いが、美里は樹音や大翔達のような、痛みに疎い人とは違って敏感なのだ。
それ故に、碧斗は理解していた。
これが、無理しているのだということに。
そんな事に不安を感じていると、美里は少し微笑んでみせる。
「私の能力は炎。相手は草でしょ?それだったら、常識的に考えて有利なのは私。属性では勝ってるって事」
「た、確かにそうかもしれないが、、理屈が通用する相手だとは思えない、、俺はさっき合流したばっかりだが、それですら分かる異質さだ。いつものようにいけるとは思えない」
犠牲になって欲しくは無い。故に、作戦や計画を完璧なものにしてからの戦闘を碧斗は促し、沙耶に小さく訊く。
「あの、海山智樹って人、、同じ、学校だったんだよね、?どんな感じだった?」
突然の言葉に、沙耶は一瞬硬直したものの、直ぐにハッとし、口を開く。
「う、うぅ〜ん、、私はあんまり接点無いから、、よくは知らないけど、、普段はあんな感じじゃ無かったよ、?凄く真面目で、逆に印象的だったのは覚えてるけど、」
「そうか」と、碧斗は返し一度頷く。真面目だという事が、逆に目立ってしまう程の学校環境だったのだろう。だが、それを耳にした碧斗は予想通りだと顎に手を持っていく。
ーやはりそうか。王城での食事の件もあって、もしかしてとは思ってたが、、彼は真面目な人間だったんだなー
そう。真面目な人こそ、心に暗いものを抱えている人が多いだろう。全員が全員そうとは思わないが、そのような人ほど、深くに存在する感情を剥き出しにした時、恐ろしいものだ。
碧斗はその性格を考え、作戦を考える。
がしかし。それを見つめていた美里はムッと表情を変え、ぶっきらぼうに放つ。
「ねぇ。作戦を考えるのもいいけど、その間にも円城寺君と橘君は戦って苦しんでるの分かる?そんな事してる時間は無いと思うんだけど」
美里はそう放ったのち、人差し指を碧斗に向けて続ける。
「だから、接近と主な攻撃は私に任せて。伊賀橋君と水篠ちゃんは遠距離から援護して」
「なっ!?そ、そんな、いくら能力が適正でも1人で接近だなんて、」
「そっ、そうだよっ!そんな事、美里ちゃん1人にやらせられないよ!」
碧斗と沙耶はそう言う。
それはそうだ。美里の能力は、確実に遠距離向きの能力なのだから。
だが、と。美里は息を吐いて首を振る。
「接近特化の2人が今必死に戦ってんでしょ?だから、私がやるしか無いの。それに、ノープランで行こうとは思って無いから」
「「っ!」」
植物の方向へと一瞥したのち、美里はそう真剣な表情で放つ。
対する樹音と大翔は、6本程の巨大な茎相手に奮闘している様子だったが、向こうもこちらを僅かに見据える。どうやら、こちらの存在には気づいている様だ。
「な、何か手があるのか?」
あの化け物相手に、今までのような作戦が通用するかは不明だが、碧斗はそれに賭けるしかないと身を乗り出す。
対する沙耶も続けて乗り出し、期待の眼差しを向ける。
そんな2人に、美里は近づくと、周りに聞こえないように小さくそれを告げたのだった。
☆
「って、、感じ、だけど、、どう?」
「い、いいと思うよっ!美里ちゃん!」
美里の要約した解説に、沙耶は笑顔を浮かべる。
が、対する碧斗は、悩む様に視線を下げる。
「伊賀橋君は、、どう?」
「...ごめん。正直、上手くいくとは思えない」
「...はぁ、、そう、ね。穴だらけだもん、しょうがないわ」
「いや、それ自体は問題無いが、そこから立て直せるか、二人がどうなるか。不確定要素が多すぎる。相手を考えると、もう少し、何かーー」
「相手を考えると、、何?」
「「「!?」」」
美里と碧斗の会話に、ふと。
その場からは聞こえない筈の声が放たれる。
そう、3人の背後から、海山智樹の声がだ。
見失うものかと。3人は植物から目を離さなかったが故に、碧斗は冷や汗混じりに確認を含め告げる。
「植物を操りながら別行動が出来るのか、」
「そうだね。普通は厳しいかもしれないけど、二つの事を同時にこなすのは慣れてるんだ」
誇らしげに自慢を口にする智樹に、碧斗は目つきを変える。
「一体、距離はどこまで反映出来るんだ?」
「さぁ?どうだと思う?さいじゃく君」
その問いに、試す様に。煽る様に笑みを浮かべる。その反応に、碧斗は彼を睨む様にしながら、美里に耳打ちをする。
「この調子だと、俺達同時に相手出来る感じだな、、だとすると、さっきの作戦はマズい」
碧斗の小声に、美里は無言で頷く。
「だから、俺のあれを」
「でも、あの作戦だと伊賀橋君が、」
そんな2人に、智樹はニヤリと微笑む。
「お二人さんでお話ししてると」
彼はそこまで言ったのち、清々しいニヤケ顔はそのままで、声のトーンを落として続ける。
「もう1人が可哀想だよ」
「がえっ!?」
「「!」」
瞬間、2人の背後で身構えていた沙耶の。更に背後から茎が現れ、彼女の腹を突き刺す。
「水篠さんっ!」「水篠ちゃん!」
声を荒げる2人に、血を吐きながら沙耶は微笑んでみせる。
「大丈夫っ!石、、持ってた、からっ」
恐らく、事前に服の中にいくつかの小石を持ち歩いていたのだろう。
それを既のところで大きさを変動させ、防いだと予想出来るが、樹音同様。勢いがあったため、それで止める事が出来ずに、石に弾かれ軌道を変えた茎が彼女の横腹に刺さった。
「そんな、事よりっ、、ま、まえっ!」
「「っ!」」
「いっっ!」
沙耶が2人に迫る脅威を口にすると同時。
碧斗達は振り返るが既に遅く、美里の左足の脹脛にーー
向かった茎が斬りつけた。
「相原さんっ!」
碧斗は彼女の心配を口にするがしかし。その後こちらに向かう茎に、碧斗は目を剥く。
すると
「だめっ、」
碧斗の目の前に、今度は巨大な岩が生え、茎を止める。
「っ!み、水篠さん、ありがとう」
「う、うんっ!」
ーマズいな、、水篠さんもそうだけど、相原さんの脚があれじゃ、作戦がー
「!」
碧斗は焦りを感じながら美里に目をやると、その姿にハッと目を見開く。
美里は、まるでこちらの意思が分かっているかの様に、涙目ではありながら鋭い目つきで振り返った。
まるで、"安心して。大丈夫、作戦は続行"というかの如く。
と、やはりそれは当たっていた様で、美里は血が出始める脚を無理矢理動かして、智樹の真横に移動する。
「いいね」
「何がっ!いいんだイカレやろーっ!」
美里は声を振り絞り、前に出した右手から炎を出す。
だが
「能力の威力はまだまだだけど、やっぱ君おもしろいね」
そう笑いながら。
彼は炎を避け、美里の背後から生えた茎で、背中を斬りつけた。
「うぅっ!」
それに拳を握りしめて声を殺す美里が、目を開いた先で、智樹は笑って付け足した。
「はは、わざと軽い怪我だけにして良かった」
「!」
それに美里はゾッと、痛みを一瞬忘れる程に恐怖を感じながら息を飲む。
と、同時。
「今っ!」
「水篠さん!」
「うんっ!」
ここまで狂気じみた人間だとは思ってはいなかったが、どちらにせよ成功だ。
美里の背後に現れた茎が地に戻る前の、僅かな一瞬目掛けて、沙耶は「茎の真横」に岩を生やしそれを爆散させる。
沙耶には既に、智樹が美里に意識が移る中で、そのタイミングを碧斗が耳打ちしていた。
即ち、タイミングは完璧。
だった筈が。
茎は瞬時に地中に戻り、それを避ける。
「「「っ!」」」
それに3人は目を見開き、その破片を避ける。
「速い、」
真横であるが故に、石の到達時間はほんの僅かであった筈だというのに。それを上回る程の速度。
「い、伊賀橋君、」
それが失敗したという事に気付いた沙耶は、絶望と不安を露わにしながら名を呟く。
「マズいな、」
「くっ!」
それでも負けじと、美里は地面に手を着き、地面自体に熱を放つ。がしかし。
「ああぁっ!?」
彼女の手を、智樹は思いっきり踏みつける。
「相原さん!」「っ!」
「そんな近くでやっても意味ない、、おもしろくないよ?...こんなおもんない手。要らないよね?」
「やめろっ!やめろよ!」
碧斗がその光景に声を荒げると、智樹はこちらに視線を移して笑う。
「と、見せかけて」
「がはぁっ!」
「「っ!」」
碧斗の背後から、声が上がる。
それに、嫌な予感を感じながら。胸騒ぎを覚えながら振り返る。と、そこには
足に茎が突き刺さる、沙耶の姿があった。
「嘘だろ、」
事前に、沙耶のハイソックスの中に小石を仕込んでいた様で、同じく貫通はしなかったものの、それに碧斗は思わず顔が引きつる。
「こういう事だよねー、碧斗君。君が考えそうな案だよ」
「その前に手を退けたらどうだ」
微笑む智樹に、碧斗は冷や汗を流しながらも、もの凄い形相で放つ。
「ああ、そうだった。忘れてたよ」
「うっ、ぐはっ!」
それに智樹は「あはは」とはにかんで、美里の手から足を退け、彼女を蹴りつける。
「お前ぇっ!」
「はぁ、はぁ、、美里、ちゃん、」
血を吐き出し泣きそうになりながら手を見つめる美里とは対照的に、碧斗は声を荒げ、沙耶は弱々しくも力を込めて放つ。
「いちいちオーバーだなぁ」
「チッ、、お前、どこから気付いてた?」
碧斗は怒りに歯嚙みしながら、そう唸る様に問う。
それに、やれやれと息を吐く智樹。
「さっきからオーバーで、仲間想いを唄いながらも、こっちには全然来なかったよね?しかも、声を荒げてそれっぽく見せてるのは碧斗君だけ。...ね?それだけでもう分かるよね?重要な鍵だったのは水篠沙耶。こっちに気を取られてる間に、その子が他の大翔君や樹音君を助けに行く。そんな感じの作戦だったんでしょ?フッ、、いやぁ、碧斗君らしいなぁって」
そこまでヘラヘラと笑って放ったのち、智樹は突然目つきを変えて真顔になり、付け足す。
「ほんと、おもしろくねぇなぁ」
「「「っ!」」」
その表情と声音に3人は目を剥いた、次の瞬間。
碧斗の目の前に茎が現れる。と
「今だっ!水篠さん!」
「うんっ!」
とうとう来たかと。まるでこれを待ってたと言うように、碧斗は突如そう声を上げる。
すると、茎と碧斗の間に更に巨大な岩が現れ、それを勢いよく破裂させる。
それと同時に、碧斗は煙を放つ。
ーそうか。あれは更に鎌をかけただけで、これが狙いかー
この巨大な岩ならば破片は多くなり、勢いも良ければ運良く本体への攻撃も出来るということだ。
更には碧斗の煙により、茎や智樹も上手く避ける事が困難になる。
ーよく考えられてるけど、これじゃ駄目だな。やっぱー
「おもしろくないね」
智樹は呟くと、石によって切られた茎と同じ場所からーー
新たな茎を瞬時に生やし、破裂した破片をしゃがんで避ける碧斗に向かう。
「っ!」
既のところで、碧斗は慌てて避ける。が
「グフッ!?」
流石に目の前で生えた茎への対応は間に合わなかった様で、横腹を茎が擦る。
ーグアアアアアアアァァァァァァァァッ!ー
口の中で、あくまで声を出さずに歯を食いしばる。
だが、この距離でここまで避けれたのはやはり煙のお陰だろう。そう考えながら、煙が薄れて、薄らと見える智樹のニヤリと笑う表情に、碧斗は小さく微笑む。
恐らく自分を殺せたと思い込ませるために、必死に声を我慢してる。
ーとか思ってんだろ?ー
碧斗はそう心中で呟く。
煙は確かに自身が避けられる様にするためであり、"そう思わせる"ためのフェイクであったが、本当の目的はそれじゃ無い。
と、次の瞬間。智樹は異変に気づく。茎が、先程とは違う茎がーー
斬られているという事に。
ほんの僅かに、智樹は目を見開く。どうやら、気づいた様だ。
岩の破裂や煙の1番の意味は、そのためでは無く、全て。
背後の、樹音と大翔を襲っていた茎を破壊するためだという事を。
故に、一度目の沙耶による岩の破壊で揺さぶりをかけたのだ。
「油断してる場合っ!?」
と、ずっと手を痛がる様にして蹲っていた美里が起き上がり、変色している両手を前に出し、「全力」で。
智樹に向かって炎を放つ。
そう、この時のために、美里は今までの攻撃は力を抜いていたのだ。
"能力の威力はまだまだ"だと、思わせるために。
その、突如火力が増した現状に、思わず智樹は後退る。と、その瞬間を狙って。
「!」
煙の向こうから。
突然地響きが起こり、こちら側に向かって地面にヒビが入り砕ける。
そうこれが、煙のもう一つの理由。
沙耶の岩が砕けて、樹音達を攻撃する茎を斬る事に気がつかせない為でもあり、"碧斗の背後からの攻撃"を、予期出来ないものにするため。
ー樹音君と大翔君がこちらの存在を認識し、智樹君が居る事を意識してるのは知ってたー
だからこそ、この選択をしたのだ。3人では力不足であるがために。
と、地面の破壊によるその反動で、智樹は宙に放り出される。
その瞬間、智樹は周りを見渡す。どこからとどめが来るのかと、予想しているからだろう。
だが、と。碧斗は口角を上げる。
ーもう手遅れだー
微笑んだと同時。智樹は影により理解し、「真上」を見上げる。
その視線の先には既に、宙に生成した剣を蹴って移動する樹音の姿があった。
「っ」
智樹は息を飲んでいる事だろう。
樹音のスピードを見れば一目瞭然だ。
もう既に、対応出来る代物では無いという事を。
すると智樹の背後に、剣が宙に現れたかと思うと、樹音は現在足を着いている剣を蹴り、彼の裏を取る。
瞬間、樹音は深呼吸をする。
剣を突き刺す事に、僅かに戸惑いを感じている。
本当に突き刺していいのだろうか。確かに相手は凶悪な人物であるが、本当に人の心が無いと言い切れるだろうか。話し合いをした方がいいのでは無いか。
そんな様々な感情が、樹音の脳に囁く。
だが、そんな事を思ってはいけないのだと。相手は狂気的な人物であり、これを逃したら次は無い。躊躇ってはいけないのだと。
樹音は剣を持つ手を震わしながらも、覚悟を決める。
この甘さを、擦れば良いと思ってしまう優しさを、前回利用されたでは無いかと。
ーもう、迷うわけにはいかないー
これで仕留める。
それのみを思い、樹音は智樹に刃を突き刺す。
その迷いを見せない樹音の姿に、碧斗は安堵する。
これなら大丈夫
勝てる、と。
そう思った矢先。
「っ!?」
樹音は剣を構えて智樹に向かいながら、彼の"背"を見て驚愕する。
智樹の背中には、植物で埋め尽くされてはいるもののーー
ーー大きな穴が、空いていた。
「なっ、なんでっ!」
そう動揺を見せたものの、樹音は剣を蹴った勢いもあり、そのまま智樹に刃を突き刺す。
が
「...フッ」
「...え、」
目を疑う。
反射的に、穴とは違う場所を刺した。
背からは血が溢れる。生々しく、痛々しい見た目で、黒くて赤い血液が漏れ出る。
そうだというのに、本人はーー
ーー笑っていた。
「あーあ」
「っ!ごふっ!?」
次の瞬間樹音の腹に蹴りを入れられ、吹き飛び、地面に叩きつけられたと同時に、その地から茎が飛び出し肩を貫く。
「がぁあはっ!?うあぁっ、がぁぁぁっ!」
智樹に負けじと、樹音の体からも出血する。その姿光景に、その場の皆。
全員が唖然とし、冷や汗を流す。
「嘘、だろ」
そんな中、碧斗は思わず声を出す。
そう、正面に居る碧斗達から見える智樹の体から、突き刺さる刃の先端が、飛び出しているのだ。
「ははっ、はははっ!良いねぇ、やっぱ面白いなぁ、、噂通りで嬉しいよ」
口から血を流しながら笑顔を浮かべる異様な姿に、皆は本能的に震え、身構える。
ーこれは、思ってた何十倍もイカレてやがるな、、こいつー
変な汗が全身から止まらない碧斗は、正気とは思えない人物の前で、顔を引きつらせながらそう考えを改めたのだった。




