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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第5章 : 啀み合いと狂気(フォリィ)
138/301

138.猟奇

「はぁ、はっ、はっ、は!」


 樹音(みきと)を突き刺したまま、彼を振り回す様にして蠢くそれに、碧斗(あいと)は呼吸困難になっていた。

 動く6本程の茎の周り。至る所に血と思われる液体が飛び散っているものの、それぞれ色が僅かに違かった。

 故に、碧斗の額から冷や汗が噴き出す。


 他のみんなは、何処だ?


 最悪な想像が脳を過り、碧斗は心臓が痛むのを感じた。


 ありえないと、そう思いたかった。その、次の瞬間ーー


「あ、あい、っと、くっ!きちゃ、ダメだっ!」


「!」


 樹音の言葉と同じタイミングで、その中の1本が、碧斗の存在に気付いたように向きを変える。

 マズい。

 殺される。

 情も、慈悲もない。

 感情すら存在するか危うい、この植物に。


 殺される。


「碧斗くっ!にげっ!がほあっ!?」


 その姿に、樹音は碧斗に避難を促すものの、それと同時に彼の左肩に1本の茎が突き刺さる。

 その間にも、碧斗には茎が向かう。


ーどうする?煙を出すか?いや、相手は人じゃ無い、、目眩しも意味がない。このまま向かってきたら、煙を出しても間違いなくやられる、、どうする、?どうすればー


 そう頭を悩ませる。間僅か0.数秒。

 それにより碧斗は避ける選択肢を取り、体の重点を右へと寄せる。

 が、しかし。

 脳は高速で動こうとも、体はそういうわけでは無い。ただでさえ運動神経が劣っている碧斗が、現在の状況で直ぐに動けるわけがない。

 もう少し体と根性を鍛えておけば良かったと。

 転生してから肉体トレーニングすらまともに行わなかった碧斗は、そう胸中で愚痴を零す。


ーマズい、、もう駄目だー


 現在も右に逸れようと動いてはいるものの、避けられるとは到底思えない。

 故に覚悟を決め、目をギュッと瞑り、体を硬らせる。

 と、その時


「グッ」


 碧斗の目の前に差し迫った茎を、屋根の上から現れた大翔(ひろと)が間一髪で踏み付ける。


「ガハッ、、碧斗、無事か?」


「...!ひ、大翔君、、無事だった、、わけじゃ無いよな、」


 「無事だったんだな」と言いかけたが、大翔の身体中から血が溢れている姿を見て、碧斗は言い換える。


ー嘘だろ、、大翔君は能力で超人になってるからまだしも、こんなの常人だったらとっくに、ー


 またもや、嫌な予感が脳を埋め尽くし、首を振る。

 と、その後、大翔は踏みつけた茎を足を退けて手で掴み、引き抜く様に引っ張る。

 すると。


「ラァ!?」


 大翔の全力によって、茎は引きちぎられる。

 だったが。


「いっ!?」


 引き抜く事に成功し、碧斗が目を広げた、僅か1秒後。

 大翔の足に。

 足元の地面から飛び出した茎が突き刺さり、反射的に大翔は退く。


「ぐはっ!?がっ、ぐふっ!」


 大翔の退いた力により、彼の足に突き刺さったまま、茎は引き抜かれる。


「碧斗、、お前は逃げろ」


「え、」


「いいから逃げろ!こいつは、お前の力でなんとかなる相手じゃねぇ。碧斗には、、相手が悪過ぎる」


 大翔は汗をかきながら、目つきを変える。その顔も体も、碧斗の方に向く事は無かった。

 決して「それ」から目を離してはいけないと。本能的に感じ取っているのだ。

 碧斗がそのただならぬ雰囲気により震えが止まらない足を、必死に動かそうとしている中、ふと。

 遠くから声が響く。


「あ。君が例の碧斗君かぁ」


「はぁ、はぁ、なんだ?」


「お、俺の名前で、、反応した、のか?」


 2人が、その声に戸惑いを見せたのち。

 茎が左右に移動し、その奥から1人のーー

 少し天パが混じったような金髪。と言ってもゴールド寄りな色をしている髪の毛をした男子が、現れた。


「っ!お前、あの時の、」


「おっ、覚えててくれたんだね碧斗君。じゃあ、一応自己紹介がてら言わせてもらうよ。俺の名前は海山智樹(みやまともき)。よろしく頼むよ」


 そう律儀に頭を下げ自己紹介をする、智樹と名乗った彼は、あの時。

 修也(しゅうや)祐之介(ゆうのすけ)を殺した際に、妙に冷静で、あの状況下で食事をしていた。更に、修也と沙耶(さや)、共に2人と同じ学校出身の転生者だ。

 どうして彼がここに?

 いや、今気にするのはそこじゃ無い。今、1番口にしなければいけない言葉はーー


「まさか、お前がこんな事したのか?」


 少しトーンを下げて、碧斗は歯嚙みする。

 茎が左右に動き、間から彼が現れた。そのため、碧斗はそう結論付ける。

 と


「うん。そうだけど?」


「「は、?」」


 まるで、教室内での会話の如く。

 彼は、至って平然とした態度で、何故そのような質問を、そのような表情と声音で告げるのかといった、疑問を抱いている顔で返す。

 それに、思わず目を疑い、言葉を漏らす碧斗と大翔。


「おまえっ、!チッ、ふざけんなよ、、絶てぇ、お前は、、絶対俺が殺す!」


 大翔がその返答に苛立ちを見せ、そう声を荒げる。それは、碧斗も全く同じ気持ちだった。

 能力が最弱で無ければ、即座に彼を葬り去っていたところだろう。

 だが、そんな2人の反応を見て、彼は更に首を傾げる。


「ん?なんで怒ってるんだ?別にちょっと痛めただけだし、人はいつか死ぬよ?それに、面白いんだから、そんな怒ること無いだろ?」


「は、?」


「面白いから、?怒ることじゃ無い?どうかしてるぜ、お前ぇっ!?」


 眉間にシワを寄せ、嫌悪感を露わにする碧斗に対し、大翔は叫んで彼に足を早める。

 が、刹那


「ぶ」


 彼の足にまたもや、茎が突き刺さる。


「あんま(はしゃ)がない。走ったら危ないよ」


 と、今度はそれでは終わらず、茎は彼を突き刺したまま持ち上げーー


 家の壁を突き破り、横に移動しながら破壊し大きく振って地面に叩きつける。


「がばばばばはっ!ごはっ!」


「大翔君!」


 一瞬の出来事故に、碧斗も大翔も互いに反応が出来なかった。

 すると、大翔の体からは大量の出血が見られ、意識が混濁しているのが伺えた。


ーい、いてぇ、いや、いてぇってレベルじゃねぇー


 既に全身にガラスは勿論、壁の破片やパイプなどの細長いものが突き刺さり、痛みすら忘れる程の激痛が大翔を襲う。

 超人である大翔がこれだ。

 こちらに勝機があるわけがないと悟り、碧斗は同時に渋々、その場からの撤退を選択するがしかし。


「碧斗君、待ちなよ。まだ始まったばかりじゃん」


 智樹が笑うと同時に、彼の背後の茎が碧斗に伸びる。

 マズい。

 逃げ始めたために、今避ける事は不可能。その現実に、碧斗は冷や汗を流した。

 と、瞬間。


「グッ!う、うあああああっ!」


 樹音の背後からナイフが無数に現れ、彼に巻きついている茎を綺麗に裂く。

 と、その後、樹音は空中で手をこちらに出すと、碧斗に向かう茎にもナイフが向かい、それを地面に固定する。


「っ!み、樹音君!?何やってーー」


「ここでっ!無理しなくてどうするの!」


 碧斗と智樹の間で着地した樹音は、即座に剣を生成し、こちらに向かう茎の数々を斬りつけながら防ぐ。


「さ、さっき腹に刺さってただろ!?大丈夫なのか!?」


「さっき、茎が向かう一瞬で、防弾チョッキみたいにお腹のところに刃を生成しておいたんだ。そのおかげで、勢いもあって場所がズレた。急所は外してる。だから碧斗君、早く逃げて!」


 だから大丈夫だと言うように、樹音は声を上げる。

 急所は外してる。とは言ったものの、体からは多量の出血が目立つ状態であり、あくまで急所を外しただけの現状なのである。

 それに、碧斗は悩んだが、直ぐに自身では何も出来ない事を理解し、智樹とは逆方向へと体を向ける。その後


「樹音君、、絶対、見捨てる事はしない」


 碧斗はそれだけを残すと、死闘を繰り広げている彼を置いていく様なかたちになる、この行為に迷いを感じながらも、足を踏み出す。

 と、対する樹音は「それでいい」と言うような微笑みで頷くと、表情と体を硬らせ、戦闘態勢へと入る。


「どうやら、、これは本当の本気でやらないとヤバそうだね」


 冷や汗混じりの取り繕う様な笑みで、樹音は碧斗を追おうとする茎を斬りつけながら、そう覚悟を表した。


           ☆


 どうする?

 パニックに陥った碧斗は、顔から血の気が引き、その一言がただ脳を埋め尽くした。


ー誰か助けを呼ぶべきか?いや、そんな人は今の俺らにはいない、、俺らの味方をしてくれる人なんて、今現在能力者では1人も居ない。犠牲者を出さないためにも、なんとかしなきゃいけない、、どうすれば、、本当に、俺にこの状況を打破出来るのか、?ー


 折角樹音が作り上げた隙による脱出を、無駄にするわけにはいかないと。碧斗は頭を悩ませるがしかし。

 今碧斗に出来る事は何一つとして無いのだ。

 あんな化け物を前にして、碧斗がどうと出来る話では無いのは明らかだった。彼は殺しというものの大きさが、命というものの尊さが分からずに、何も感じていない。


ーこれこそ、人じゃ無いみたいだー


 (しん)のような、人間らしい部分がある事すら危うい人物。それが、海山智樹である。

 恐らく彼もまた、S(シグマ)によって歪まされた犠牲者なのだろうが、今までの人物とは比べ物にならない程に、性格行動共に猟奇的だ。

 そんな相手に、自身は何が出来る?

 こんな、最弱が。

 碧斗は足を早めながら、尚も頭を悩ませた。

 だが、既に答えは出ていた。頼れる人物もいなければ、犠牲者を出すわけにもいかない。

 即ち、碧斗が。自身でなんとかしなければならないという事だ。それなのに、上手いこと体が動かないのは、覚悟と度胸の弱さの現れだろうか。


ー駄目だ。こうしてる間にもみんなは苦しんでるんだ。こんな事に悩んでる暇は無いー


 そう碧斗は自身の頰を両手で叩き、震える足を「あの場所」へと進めた。


           ☆


 数分後。路地裏の、先程我々が居た場所とは反対側に立地した、建物の陰へと大回りをして到達した碧斗は、一度息を吐いた。


ーここまで来たのはいいが、、あれに、、何が出来るんだ、?ー


 奥で蠢き、彼らを未だ蹴散らす「それ」を見つめ、碧斗は何か出来ないかと、突破口を探していた。

 ならば、と。碧斗は一つの作戦を脳内で唱える。

 これは前回に、進との戦闘内で閃き、可能性を感じた一つの理屈である。

 可能性の話ではあるが、今までもそうだったのだ。

 だからこそ、次も大丈夫だと。そう思えるはずなのに。

 足が言う事を聞かない。恐怖し畏怖を覚え、震えているのだ。こんな事では駄目だと。

 目を覚ますように碧斗は顔を振った。が、次の瞬間。


「っ!」


 樹音の斬りつけを避けるように。彼に反撃するために大きく振りかぶった巨大な茎の一本が、驚くべき速さで碧斗に向かう。

 と、その時。

 目の前の茎に、突如現れた隕石の様なものが激突し、勢いで茎は弾かれ、隕石の様なそれの炎にーー


 燃やされていた。


「!」


 碧斗は、先程の絶望とは逆の意味で、目を見開いた。

 隕石。それは、岩石と炎。

 故に、理解する。


「はぁ、はっ、はぁっ、、間、一髪、、だったみたいね、はぁ」


「いっ、伊賀橋(いがはし)君っ!だっ、大丈夫、?」


「っ!相原(あいはら)さん!水篠(みずしの)さん!」


「しっ!静かにして!」


 小声で告げる2人に、碧斗は笑顔を溢して名を放つ。

 が、それに美里(みさと)は人差し指を口の前に立てて、小声で注意する。


「ご、ごめ、、っ!」


 恐らく、音を立てては気づかれるがための反応だろう。だが、それを理解したと同時に2人の姿が鮮明に現れ、碧斗は言葉を失う。

 植物の動きに注意して観察する美里と、碧斗の姿に安堵する沙耶。

 どちらとも、服は既に真っ赤に染まり、口元や(ひたい)、頬などの顔を始め、腹や腕、肩、足に至るまで、数多くの傷が見受けられた。


「ふ、、2人とも、、それ、」


「え?ああ、、この体ね、」


「ご、ごめんね、、私の、力不足で、」


「いやっ、別に責めようとしたわけでは、」


 美里は、それくらいの傷は仕方がないといった表情で返し、沙耶は自身の腕を掴む。だが、それにより気づいた。

 2人はそれに見つからないためだけに小さく話しているのでは無いと。

 そう、2人は既に大きな声が出せない程に衰弱していたのだ。

 すると、ふと美里が近づき耳打ちする。


「伊賀橋君。その、水篠ちゃんの手、見て」


「え?」


 言われたまま、碧斗は彼女の手を見つめる。

 そこには、治療により指先までに回復した体のヒビが、またもや腕の関節あたりまで伸びているのが分かった。


「っ!」


「分かった?多分、また無理しちゃうと思うから、2人で援護に回って欲しいの」


 掠れ、小さくではあったものの力強い意志で放つ美里に、碧斗は冷や汗をかきながら口を開く。


「2人って、、相原さんは、どうするの?」


 碧斗の恐る恐る放った問いに、美里は目つきを変え一歩前に出ると、こちらに振り返ってーー


 目つきを変えて答えたのだった。


「私が、後はなんとかする」

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