表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第5章 : 啀み合いと狂気(フォリィ)
137/300

137. 吃驚

「わ、、悪い。少し、、取り乱したな、」


 あれから30分程が経ち、思考の整理が終わったのか、心を落ち着かせたのか、碧斗(あいと)は改めて顔を手で拭うと、樹音(みきと)に顔を向ける。


「ううん、大丈夫だよ。こういう時こそ、だよ」


 そう優しく笑う樹音に、バツが悪そうに碧斗は目を背ける。


ーほんと、、迷惑しかかけてないなー


 そんな事に思い耽りながら、碧斗はふと疑問を口にした。


「にしても、なんで(しん)はこの争いを終わらせて欲しいのに、あんな行動を取ったんだ、?あと少しで、争いを終わらせるカギが見つけられそうだったのに」


「...それは、多分色んな考えの元なのかもしれないけど、多分、」


 と、樹音は問いに返すようにそう放ったのち、一度間を置いて続ける。


「多分、桐ヶ谷(きりがや)君を追い詰める事でこの争いが終わるわけでは無いから、じゃないかな」


「何、?」


 碧斗はその予想外の答えに目を剥く。そんな彼に、樹音は真剣な表情のまま続ける。


佐久間(さくま)君は、その時に言ってたんだ。桐ヶ谷君は事を始めた張本人ではあるけど、終わらせるための重要人物では無いって」


「...どういう事だ?」


「つまり、この争いの根幹はそこじゃ無いと睨んでるみたいなんだ。それに、多分桐ヶ谷君を止めたからって、この環境が覆るとは思えない。みんな、それぞれが自分の感情を剥き出して、争いが絶えない結末になる可能性も高いんだ。桐ヶ谷君の殺人で、みんながここまで狂ってしまった。今更、張本人を止めたところで負の連鎖は止まらないんじゃないかな」


 樹音の主張と進の残した言葉を受けて、碧斗は視線を落とし唸る。


「確かに、、俺も少しそれは思ってた。きっと、修也(しゅうや)君を止めても、倒しても、それは争いの終わりでは無い」


「そう。きっと、桐ヶ谷君を追い詰めても、彼は何も吐かないって。意思は曲げないって、それを、佐久間君は分かってたんだ。だからこそ、一方的に彼を止める選択をして、僕達にはその理由を突き止め、納得の出来る根拠と共にみんなに促して欲しいって。そう思ったんだと思う」


 と、樹音はそこまで放ったのち、小さく


「でも、それよりも、きっとどうやって役に立って、恩返ししてこの世界を終われるか、考えた上の決断だったのかもしれないけどね、」


 恐らく、進の精神状態を考えると、それが一番有力だろう。必死で、思考を巡らし決断したのだろう。一見自分勝手な思想に思えるが、それしか思い浮かばなかったのだろう。

 だが、その前の主張にも一理ある。

 実際に、碧斗の「次の作戦」は、それに近い思想からのものだった。だが、それでもと。進の言う理想を思い返し、碧斗は目を細めた。


「...でも、そんなに手遅れなんだったら、俺達にどうこう出来るのか、?」


「...」


 樹音は、何も言わなかった。いや、言えなかったのだろう。同じく、不安なのだ。

 思う事は沢山あった。だが、皆でこの争いを収める事が、進の望みであるのならば。


 いつまでも弱音を吐いてはいられない。


 そう碧斗は考えを改め、皆に甘えた分だけ、迷惑をかけた分だけ。実際の進とは違った形で、進の望んだ形で、感謝を返すと決めて目つきを変える。


「今は、、いや、今だからこそ、やらなきゃな。それが、進の意思だ」


 思わず口から溢れた意思表示に、樹音は「そうだね」と、ただただ曇らせてはいるが優しい表情で頷く。

 すると、碧斗は改める様に意気込み、樹音にも同じく語り始める。


「樹音君だけに話させるのも良くないよな。...その、俺も、進とは2人で話したんだ。あの、事件の後」


「そう、だったね」


 そう頷く樹音に、返す様に碧斗も頷くと、本題を切り出す。


「その時、進はS(シグマ)のところに居たって言ってたんだ」


「っ!Sって、、大翔(ひろと)君が言ってた、?」


 樹音の問いに、無言で頷く。


「彼に弱みを握られ、悪い思想を植え付けられてたんだ」


「そ、それは、、酷いね、」


 お互いに表情を曇らし、無言の時が流れる事数秒。

 すると碧斗は、顔を上げて真剣な表情を作る。


「俺は、Sが鍵になってると睨んでる。進から、、これからSについての情報を聞こうと思ってたんだが、」


「...それが、、出来なくなった、わけだね、、そっか、ごめん。僕が、、あんな事を、」


 事の重大さに気付いた樹音は、申し訳無さそうに唇を噛んだ。

 それに「いや、もういいんだ」と碧斗は呟くと、だからと続ける。


「だから、、もう1人の人に聞こうと考えたんだ」


「も、、もう1人、?って」


 目つきを変えて放った碧斗に、樹音は首を傾げる。


「居るだろ。もう1人、突然黒い感情を爆発させた人物が」


「...っ!?そ、それって、」


「ああ。竹内(たけうち)君だ」


 碧斗は、進との会話で予想した内容を、樹音に包み隠さず全てを話した。と、それを話したのち、碧斗は付け足す。


「だから、、王城に乗り込もうと考えてる」


「えっ!?き、急だね!?」


 真剣に告げたそれに、樹音は焦りを見せる。

 それも無理はない。王城に行くなんて、自殺行為だ。そんな事、碧斗が1番よく理解している事だろう。

 だが、と。

 碧斗は続ける。


「悪いな、、こんな時に、急で。でも、もうこれ以上犠牲者を出すわけにはいかない。一刻も早く、この争いを終わらせなきゃいけないんだ。進との戦いで消耗しているみんなにこんな事を言うのは申し訳ないが、でも、このまま攻めなくとも俺らは狙われてる身だ。いつまた襲われるか分からない」


「...」


 碧斗の主張を、樹音は黙って聞き頷く。


修也(しゅうや)君が何かを知ったのも、王城のあたりしかあり得ないって、相原(あいはら)さんと話した。それに、前に一度、マーストの意見で修也君のお付きの人に当たろうと侵入したこともあった。でもどれもこれも、一度としてその目的が成し遂げられた事は無かった、」


 そう小さくなっていく声で放つ碧斗に、樹音は少し考えたのち優しく微笑む。


「...でも、犠牲者は出さなかったんでしょ?それは、、目的達成よりも、大切で凄い事だと僕は思うよ」


「...っ、樹音君、、ありがとう。ああ、絶対に、友達を。仲間を優先する。絶対に、死なせたりはしない。もう、誰も失うわけにはいかない。だから、お願いだ。王城に、、一緒に行ってくれないか、?」


 守る力が無いというのに、また大きな口を叩いてしまった。そんな自身の軽い言動や、弱さを憎みながら頼みを口にする。

 説得力は無いだろう。

 皆を守れる力は無い。情報のありかも、修也の使用人の場所も。将太(しょうた)の居場所も、何もかもが分からない状態であり、それを為し得る力も彼には無い。

 だが、だからこそ。

 樹音は碧斗の目の奥を見据え、力強く頷く。


「...うん。確かに、佐久間君との戦闘でできた傷が残ってはいるけど、早く終わらせないといけない。犠牲者を出したく無いって思いの強さは、碧斗君と同じだから。...僕も行くよ。僕は、この争いを終わらせるために、碧斗君達と一緒に行動し始めたんだし、これが佐久間君の望みでもあるんだ。行かないわけにはいかないよ」


 そう強く賛同を口にしたのち、樹音は


「..そう。碧斗君を、ちゃんと守らなきゃね。佐久間君に怒られちゃう」


 と、冗談めかして付け足した。


「ありがとう、樹音君。絶対に、終わらそう。この、争いを」


 強く放つ樹音に負けじと、碧斗も胸を張って強く意思を示した。


           ☆


 お互いに頷き、覚悟を決めた2人は皆の元へ戻ろうと来た道を辿る。

 その道中。ふと、碧斗は息を吐いた。


「みんな、、了承してくれるだろうか、、こんな、わがままを。何も出来ない最弱が。大した傷も無い、進の事で感情のままに声を荒げた俺が、、突然、改めて告げたお願いを、、聞いてはくれるだろうか」


 表情を曇らせる碧斗に、樹音は笑う。


「今更何言ってんの。大丈夫。大翔君は僕と同じ気持ちだろうし、沙耶(さや)ちゃんと相原さんはそんな事言う人じゃ無いのは、1番分かってるでしょ?」


「...それは、、そうなんだが、、だからこそ、って感じで。それに、体的にも、大丈夫だろうかと」


 そう。パニッシュメントとの交戦、進との戦闘を経て、大した休息をとっていないのだ。

 美里(みさと)に関しては足が治っているとは思えず、沙耶も能力の多量使用による副作用が現れている段階である。

 大翔も見た目では取り繕ってはいるものの、骨を何本か折っている身である。いくら回復を使ったと言えど、完治しているとは言えないだろう。


「...そっか、、心配、なんだね」


 そんな事をぼやきながら、歩く速度を下げる。

 ふと、考えながら見上げた星空は、綺麗に輝いていた。


「...綺麗だな」


「え、、うん。ほんとだね」


 男2人で見上げる星空。相手がイケメンなためか、そこまで悪い気はしない。

 いや、大切な友人であるからなのだろう。


「...こうして、俺が平常心を保ててるのは樹音君のおかげだ」


「えっ!?どうしたのいきなり!?」


 少し照れ笑いをしながら、樹音は放つ。

 彼の動揺に僅かに微笑みながら、碧斗は空に視線を向けたまま足を進める。


ー俺は、みんなに支えられてここまで来てるんだ。みんなを危険な目には遭わせたくない。俺が、、もっとちゃんとしなきゃなー


 自身の中でそう言い聞かせ、進との戦闘で得た「可能性」に関して思考を巡らせ始める。

 と、その瞬間


「碧斗君。着いたよ」


「あっ、えっ!?あ、いや、そ、そうか!もうか!早いな」


 どうやら会話を交わし、考えをまとめている内に、グラムの家へと到着していた様だ。

 考え事をしていたがために、声が裏返ってしまったが、皆に何と説明しようかと。いや、それ以前にどんな顔をして会おうかという不安で、鼓動の速度が増す。

 それを必死で抑えながら、碧斗は深呼吸をして家に足を踏み入れる。


「た、ただいま」


「ただいまー」


 2人で、そう声を上げると、グラムが奥の台所から顔を出す。


「おお、帰ったか。...何かあったのかの?突然出て行ったからびっくりじゃったよ」


「ああ、いえ。と、特に大した事は、」


 グラムをこれ以上巻き込むわけにはいかないと。碧斗は状況を隠しながら返し、リビングへと足を進める。



 が



「えっ」


「何、どうしーーっ、!...あれ?」


 碧斗と樹音は、その光景に思わず声を漏らす。


 そこに、皆の姿は無かったのだ。


「あ、あの、グラムさん。みんなは、」


「およ?一緒に()ったんじゃ無いのかのぉ?」


「「!」」


 グラムの返事を聞いた2人は、お互いに目を剥く。

 すると、碧斗と樹音は無意識の内に足を踏み出していた。何事かと不安げに背中を見つめるグラムに、樹音は振り返って


「直ぐ呼んできますので!夜ご飯までには帰ります!」


 とだけ告げ、碧斗と共に家を飛び出した。




「はぁ、はぁ。ど、どういう事だ!?」


 足を早めながら、碧斗は樹音に問う。


「大翔君に、みんなを連れて家に戻っててって、言ったから、、どこかに寄るとも考えづらい、、けど、」


 樹音の答えに、碧斗は悩みながら言葉を漏らす。


「まさか、Sが、?」


「いや、それは無いんじゃないかな。彼は、心の奥に闇を抱えているとか、僕達になんらかの憎しみ、戦う意思を持ってる人を狙う筈。だとしたら、他人に何かを植え付けられても、そう簡単に信じる人達じゃ無いみんなを狙う事はしないんじゃないかな?」


 樹音は走りながら的確な推理でそう返したが、碧斗は表情を曇らす。

 心の闇というのは、誰がどんなものを抱えているかなんて分からない。一見、芯のある、強い人であろうとも、心の奥では黒い感情を宿しているなんて事は否めないのだ。

 故に、Sによる追撃及び勧誘が、皆には訪れないとも言えないと、碧斗は予想した。

 だが、もしも違う理由の可能性を考えるのであるならばーー


「だとしたら...パニッシュメントか」


「うん。可能性はありそうだね」


 そう。彼ら彼女らは、進との戦闘前に奈帆(なほ)一人が現れたきり、一度も我々の前には現れていないのだ。

 そのため、既に回復は十分出来ているだろう。

 そんな彼らが、現在心も体も痛めている我々と交戦でもしたら、それこそこちらが不利というものだ。

 だが、と。碧斗はそれを思うと同時に、チャンスでもあると目つきを変えた。

 Sの正体に少しでも近づける情報を握っている人物。竹内将太に出会える可能性があるのだ。

 即ち、王城へ向かう手間が省けるという事だ。それを期待しながらも、胸騒ぎを抑えて走りを続ける。

 と、その時だった。


「...あ、あれ、って、、」


 ふと、足を早める碧斗の背後で、樹音は立ち止まり呟いた。

 どうやら何かを発見した様で、路地裏に注意深く目を向けたまま、そちらへゆっくりと足を踏み出す。


「な、、何があるんだ、?」


 あまりの異様さに、碧斗は冷や汗をかきながらも、"それ"を目にするため同じく足を踏み出す。



 すると、次の瞬間ーー



 一瞬だった。



 樹音の眼前、先程まで異様な形で地面から生えていた草が、突然尖った茎を伸ばし

 それが。


「っ!?」


 ずっぷりと。


 樹音の腹を、貫いた。


「ぐぶぁっ!?」


「!?!?」


 その反動で、傷口から、前後どちらからも血が吹き出す。

 それは突き刺さったまま、樹音を持ち上げ、路地裏へと戻っていく。

 と、樹音が、路地裏へと呑まれる前に。僅かに朦朧とした意識の中で口を開き。


「あ、あいと、くん、にげ、っ」


 そう呟いたのが、碧斗の耳に届いた。

 それに、恐怖し慄いたものの、それよりもと。体が勝手に樹音の消えた路地裏へと向かう。


 すると、そこには


「っ!?」


 壁、家の窓、地面。

 至る所に飛び散った夥しい量の赤黒い液体と、その中央。地面の一点から飛び出す6本程の巨大な茎が、うねる様にしながら(うごめ)いていた。


「はぁっ!?はぁ、はっ、は、は!なんだよっ、、なんなんだよこれ!?」



 目の前の信じられないものと光景に、碧斗は絶望の色を見せながら尻餅をついて、荒い呼吸で声を上げた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ