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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第4章 : 履き違えの仲違い(コンフィリ)
135/300

135.想

「何すんだよ」


 後部座席に座る碧斗(あいと)は、そんな彼を押さえるために隣に座る大翔(ひろと)に対し、低く放った。


「...悪いな、碧斗」


「..は?悪いな?悪いなってなんだよ!何したか自分で分かってるのか!?相手はこの争いを引き起こした奴だぞ?俺らが行かなきゃ、(しん)はもたない。体力的にも、精神的にもだ!1人で修也(しゅうや)君に勝てるなんて保証もないのに。そんな状況で、どうしてそんな選択が出来たんだ!?」


 表情を曇らせるだけの大翔に、碧斗は声を上げる。

 その浅はかな選択は、到底納得出来るわけが無かった。


「...」


「どうしてこんな、大切な人を目の前で見捨てる様な真似したんだ?...そんな事する奴だとは思わなかった。誰かのために戦ってくれる人だと、、そう信じてたのに」


「...」


「ひ、大翔君、、言ってもいいんじゃないかな、?これじゃ、碧斗君も納得出来ない。寧ろ、伝えてあげた方が、お互いにいいんじゃないかな」


 歯嚙みする碧斗に、ふと前の座席で運転をする樹音(みきと)が放つ。勿論、免許証などは持ち合わせていない。

 と、大翔は仕方ないといった様子で一度ため息を吐いたのち、そう切り出す。


「...はぁ。言うべきか迷ったんだけどな」


「...は?」


「...実は。俺らは前に、進から頼まれてたんだよ」


「...頼まれてた?」


 大翔の発言に怪訝に思いながらも、碧斗は聞き返す。それに、大翔は頷くと、息を吐きながら続ける。


「俺は、君達とは顔向け出来ない。ここに居てはいけない存在なんだって。罪を償わなきゃいけないから、これ以上罪を重ねる様な事するわけにはいかない。ま、つまりなんだ?迷惑かけたくないんだとよ。そんな話して、その後お願いしてきたんだ」


「だから。それが何なんだよ」


 碧斗は痺れを切らした様子で、声のトーンを落とし疑問を投げる。と、大翔は少し間を開けたのち、あの時進から伝えられた言葉を、そのまま答える。


「碧斗を、よろしく頼む。ってな」


「..は」


「まあ、なんだ。そん時はよく意味分かんなかったけどよ。さっき俺らを閉め出した時のあいつの目。多分、こういう事だったんだ。お前を逃してくれって。生かせてやってくれって、、多分、そういう事なんだろう」


 バツが悪そうに目を逸らす大翔に、碧斗は俯き唸る。


「...それだけか?」


「...ん?」


「それだけで、進を置いてったのか?」


 歯嚙みしてそう零したのち、顔を上げて声を上げる。


「そんな確信も無い事を、自分の考えだけで信じて、置いて来たのか!?もし本当に進の願いがそれなんだとしても、それを許すのか!?俺がこの世界から逃げる事を話しても、否定し続けたくせに、、進ならいいって言うのか!?」


「おい、、碧斗、」


 大翔は落ち着けと言いかけて、口の中で留めた。こんな状況で落ち着いていられるわけがないから。碧斗にとって、進がどんな存在だったのか、それくらいは容易に想像出来たからだ。

 だが、それに言葉を濁す大翔と樹音を差し置いて、碧斗の左隣でエンジンを動かす美里(みさと)はふと割って入る。


伊賀橋(いがはし)君。確かに私も見捨てる様な形を取ったこの行動には賛成出来ないけど。でも、あいつとあんたは違うから」


「...何がだよ」


「あんたは皆に自分の思考を押し付けただけ。私はちゃんと言ったでしょ?そうするなら1人でやってって。あいつは、本気で自分の残された、罪滅ぼしという名の役割を果たして、自分もここで終わりにするっていう覚悟があったの。ここまでやって私達を参入させない様にして、1人で、全て終わらす覚悟があったの。...それくらい、、追い詰められてたの」


 美里の悔しそうに唇を噛んで放つそれに、碧斗は表情を曇らせる。


「だから。表向きはそんな大層な事言って理屈捏ねてるくせに、自分がやるとなった時には勇気出なくて怖気付くような伊賀橋君と、あいつは違うから」


 美里の最もである意見に対し、それ故に碧斗は拳を握りしめた。


「確かに、そうかもしれない。だが、その話は今する事じゃ無いだろ?趣旨が逸れてる。俺は、今進を置いて来てることについて話してるんだ。どうしてここまで言っても意思を曲げないんだ?どうして車を止めないんだ!?」


 そう叫び、運転をする樹音に顔を向ける。そんな碧斗に、樹音は同じく表情を曇らせて返す。


「ごめん、、碧斗君。勿論、君と佐久間(さくま)君がどれくらい長い付き合いなのかは知ってる。でも、どうするの?碧斗君も迷ってたでしょ?これから、あんな大災害を起こした佐久間君に、居場所はあるのかって。彼にとっては、この世界のどの場所も辛い場所なんだ。だから、彼は最後くらい自分出来る全力の償いをして、この世界を去ろうと。そう思ったんじゃないかな、?自分の勝手な思い込みや願いで、辛いと思ってる場所に戻って来て欲しいって、そう強要するのは、、良くないよ、」


 過去の自分と重ねて、樹音はそう目を逸らす。それでも碧斗は、受け入れる事は出来なかった。

 それはそうだ。時間に換算するとそう長くはないかもしれないが、生きてきた中で1番深く会話を交わした。それこそ、本当の友人であるかの様だった。

 たとえ、この世界の中で出会い、短い付き合いなのだとしても、碧斗にとって、かけがえのない。


 初めての、友だったからだ。


「...強要、?また俺が、勝手に押し付けてるって言いたいのか?」


 それに対し低く放つと、今度は碧斗があの時の自身を重ね、目つきを変える。


「俺は、あの時。自分の役目から逃げて、みんなの元を去り、職業変更(ジョブチェンジ)を行いに行った事があった」


 突如語り始めた過去の話に、大翔のみが新鮮な反応を見せる。


「その時に、俺は相原(あいはら)さんに止められたんだ。正式には突き離された感じだったけど、俺はそれのお陰で今ここに居る。それは、今の進にも言える事なんじゃ無いのか?彼がいくらそれを望んでいるからって、進が本当の意味で納得出来るかなんて分からないだろ。だったら、みんなの方こそ、自分の思い込みで強要するなよ」


 低いトーンで放った言葉に、樹音は口を尖せる。皆も、同じだったのだ。

 この場の全員が、既に正解とは何かを、見失っていたのだ。それ故に、その場には無言の時間が流れる。

 返事の無い現状にため息を零した碧斗は、苛立ちを見せながら呟く。


「返す言葉が無いなら、止めてくれ。俺は進を見殺しになんて出来ない」


「っ!ぼ、僕は見殺しになんてーー」


「してる様なもんだろ!」


 樹音に対し声を荒げる碧斗に、頭に血が上っている彼を落ち着かせるべく、大翔が割って入る。


「なぁ碧斗。あいつは、あいつなりの思いがあって、それを自分の納得する形で終わらせるために、覚悟決めたんだ。友達だろ?あいつの意思を、尊重してやれよ」


「大翔君...それと、、それとこれとは違うだろ!進も言ってた。友達だから、大切だから止めるんだ!大して進と面識無いんだから勝手な事言うなよ!そうだ。みんな大して進の事知らないからそんな事が言えるんだ。みんなにとって、あいつは自分達を殺しかけた、殺人者だもんな」


 嘲笑する碧斗の発言に、大翔は歯軋りしながら肩を掴む。


「ああ。面識なんてほぼほぼねぇよ!でもな。だからって大事にしねぇわけねーだろ。面識ねぇからって理由で大切にしないなら、最初からあいつとお前の喧嘩に仲裁に入ってねぇーよ」


「...ならなんでだよ、、どうして止める?進が、ここで死んでもいいって言うのか?自害する様な提案でも、それへの覚悟があるなら認めてしまうのか、?...それだったら、俺も置いて行け。進には覚悟があるからって理由で止めないなら、俺もそれ相応の覚悟はある。だから、俺も置いて行けよ」


「お前、、それこそ話が別ーー」


「わっ!」


「「「「っ!」」」」


 大翔が碧斗に声を荒げようとした直後。

 車が走行速度ゆえに勢いよく止まり、皆の体は宙に浮かぶ。


「ど、どうした!?」


「...壊れた、みたい」


「はっ!?」「えっ!?」


 動揺し声を上げる大翔に、エンジンに目を向けたまま美里は放つ。と


「はぁ、、動かないなら降ろしてくれ。俺は、たとえ一人でも助けに行く」


 碧斗はそうため息を吐くと、皆を押し退けて車を後にし、来た道に引き返していく。


「お、おいっ!碧斗っ!お前っ、、おい!相原どけっ!なんで碧斗止めねぇんだ!?」


「ちょっ、そんな押さないでくれる?別に、伊賀橋君はなんの戦力にもならないのは知ってるけど、大切な人を置いて行く事には賛成出来ない」


「チッ、、じゃあどけ!」


 美里の、やるならそう思う人だけでやって。と言う様な表情に、大翔は舌打ちを零し車から足を踏み出す。

 少し早足で向かう碧斗の、そんな彼の後ろ姿に、大翔は放つ。


「おい!お前一人で行って何になんだ!?」


「うるさい!みんなが来ないなら俺が行く。それくらい覚悟があるって事、分からせてやる」


 拳を握りしめて歩みを進める碧斗に、大翔がため息を漏らす。と、大翔の背後から樹音が駆け寄り、同じく声を上げる。


「碧斗君!そんな事したら、、佐久間君を逆に苦しませる事になるよ!」


「...何でだよ」


「佐久間君は、、碧斗君を守るためにあんな行動を取ったんだ。桐ヶ(きりがや)君が必ずしも自分に多く攻撃してくる大翔君とか僕、佐久間君を狙うとは限らない。彼は、既に一人の人間を殺してる殺人者だよ、、弱い人から殺そうって、思うかもしれないでしょ」


 樹音の発言に碧斗は足を止めると、俯いたまま口を開く。


「...だから、俺達を逃したのか?俺が弱いから、?俺が直ぐに殺される様な弱者だからか!?」


「...それは、」


 碧斗の気迫に、言葉を濁す樹音。そんな中、彼の言葉の続きを補う様に、大翔が続ける。


「碧斗。進は、お前を生かしたかったんだ。お前を、、認めたんだ。お前なら、やってくれるって信じたから。進には出来ないからこそ、その道を選んだ。きっと、逆にお前がここで割って入ったら、あいつは未練残して死ぬ事になる」


「...そしたら、、それならどうすればーー」


「やめてっ!」


 碧斗が涙目で声を荒げようとしたその時。

 ずっと絶望したように、沈黙を貫いていた沙耶(さや)が声を上げ、皆は口を噤む。


「...みんな、、もう、やめてよ、、今は、こんなに、喧嘩してる場合じゃないよ、」


「...沙耶ちゃん、」


「お願い。佐久間君は望んで無くても、、死んじゃったら終わりなんだよ?元の世界に戻るかもしれないけど、、私達との記憶が消えるんだから、、佐久間君は、、苦しいままだよ、」


 沙耶には、進と碧斗の会話は聞かれていなかったはずだ。それだというのに、沙耶はまるであの会話を聞いていたかのような言葉を放つ。

 それほど、彼女の観察力が長けているということなのだろう。


「...そうだ。そうだよ。このままじゃ、進は何も救われない。彼にとって良いと思う終わり方は、本当に彼にとっていい終わり方だとは限らないだろ。逃げるだけ逃げさせて、最終的には現実世界からも逃げてしまう。いつも逃げてばかりの俺が言うのもなんだけど、、いや、逃げてばっかりの俺だからこそ言える。ここで彼の願いを叶えたら、甘やかしてるのと同じなんじゃ無いのか?」


 沙耶の言葉で冷静さを取り戻したのか、碧斗は自身に言い聞かせる様に呟いたのち、皆に向かって真剣な表情で放つ。

 その発言に、大翔と樹音は表情を曇らし思考を巡らす。すると


「私も、そう思う。何が正解とか、私は言えないけど、ここであいつをこの世界から逃したら、何も前に進めないでしょ」


 2人に続いて、美里がそう意見を発する。


「...はぁ、もういいんじゃねーか?樹音」


 それに対し、大翔が頭に手をやり、息を吐いて頷くと、樹音は押し黙った。


「俺も、正直そう思う。でも、碧斗の事が心配だったんだ。だからこそ進の気持ちも理解出来た。多分あの場にずっと俺らが居たら、あの空気の壁ずっとキープしてねーといけなかったぞ?」


「っ」


 大翔の胸の内を耳にし、碧斗は目を剥く。と、それに続いて樹音も、優しく微笑みながら息を吐き付け足す。


「それくらい大事って事だよ。向こうもね」


 樹音はそう呟いたのち、決断をしたのか顔を上げて足を踏み出した。


「戻るからには、絶対救うよ。僕達だって、、佐久間君が嫌いでこんな事やってたわけじゃないから」


 樹音が目つきを変えて放つと、皆も頷き、碧斗と同じ方向へ足を進めた。


           ☆


 大翔や樹音も、好きでそんな事をしていた訳ではない。勿論、碧斗と同じくらい進は大切な存在だったのだ。だからこそ、彼の要望は断れなかったのだろう。

 彼の意見も分からない訳ではない。自身が進の立場であれば、似たような要求を口にしていたかもしれない。


「...す、すまなかった、、俺も、頭に血が登ってたんだ」


 街の方々に見られては問題だと、車を沙耶の岩で破壊したのち、進の元へ足を早めながら、碧斗はふと我に帰り呟く。

 それに、大翔と樹音は見合って優しく微笑んだのち、口を開く。


「ごめんね。僕達も、少し強引だったよね。でも、佐久間君は全てを賭けてそれを望んだんだ。それだけは、、分かってあげて」


 走りながら優しく放つ樹音に、碧斗は表情を曇らせて頷くと、対する大翔が割って入る。


「そろそろ見えてくるぞ!」


 と、言葉と同時にゆっくりと広場が現れ、進の姿がーー


 姿が


 姿は、


 無かった。


 いや、違う。



 進は、



 進はーーーーー



 ーー見た事もない肉片に変わり果てていた。



「え、」


 彼の元へゆっくりと足を進めながら、碧斗は瞳孔を開いた状態で思わず声を漏らす。


「う、嘘、」


「さ、、佐久間、君、、」


「っ」


「マジ、かよ、」


 美里が声を零し口を抑え、沙耶が返事の無い彼の名を呟く。樹音が息を飲んで額を手で抑え、大翔が歯嚙みして冷や汗を流す。

 そんな中、碧斗はその、既に何かも分からない真っ赤な塊りに、おぼつかない足取りで近づいた。


「し、進、?うそだ、うそだろ、、進、、進、?」


 碧斗の姿を、心配そうに皆は眺めながら、それぞれが荒い呼吸を漏らす。

 進では無いと思いたかった。修也であっても衝撃的な事には変わりはないが、これは、間違いなく進であった。恐らく進が修也に勝った場合、彼はここで自ら命を絶つだろう。

 故に、これは、進だった。

 進と思わずには、いられなかった。


 そんな中、碧斗は真っ赤な液体の中央に置かれた肉の塊の、目の前で膝をついてそれを力無く持ち上げたのちーー


「ああっ、あああ、、あああっ!なんで、なんでだよ、!」


 そんな受け入れられる訳の無い現実を前に、碧斗は小さく力無く、だが気持ちの表れた叫びを、ただの肉片を抱き締めるようにして放ったのだった。


 そんな彼らの頭上には、皮肉な程に青黒い、満天の星空が見守っていた。

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