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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第4章 : 履き違えの仲違い(コンフィリ)
134/299

134.進

ーさて、どうするかー


 まるで自信の持てない自分を、無理矢理正すように、碧斗(あいと)の発言を真似る。

 そんな胸を張り放つ(しん)とは対照的に、能力を解かれた事に気付いた、僅か1秒と満たない落下している時間の中で、修也(しゅうや)は思考を巡らす。

 自身の力では対抗出来ない、進の能力であるからこそ出来た作戦。

 他人には真似出来ない事に意味がある攻撃に、修也は少し関心すら感じながら「いや」と、目つきを変える。

 そんな事を考えている暇なんて無いと理解した、次の瞬間。


 衝撃による轟音と爆風がその場に巻き起こる。と


「じゃあな」


 それに対し皮肉を込めて、あえて修也の言葉を口にしてみせた。


 この争いを始め、我々の異世界生活を狂わせた張本人に、目の前で打ち勝つ事に成功したのだ。

 進はその安堵から息を吐くが、本当にこれで良かったのだろうかと。またもや自身の考え、行動に疑問を抱く。

 既に取り返しがつかない事は承知していた。だが、どうしても考えてしまう。


 修也は、本当に殺すべき相手だったのかと。


 息が苦しくなる。

 浅はかな考えだっただろうか。こんな事をして、世界は変わってくれるのだろうか。

 そんな疑心暗鬼になるような思いばかりが脳を過り、進は嘆く。が


 刹那、その衝撃によって生まれた煙の中から、無数の何かがこちらに向かう。


「!」


 思わず身を反って、それを全て破壊するがしかし。その感触に、進は気づく。


ーさっきと変わらない感触。これはー


「っ!」


 と、胸中で思うと同時。煙が薄まったがために、その人物に気づく。


「お前、、どうやって」


「あともうちょっとだったな」


 目の前には他でも無い。


 桐ヶ谷(きりがや)修也が、笑って立っていた。


 その瞬間、進は先程と逆の立場になっている事に気づき、冷や汗を流す。

 と、修也の足元に大きな氷の塊が散乱している事に気がつき、進は目の色を変える。


「まさか、自分を氷で氷結させたのか」


「ご名答。その通りだ、自分の能力に関係するものには耐性がつく。だから、俺自身を凍らせようが何ら問題無いって事だ」


 進の一言に、修也は笑ってそう返す。


ー自分を冷凍して、氷の層を作る事で鎧の役割を果たしたって事、なのか、それ程分厚いフィルターがあれば、あの高さからでも問題無いのかー


 ゴクリと生唾を飲みながら、進は睨む。

 すると刹那、進の斜め右方向へと、修也は瞬時に移動する。


「!」


 彼の腕には変わらず氷を纏っていたが、それだけで無く、修也の背後からは無数の氷が一斉に向かう。

 全てを反射させる事は難しいと理解した進は、跳躍し躱したのちーー


 ーー今度は修也の背後に、進が高速で現れる。


「おっっっらっ!」


 瞬間。修也の腹目掛けて殴りを入れるがしかし。同じく跳躍した修也は、軽々とそれを避ける。

 と、空中で手足を広げた修也を中心とし、彼の周りに大量の氷が現れ、こちらに放たれる。


「っ!」


 それを避ける様に浮遊しながら、自身に当たりそうな氷を破壊する。

 が、当然それだけで収まる筈もなく、氷がぶつかった地面から、先程の巨大な氷柱の様なものが次々に現れ、低空飛行をする進を追い詰める。

 すると


「イッッッ!」


 とうとう、進の足にそれが擦る。

 大した傷では無かったものの、その速度もありバランスが崩れる。


「終わりだ」


 その僅かな隙を狙い、地面から更に多量の氷柱が伸び、進を突き刺す。


「ゴハッ!」


 それは全て胸の辺り。

 即ち、心臓を狙ったであろう攻撃だった。がしかし。

 進はそれを察し、体を反らせて急所を外した。だが、勿論急所でなくとも大きな傷には変わりは無く、勢いによって開いた口からは血が吹き出す。


「クッ」


「また外したか。余計な事を」


 なんだか真剣な表情でため息を吐く修也に、これでは終われないと。進は歯嚙みして、無理矢理浮遊を続ける。


「なんだ、まだそんな体力がーー」


 その様子に、修也が口を開けた直後。彼の懐に回り込み、殴りを入れる。と、見せかけ。


「!」


 それを恐れ氷の壁を作り出したのを確認したのち、進は修也の背後を取る。

 相手はいくら頭の切れる、戦闘慣れした知識と体力を持ち合わせていようとも、圧力を高めた殴り、一撃は耐えられまいと。

 進は全力で拳を撃ち込む。


 だが

 用心深いと言うべきだろうか。背後にも同じく、氷の壁が出現していた。


「っ」


 それに気づき、目を見開いた瞬間。その壁は変形し、そこから無数の氷柱が突き出る。


「グアッ!?」


 殴りを入れるために近づいていたがために、全身に突き刺さる。


「ガハッ、ゴホッ」


 ビチャビチャと、音を立てて体から吹き出す赤い液体は、地面に滴り落ちる。


「...はぁ、お前。またか」


 その様子に、修也は放つ。それに、進は口角を上げ、力無く笑う。


「俺の能力は、空気圧だ。圧力の向きを変えれば、僅かに攻撃を放った位置を、ゴハッ!か、変える事が出来る」


 つまり、急所には当てさせないと。

 修也を残しては死ねないと強く宣言する様に、その瞳には炎が宿っていた。

 頭を掻く修也を見据えながら、進は圧力で止血を行なったのち、朦朧とする意識の中、必死に浮遊する。

 動いていないとやられる。

 それを、身を持って理解していたが故の行動だった。だが、ただ宙を漂い、彼の攻撃を躱し破壊するのみではいけないと。

 速度を速めて避ける進に跳躍し、接近戦に持ち込もうとする修也に手の平を向けーー


 大きな圧力を放った。


「っ」


 いつものように、運動神経の良さではリカバリー出来ない程の圧力を受けた事により、修也は一瞬動揺を見せた。

 が、彼は瞬時に自身を凍らせたのち、空中で更に背後に氷の壁を隔て、わざとそれに直撃する。


「!」


 それにより、砕けた氷の破片が進に向かうがしかし。

 それが本命では無いと、修也はその激突によって威力を殺し、それによって砕けた氷の破片を蹴って進に向かう。

 だが、容易く進はそれを避け、浮遊する。


 間違いなく、お互いに互角だった。


 修也に向かって圧力を放ち、それを氷で威力の向きを変えて進に向かうが、浮遊する事でそれを避ける。そんな攻防戦を、違う形で繰り返す中。


「お前、さっき自分の能力に関係するものには耐性がつくって言ったよな?」


 進は何かに閃いたように、ニヤリと。浮遊しながら、大きな圧力をかける。


 そう、地面への方向に、だ。


「何、」


 疑問の言葉を漏らす修也に、進は飛躍しながら放つ。


「なら大丈夫だ。絶対に勝てる」


「っ、お前...っ!」


 と同時。修也にかかっていた圧力が、更に強まる。


「クッ」


「諦めろ。結局、空気圧の能力には勝てない」


「ここ一帯に、、かけたのか」


「フッ、、ああ、ご名答。お前1人にかけたって氷を使って抜け出すだろ?折角お前を逃がさないための"壁"を作っておいたんだ。この空気圧の壁内の、出来るだけ広範囲に、圧力かければいいだけの話だろっ?」


 彼の元へゆっくり歩みを進めながら、進は放つ。


「お前っ...グハッ!」


 放つと共に、進は更に圧力を強める。

 まるで拷問だった。だが、それしか既に方法は無かったのだ。

 チート能力を、ズル賢く使用しなければ勝てない程の実力を持っている相手なのだ。だから仕方がないと。無理矢理自分を納得させる。

 と、そんな事を考えた矢先。

 進が修也に更に近づいたと同時に、ふと彼は口角を上げる。


「っ」


 その異変に気づき、息を飲んだ時には既に遅し。


「っ!グハッ!」


 進の真上、氷の壁が降る。それは、いつもと何ら変わらない、ただの氷の塊だった。

 だが

 その場一帯に圧力がかかっているが故に、進は下敷きになり、潰される。


「ガバァッ!」


 内臓が潰れる感覚が全身を襲う。いや、現に潰されているのかもしれない。

 既に、何処が痛いのか分からず、痛いという感覚が狂っていた。


「ガハッ!ガホッ!」


「どうっ、だぁ?それが、俺の受けてる、痛みだ」


「お前ぇ...」


 お互い、圧力に押し潰されながら、声を絞り出す。すると、修也は周りに赤い液体を付けた口で笑い、放った。


「自身の能力によるものなだけに、お前は圧力の影響を受けない。だが、、それが、俺の能力を通して受けるものなら、話は別だ」


 荒い呼吸を漏らす進に、修也もまた弱い息遣いながらも強気に続ける。


「圧力と、圧力がかかった物では、系統が異なる。このまま圧力を強め続ければ、お前も同じ苦しみを味わう事になるが、、さて、いつまでもつかな」


 進を試すように笑う修也に、あえて微笑み返した。


「っ」


 その反応に、目を見開く修也。そんな彼に、息も絶え絶えでありながらも声を張る。


「言っただろっ!俺は、死にに来たって。お前と引き分けになる事くらい、容易だ!」


 そんな強気に返す進に、修也は小さく「そうかよ」とだけ呟き、顔を上げる。


「じゃあ、俺より先に力尽きてもらう」


「っ!」


 声のトーンを下げて放ったのち、進の真上から、今度は巨大な氷の塊が落下する。


「ゴバァッ!」


 先程の氷の壁が、まるで皿の役割を果たすかの如く、その上に氷が乗る。


「はぁ、はぁ」


「まだまだ」


「ゴハァッ!?」


 修也は呟くと、またもや氷を降らせ、乗算させる。その、完全に勝ちに来ている姿勢に、進は冷や汗を流す。

 このままでは、こちらが先に力尽きてしまうと。

 圧力のみならず、氷による重量の増加が続く中、必死に思考を巡らす。

 氷の破壊には、上からの圧力のみでは力不足なのだ。寧ろ、氷を壊す程の圧力をかければ、それ以前に進自身が先に力尽きるだろう。

 そのため、進は必死に考える。何か手は無いだろうかと。

 辺りを見回す。


 と、瞬間


「!」


 進は、突破口を見つける。


 だが、それは身を呈す作戦であり、ギリギリの戦闘だろう。それでも、これに賭けるしか手は無いと進は目を見開き、刹那ーー


「っ、何」


 彼の上に乗っていた無数の氷が、ゆっくりと溶け始めた。


「ウガァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッ!」


 思わず断末魔の叫びの如く声を上げる進に、修也は察する。


「まさか、お前、、嘘だろ、」


 大量の血を吐き出しながら「それ」を続ける進に、修也は冷や汗混じりにそう放つ。

 その後、全ての氷を溶かし、自由の身となった一瞬の内に、進は高く跳躍して修也の周辺である、"圧力のかかっている領域"の外へと退く。


「ゴハッ!はぁ、はぁ、がは!」


 体力の限界が近いが故に、能力を最小限に抑えようと、修也から数十メートル離れた先には上方からの圧力はかけていないのだ。

 その領域への脱出を成功させ、息を荒げて咳き込む進に、修也は怪訝な表情を浮かべる。


「...お前、それ、、空力加熱か」


 彼の言葉など聞こえていない様子で息を吐く進に、修也は尚も続ける。


「物体が高速移動する時に、空気圧縮される事で加熱される現象。それを、動いてない物に適応するとかっ、、どんだけ圧力かけてんだよ、お前」


 だんだんと声に張りがなくなっていく修也に、進は自信げに笑う。


「はぁ、よく、、分かったな。少しの温度上昇で溶けてくれる氷だった事に、、はぁ、感謝だな」


 と、進は前置きすると、修也の瞳を見据える。


「あのままだと、俺が先に力尽きるのがオチだったからな。はぁ、一か八かの賭けに出たんだよ。はぁ、長時間の圧縮によるものより、はぁ、一時(いっとき)の能力多用の方が、はぁ、まだ死への時間は長くなる。確かに、、もう俺は、はぁ、死を目前にしてるだろうし、既に能力もこれ以上使えない状況だけどよ」


 息も絶え絶えでそう放ったのち、目つきを変えて声を上げる。


お前を殺す事は出来る(任務は果たせる)


 ニヤリと放った進に、修也も笑う。


「ハッ、、かなわねぇな、」


 諦めたように放つ修也に、進は鼻を鳴らす。


「俺も、、まさかここまでの戦いになるとは思ってなかったよ」


 が


「何勘違いしてやがんだ?...俺はーー」


「え」


「その任務を果たすっていう夢は、"叶わねぇ"って言ってんだぞ?」


「え」


 予想外の言葉に、進は脳内が真っ白になる。

 どういう事だ。そう考えるよりも前に、修也は放つ。


「ずっと、この時を待ってんだよ。つまり、今までの全部作戦って事だな」


「なっ!」


「お前は圧力の壁を作った事で、俺が外に被害をだせずに、逃げられない。そんな有利な状況を作ってたと勘違いしてたかもしれないが、逆だ。それのせいで体力の消耗が激しく、長時間の戦闘は負担になる」


「...」


「それだけじゃ無い。お前が壁を作った事で、この場には外と中が生まれる。故に、外からの圧力によって、この場は高圧状態になり、それにより水蒸気量は増加する。その場を冷却し、低温な環境を作り出したらどうなる?いや、元々低温な状態にしておいた場所にお前が圧力の壁を作り、俺が更に冷却したら。と言った方が正しいか」


「!」


 核心を突くような発言に目を剥く進に、修也は下卑た笑みで


「更にお前は、俺が乗せた氷を溶かした。それによって今は、体に水滴が大量に付いてる状態であり、お前は既に圧力を大きく変動させる力は既に無い。つまり」


「っ!まずーー」


 まずいと。能力を解除しようとした時には既に。




 進の体は、首から下が全て凍り付いていた。




「クッ!」


 更に、この状況を避けるべく能力を解除したが故に。


「っ!」


「な?言ったろ?叶わねぇって」


 ニヤリと微笑む修也が、目の前に立っていた。


「っ!クソッ、クソッ!死ねない。俺の、残された使命をっ!お前をっ、、殺さなきゃいけないっ、、のにっ!」


「...哀れだな。そこまで身体張って。そこまで頑張って。それでも所詮、お前は何一つとしてみんなに貢献する事なんて出来ない」


「やめろ」


「何も出来ずに。やっとお前を認めてくれた友に出会っても、カッコつけて死ぬためにそいつを騙し、それなのにそいつのために何も残せず、ただ孤独と自身への憤りを感じながら死んでいくんだ」


「やめろよ!」


 首だけを強く振り、進は声を荒げる。

 その様子に、修也はほんのりと笑みを浮かべたのち、小さく放つ。


「...一応、冥土の土産だ。そこまで俺の事を知りたがってたお前に、これだけは教えといてやるよ」


「え...」


 動揺から、口を開いたまま小さく零す進の耳元で。



 「それ」を。告げる。



「えっ、、なっ!なんでだっ!お前、、それ、本当なのか、、なっ!それだったらなんで、、なんでだよ!」


 耳元で話されながら、進は慌てた様子でそう声を上げる。

 そんな彼に、修也は氷を貫通させて進のポケットに、手に持っていた「何か」を入る。


「お前っ、ならなんでこんな事する?どうしてこの道を選んだ?」


 それに気づかない様子で、進はその耳を疑う事実に目つきを変える。

 そんな彼に、修也は少し視線を落としてポツリと呟く。


「それ以外、思い浮かばねぇんだよ」


 正直、事実かどうかは不明だった。だが、進は不思議と、修也が嘘を言っているようには見えなかった。

 そのため、進はその返答に真面目に返す。


「...そんな事、無いだろ」


「は?」


「本当にそれが正解だとでも思ってるのか?まだ間に合う。まだ引き返せる。だからお前はーー」


「何言ってんだよ。お前、もう俺に負けただろ?」


「...え?」


 進の言葉を遮る修也に、思わず声が漏れる。


「間に合うとかじゃなくて。お前はもう終わりなんだよ」


「お、おい、だから俺はそれを、」


「今から死ぬ奴に発言権は無い。残念だったな、時間切れだ」


 どこか遠くを眺めるような目をしながら、修也は進に呟く。それに


「やめろ!お前、本当にそれでいいのかよ!」


 と、進が声を上げると同時。


「今更声を上げたって、お前は何も変えられない。じゃあな、佐久間(さくま)進。無力な自分を悔いながら、哀れに死ね」


 「やめろ」という進の言葉を最後に、その場には静寂が訪れたのだった。


           ☆


「...」


 全てを終えた修也は、"それ"を眺めながら、何を言うでもなく表情を曇らせた。

 と、一度深く息を吐いて空を見上げたのち


「...最後に、話せて良かったよ」


 とだけ呟き、その場を後にした。



 するとそこには「それ」だけが残り、辺りはすっかりと真っ暗になっていた。




 そんな静まりかえった広場に、遠くから僅かに、1人の足音がゆっくりと近づくのだった。

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