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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第4章 : 履き違えの仲違い(コンフィリ)
133/300

133.決着

 そう宣戦布告を放ち、修也(しゅうや)の言葉を聞き流すと同時。

 (しん)は目にも止まらぬ速度で、修也との間合いを詰める。


ーっ!相変わらず速いなー


 その速度と能力性に、修也は改めて目を剥く。

 が、しかし。それでは及ばないと言うように、進の放った蹴りが向かう横腹を氷で固めて、それを受ける。


「チッ」


「!」


 修也はそれを、強く地を踏みしめ耐える。

 いくら氷の壁を経由しているからといっても、圧力による威力の大きさは変わらないわけで。


 そんなものを気合いのみで堪えた修也に、進は表情を歪ませる。と


「残念だな」


 修也の、氷がまるでグローブの様に固められた右手が、進の頬に向かう。


「!」


 それに気づいた時には、眼前に迫っていたが故に、避ける事は出来なかったものの、それを圧力調整で威力を殺す。


「言っただろ!俺には効かない!」


 冷や汗をかきながらもそう放つと、進は次こそはと言わんばかりに、今度は回転をしながら右手の拳で攻撃を放つ。

 だが、それすらも空中に現れた大きな氷の塊りによって防がれ、修也は僅かに退きながら、空中に出現させた尖った氷の塊りを彼に放つ。


「甘いなっ!」


 その攻撃方は既に見飽きたと。

 進はそう息を吐き、それを圧力で破壊してみせる。が、それを破壊し、修也の腹に回り込んで拳を入れようとした、その時。

 進の左の横腹に、拳が迫っている事に気づく。


「!」


 思わず圧力調整を施そうとするが、その時ーー


 彼の拳は突如氷結し、またもや腕に氷が覆われたかと思った瞬間。

 なんと拳の先から、氷柱の如く尖った突起が突き出る。


「っ!?」


 拳は既に迫っていたため、突発的に現れたそれに反応出来ずに進は受ける。


「グフッ!」


「いくら攻撃を圧力で、威力を封じる事が出来るからってよぉ。たとえ威力を抑えようと、刃物が皮膚に触れたら傷になるよなぁ?」


 急変した様に笑い、進の能力の核心を突く修也に、思わず顔が引きつる。

 彼の洞察力と考察力に、進は早めに決着を着けなければと。焦りを覚えながらも、痛みに耐えて修也を圧力で吹き飛ばす。


「おらぁ!」


 が、修也は空中で。

 足で着地出来るよう回転しながら、その場で氷の塊りをまたもや生成し放つ。


「クッ」


 距離が近かったが故に、僅かに反応が遅れたものの、進は圧力を利用して氷を破壊する。

 だが、全てを破壊し終わったと同時。修也が地に足を着いたと思われた直後。


 彼は瞬時に、進の左後ろに回り込む。


ーこいつ。能力がそういう能力じゃないくせに速いっ、!あんな洞察力や知能を持ち合わせていて、この身体能力か。そりゃ、いくら1人で転生者全員に狙われても、直ぐに捕まらないわけだなー


 その戦闘慣れした動きや体術に、少しの敬意すら感じながら、進はだが、と。

 目つきを変える。


ー俺には及ばない!ー


 半ば自身に言い聞かせるように、わざと大きな言葉を心中で放つ。

 と、進は背後から放たれた氷すらも、差し迫るよりも前に全てを破壊し、これが本気の速度だ。と言うように、修也の元へ瞬間的に移動する。


「残念だなっ!」


「...」


 だが、顔色一つ変えずに、修也は腕にまたもや氷柱の様なものを生やす。と、それがまるで剣であるかのように、進が攻撃をするよりも前にそれを振る。


「!」


ー読まれてる!?ー


 まるで進が、この場に来る事を予知していたかの様に、修也は的確な位置へと腕を振る。

 だが、それを受ける程甘くは無いと。進も能力でそれを弾きながら、体を捻らせ彼に殴りを入れる。


「っ」


 だが、またもや感触は氷のみ。拳を入れられる場所すら予期していたように、彼は瞬間的に氷の防御壁を作り出したのだ。

 それでも尚、彼は大きく吹き飛ぶ。

 修也の先を見据えた氷の壁は、予想外ではあったものの、進は既に。氷を貫通する程の威力で拳を放っていたのだ。

 それに、微量の安息の時間が出来たと、息を吐く進だったが。

 それを利用して距離を取りながら、またも同じく空中に氷を。いや、先程よりも数を増やしてこちらに放つ。


「何っ」


 そう声を漏らし、進は慌ててそれを圧力で破壊していく。

 そのスピードはとてつもなく、一つ一つの位置がバラバラであるため、圧力調整に神経を多く使用する。


 と、眼前に迫った氷を、破壊した。

 刹那、氷により隠れていたその後ろから、修也が先程のように腕に氷を生やした状態で、こちらに構えて向かう。


ー本命はそっちかっ!?ー


 その手法に、進は一瞬動揺を見せたが、直ぐに表情を正しいつもの如く、向かってくる彼を圧力を使って横に促す。


 が、その更に後ろから。


「!」


 無数の氷の塊りが現れる。

 それだけで無く、修也の向かう先。即ち、進の背後からも、更に同じ数の氷が向かって来ていた。


ーマズいっー


 促す為に体を捻らせた事が吉となったか、背後の氷の存在にも気づいた進は、その反動で少し退きながら、両方の氷を破壊する。


 と


「ガハッ!?」


 気づいた時には既に、進の口からは赤黒い液体が溢れ出していた。


ーなん、だー


 恐る恐る、激痛の伝わる方向。左腕へと視線を移す。と


「っ!」


 そこには、"地面"から生えた、巨大な氷の氷柱が、腕を抉り取るように貫通している光景が映し出されていた。


「あああああああああああああああああああっ!?!?!?」


 それを目にしたがために、進は思わず崩れ落ちる。


「はぁ、折角胸目掛けて生やした筈だったのに、、ちゃんとその場に留まれよぉ」


 口角を上げながらも苛立ちを感じた声音で放つ修也。すると


「まぁいいか。直ぐ終わらせてやる」


 と付け足し、手をこちらに向ける。

 それに、とどめを察した進は、その場から逃れようとするがしかし。


「グハッ!」


 体がふらつき、言うことを聞かない。

 どうやら、大量出血により、意識が混濁しているのだろう。

 このままでは出血多量で力尽きてしまうと考えた進。


「じゃあな」


 そう短く放って、修也が先の尖った氷を進に放つ。

 が、その時


「っ!?」


 それは進に到達するより前に破壊される。

 だけで無く、瞬時に修也の間合いを詰め、彼の油断した事により空いた、腹目掛けて進は殴りを入れる。


「グッ」


 流石と言うべきだろうか。油断していたというのに、それに即座に気づいた修也は、反射的に腹の前に氷の壁を作る。


 だが、慌てて作ったが故に耐久性は低いものとなっており、流石の修也も、血を吹き出しながら数メートル先に吹き飛ばされた。


「ガッ!..ふぅ、はぁ...お前、どうして...!」


 吹き飛ばされた先で足を着き、蹌踉(よろめき)ながら修也は進に真剣な視線を向ける。

 と、それを言い終わるよりも前に、進のその腕に気づき、修也は目を見開く。


 彼の、氷柱により既に僅かな筋のみで付いていた腕が。見た目は不格好であったがくっ付いており、出血も既に見受けられなかった。

 それにより、修也は理解する。


「圧力で押さえつけたか」


 そう、進の能力である空気圧によって、離れていた腕を肩にくっつける様にして押し込み、圧力により出血を押さえつけているのだ。

 つまり、治ったわけではない。という事である。

 それにニヤリと笑い、修也が攻撃を再開する中、進は自身の傷の深さを理解し、早めに終わらせなければと。そう焦りを露わにする。


 が、彼の氷の攻撃や、腕に氷を纏わせた接近戦を避けたり、破壊を施しながら進は、こんな時こそ冷静にならなければと、考えを改める。


ー俺は強い、俺は、、俺はー


 自分の能力への自信が、碧斗(あいと)達の姿を思い返し、疑問に変わる。

 本当に、自身の力は強大なものなのだろうか。そんな不安が、それを(いつわ)るために作っていた皮を、碧斗の存在により破られていく。

 弱い。

 本当は、弱かった。そんな事、ずっと前から分かりきっていた。それで無ければ、碧斗達に憧れなど抱いていなかっただろう。


ー俺は、、本当に、勝てるのか、、こいつにー


 本当の意味で強大な人物を前に、進は自身の弱さに改めて気づき疑心暗鬼になっていた。が


『みんながみんな、自分の意志で考え、それでいて行動してるんだ。だから、自分の気持ちだけで、相手を決めつけるな』


「っ」


 彼の言葉により、目つきを変える。

 自分の気持ちで、相手を決めつけるな。

 そうだ、その通りだと。進は一度頷く。相手は人間である。更には、心のどこかで何か思うものがある、ただの学生だ。

 5人相手に圧勝していた自分が、負けるわけが無い。

 深く考える事はせず、ただただ強気な言葉を並べた。深く考えてしまえば、自身の弱さに、また気づいてしまうから。


ーフッ、碧斗の存在によって悩まされ、碧斗の言葉によって前を向く、か。ほんと、皮肉もいいとこだー


 と、進は清々しさすら感じる表情で覚悟を決め、改めて分析を始める。

 空気圧の能力は、思いつく限り無限の可能性が存在する。使い方1つで、神にも匹敵する力が、生み出せるのだ。


 だから、この能力にしかない部分を引き出せ。


 強みを伸ばせ。


 他の能力には成し得ない、この能力であるからこその作戦を、彼に突きつけろ。


 そう、他の能力では絶対に回避出来ない。最強(チート)な攻撃方を。


ーそうだー


 それを思うと同時。進の脳内には一つの策が浮かび、連動して口角が上がる。


「...」


 その僅かな変化に気付いた修也は、眉をピクリと動かし、何かを起こす事を察して距離を取る。

 が、それは無意味であると。進はニヤリと笑って告げる。


「下がっても無駄だっ!俺はただ死ぬわけがないと。俺は、そう言った筈だ!」


「っ」


 そう放ち、修也が言葉の意味を理解した直後、彼の体がーー


 ーー突如浮き上がる。


「何っ」


 その常識では有り得ぬ光景に、修也は思わず目を剥く。


「残念はお前の方だ」


 そう笑う中、修也は更に天空へと上昇していく。と、その時点で、修也は気付いたようだ。

 決着が、既に着いているという事に。


「っ!お前、まさかそんな事」


「ああ、長かったな。でも、もうお前は自由(おわり)だ!」


 珍しく動揺を剥き出しにして声を上げる修也に、進はそう強気に放つ。と同時にーー



 修也への圧力を、解除する。



「!」


 瞬間、彼の体は重力により地面へと向かう。

 が、それだけでは留まらず、進は彼に更に圧力をかける。

 そう、地に向かう方向への力を、だ。


「クッ!」


「これが俺の能力、空気圧の能力だ!お前のような、普通の能力では防ぐ事は出来ない。俺の、俺の能力で無ければ出来ない事だ!空を浮遊出来ない能力であるお前は、既に逃げ道は無い。手で触れずに、自身が手を下さずに勝つ事の出来る、最強の能力」


 フッと。笑ってそう前置きをすると、進は歯を見せて手を前に出し声を上げた。


「これがっ、俺の能力だっ!」


 勝ち。では無く、ただただ目的を達成する事の出来る喜びのみに、進はそう放ったのだった。

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