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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第4章 : 履き違えの仲違い(コンフィリ)
132/300

132. 真意

キャラクターファイル8

佐久間進 (さくましん)

能力:空気圧


運動能力:4

知能:3

速度:2

パワー:3

成長力:5

「…はぁ。大口叩いて、、って言いてぇとこだけどよぉ。良い意味でも悪い意味でも、本当に思う存分戦うつもりなんだろ?」


「...」


 頭を掻いて、息を吐く修也(しゅうや)に、(しん)は目つきはそのままにして、彼を見据えた。


「お前、俺を倒して情報聞き出すとか嘘だろ」


「っ」


「おめぇは元から情報も和解も、するつもりもここで終わらせるつもりも甚だねーんだろ?違うか?そしてお前は死ぬつもりで、、いや、死ぬためにここに来た。...フッ、だったら安心しろ。変な事しなきゃ、楽に殺してやるからよぉ」


「…そんな訳無いだろ」


「?」


 ニヤリと放つ修也に、進は声のトーンを落として返す。


「俺は、ただ死ぬつもりはない。確かにお前の言う通り、俺は死ぬつもりだが、何もせずに死ぬなんてつもりはねーよ」


「...」


 何を言うでもなく聞き入れる修也に、進は足を踏み出し続ける。


「修也。お前、さっき碧斗(あいと)の事狙ってただろ」


「あ?何を根拠にだ?」


 睨む様にしながら放つ進に、修也も同じく声のトーンを落とし返す。

 そんな彼に告げる様に、その根拠を語る。


水篠(みずしの)ちゃんの、小さな石を弾丸の様に放つ、追尾弾。それに火が宿った時、それを避けながら思いついたんじゃ無いか?...あの、飛んでくる石を砕くために放っている。と見せかけた、氷の攻撃。あれは、溶かされるのを分かって放ったものだった」


 と、進は淡々と放つと、未だ(とぼ)ける修也に顔を上げて訴えかけるかの如く形相で付け足す。


「つまり溶かされた氷の水を、碧斗にかかるような位置で石と激突する様に、氷を放つ角度、位置を調整してただろ?実際に水滴が碧斗に付いてた。石にぶつかって砕けても、氷は氷。のちに水に変化するのは理解の上だったからな」


「...で?それがなんなんだよ?はっきり言えよ」


 話の趣旨が見えないと。分かっているが故に、あえて彼は首を傾げる。それに、核心を突くように。進は告げる。


「お前は碧斗に事前に水をかけておいて、凍らせるつもりだったって事だ。この場所はいつも能力練習に使ってる場所なだけに、既に温度が下がってる。水が体に付着している人物を凍らすなんて、容易な事だろ?...そんな事考えてる奴と、」


 そこまで口にしたのち、僅かに間を開けると強く呟く。


「碧斗を戦わせるわけにはいかない」


「...つまり、最弱の伊賀橋(いがはし)碧斗だけを殺して逃げかねない俺を、そうさせないためにって事か。ハッ!とんだ自己犠牲だな。ま、お前にとっては犠牲でもねーのかもしんねーがよ」


「俺は、ただ何も出来ずに死ぬつもりはないぞ」


「フッ、、つまり俺と一緒にって事か」


 今度は、先程のような鼻で笑うようなものではなく、ため息の様に軽く息を吐く。

 が、俯いたそののち、修也は笑って顔を上げる。


「そうこなくっちゃ」


「ああ。楽しませてやる」


「フッ、あいつらを帰さなきゃ良かったって。絶対に思う事になるぞ」


「随分と自信があるんだな」


「お前こそ。どうして行かせた?俺を倒す事が目的じゃねぇのか?」


 珍しく疑問を放つ修也に、進も先程の彼と同じく鼻で笑って返す。


「問いに1つも返さない相手に、都合良く返すわけないだろ?」


「まあ、それもそうだな。だが、これだけは忠告しておく。お前に俺は殺せない」


 淡々と続ける修也の言葉に、進は目をピクリと動かし拳を握る。


「お前に、何が分かる」


「覚悟が違う」


「..は?」


 短く返す修也に、威圧感を露わにしながら返す。


「お前は、見てる場所が違う。お前が見てる道の先は、俺を倒す事でも、この争いを終わらせる事でも無い。ただの自己満足だ」


「お前」


「いっつも周りばっか気にして、みんなが求める人物像になろうとしている。それが、お前の目指す場所。決して、お前自身の意思で目指している事じゃ無いんだろ?なぁ。1度でも、自分自身で思った事で行動した事があるか?」


「っ」


「なぁ?無いだろ?いつも、この戦いを終わらすだとか、俺を捕まえるだとかほざいてるのは、周りに合わせて、周りの望んだ存在になるためだ。お前はそれに甘えてるんだろ?みんなの犠牲にとか、自分を正当化出来る理由を作って、周りのせいにして、自分を守ろうとしてる」


「違う!」


「そうか?だったらなんでここで死ぬ選択を取った?お前は、周りに甘えて、自分に甘えて、だからこそ逃げる選択を取った。自分を曝け出すのが怖いから、みんなに合わせる事で逃げて、それすらままならなくなったら、その世界からも逃げる。全てから逃げ続けた結果だな」


「違う!」


 ニヤリと微笑む修也を前に、進は胸騒ぎを抑えて1度深呼吸をする。


ー駄目だ、相手のペースに乗るな。そんなの、思う壺だろ。またそうやって、暴走するつもりか俺はー


 もう、迷惑はかけられないと。

 進は意識を変えて、修也を睨み返す。そんな、口車には乗らないといった姿勢にも、修也は何の動揺も示さない。

 恐らく、その発言に進を逆上させる等の意思は無かったのだろう。ただ、思った事をそのまま告げたのみ。といった様子だ。

 そんな彼にまたもや苛立ちを覚えながらも、それこそ思う壺だと理解し、進は放つ。


「俺の事はどうでもいい。俺が知りたいのは修也。お前の事だ」


「ハッ、そうやってまた自分の事から逃げて、、でもまあ、どう頑張っても俺の事は俺の口からは聞き出せねぇぞ?」


「分かってる。だからこそ俺は、ここでお前を殺す。…争いを終わらせるんじゃ無くてな」


 そう体を前のめりにして声を上げると同時。進は圧力を利用して地面を蹴り、勢いを増して修也に向かう。


ー彼の能力は"氷"。恐らく、接近戦では俺の方が格上。それに、氷の能力は環境を整える事により、その能力の強みは発揮される。なら、それが整うよりも前に攻める。先手必勝だー


 そう心中で思いながら、圧力を変動させて拳を放つ。

 だが


「あぁ、駄目だよ。そんな安易な行動じゃ。直ぐにパターンを読まれる」


 彼が笑う目の前で、進の動きが止まる。


 進の振るった右の腕が、手先から凍り始めていた。


「なっ!?」


 修也から冷気が出ているのだろうか。それとも、彼の周り一帯は、更に温度が低い状態を維持しているとでもいうのだろうか。

 いや、今そんな事を考えている時間は無いと自覚し、進は空気圧で氷を破壊し後退る。


「はぁ、はぁ、油断ならないって事か」


「これは基礎情報だ。それすらも心得てない奴が、本当に俺を楽しませてくれるのか?」


 煽る様に告げる修也に、進は眉を潜める。


「おうよっ、楽しませてやる。自信なくても、不安でも、やっぱ口に出して動かねーと何も始まらないってもんだろ?」


「フッ、それも誰かの受け売り(まねごと)か?」


 修也の瞳を真っ正面から見据えて放つ進。そんな前向きな返答が、彼の口から出るとは思えない修也は、小さく笑って呟く。


「どうだろうかねっ!」


 と、同時。修也の左に瞬時に移動した進は、蹴りを入れるものの、それを軽く躱され、それと共に彼は自身の周りに出現させた氷の塊りで攻撃を放つ。


「甘い甘いッ!」


 進は冷や汗をかきながらも強気に放ち、向かってくる氷を圧力を与えて砕く。

 その対応に、修也は僅かに目を動かすと、進は瞬間的に目の前にまで迫り、口角を上げる。


「自分の周りに能力を常に反映させてるのは、お前だけじゃ無いんだよ」


「っ」


 それを放つと瞬間。

 圧力を加えた、大きく足を上げてからのかかと落としにより、その場には軽い暴発が起こる。


「っと、」


 だが、その攻撃を、修也は大きく跳躍して避ける。


 と、その背後に。


「遅いぜ?」


「!」


 進が突如現れ、横腹に蹴りを入れようとするものの、既のところで氷の壁を隔て、放った蹴りは修也。では無く、その壁を破壊する。


ースピードは速いな、、圧力変動による重量調整かー


 修也は、現状や彼の動きを観察し、脳内でまとめる。

 と、距離を取り、そんな事を考え俯いた、約2、3秒とも満たない中で。

 修也が顔を上げたその時には既に、先程の場所に進は居なかった。


「何っ」


 逃げる。または身を隠す時間なんて絶対に無かったであろう状況だったが故に、修也は思わず声を漏らす。


ー何処だ、?何処に行った?そんな遠くに行ける時間は無かったはず、、いや、待てよ。まさかー


 ハッと何かに気づいた修也は、周りでは無く、空中へと視線を移動させる。


「!」


「気づいたか!でも、ちょっと遅かったな!」


ー自身にかかる圧力の調整により、移動速度や重量操作だけで無く、、重力すら操れるのかー


 そう内心で思う中、進は修也に向かって真っ直ぐ降下。

 すると思った、その時。


「!」


 目の前に降下していた筈の進は突如姿を眩まし、その気配が。


 背後に移動していた。


ー速いなー


 それに驚き、目を見開いたがしかし。

 進が放った拳は、その場に現れた氷により防がれてしまった。


「させるかよっ!」


 だが進はそう放つと、握っていた拳を開き、防いだ氷を圧力によってーー


 距離を取ろうとする修也に、押し出すかたちで放つ。


 それを、自身の前に同じく氷を放つ事で破壊した修也だったがしかし。

 それによって僅かに訪れた、進から視線が外れる瞬間。

 それを狙って進は空に舞い上がり、更に圧力を駆使して蹴りを入れる。


「食らえよぉっ!」


 重力、圧力共に強めた一撃故に、今から瞬時に生み出せる大きさの氷では、防ぐのは難しいだろう。

 空中に生み出す氷では尚更不完全である。

 その氷を支えるものが能力によるもののみであれば、圧倒的に勝るのはこちらの能力だろうと。進は目つきを変える。


「!」


 またもや爆風が起こる。だが。


 進の脚が命中したその先は、修也でも氷でも無い。


 ーーどちらもだった。



「甘いのはどっちかなぁ?」


 ニヤリと修也は微笑む。

 彼は腕で蹴りを防いだのだ。それも、右手の指先から肩までを、氷で覆った状態で。


「自身の能力系統は、自分にダメージが入らない」


 進の蹴りにより腕を覆った氷が砕け、それによる反動で修也は小さく退く。

 そののち呟いた修也は、それと同時に右足にも氷を覆い、蹴った後の体勢で空中に留まる進に対し、思いっきり蹴りを入れる。

 まるで、先程の攻撃を返すとでも言わんばかりに。


「そんなん一般常識だろ。間抜けぇ!」


「クゴアッ!」


 その間、僅か1秒だったがために、進はそれを左腕で受ける。

 だが、それを受けたのにも関わらず、彼は吹き飛ばされるのは愚か、体勢すら崩さない。


「っ」


 思わず修也は目を見開く。


「残念だな!これがっ、、空気圧だ」


「マズ」


 修也が先を見越しそう声を漏らすと次の瞬間。

 進による圧力で大きく吹き飛ぶ。


「っ...と!」


 それを華麗に着地し体勢を整えると、またもや眼前の進の姿が消える。


ー後ろか、、それか上か。奴の事だ、確実にー


 修也が心中で思考を巡らせたのち、真上に目をやる。

 予想通り、修也の真上で進が浮遊している様子が映し出される。


 が、刹那


 その場の進も即座に消え、見失ったと思われた次の瞬間ーー


 ーー修也の背後に現れる。


「!」


 驚愕に表情を歪めたのは修也


 では無く。


 空中を挟む事でブラフを行なった筈だというのに、修也の回し蹴りが向かう、進の方だった。

 マズいと思った時には既に目の前に差し迫っており、またもや圧力調整で一撃を堪える。


「オラッ!」


 その後、またもやそれを返すように進が蹴りを返し、修也に向かいながら口を開く。


「そろそろ観念して終わらせた方がいいんじゃないかっ!?このままやってても、お前は勝てない。俺には攻撃が効かないんだからな」


 進が攻撃を続け様に行いながら、腕を鎧の如く氷で固めて防ぐ修也に向かって放つ。


「いつまでも平行線だ。このままやってたら、どちらが先に負けるか一目瞭然だろっ!?」


「ハッ、...お前それ、本気で言ってるのか?」


 進が真剣な表情で放ったそれに、修也は吹き出す。それに対し怪訝な顔を、進は返す。

 その、いかにも本気で言っているかの様な面持ちに、修也は呟く。


「もし本気で言ってんなら、お前相当馬鹿だな」


「何、?」


「分からないか?まあ、そんな小せぇお花咲いてる頭じゃわかんねぇか」


 と、心底罵る様に鼻で笑うと、苛立ちに攻撃の速度を速める進に、修也は告げる。


「特別サービスだ、教えてやるよ。お前は圧力変動を行うたびに、自分では気付かねぇが少しずつ体力を消耗してる。能力が体力に比例しない転生者なんていねぇからな。つまり、この空間を作り出すために、圧力で壁を作って、維持してる今の状況だけで、相当ガタが近づいてるって訳だ」


「ハッ、そんな事か」


「それだけじゃ無い。その圧力の壁を作り上げた事で、気圧による気候変動を起こし辛くなってる。それと並行して、俺は今も尚環境作りをしてる。どうだ?ずっと戦って、負けが見えてんのはどっちか。そのちっせぇ脳みそで少しは考えるんだな」


 その発言に、進は目の色を変える。

 現在はまだ奥の手であるがために発動していなかった気圧変動だが、今の環境を考えると、直ぐに気候を変えるのは難しいだろう。

 故に、進はそれと同時に攻撃をやめて空中に飛躍し距離を取る。


「どうした、やっと理解したか?自分の状況」


 ニヤリと微笑み煽る修也に、進は地に足を着き彼を見据える。


「ああ、十分理解したよ」


 それに負けじと口角を上げ、小さく放つ進は、それと共に


『それくらい本気(ガチ)なんだ』


 と言って身を挺し、何度も無謀な相手に挑戦し続けた彼らの姿を胸中で思い出しながら、進は足を踏み出した。


「だからここからは、容赦しねぇ。俺が、そのくらい本気(ガチ)な事、見せてやるよ」


 そんな強気に佇んで、修也に告げる進に表情を変える事無く、挑戦を投げかけるよう放った。


「それも受け売りか?ほんと、、お前は真似事が好きだな。お似合いだよ、周りばっか見てる風見鶏(チキン)には」

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