130. 心積
キャラクターファイル13
桐ヶ谷修也
能力:氷
運動能力:5
知能:5(?)
速度:4
パワー:3
成長力:3(?)
碧斗が緊迫した状況の中、凛々しい風貌で修也に宣戦を促す。
「は?伊賀橋君、あんたそんな事言える立場じゃないでしょ?」
「う、、調子乗りましたすいません」
碧斗の弱さを知っている美里の指摘に、そう謝罪を述べると縮こまった。
すると
「おいおい、5対1て。流石にこりゃ弱いものいじめ過ぎねぇか?」
修也はそう嫌味のように放って、手をひらひらと振る。
「いや、確かに分が悪いかもしれないが、お前は既に人を殺めている。殺人犯1人に、複数人の警察が相手する事はよくある事だ。それが、実績がある。前科のある人間の末路だ。どんな理由があろうとも、人を殺め、この争いを始めた事は、絶対に許せない」
碧斗は冷静でありながらも、感情を露わにして修也に突きつける。全ての発端である人物が目の前にいるのだ。
感情を抑えられるわけがない。と、それに数秒の間を開け、その場に。
大声が響いた。
「いやっ!6対1だ!」
「っ」
刹那、タイミングを見計らい、大翔が修也の背後から殴りにかかる。
がしかし、ほんの少し退き、目をピクリと動かしたのみで、修也は大翔との間に軽々と氷を隔てる。
それに、大翔にとっては容易だと。彼は笑みを浮かべ氷を軽々と破壊し、修也の元へと拳を放つ。
だが、先程の氷は止める事が目的では無く、時間を稼ぐ事が目的であったのだと。それ故に、それを破壊し妨げられた視界が露わになった先にはーー
ーーこちらに向かう氷の塊があった。
「っ!」
大翔は思わず体を反らし、既のところで氷を殴り破壊する。
「そういえば、、お前は最初っからずっと俺に否定的だったな」
ようやっと大翔の姿をマジマジと見つめた修也は、その顔に見覚えがあるというように呟いた。
「フッ、ああ、あん時なんつったかは忘れたが、お前の事が気に食わなかったのは確かだな」
「気に食わない、ねぇ。大した会話もして無いのに、決めつけとは感心しないな」
「ハッ!人殺しになんて感心されたくねぇなぁ!それこそ、俺は人殺しなんて感心しねぇよ。お前、絶対ここで終わらせてやる」
目つきを変え、碧斗と同じく修也に宣戦布告の如く放つ大翔。それを目の当たりにした碧斗もまた、表情を変えて足を踏み出す。
「修也君。こんな事してても意味なんてないんだ。君は頭が切れる人だと思う。何か理由があるんだろ?」
「...フッ、またその話か。そこの奴にも言ったが、俺はこの世界を堪能しようとしたまでだ」
進を一瞥し、修也がそう放つと、即座に碧斗が切り出す。
「それなら、どうしてみんなを殺しに来ないんだ?」
「俺が無双出来る力を手に入れるまで出るわけにはいかないだろ。今の俺に分が悪い事くらい容易に想像出来る」
碧斗の問いにも、淡々と返す修也に、一度ため息を吐く。
「そうか、、どうやら修也君は一度負けないと話してくれなさそうだな」
真剣な表情で碧斗が放つと同時。その意図を読み取った一同は、一斉に戦闘態勢へと入る。
と、思った次の瞬間。
「仕舞いだ修也ぁ!」
大翔が強く足を踏み込み、瞬時に彼の元へ拳を向かわせる。
ーなかなか速いな。だが、攻撃にムラがあり過ぎるー
その動きに、僅かに関心を見せた修也だったが、やれやれと。またもや氷の塊を隔て防がれる。
が、しかし。
「っ!」
それは直ぐに溶かされ、修也の目の前にはーー
ーー炎が纏った大翔の拳が広がっていた。
反射的に大きく退いた修也だったが、その背後から、樹音が襲う。
「少し手荒だけど、そうさせてもらうよっ!」
樹音の手に握られた剣の刃には、同じく炎が纏っていた。
まるで未知のものを見るように、修也は一度目を丸くしたが、直ぐに切り替えて、振ろうと構えた樹音との間に氷を出して防ぐ。
だが、炎を纏っていたが故に、またもや瞬時に溶かされ、氷が消え去ったと同時。
剣を振った反動を利用した樹音の蹴りが、修也を襲った。
「っ!」
手を凍らせ、それで防いだものの、修也は数メートル先にまで足を擦るびかせて押し出される。
と、その背後から、大翔が拳に炎を宿し。眼前からは樹音が剣に炎を纏い。それぞれが修也に向かう。
それは、「自身に対して使っていた攻撃方である」と、進は目を見開く。
「クソッ」
だがそれに、小さく呟いたのみで、未だ涼しい顔をする修也は軽くしゃがみ、地に向けて手を伸ばすと同時。
地面からはまたもや小さな氷山の如く、氷の壁が、生えるように現れる。
それを溶かすために、一度腕や剣を振るう事を余儀無くされた2人の、そんな時間を利用し、修也は跳躍してその場から抜け出す。が、それだけでは無いと。
修也の視線の先。
遠くでこちらを見据える沙耶と目が合った次の瞬間、足元が盛り上がり、岩が生える。
「...」
未だ大きな反応を示さずに、修也はそれを回避する。だが。
地から伸びた岩は地面から飛び出し、空中で突如砕けては、その破片が修也に向かう。
「何っ」
修也が小さく、反応を示す。
この大きさの岩が生える程度であれば、これくらい下がれば十分だろうと、高を括っていた修也は、それ故にゼロ距離で放たれた破片に目を剥く。
すると修也は、反射的に両腕を凍らし、顔の前で防御壁の如く防ぎながら、岩と距離を取る。
だったが
「もうやめて!」
沙耶の必死の叫びと共に、飛び出し砕けた岩の後ろから、無数の石が修也に向かう。
だが、先程とは違い距離があるがために、修也は余裕な表情で防御壁のように生成した氷の塊を前に放つ。だが、その時
沙耶の放った数々の石に。まるで隕石の様に炎が纏う。
「!」
その事から、修也の放った防御壁も意味を成さず、無数の石が向かったために瞬時に溶かされる。
と、溶け切った氷の後ろから、石が修也を囲む様に軌道を変えながら向かう。
ーこの動き、、めんどくせぇなー
若干冷や汗をかいて、それを避ける様に動きながら、石と同じ数の氷を宙に生成し放つ。
それにより、バキバキという音と共に、石及び氷は砕け散っていく。中には氷が先に砕かれるものも多々見受けられたものの、それくらいならば避けられると、修也は運動神経の良さを活かし、巧みにそれを避ける。
と、その隙を狙い、今度は樹音が幾つものナイフを放ち、大翔はまたもや拳に炎を宿し殴りにかかる。
「っ、、お前、熱くねぇの?」
未だ追尾を続ける石の数々と、樹音の放つ炎が付いたナイフを、氷で防ぎ避けながら、眼前で攻撃を放つ大翔に向かって小さく問いた。
「ハッ、熱いに決まってんだろ!でもな、こんくらいやんだよ。俺らは、それくらいガチなんだ。お前がいくら、この世界が遊びだと勘違いしてようとなっ!」
そう大翔は手を止める事なく殴り続ける。それに、修也が僅かに攻撃パターンを予測し始めた、その瞬間。
大翔が大きく振りかぶって殴りを入れると同時に。
視界が煙により妨げられる。
「クソッ、マジか」
思わず、修也の口からは愚痴が漏れる。
煙により生まれた、辺りの状況が分からない環境のまま、皆の一斉攻撃は続く。
「...」
「..心配か?」
そんな様子を不安げに見つめる進に、碧斗は小さく問いかける。
「いやぁ、、ただ体が、心配でさ。もしかすると、死んじゃうんじゃないかって」
「...どっちのだ?」
「どっちもだよ」
「そうか、」
碧斗の短い疑問に、進も同じく短い返事を返す。
「でも、修也君の事は元々、殺すために進はこの場に来てたんじゃ無いのか、?」
「まぁな〜、、その気でいた。でも、、もし碧斗達の手で殺したら、、その、重荷とか、罪悪感とか、、そういうのを押し付ける事になるだろ、、俺は、、もう、みんなに迷惑かけたくねぇんだよ、!もう嫌なんだ、、これ以上、俺が、こんな大切でいい人達を、酷い目に遭わせる様な事するなんて、、もう、絶対に嫌なんだ、誰の迷惑にもなりたくねぇんだよ、」
進は心中で渦巻いた気持ちを吐き出して、歯嚙みする。
そんな彼に、碧斗は表情を曇らせ、だがどこか微笑んでいる様子で放つ。
「そうか、、それで、1人で全て終わらそうとしたんだな。...でも、大丈夫だ。俺も本当は、、正直怖かった。近くにいる人達が殺されてしまう事が。俺のせいで苦しんでしまう事が、辛くて、嫌で、逃げ出したかったんだ。でも、それは自分の傲慢でしか無かった。みんながみんな、自分の意志で考え、それでいて行動してるんだ。だから、自分の予想だけで、相手を、相手の心情を決めつけるな。みんなを、、俺らを、信用してくれ」
碧斗はあの時に皆に気づかされた言葉を思い返しながら、真っ直ぐな瞳で告げる。それに、進は僅かに涙ぐみながら、険しい表情を見せた。
が、その時
煙がゆっくりと薄れ、修也の姿が現れる。
「「「「「!」」」」」
それに反応した碧斗と進は、ハッと表情を硬ばらせる。
更に、そちらを凝視していた樹音、美里、沙耶の3人も。
煙が薄れて現れた修也。と思われたそれが、氷の塊であった事に気づき驚愕する。
と、その瞬間、その氷は自ら破裂し、その破片を我々に放つ。
「「「クッ!」」」「くおあっ!」
その破裂の勢いにより吹き飛ばされた大翔もまた、皆と同じタイミングで声を上げる。
「はぁ、、お前ら、ほんと馬鹿だな。そんな少年漫画みてぇな御託並べて、ヒーロー気取りの綺麗事という、虚言を投げ付け続ければ、俺が揺らぐとでも思ってんのか?」
「修、、也、君」
氷が先程まで設置されていた場所に、そう放ち首を回す、修也の姿があった。
恐らく、氷の塊は、それ自体が置かれていた訳では無く、自身を守る防御壁であったという事だろう。
即ち、煙に撒かれていた最中、"その中"に、彼はずっと居たという事。氷で体を覆っていたという事である。
その事実に、樹音は驚愕に目を凝らし、美里は「嘘、」と小さく零して項垂れ、沙耶は寂しい、悲しい表情で彼を見据えた。
「チッ、クソが。イキリやがって」
対する大翔がそう愚痴をぼやいた、それと同時に。
拳を握りしめ、作戦を立てようとする碧斗を差し置いて、進が足を踏み出す。
「はぁ、分かったよ」
「「「「え?」」」」
「「あ?」」
その場の6人それぞれが、笑みを浮かべ突如口にされた進の言葉に、そう聞き返す。
「ここで、、彼を止めてやる!そして、この争いを絶対に終わらす。だから、、ちょっとみんなこっちに来てくれないか?俺に、考えがある」
「「「「「!」」」」」
その強気な発言に、皆は目を見開く。それを受けた修也本人も、何か面白いものが見れるのかと、期待に口角を上げる。
「し、進、、信用、してくれたのか」
碧斗は、進の前向きな言葉と姿勢に、そう表情を明るくする。
だがそれとは対照的に、彼の唐突な言動及び行動に皆は、一度怪訝な表情を浮かべた。が、それぞれが顔を見合わせ頷いたのち、修也に一斉に遠距離攻撃を放つ。
「っ」
と、その隙を利用して、皆は一斉に進の元へ駆け寄る。
そんな一同の姿を確認したのち、進は数歩、皆の前に出るようにして修也に足を進める。
と
「悪いな、碧斗、みんな。許せ」
「え」
進は、そう小さく謝罪を放つ。
それに碧斗は、思わず眉間にシワを寄せる。すると、次の瞬間ーー
目の前の彼は、修也に。
では無く、"我々"に、手の平を向けたのだった。




