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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第4章 : 履き違えの仲違い(コンフィリ)
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128. 助言者

「街を、」


「一望、?」


 碧斗(あいと)の言葉に、ただただ同じ単語を繰り返す一同。その反応に碧斗もただ頷き、その考えに至る経緯を説明する。


(しん)から聞いたんだ。修也(しゅうや)君は、みんなが寝静まった後、街を一望出来る場所に居るって。まだそんな時間では無いけど、みんな夕食の時間帯だから、穴場である事には変わりない」


「そ、そんな事言ってたの?佐久間(さくま)君は」


 いまいち信じられない様子で、樹音(みきと)が疑問を口にすると、碧斗は「言ってたんだ。確かに証拠は、、無いが、」と小さく項垂れた。


「そして、、進は今追い詰められてる。自分を責めてるんだ。まぁ、あんな事をしたんだ。一般的にも自身を責める状況なのに、元々心が弱い進は、更にそれが加速するだろう」


「それで、、身代わりになろうって事、?」


 碧斗の仮説に、美里(みさと)が自分の中で結論づけ割って入る。


「身代わり、、って言うと少し違う気がするけど、進は自分のした事を償おうとして、修也君に、、1人で、、止めようとーーっ!」


 小さく呟きながら自分の考えを口にすると、碧斗は何かに気づいた様子で、突然目を見開く。


「ど、どうしたんだ?」


 そんな突発的な反応に、皆は肩を揺らし、動揺を見せる。

 それに、碧斗は


「そうか、」


 と呟くと、冷や汗を流し、何か恐ろしいものに気づいた様な。強大な何かを目撃したかの様な表情と声音で、手を震わせながら焦点の定まらない目を皆に向ける。


「進は、、最後にするつもりだ。全てを終わらそうとしてるのは、この争いだけじゃ無いんだ、、」


「あ?なんだよ、それ」


「!」


 碧斗の言葉を、いまいち理解出来ない様子の2人。だが、対する美里は何かに気づいた様子で、碧斗と同じく血の気が引いていく。

 すると、碧斗は未だ理解していない2人に向かって、核心を突く発言を口にする。


「ここで、死ぬ気なんだ。進は」


「「っ!」」


ーそうか、、なら、あれはー


 碧斗の言葉に樹音と大翔(ひろと)は、同時にそれを察して、お互いに見合わせ冷や汗混じりに頷く。


 そう、既に存在理由を見失っているのだ。存在していても、また今回の様な悲惨な出来事を起こしてしまう。更には、更生できないだろうと。

 心の闇を見据えそれを確信し、かといってそれを振り切っても進を受け入れてくれる場所なんて何処にも無いと。いや、正確には、何処に行っても受け入れてくれないと。

 こうして碧斗達の様に優しく迎えてくれる場所も、上っ面だけで本当は否定的な気持ちなのだろうと。

 進はそれが、逆に苦しかったのだ。


 あの時、碧斗が部屋から出る瞬間に零した、進のあの言葉には、そんな全てから逃げる選択をするという暗示がされていたのだ。


ークソッ、、また、また俺は進の本当の気持ちに気づかないでー


 そう碧斗はまたもや自身を責め、拳を握りしめる。だが、そんな暇はないと、それに勘付いた碧斗は即座に振り返り、家の中に戻る。

 街を一望出来る場所。

 それを、グラムであれば知っているのでは無いかと、駆け出したのだ。


 が、グラムのいる台所へ顔を出そうとした、その時。


「さ、佐久間君、、居なくなっちゃったの、?」


 背後。声が聞こえた方向へと、碧斗は振り返る。

 そこには、不安げに表情を曇らせ、上目遣いをする沙耶(さや)が居た。その姿に、碧斗はそれを告げるべきか目を逸らす。

 と、そんな事を悩んだ矢先、後から碧斗を追って来た美里が、沙耶の後ろから現れる。


「み、水篠(みずしの)ちゃん、」


「美里、ちゃん、、佐久間君、、居ないの?」


 沙耶の質問に、美里もまた唸る。それを告げたら、恐らく沙耶も捜しに行くと言い張るだろう。だが、彼女は病み上がりである。いや、というよりも、症状は現在も進行中である。

 故に、お互いが沙耶から僅かに視線を逸らして固まる。が、少し間を開けたのち、目を強く瞑って見開くと、碧斗は覚悟を決めた様に口を開く。


「進は、修也君を止めに行ったんだ、1人で」


「え、」


「!」


 包み隠さず放つ碧斗に、沙耶と美里は動揺から目を見開く。


「そして、修也君は普段街を見渡せる場所に居るって聞いたんだ。だから、それを今グラムさんに聞きに行こうと思ってて」


「そ、そうだったんだ、」


伊賀橋(いがはし)君、、あんた、なんで、」


 それを受け俯く沙耶の背後で、美里は僅かに声を張って身を乗り出す。と、碧斗と沙耶に距離が出来る様に手を引き、美里は耳打ちする。


「水篠ちゃんは、まだ動かしていい状態じゃ無いでしょ?そんな事言ったら動くに決まってるの分からない?」


「確かにそうだけど、、伝えない方が辛いんじゃ無いかな。水篠さんはそれを望んで無いと思う。本当に相手のことを思うって事は、相手の心情を考え寄り添う事。自分の思う最善を、相手に押し付けない事だ。それは、相原さんから言われたことだよ」


「っ!」


「それに、動いちゃいけないのは水篠さんだけじゃ無くてみんなそうだ。みんなで向かったからって、なんとかなる話でも無いと思う。それでもし、考えたくは無いけど、ここに居る誰かが死んじゃったりでもしたら、、残された水篠さんは、どうなるの、?どう、思うの?」


「それは、」


 突然自分の事を話され、美里は分かりやすくも動揺を見せる。そののち、碧斗の発言を受けて悩む様に唇を噛む。


「先の事を考える。これも、相原さんから学んだことだよ」


「っっ」


 付け足された言葉に、美里は唇を噛んだまま、目を見開く。それは、驚きだけで無く、違う、感情的な面の現れだった。

 それに、美里は負に落ちない様子を見せながらも、納得した様に渋々頷く。と、同時。


「あっ、そうだっ」


 突如として沙耶はそう声を上げる。


「「ど、どうしたの?」」


「伊賀橋君、その、一望出来るって話、何処かで聞いた気が、してたんだけど、、街案内の時に話してた気がする!」


「!」


 そうだ、忘れていた。

 沙耶の言葉で思い出し、碧斗はハッと顔を上げる。まだ争いが起き始めた当初、マーストと3人で街案内を、国民から受けた際にそれらしき事を話していた。

 そう、確か名前は。



「ファーミニアルタワー、」


「ん?どうしたんじゃみんな揃って」


 口から漏れた言葉に、グラムが聞きつけて割って入る。


「ファーミニアルタワーと、聞こえたが、そこがどうかしたかの?行きたいのか?」


 グラムの問いに、皆は揃って頷くと、「そうか」と彼は思い出す様に伝える。


「んー、あそこは国のシンボルなんじゃよ。確か、大通りを行った先の、食品店から衣服店に変わるあたりを曲がれば行けるがーー」


「ありがとうグラムさん。話は後でじっくり聞きますし、こちらもその時事情を話すのでっ!直ぐ戻ります!」


 と、グラムが答えを口にした瞬間。言い終わるより前に碧斗が声を上げ、一同は裏口から家を後にする。

 そんな皆の後ろ姿に放った、グラムの「お、おい!今行くのかぁ!?」という声かけが、彼らの耳に届く事は無かった。





「2人とも!修也君はファーミニアルタワーに居る!」


「ふぁ、ファーミニアルタワー?」


「ってなんだ?」


 走り出した勢いのまま、塀の前に立て掛けておいた梯子を登ると、碧斗は外で不思議そうにこちらを見上げる樹音と大翔に場所を知らせる。

 それに首を傾げる2人だったが、碧斗は梯子を使って塀を乗り越えると、その2人の前に出て


「ついて来てくれ!」


 と促す。


 グラムからは、大体の場所のみしか教わらなかったものの、街を一望出来る高さだ。見つけられない筈がない。

 また、沙耶と碧斗は既に1度そこを訪れているのだ。近くに行けば、何か思い出すだろう。そう考えながら足を早めるがしかし。

 沙耶と美里がいつの前にか碧斗の前をキープし、2人が道案内をしているかの様な状態に陥る。対する樹音と大翔は、「2人も知ってるのかな」などと、呼吸に乱れすら見せずに会話する。

 そんな最中、女子2人にまで負けてしまうのかと、進との戦闘時と同じく碧斗は情け無い自分に息を吐く。


 が、その瞬間。


「ちょっと待って」


「「「「「!?」」」」」


 突如背後から聞こえたその呼び声に、5人は目を剥き振り返る。と、そこには。

 碧斗達が今通り過ぎた家の屋根の上。足を組んで座る、黒よりの銀髪をした、七三分けの眼鏡男子。

 夏に近い環境であるのに対し、彼は黒いスプリングコートを羽織っている。

 そんな人物がこちらを見下ろしていた。雰囲気や、居る場所を考えると、明らかに彼は転生者の1人なのだが、今はそれどころではないと。

 碧斗は口を開く。


「すまない!少し今急いでるんだ!話ならその後にしてくれ!」


 碧斗は声を大にして拒否すると、それに続いて、皆も目的の場所へと向かうため、またもや走り始める。

 だが、そんな皆を引き止めるように、彼は小さくもはっきりと発する。


「場所。そこじゃ無いって言っても?」


「「「え、?」」」「「は、?」」


 予想外の発言に、皆は呆気なく立ち止まり振り返る。


「どういう事だ?」


「そのまんまの意味だ。君達が向かってる場所に桐ヶ谷(きりがや)修也は居ない。勿論、佐久間進もだ」


「!」


 聞かれていたのだろうか。

 我々の状況を把握している様な口振りに、目を見開く。だが


「何処で知ったのかは知らないが、そんな話、信じると思うのか?」


 冷や汗をかきながらも、碧斗は強気に足を踏み出す。すると、対する眼鏡の男子は表情一つ変えずに、淡々と続ける。


「別に信じるかは勝手だけど。僕は桐ヶ谷修也と直接接触してる」


「なっ!?」


「「「「!?」」」」


 その場の全員が、動揺を露わにする。


「彼は、王城近くの広場に居るよ。あそこは王城からは死角になって、穴場なんだ」


「...フッ、そんな事言って、お前になんの得があんだよ?」


 尚も主張を続けるその人物に、大翔は鼻で笑って放つ。

 大翔の言う通りだと。碧斗も頷く。


「その通りだ。俺は進から街を一望出来る場所って言われてるんだ。そんなとこ、擦りもしないだろ。今初めて会話した人間と、前からの友。どっちの意見を受け入れるかくらいは分かるだろ」


 この場に及んで、尚我々の思考を乱そうとする人物に、碧斗は強い言葉で対抗する。

 が、その男子はそれとは対照的に「ああ」と目を少し大きくして口を開く。


「王城の近くは、権力の象徴からかは不明だけど、少し地形が高くなってるんだよ。確かにあの場所だと、街を見渡すくらいは出来るかもね」


 ぼんやりと宙を眺めながら、ぼやく様に告げるそれに、碧斗はたじろぐ。

 一体この人物は誰なのか。

 何が目的なのか、この情報は本当なのか。

 そんな事に頭を悩ませながら歯嚙みする碧斗に、ふと。


「そんな事、今は考えなくていいから。とりあえず、まずはあいつのところに行くのを優先しないと」


「!」


 背後から。ずっと目を細めていた美里に耳打ちされ、碧斗は我に帰る。

 そうだ、こんな事に時間を有してはいけない。我々には、するべき事があるのだと。


「情報ありがとう。でも、俺達が目指す場所は変わらない」


 目つきを変えて強く宣言すると、未だ表情を変えない彼は、小さく「そう」と呟くと、立ち上がる。


「悪い悪い、時間を取らせたね。その代わりと言ってはなんだけど、これを使ってくれ。彼の元に行くには役立つと思うよ」


 そう放つと、その人物は手をこちら側の地面へと向けて、力を込める様に腕から手にかけて強張らせて上へと上げる。

 すると瞬間。


 その地面の上には、大きな。



 ーー実物大の「車」と思われるものが現れる。



「「「「「!?」」」」」


 その、この世界では絶対に見る事は無いと思っていたそれに、その場の全員が驚愕する。


「こ、これ、、くるま、?」


「見た感じ、そうみたいだね、」


「なんだよ、これ」


「僕の話を信じないにしても、結局は必要になってくると思ったからね。それに、これがあれば"どっちも"。という選択を取る事も出来る」


「どういうつもりだ」


「ん?」


 涼しい顔で告げる彼に、碧斗は睨む様にして呻く。


「車が現れた原理について。それは貴方の能力に関係してるのかもしれないが、今は聞かないでおこう。だが、それを、どうして俺らを助けるために使うんだ?俺らは指名手配されてる身だぞ?そんな人物に手を貸すなんて、他に理由があるんだろ?素直に言ったらどうだ?」


 拳を握りしめて、意図がある事を探る碧斗に、彼は息を吐く。


「僕はただ君達を助けたいと思っただけだよ。それ以外に理由は要らない。強いて言うなら、両方に行ってもらって、僕の言ってた事が本当だったって、認めて欲しいってのはあるけど」


 聞きたい事は山ほどある。だが、今は一刻を争う状況なのだ。

 それ故に、碧斗は何も発する事が出来ずに、その人物と車とを交互に見る。


「伊賀橋君、本当にこいつの言う事信用するわけ?車に何仕掛けられてるかも分かんないのに」


「...だ、だが、、どちらにしても、歩いて行くには遠過ぎるし、時間が惜しい。それなら、、賭けた方が」


 皆が不安げに見つめる中、碧斗は答えに渋りながらもそう口にする。と、そこに樹音が割って入る。


「相原さん、これには僕達2人で乗っていくよ。もし、相原さんの言う通り、これに何か付いているとするなら、犠牲者はなるべく出したく無いから」


 樹音が覚悟を決めた様にそう提案すると、それに続いて大翔と沙耶も口々に話す。


「んなら、俺も行くぞ!」


「私も、、その、早く、佐久間君を助けに行かないと、、いけないから、」


 沙耶も、直接的な表現はしていなかったが、同意見だった様だ。それを受け、碧斗は「みんな、」と呟くと、美里は目を逸らし唇を噛む。


「何、?それじゃあ、、私が仲間外れみたいじゃん、」


 そう呟き拳を握りしめる美里に、眼鏡の男子は思い出した様に告げる。


「あ、でも。それ熱エネルギーで走る車なんだ。ごめんね〜。ガソリンとか電気とか、ここの世界には無いし。動力源になれる系の能力を持ち合わせているのは、ここに炎しか居なかったから」


「え、って事は」


 その言葉に、碧斗はそう零して美里に振り返ると、彼女はその意味を既に理解したようで、ため息を吐く。


「はぁ、私は強制って事ね」


 美里は小さく吐き捨てると、渋々頷き、彼女が乗ってくれるのかを心配する皆に向き直る。


「はぁ、分かった。あいつの事は一つも信用出来ないけど、助けたい気持ちは私も同じだから」


「っ!あ、ありがとう、、相原さん」


 そう感謝を述べる碧斗に、美里は


「何感謝してんの?当たり前でしょ」


 と放つと、「何してんの?早く行くんでしょ」と促し、車に乗り込むのだった。


 皆が乗り込み、ゆっくりと発進する車を眺めながら、眼鏡の男子は、一度舌で唇を舐め回す。


「ふーん。なるほどねぇ」


 と、彼はそう舌のみならず、舐める様な目をして呟くと、ポケットから"携帯電話(スマホ)"を取り出し、その車の中の「ある人物」を撮影する。


「フッ、みんな馬鹿だよなぁ。こんな精密機械を、この世界に持ってきてないなんて」


 ニヤリと微笑み、そうぼやくと、その携帯で撮影した人物を眺めながら、誰にも聞こえない声でポツリと呟くのだった。




「...にしてもやっぱ、似てるなぁ。"あいつ"に」

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