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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第4章 : 履き違えの仲違い(コンフィリ)
124/300

124. 存意

 (しん)との対立から、1週間程経った。


 あの場で進を回復させたのち、残りの僅かな魔力で大翔(ひろと)を回復し、進と致命傷を負っている沙耶(さや)を担いでグラムの家へと向かった。

 対する碧斗(あいと)は、樹音(みきと)と共に美里(みさと)に肩を貸し、ゆっくりと家に帰った。それにより、その時グラムは驚愕の表情を浮かべていた。


 皆が瀕死状態で運ばれて来たかと思いきや、知らない転生者も運ばれて来ているのだ。

 驚かないわけが無い。

 するとどうやら、グラムの家にも落雷の音は聞こえていたようで、街の人達は揃って、天候の悪化に不安の色を見せていたという。


 それを受けた一同は、彼に嘘を告げるのは心苦しかったが、これ以上我々の事情に巻き込むわけにもいかないため。

 悪天候により落雷を受けたという話と、街の人々と話を合わせるべく、街に魔獣が出たため交戦していたと、嘘の情報を伝えた。


 進の起こした天災による街の被害はとても大きく、彼が回復中により意識を失っている中、王城を含めた街の人々は、復旧作業に明け暮れていた。

 転生者による被害だ。更には国民には魔獣との戦闘による被害と認識されているため、王城側も復旧への資金を提供しないわけにはいかなかった。

 ただ、その話を否定しない王城側の主張は、正直よく分かっていない。


 街の人にも顔が広まった事により、碧斗達はより一層外に顔を出す事が困難になっていた。

 そのため、我々が発端だというのに、街の修復を行う事は不可能に近かった。

 それを美里や樹音は、酷く気にしている様子だったが、傷も完治していない今、迂闊な行動は出来ないと歯嚙みしながら、それに渋々応じた。

 恐らく、進であればまだ帰れるだろうか。いや、街をここまで破壊したのだ。王城の人達が快く彼を迎え入れてくれるとは到底思えない。

 あの場には王城の人も居合わせていたのだ。そんな情報は既に出回っているだろう。ならば、彼は一体何処に行けばいいのだろうか、と。


 碧斗はグラムのベッドルーム。木製で出来たベッドが、サイドランプを挟んで2つ置かれた、少し広めな一室。その片方のベッドの上で横たわる進を眺めながら、そんな事をぼやく。


佐久間(さくま)君の事、、気になってるの?」


 そんな碧斗を見兼ねてか、いつの間にか部屋に入って来ていた樹音が、背後からそう声をかける。


「み、樹音君、、居たのか、すまない、気がつかなかった。...ま、まあ、そうだな。これから、、どうするのかなと」


 驚いた様子の碧斗を見て、樹音は「ごめん」と、はにかみながら頭を掻く。

 今現在、こうして目を覚ましている人物は碧斗と樹音、美里の3人のみである。勿論、グラムは除いてだ。

 沙耶と大翔は、それぞれ個々の部屋で、疲れと、治療を受けた事による眠気によって、数日寝たきりの状態である。進もまた、あの日から約1週間、目を覚ましていない。

 まさかと、そんな事を考えた時期もあったが、そんな不安を煽る想像は考えない事にした。ただでさえ絶望的な状況の中、自身の妄想により更に憂鬱になってはいけないと、考えを改めたのだ。


「確かに、そうだね、、佐久間君、、王城にはもう帰れない、かな、」


「恐らく、入室を許可してもらえる事は無いだろうな。"能力"の事を知っている王城の人には、あの災害が天災では無く、故意だったものだと予想出来るだろうし、」


 視線を僅かに背け、そう小さく呟く。だが、グラムには、なんの縁もない転生者5人を受け入れてくれた時点で、更なる要求をするわけにはいかないと、碧斗達の意見は一致していた。

 それ故に、グラムからもし了承を得られたとしても、進を我々と同じくこの家で住まわす事は、極力避けたかった。


 そのため、碧斗は唸る。

 彼を助けたのは良かったが、それからどうするべきか。いや、寧ろ進を助けたのは本当に正解だったのだろうかと。碧斗は出るはずも無い答えを求めるかの如く、頭を抱えた。

 やはりこれが、先を考えない計画性の無さなのかと、碧斗は改めて感じ、自身を責めた。


 そこまで考えた碧斗は、それを思ったがために、ある人物を連想し問う。


「そうだ、相原(あいはら)さんは、、どうしたんだ?」


「あ、相原さんなら、今下で服の仕上げをしてくれてるみたいだよ」


「まだ、、直してくれてたのか、」


 あれから1週間。目を覚ましている碧斗達を優先とし、長期戦によりボロボロとなったそれぞれの服を、美里は1着ずつ丁寧に縫い直していた。

 普段着ているものなのだから当然なのかもしれないが、美里はとてもそれにこだわり、何度も手直しをしている様子だった。


「そういえば、、あの時買った水着って、どうしたんだっけ?」


「あ、、そういえば」


 衣類の話になり、ふと思い出した樹音が疑問を投げかけると、碧斗も今現在思い出した様で、ハッと目を見開く。

 恐らく、あれ程までの襲撃だ。ビーチに置いて行ったのだとすると、既に暴風で飛ばされていてもおかしくないだろう。


「せ、折角、、グラムさんが、」


「...」


 グラムの優しい提案により(おこな)った外出も、出してくれたお金で買った水着も、全てがかき消されてしまった。

 その事に、樹音と碧斗はまたもやグラムに対しての罪悪感に襲われ、共に唇を噛む。と


「それに、、この部屋も。この部屋ってグラムさんが寝てた部屋なんでしょ?そんな部屋に、、佐久間君を、良いのかな」


「良いとは言ってくれてる、、ベッドは2人分あるし、目を覚ますまでは問題無い。とは言ってるけど、ほんとにいいのかとは、俺も思う」


 大きなベッドが2つ置いてある、居心地の良い密室。グラムは怪我人や病人用なんて事を謳ってはいるものの、グラムの寝るベッドの横だ。これはどう見ても愛人や同居人用のものであろう。

 更に、今まで碧斗達は愚か、大翔でさえ寝かせなかったベッドだ。皆の寝る場所が無くなったが故に、仕方なく寝かせたのだと予想できる。


「まあとりあえず、進が起きる辛抱だ。起きたら、なるべく直ぐに移動してもらうつもりだが、それまでは、、仕方ないな、」


 最後まで使わせなかったベッドなために、やはり重要な人物のために用意されたものだと予想した碧斗は、それが一体誰なのか、グラムにとってどのような人物なのか。もしかすると、以前グラムの話していた「命の恩人」なのか、はたまた関係する人物なのかもしれない。と、それを踏まえた上で、碧斗はそう樹音に促す。

 それに、樹音は小さく頷いたのち、進の息を確かめて部屋を後にしたのだった。


           ☆


 カチカチと、時を刻む音のみが室内に響き渡る。

 そんな安心感すら感じるリビングには、服を直す美里と、テーブルを拭くグラムの2人が、何を言うでもなくただただお互いに自身の作業に集中していた。


 そんな中、美里は服を縫いながら、1週間前の出来事を脳内で思い返す。

 美里にとっての考え事は、作業を行いながらの方が整理しやすいのだ。

 すると美里は、思い返す中で、怪訝に思う。それは、進の行動や言動などの事では無く、王城の人々の事。


 ビーチで彼らを初めて拝見した時、あれは既に大通りの人々への聞き込みが終わった後かのような様子だった。その後、進との戦闘時に発せられた爆音を聞きつけ、王城に引き返そうとしていた騎士の1人が様子を確認しに来た。

 恐らく、そう考えるのが最も妥当だろう。だとしたら、と。美里はそこまで考えて、ふと疑問に思う。


 これを素直に問うべきだろうか。

 はたまた、本人にそれを確認する事は、控えた方が良いだろうか。

 美里は顔色一つ変えずに、縫い物を続けながら、そんな思考を巡らす。

 だが、少し考えたのち答えが出た美里は、リビングのソファの前に置かれた、テーブルを拭き終わったのを確認したのち、グラムに対し口を開く。


「あの、、グラムさん」


「およ、なんじゃ?珍しいのぉ、儂の名を呼んでくれるのは」


 グラムの目を見ながら名を呼ぶ美里の、その珍しい姿に、グラムは機嫌良く笑って返す。が、対する美里は深刻な様子で、その疑問を投げかける。


「その、、1週間前。私達が落雷に遭って魔獣と遭遇したあの日。グラムさんのお宅、つまりこの家に、王城の人達が来ませんでしたか?」


 そう、ずっと疑問に思っていたもの。それは、大通りの終着の方にまで到達していた王城の人達が、こちらに来ていてもおかしくないという事。

 確かに、人が多く集まる大通りから証言を得るのは得策と言えるが、それよりも王城に近いグラムの家に、話を聞きには来ないものなのだろうか、と。

 恐らく、来ていたのだとすれば、何かしら我々に話をする筈である。ならば、と。美里は脳内でそう呟いた、その瞬間。


「ん?王城の人達、?はて、来とらんが」


 グラムは、そう口にする。

 それはそうだ。普通ならば、そんな大事、初日に話すだろう。確かにあの日は驚愕を受ける事が多くあったがしかし、あれから1週間も経っているのだ。既に話していてもおかしくないだろう。

 それなのに対し、グラムは一向にそれらしき話を持ちかけないのだ。ならば、来ていないという事だろうか。

 だが、グラムが気を遣ってくれている可能性もある。ましてや逆に、グラムからしてみれば我々は赤の他人であり、国のお尋ね者なのだ。美里達を差し出した方が、本人には有意義な選択と言えるだろう。

 あの時に美里達の居場所を吐き、それを隠す為に知らないフリをしている。それが、最も可能性が高いものだろう。

 だがそれなら、何故1週間も経った今現在にも国の者達がやって来ないのか、と。美里はグラムの返答にーー


「そう、ですか。なんだか変な事を聞いてしまってすみません」


 とだけ返し、手元に視線を戻す。

 と、その時


「っ、相原さん、、ごめん、またやらせちゃって」


 進と沙耶、大翔の状態を確認した碧斗と樹音はリビングへと戻り、いつもの如く高めの椅子に1人黙々と作業する美里に、バツが悪そうに声をかけた。


「え?別に、伊賀橋(いがはし)君がやったって壊滅的な事になるだけでしょ?」


 あくまで視線は服に向けたまま、碧斗の謝罪に淡々と返す。


「う、た、確かにその通りだけど!?」


「でも、僕達も手伝える事があるならやりたい。相原さんにも、グラムさんにも、凄く負担をかけてるのに、何も出来ないのは、、嫌なんだ」


 美里の返答にツッコミをする碧斗の隣で、樹音は神妙な面持ちで切り出す。


「別に。円城寺(えんじょうじ)君は、他のみんなの状況確認してくれてるでしょ?それだけで、十分仕事してると思うけど」


 それを放つ声自体は淡々としており、視線すら動かさない無愛想な様子だったが、その言葉に、樹音は泣きそうに唇を噛んで「それでも」と呟く。


「それよりも、、もう足は大丈夫なの、?相原さん」


 そんな樹音の隣で、大した治癒魔法を受けていなかった印象を受ける美里に、碧斗は疑問を投げかける。


「うん、もう大丈夫。軽く治療受けたし、暴風の中で体に受けた傷も、今のところ痛くないし。ほとんど治った様なものだから」


 暴風で受けた傷。ほとんど治った。

 足の傷が治ったとは、一言も言っていないそれに、碧斗は駄目だよと言いかけて、目を逸らす。

 治癒魔法も、有限なのだ。この世界での医療の源を、異世界人である我々が全て使うわけにはいかないのだ。

 そう、致命的な傷を負った進、大翔と沙耶、樹音を優先とし、我々2人には残りの魔力を美里、碧斗の順で分ける事しか出来なかったがために、これ以上の治療は難しかったのだ。

 それ故に、完全に治さなければとは思いながらも、それを提案する事は出来ずに、碧斗は「そっか」と、小さく返す事しか出来なかった。


           ☆


 目の奥が熱い。


 焼けそうだ。


 今まで自分は一体何をやっていたのだろう。


 長い夢を見ていた気分だった。

 霞んだ景色だが、それは鮮明に脳裏に焼き付いていた。

 何が起こっているかは分からなかった。

 いや、本当は分かっていたのかもしれない。


 だが、もう後には引けなかったのだ。既に、最悪な場所へと、思考へと、成り下がっていたのだから。

 そう割り切っていた。

 もう考える必要は無かった。

 苦しみから逃げる様に、考えるのを止めた。それなのにーー


 どうして、、どうしてあんな事を。どうしてそんな事をするんだ。


「やめろ、やめろやめろ、やめろ」


 思っても無い事を口にするな。


「やめろ、やめてくれ」


 いや、本当は思っているのだろうか。


「やめろよ、、やめてくれよ」


 自分は、自分の"本当"がどっちなのか、分からなかった。


「やめろっ!」


 ずっと薄暗かった視界に、そう声を上げると同時に、突然大量の光が飛び込む。


「はぁ、はぁ、」


 どうやら、本当に夢だった様だ。そう内心で安堵する進の、ぼやけた視界がゆっくりと、ピントが合っていくかの様に露わになる。


 と、そこにーー


「っ!し、、進!だ、、大丈夫、か、?」


 誰よりも先に、碧斗が駆けつけた。ほんの僅か。「やめろ」と、それだけしか放っていないというのに。


「良かった、、進。...雷に打たれても治るって、、ほんと凄いな。魔力っていうのは」


 碧斗は嬉しさや喜びから、微笑んでそう関心を口にする。どうやら、あれは全て夢では無かった様だ。


「...」


 言葉が、出なかった。

 ここまで親身になって、友達というだけで、自身が死ぬかもしれないというのに、向き合い続けてくれた。

 たとえ、進を止める事の理由が、街に被害者を出さない様にするためだったとしても。それでも、皆が意志を曲げず、進やこの世界の人々を守ろうとしてくれていた。

 それも、進に大した面識も無い人も含めてだ。


 そんな人々を、その人達の大切なものを壊そうとした人間なのにも関わらず、挙げ句の果てに助けられた。


 そんな最低な人間が、自分なのだ。


 そんなの、どう顔向けしたらいいのだろうか。

 と、進は視線を逸らす。だが、いつまでも無言でいるわけにはいかないと、そう覚悟を決めた進は、1度大きく息を吐くと、その一言を力や心を込めて呟いた。


「...ごめん」


「進」


 そう謝る進の名を口にしながら、碧斗は彼に近づく。

 それに、進は全ての仕返しだと思い、強く目を瞑る。が、碧斗はベッドで座る進の、目線に合わせる様にしゃがみ込み、神妙な面持ちで口を開く。


「進。本当は、思いっきりぶん殴りたいところだ。俺だけならまだしも、みんなを巻き込んで、この国全体に被害を出した。今、国の人や王城の人にまで迷惑をかけてるんだ。分かるか?」


 その、まるで彼を叱るような物言いに、進は無言で頷く。すると、碧斗は一度軽く息を吐いて、否定を付け足す。


「だが、、進の事を、進の思いを無碍にしてしまったのは俺だ。ずっと苦しい思いをしてきたのかもしれない。それに気付けなかったのは俺であり、ここにいるみんなは進を責めようとはしない。だから、俺だけでよかったんだ。罰を与えるのは、俺だけでよかったのに。それなのに、、どうしてこんな事したんだ?」


「...」


 進は、迫る碧斗に、目を合わせられなかった。

 いっそ殴って欲しかったというのに。優し過ぎる人達の心が、寧ろ進には苦しかった。


 どうして責めないのか。

 謝っても謝りきれない。


 それにより生まれた沈黙に、碧斗は自身から話を切り出す。


「進は、あの時疲れてるみたいだった。人生に、自分に、世界に。その、、一体、何があったんだ、?あんな事をしたのにも、理由があるのは分かった。あの時話した事を、、その結論に至った経緯を、、教えてくれないか」


 当たり前の質問だった。


 ただ、あそこまで碧斗達に歯向かった、その理由が知りたかったのだ。


 そう、彼には、告げなくてはいけないのだ。


 自身の命を賭けて、皆を守ろうとしてくれた碧斗には、寧ろ言っておきたかったのだ。

 そう心中で自身の意志を何度も繰り返し唱え、ゆっくりと目を見開く。


「...碧斗、ごめん、そして、ありがとう。俺は、、碧斗が、、初めてなんだ」


「...え?」


「俺にとって、ここまで心を許せる。ここまで俺を思ってくれる人間は、正直初めてだったんだ」


ー最初はずっと、諦めてたんだが、ー


 と、そう力強い表情と声音で話す進に、碧斗はバツが悪そうに内心で思う。

 あれは、あそこまで進を諦めなかったのは、周りの皆が居てくれたお陰なのだ。と

 碧斗は僅かに、進は勘違いをしているのでは無いかと思いながらも、それに続く言葉を放つ彼に、耳を傾けた。


「だから」


 進は短くそれだけを言うと、碧斗の目の奥を見据え、彼にしか話した事の無い話だと伝える様な目をしながら、そう付け足した。



「少し、聞いて欲しい話があるんだ。碧斗」

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