123.王手
「勝てない、?俺が、、お前に、?こんなに力を持て余してるのに、、勝てない、だと?」
碧斗の放ったその強気な宣言に、皆は驚いたように目を剥き、進は歯を食い縛り動揺を露わにする。
「ああ。能力が強いのは認める。だが、強いだけじゃ、勝てないんだよ。進」
そんな彼に、追い討ちをかけるように碧斗はそう吐き捨てると、進はこちらを睨んで叫んだ。
「強いは、、勝てない、?ふざけんな。お前よりも全てが強い筈だ!仲間が居るからとかほざくつもりか!?それでも、現に俺に負けてるだろぉがよぉぉぉっ!」
進が声を荒げたと同時。雷雲は濃さを増し。
「きゃっ!?」「ひゃっ!?」「なっ!?」「クッ!?」
次の瞬間。美里のいる家の方向と、沙耶のいる家の後ろの方向の二箇所に、同時に稲妻が走る。
幸い、直撃した人はいない様だったが、この様子を見ると長くはもたないだろう。更には、それによる閃光で視界が妨げられる点と。この雷鳴に思わず耳と目を瞑り、しゃがみ込む2人が居る点により。一瞬1秒が肝となる戦闘の中では、当たらずとも大きなダメージとなるのは目に見えている。
即ち、早めに終わらせなくてはならないと。碧斗は心中で呟き、皆に促すために空を見上げーー
大きく息を吸った。
「みんな!あの時と同じ。とにかく、出来る限り、戦える間。全力でぶつかってくれ!」
「ああ!」「う、うんっ!」「はぁ、りょーかい」
碧斗の発言と共に、一同は一斉に動き出す。その姿に、進はそれぞれを目で追いながら、次の攻撃へと移ろうとした。が、その時ーー
「進。俺達の事、強いと思ったんだよな?...流石だ。その通りだよ。今確信した。...俺は、強くない」
「...は?」
「能力も心もだ。他のみんなも、完璧では無いし、能力にも精神面にも穴が多く存在する。だが、、それが"俺達"になれば、話は別だ。たとえ1人で何十人の人を倒せる進でも、そんな強者な奴でも、俺らには及ばない。残念だったな、強いと言いながらも下に見ていた人間に負ける気持ち。味合わせてやるよ」
そう碧斗は、言葉で進にとどめを刺すように、それだけを告げた。
「っ!」
そんな言い草に、思わず目を剥き拳を握りしめて、碧斗に向かおうとした、直後。
「させないっ!」
沙耶がそれを止めるように、手に握った石を進に向かって投げ、大きさを変えて放つ。
「チッ」
碧斗に向かう進は、そちらに体を向けたまま、顔だけを沙耶に向けてそれを確認し、空気圧で破壊する。
だが、破壊された石の破片は更に形を変え、進にそのまま追撃を狙いに向かう。
「またか、」
歯嚙みし、同じ攻撃パターンに苛立ちを見せる進。
だったが、次の瞬間
砕けた破片である石の数々に、炎が宿る。
「!」
気づいた時には、進は吹き飛ばされていた。"同じ"であると思わせる事は、相手に油断を与える手段の一つである。
まるで、そう言わんばかりに、美里は息を切らしながら口角を僅かに上げた。
ー雨の中だと直ぐに炎は消える。だから、放つ事は出来ないけど、私だけじゃ無ければ、炎を宿らせるのは一瞬だけでいい。雨で消されちゃう前の僅かな瞬間と、あいつが圧力を変化させる瞬間さえ合えばー
美里は雷による恐怖からか、その場に止まったままだったが、そう作戦を立て進にダメージを与える。
「図に乗んなお前らぁぁぁ!」
進はそう叫び、瞬時に美里の目の前に現れる。どうやら、大したダメージは与えられなかったようだ。だがーー
碧斗がそこまで考えたと同時。美里に攻撃を放とうとする進に、大翔は背後から跳躍し拳を振るう。
「てめぇ!」
だが、やはり一撃の威力を上げようとした事が仇となったか、彼への攻撃が僅かに遅れ、気づかれた大翔は回し蹴りを食らって吹き飛ばされる。
と、大翔は回転し足で着地を行い、対する進はそれにより生まれた隙を美里に突かれ、背中に炎を突きつけられる。
「!」
雨により消火されるまでの時間はあったものの、進も同じく人間である。それに、驚かないわけがない。
人間の本能により反射的に避けようと、圧力を変化させた結果、またもや進は吹き飛ぶ。
「クソがぁぁっ!」
その姿に、落雷を避けるべく進に視線を向けて走りながら、笑みを浮かべる碧斗。
大したダメージは与えられなかった。だが、それは身体へのダメージのみである、と。
そう、彼は既に、精神的な面で限界がきていたのだ。有り余る力を持っているはずだというのに、それが自分の自信に繋がっているというのに。そんな能力を受け続けているのにも関わらず、相手は何度も立ち上がり向かってくる。
そんなもの、同じ事を繰り返す事に対しての苛立ちよりも、恐怖心が勝るに決まっている。更には、碧斗の言葉の数々である。
そう碧斗は笑って屋根に登ると、またもや雷から逃れるために屋根を乗り継いで、足を早める。
「碧斗!さっきからちょこまかと、目の隅でうぜぇんだよ!」
「きゃっ!」「うぅっ!」
進を中心に回るように走る碧斗に、彼は怒声を上げると同時。またもや二箇所に雷が落ち、美里と沙耶は目を瞑る。それにより、沙耶と美里に隙を作り、それに反応した碧斗へ攻撃を行おうと、こちらに向かう。
が、それよりも前に、大翔が割って入った。
それにより、碧斗にしか目を向けていなかったが故に彼は拳を受ける。
「グッ」
大翔の拳は進の横腹に入った。だが、感触は大翔の知っているそれでは無い。そう、既のところで、進は空気圧を放ったのだ。
それを目の当たりにし、碧斗は口角を上げ確信する。
「ここだっ!これで終わりだっ進!」
その確信をした瞬間に碧斗はそう叫び、手に握った剣を、荒れた空を背に浮かぶ進に向かって、思いっきり投げた。
碧斗の、進と一騎討ちになってからの全ての発言。
行動。
揺さぶり。
それにより、達した条件。
全て、作戦通りだ。
と、思っていたが
「ハッ!ふざけんな!」
進はそう叫ぶと、大翔に意識が向いていたはずだというのに。背中に向かっていた剣を、あくまで体は大翔の方向に向いたまま、圧力で弾く。
「「なっ!?」」
碧斗と、それが恐らく作戦の肝であると予想した大翔も、同時に目を剥き声を上げる。
と、それによりガラ空きになった大翔の腹を、進は蹴り、彼を排除する。そののち、真上に弾かれた剣を進は掴み、不敵な笑みを浮かべた。
「なぁ?碧斗?どうだ、今の気持ちは。勝ちを確信した顔を歪ませて、希望が一瞬にして絶望に変わる瞬間」
今までの借りを返すと言わんばかりに、下卑た笑みで、冷や汗を流す碧斗に告げたのち、そう付け足す。
「そういえば、、なんだっけ?お前、俺が剣すら扱えない間抜けだとか、確かそんな事ほざいてたよなぁ」
持ち上げた剣を見つめながら、進はそう呟いて、碧斗に向き直る。
「剣すらまともに当てられないのはお前の方だったな碧斗!さっきの言葉、撤回させてやるよ。これでとどめを刺してなぁ!」
「っ!マズいっ!みんなっ、進から逃げろ!」
進が叫ぶと同時。碧斗は目を見開き、皆にそう促すと、自身も彼から逃げるように屋根を乗り継ぎ、距離を取る。
「なるべくっ!みんな進から距離を取るんだ!」
全力で屋根の上を走りながら、碧斗は顔だけを一同に向けてそう声を上げる。それに、皆はただならぬ雰囲気を感じ取り、碧斗と同じく、進から数メートル距離を取るため退く。
碧斗は、冷や汗をかきながら全力でそう叫んだ。
それは、進が碧斗にとどめを刺すために、巨大な一撃を放つからか。
否。
誰に対し、剣を投げるかが分かっていないからか。
否。
進が何をしようとしているのかが把握出来ていないからか。
否。
そうでは無く、準備が出来ていたからだ。
一.考える暇を与えてはいけない
一.予想外を与え続けろ
一.こちらが本気であると錯覚させろ
一.思考が回らぬ状況を作れ
一.極限まで逆上させろ
以上の条件が揃ったが故に、今ーー
時、来たる。
「進。お前の敗因は、俺らに本気を出してしまった事だ。悪いな、これでーー
ーー"王手"だ」
ニヤリと歯を見せて口角を上げた碧斗は、瞬間、進に振り返りそう小声で放った。
刹那
「「「「!」」」」
「な、!?」
世界が、真っ白な光に包まれた。
目を瞑りたくなる、なんとも見慣れた光が。だが、それはいつもより大きく、強大で、薄目で碧斗が捉えた"それ"は、鋸刃のように綺麗な線で、浮かび上がっていた。
と、それとは遅れて、耳を塞ぎたくなる程の音量で、雷鳴が鳴り響いた。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーっっっっっっっっっ!?!?!?!?!?」
それと同時。進の叫ぶ声が、一帯に響き渡る。
「な、、何が、、起こったの、?」
「な、、何、?」
「おいおい、まさか、」
それに気づいた美里と沙耶、大翔は、恐る恐る呟きながら、落雷が起こった場所。そう、進の元にゆっくりと近づく。
以前。進が嵐を生み出し、雨風によって自身も言葉を発するのが難しくなっていた時。
美里の炎を、彼の能力で発火させたにも関わらず、進の身体に炎が纏わり付き、熱さを感じていた時。
その時既に、作戦が浮かんでいたのだ。
そう、進が怒りや余裕の無さから、空気圧だけに留まらず、気圧により、天候を操って攻撃したが故に立てられた作戦。
先程放った通り。進が、本気を出したからこそ、生まれた作戦である。
樹音の発言により浮かんだ、進が碧斗を理解している事への逆利用。それを利用し、より感情を高ぶらせて、この天候を更に悪天候へと持っていく。
恐らく、雷雨にまで発展すると、予想していたからだ。
そこまで上手くいけば、既に作戦は成功したも同じだった。これは、美里が伝えてくれた、自身の能力は自分に効かないというもの。
そう、逆を言えば、彼の能力はあくまでも空気圧であり、気圧で生み出したものは対象外なのだ。即ち、智也のような電気の能力で無いが故に、雷を受けて平然として居られるはずが無い。
剣を用意したのも、不器用で剣が使えないと罵った事も。全て、ただでさえ皆より高い場所に位置する進を、避雷針の様な存在にする為の作戦であったのだ。と
「みんなっ、はぁ、はぁ、、怪我はっ!?怪我は無い?」
進に集まった一同に屋根の上から、息を切らして碧斗はそう放つ。それに、当然の事ながら首を捻って、碧斗に疑問を投げかける。
「い、伊賀橋君、、これって、?」
「どういう事だよ。碧斗」
「あんた、、もしかして、これ、、知ってて?」
皆の問いに、碧斗は頰を少し掻いて目を逸らし、頷く。
「う、うん、、ごめん。みんなには黙ってて」
「そ、それって、」
「という事は、どういう事だ、?」
碧斗の謝罪を受け、沙耶と大翔は未だいまいち理解できずにそう呟く。
すると、それに小さく息を吐いて、美里は口を開く。
「つまり、、全部作戦だったわけね」
「「!」」
小さく薄ら笑いながら零す美里に、皆は目を見開く。
その発言に、碧斗も同じくほんのりと笑いながら頷くと「でも」と、続ける。
「まだ作戦は終わってない」
「「「え、」」」
これには美里も動揺を露わにしながら、声を漏らす。が、その後、何か思い立ったのか、美里はあっと目を開く。
「実は、もう一つ、無理なお願いをしてたんだ。そのために、、あそこまで危ない戦闘をして、ギリギリまで時間稼ぎをしてた」
碧斗はそう付け足し、街の方へと振り返ると、遠くから薄らと現れる人影に目を細める。
「どうやら、、タイミングバッチリだったみたいだな」
ホッと安堵した様子でそう呟くと、皆もその人物の姿を認知しハッとする。
「樹音!お前!」
「え、円城寺君!」
「はっ、はぁ、はぁ、頂いたよ!これっ!」
息を切らしてこちらに向かいながら、碧斗達に向けて何かを掲げる樹音。
樹音が手に持ち掲げた石のようなもの。そう
回復系の、"魔法石"である。
「ありがとう、、ほんと、、そんな体なのに、、任せてごめん」
目の前に到達した樹音に、感謝と謝罪を告げる碧斗。それに対し、樹音は
「大丈夫だよ。この中だったら、1番動けるのは僕だし、、僕も、絶対に助けたかったから」
と、はにかむ。
それを受けた碧斗は、申し訳なさから小さく笑って「ほんと、ありがとう」とだけ告げると、早速と言わんばかりに進に石を当てる。
「こ、、これで、いけるのかな?」
「でも、淡い光が出てるし、何かは出来てるんじゃないかな、?」
進に治療らしきものを行う2人に、残された3人は不満げにジト目を向ける。
それに気づいた碧斗は、治療を行う樹音のサポートをしながら皆に向き直り、頭を下げる。
「みんな、危なかった俺を助けてくれて、本当にありがとう。それと、黙っていて、すまなかった。実は、みんなに作戦を告げた後に、樹音君に俺の攻撃手段である剣を授けてもらって、近くの民家で治癒の魔法石を取ってきて欲しいって、頼んでおいたんだ」
「そ、そんなっ!それなら、私だって、」
「ま、、この面子なら、妥当かもな」
「う、、うぅ、」
自分だってと身を乗り出す沙耶だったが、肋骨が限界に近い自身の身体に、声をくぐもらせる。
それに続いて、尾骶骨にヒビが入っているであろう大翔が、タイツが真っ赤に染まっている美里と自分を見て、息を吐く。
その後、美里は少し微笑んで「やっぱりね」と、優しく呟く。
「わ、分かってた、のか?」
「あ、うん、その、相原さんに、、僕に碧斗君のサポートとして剣を託された話はしてたから、、おおよその見当はついてたのかも、」
「そ、そうだったのか」
碧斗が驚きを露わにしながら放つと、樹音が後ろから割って入り、その理由を理解する。と、碧斗は真剣な表情へと変えて、皆に改めて向き直る。
「その、みんなには申し訳ないけど、、進を、助けたかったんだ。やっぱり大切な友達なのは変わらないから。俺は、既に進に勝てる策は思い浮かばなかった。こうやって、、瀕死状態にする事でしか、彼には及ばないって、そう思った。それ以外、、思い浮かばなかったんだ。だから、、早くに回復しなきゃいけなかった。早く取って戻って来れるのは、足にも腹にも、腰にも大きな傷が無い、樹音君しかいないと、そう思ったんだ。すまない」
皆を差し置いて作戦を立てた事。皆に頼らなかった事。こんな事をした進を、助けようとしている事。その一つ一つに罪悪感を感じながら、皆に頭を下げる。が
「別に謝る必要無いでしょ。確かに、言って欲しかったのもあるけど、、言ったらそれはそれで面倒な事になりそうだし」
「フッ、特にお前とかな」
「は?面倒なのはあんたでしょ?その性格なんとかならないの?」
「そのまま返してやるよ」
「わっ、私もっ!さ、佐久間君は、、助けたいから。伊賀橋君の、、判断は、間違って無かったと思うよっ!相原さんの言うように、、確かに言ってくれないのはちょっと寂しかったけど、」
「え、」
皆のその、当たり前のような反応に、思わず間の抜けた声が漏れた。
「ゆ、、許してくれるのか、?俺は、みんなに死んでくれとお願いしてたんだぞ、?望まない事を強要し、挙げ句の果てに作戦が思いついたからって一人歩きして、、そこまでして俺の顔を上げさせてくれたみんなに、作戦の全貌を隠して頼らなかったんだぞ!?更には口ほどにも無く、1人で作戦を実行したために死にかけて、みんなにまた助けられて、、自分勝手にも程があるだろ!それなのに、、なんで、、怒ってくれよ、、呆れてくれよ、、殴って、くれよ、」
優し過ぎる皆の対応に、声を掠れさせながら歯嚙みする。どうしてそこまで優しい言葉をかけてくれるのかと。それ故に自身と重ね、更に罪悪感が碧斗を襲った。
すると、そんな彼に皆は微笑んで、美里が小さく息を吐く。
「こんなんで殴るわけないでしょ。それとも、もしかして殴られたいわけ?」
「え、あ、いや、そういうわけでは、無いけど、」
「確かに腹たったのは事実だな。お前日によって言うことちげーし」
「僕も、みんなの事を考えるところは碧斗君のいいところだけど、ちゃんと、もっと僕達や街の人の事見てほしかったとは、思ったかな」
「わ、、私は、、あんまり、そんな事は思ってない、けど、、でも、寂しかった、、」
美里に続いて、大翔から順に不満を口にする。
「ど、、どうしてだ、?そんなもんじゃ無いだろ?俺に対する愚痴は?不満は、、もっとあるだろ!?」
「はぁ、みんな言った通り、ウジウジうざいし、みんなの事とか言いながら自分の事しか考えないし、作戦が駄目になっただけで直ぐ自暴自棄になる、一見最悪な人なのかもしれないけど」
美里が放つ言葉は、相変わらず直球で、的をついていて、正論で、飾る事の無いものではあったが、いつもの様なトゲは、感じなかった。
「でも、結局治めてくれたでしょ?なんだかんだいいながら、友達を大切にして、みんなを助ける方法をずっと考えて、実行してくれたんだから」
「確かに、1人じゃ作戦も出てこなかったと思うし、心の面でも、碧斗君に限らず、僕も直ぐ折れて駄目だったと思う。でも、ここにはみんな居るんだよ」
「俺は信用してねぇけど。もしここで誰かが死にそうになったとしても、ぜってぇ見殺しにはしねぇ奴らなのは分かる。だから、安心しろ」
「そうだよっ!伊賀橋君は、1人じゃ無いからっ!私達みんながいる限り、伊賀橋君の思う、私達だけが苦しむとか、死んじゃうとか、、そんな事は無いよ。だって、、みんな、お互いの事大切に思ってるし、守ろうとしてるんだから。だから、、その、伊賀橋君も、、1人で戦おうとしないでっ!」
美里と樹音、大翔と沙耶。それぞれが碧斗に向かって順に語りかける。そののち、一周回ったのを見越してか、美里が今度は優しいため息を吐いて、続ける。
「て事。1人じゃ能力も心も弱くて何も出来ないんだから。それ自覚して、自分だけで、1人で考えるんじゃ無くて、チームで考えてもいいんじゃない?みんな、そう思ってくれてるみたいだし。ね、、い、、"伊賀橋"、君」
「「「「っ!?」」」」
美里が言い終わる前に、それを耳にした皆は一斉に目を見開く。
「あ、、相原、、さん、?その、今、」
「べ、別に、普通の事でしょ、?仲良くなったら、、呼ぶくらい、」
「な、、仲良くって、、そう思ってくれたの?相原さん!」
「"円城寺君"も、、まあ、、それなりに、?」
「!」
美里の発言に、優しく口元を緩めて放つ樹音。
それに返した美里の言葉を受け、またもや樹音にはパァッと笑顔が浮かぶ。
「あっ、相原さんっ!その、、わ、私も、、その、友達、って、思ってくれる、、かな?」
一連の会話を眺めていた沙耶は、そんな美里の手を掴み、不安げな様子で問う。
「へっ!?う、うん。というか、その、"水篠さん"には怒ったこと無いし、不安がる必要無いと思うけど、、?」
そんな彼女に、手を握られた事にビクッと体を反応させながらも、不安げである事に首を傾げる。
と、対する沙耶は、何か不満があったのか、少ししょんぼりとした様子で視線を逸らす。
「ど、どうしたの、?水篠さん?」
「...さんじゃ無くて、、ちゃんでいいのに、、」
「え?」
口を尖らす沙耶の要望に、少し声を裏返して答える美里は、その後、少し考え恥ずかしそうに口を窄めて、目を逸らす。
「別に、、いいけど、、水篠ちゃん、」
「っ!あ、ありがとうっ!美里ちゃん!」
「へっ!?み、美里って、えっ!?」
美里にちゃん付けで呼ばれた事に、表情を明るくした沙耶は、その喜びを返す様にそう名を呼ぶ。
それに対して、いつも冷淡な美里が、驚くほど動揺して顔を赤らめる。
そんな姿に微笑み、体の痛みなんて忘れて喜ぶ沙耶。下の名で呼ばれた事に少し不満がある様子だが、沙耶の
「ご、ごめんね、、もしかして、嫌、だったかな、?そ、それなら、、直ぐ呼び方戻すからっ、」
という言葉に「べ、別に嫌じゃ、ない、けど」と零す美里。
そんな2人を優しく、笑って見守る樹音。
そんな中で、唯一呼ばれなかった事に頭を掻いて威圧感を放つ大翔。
死にかけていた筈だった。皆、体はボロボロで、碧斗には怒りを覚えていて。
碧斗は今頃、皆に罵声を浴びせられ、殴られていると予想していた時間である。それなのに、何故だろう。
皆、嬉しそうだった。誰も死ななかった事に。
勿論、それもあるとは思うが、それよりも、もっと、人との関係での幸福が。そこには溢れていた。
碧斗は美里同様。人との関わりを避けようとしてきた人間である。故に、この場での対応には困り、この空気をなんと表現すれば良いのかは分からなかったが。
これが本当の、友達なのだろうかと。
碧斗はその様子に微笑んで、胸中でふと思ったのだった。




