119.気圧
「ん、、んん、」
爆風の中。朦朧とする意識の中で、呻き声を漏らしたのち、目を薄く開く沙耶。それにより、薄らと露わになった視界に現れたのは、目の前を覆い尽くす、美里の背中だった。
それに気づいた美里は、進の方向へと体を向けたまま、沙耶に向かって口を開く。
「っ!だ、大丈夫?もし、、動けるならっ、逃げた方が、良さそうっ、だけど、」
「あ、相原、さん、?」
見上げる沙耶は、目の前でしゃがみ込む美里の呟きが聞こえたのか否か、弱々しく名を呟いた。そののち、寂しそうな表情で、ポソリと呟く。
「も、、もしかして、、失敗、、しちゃった、の、?」
その問いに、唇を噛んで答えを渋ったのち、美里は正直に頷く。
「信じたくないけど。どうやら、、そう、みたい」
言いづらそうに零す美里に、沙耶は少し表情を曇らせて「そっか、」とだけ返すと、そのまま小声で付け足す。
「ごめんね、、私の、せいで、」
「っ!それはちがっーーきゃっ!?」
「んんっ!」
沙耶の、自分を責める様な言い分に、美里は思わず声を荒げる。それにより、後ろを振り返ってしまい、バランスを崩す美里と沙耶。
すると、瞬時に沙耶は吹き飛ばされまいと、背後に岩で壁を隔て、自分を含めた2人を塞き止める。
「はぁ、はっ、はぁ、はぁ、、はぁ」
「っ!だ、駄目っ。もう能力を多用しないでっ!自分の状況、、分かってるでしょ!?」
美里は、手先から始まった筈が、沙耶の首の辺りにまでヒビが広がっている光景を目の当たりにして、声を上げる。
我々を止めるために現れた岩も、少し大きめなものだった。そう、沙耶のみであれば、それ程大きな物でなくてもよかったものの、美里を助けるために、わざと大きめな岩を作り出したのだ。故に、美里は歯嚙みする。すると
「ごめんね、、こんな事、言っていい事じゃないかもだけど、でも、、確かに作戦が失敗しちゃったのは辛いけど、その、、佐久間君を、、殺す事にならなくて、私は、良かった」
「えっ」
沙耶の突然放たれた予想外の言葉に、美里は目を剥く。
「佐久間君は、、やっぱり友達で、命の恩人だから、、あ、まあ、誰が相手でも、、殺す事はしたくは、ないんだけど、」
掠れた声で、はにかみながら放つ沙耶に、美里は目に涙を浮かべながら詰め寄る。
「あ、当たり前でしょ!たとえ、、どんな嫌な奴だって、、殺していい人なんて居るわけないでしょ!だから、、あなたも、死なないでよ、、私なんか、、助けないでよ、」
既に死が近づいている事を悟った美里は、感情を爆発させて沙耶の肩を掴んで俯く。死が近づいている、という点は、美里も同じではあるが、それを理解した上で、思った事をそのまま吐き出す。すると
「まだ能力使える体力残ってたの?やっぱ、ただもんじゃ無いね、水篠ちゃん。でも、もうそろそろ終わり時じゃない?」
手を首にやって伸ばす進は、気だるげな様子でそう放つと、安易に風を強める。
「「きゃっ!?」」
気圧を操り、更に強い暴風を生み出すと、2人を支えていた岩に、ヒビが入る。
だが、それよりも、と。美里は進の発言に苛立ちを見せながら、立てないほどの逆風の中、ゆっくりと岩に手を添えながら立ち上がる。
「あんた、、何か理由があるのかもしれないけど、どんな理由であれ人を殺す様な事していいわけないでしょ!?行く場所が無いとか、居場所が無いとか、そんなの、あんたが自分自身否定して、逃げようとしてるからでしょ!?誰かに構って欲しいって縋る前に、自分で考えて少しは居場所を作る努力しなよ!」
ボロボロの体で、どうせこの場で死んでしまうならばと、美里は思った事を飾らない言葉で、進に突き立てる。その発言に歯を食いしばり、憤りを露わにして
「ふざけんなよ、、なんも分からねー奴が、図に乗るんじゃねー!」
進はそう声を荒げた。と、同時に。
「うっ!」
「んんっ!」
その風圧は更に強まり、時期にそれはーー
「「っ!?」」
岩を、破壊した。
☆
「きゃっ、う、がはっ、ぐはっ、」
背を支える岩が消えた事により、爆風に流され、何度も地面に体を打ち付けながら転がる沙耶。その距離は、50メートルにも及んでいた。
すると、その時
「あ、」
沙耶の体は、家の中に引き摺り込まれるようなかたちで引っ張られる。そう、体が力強く支えられた感触。何者かに助けられたのだ。
どうやら、風に吹かれる内に、だんだんと民家の方に近づいていたようだった。
「は、はぁ、はぁ、、、ありが、、っ!」
荒い息を漏らしながら、薄い意識の中、恩人である人物の顔を確認するべく、ゆっくりと目蓋を開く。
するとそこには、小さめの空き家の中。床に倒れ込む沙耶の目の前で、"碧斗"がしゃがみ込んでいた。
「い、、伊賀橋君!ここに、、ここに居たんだ。そっか、、ここなら安心だねっ」
碧斗が生きていたからか、ニッコリと笑顔を作って放つ沙耶。だったが、その弱った声からは、無理をしている様にしか感じられなかった。
「水篠さん、、ほんと、ごめん」
「え、?なんで謝るの?」
「みんなが、、こんなに、なってるのに、俺は何も、」
自身の能力では何も出来ないと感じ、彼と戦う事から逃げた自分に、不甲斐なさを感じながら、バツが悪そうに呟く碧斗。
「そんな事ないよっ!っ、が、ガホッ」
「み、水篠さん!?」
碧斗の後ろ向きな発言に、声を上げた沙耶は、それにより血を吐き出し、碧斗が慌てて近づく。
ーな、なんだか、さっきと逆みたい、ー
沙耶は俯いて何度か咳をしたのち、落ち着いたのかゆっくりと顔を上げる。
「だ、、大丈夫、?」
「うん、、なんとか。それよりも、伊賀橋君。何も出来ないとか、そんな事思ってるなら、それは、違うよ」
小さく笑って安否を伝えた沙耶は、その後、碧斗の考えに首を振る。そんな、どんな時でも自身を否定する様な意見に、優しく首を横に振ってくれる沙耶に、碧斗は拳を握りしめて小さく吐き捨てる。
「何が違うんだ、、そうだろ。俺は、、なんもやってないんだから。それが事実なんだから」
「違うっ。伊賀橋君の作戦で、どれ程助かったと思ってるのっ!?っ!が、ガハッ、、はぁ、今まで、何度もピンチになったよね、、私達。最初の頃は、、今みたいにいっぱい友達もいなかったし、、私も役に、立てなかったから、」
「っ!そんな事ない!水篠さんはそんな事ーー」
「ありがとう。やっぱり優しいね、、伊賀橋君は、」
「っ、、そうじゃない、、そうじゃ無いだろ!」
違う。寧ろ、殴られたかった。ふざけるなと、罵倒されるべきだった。それなのに、どうしてだろうか。沙耶は未だに真っ直ぐな目で、優しく、尊敬の眼差しを向けている。
だがそれが、今の碧斗には苦痛だったのだ。
「ううん、、伊賀橋君は凄いんだよ、?私、、いや、、私達、みんな助けられてるの。伊賀橋君にも、その作戦にも、アイデアにも、凄く、感謝してるの」
「...でも、進には勝てて無いじゃないか」
「うん、、確かにそうかもだけど、、佐久間君に勝てる作戦なんて、、そんなの、」
「無いよ」と、口を割って出そうになるのを堪える。それを言ってしまったら、本当に諦めるしか無くなってしまう様で。いや、もう既に、諦めに近い感情を持っているのは確かではあるのだが。
「...」
「...」
そこまで言うと、次の言葉を探しているのか、沙耶は俯き、その場には沈黙が流れた。すると、脳内で結論に至った碧斗は、ふと沙耶に対して、それを口にする。
「やっぱり、、無理だ」
「え、?」
「お願いだ、、やっぱり進には勝てるわけない。あれは既に進でも、人でも無い。能力を持つ人間が、5人集まっても勝てないんだ。あんな超人を相手に、、勝てるわけない、、だから、お願いだ、」
「お願い」という言い方で促している行為を、碧斗は言いたくないのか、それ自体は口にはしなかったが、どうやら沙耶には言わんとしている事が伝わった様だ。
一瞬、碧斗の放った最初の発言に、怪訝な顔をしたが、直ぐに沙耶は表情を曇らせて、視線を逸らす。
悩んでいた。碧斗の言葉が発せられたと同時に、美里の言葉もまた、沙耶の脳内を過ぎった。
『もし動けるなら、逃げた方が良さそうだけど』
その発言には、既に敗北が決定している様な。残酷な背景があった。碧斗の言う通り、逃げても進から逃げ切る事は不可能だろう。ならば、と。沙耶は碧斗と同じ、これ以上皆に苦しい思いをして欲しくないという、そんな考えが脳を埋め尽くし、頭を悩ませた。
ーーだが
沙耶は目つきを変えてゆっくり立ち上がる。
「っ!み、水篠さん!?」
フラフラとした足取りで立ち上がった沙耶に、驚愕する碧斗。そんな彼に、沙耶は放った。碧斗の気持ちはよく分かった。皆を傷つけたくない。それは、痛い程共感出来た。やはり、碧斗と沙耶の思考は、どこか似たところがある様だ。
だが、だからこそ。沙耶は碧斗とは違う点を見つめ直し、改めた。
「ありがとう。伊賀橋君」
「え、、」
「伊賀橋君の気持ち、、凄くよく分かる。多分、、私も伊賀橋君の立場だったら、もしかすると同じ事、言うかもしれない、、でも、、でもね、私は、今の私は、、それが正しい選択だとは、思えないの」
「なっ、どうしてだ!?ここで死んだ方が、、みんなの為なんだぞ!?進との戦いを続けたら、、体が弱り、どんどんと追い詰められていく感覚を味わう事になるんだぞ!?そんなの、、逃げる道があるなら、逃げた方がいいだろ!どうしてそこまで無理をするんだ、、なんで、、なんでだよ、」
沙耶の曲げる事の出来ない意志を受け、碧斗は歯嚙みして崩れ落ちる。そんな様子に、罪悪感から寂しそうに視線を落とし、拳を握りしめると、沙耶は、それでもと。告げる。
「ごめんね、伊賀橋君。ありがとう、、私の事を、、みんなの事を想ってくれてるんだよね、?それなのに、こんな事言ってごめんね。でも、私はこの戦いを始めた張本人でもあるの。私が桐ヶ谷君を庇ったりしたから、伊賀橋君も狙われて。伊賀橋君が素敵な人で、みんな優しいから、私なんかのために、無責任でわがままな私が始めた争いを終わらすために、、みんな頑張ってるの。それなのに、、そんな元凶でもある私が逃げるなんて、絶対出来ないよ」
「...」
案の定、碧斗は険しい顔つきで困惑していた。分かっていた。これは、この言葉は、碧斗が更に思い詰めてしまう言葉であり、辛い思いをさせる発言であると。だが、それでも、その考えを変えるわけにはいかなかった。
それは、沙耶もまた、碧斗とは違うかたちの、みんなへの強い想いがあったから。
すると、碧斗は険しい表情のまま、沙耶に対し口を開く。
「どうしてだ。そんな事を思う必要なんて無いんだ。水篠さんが修也君を庇っていなくても、彼のした殺しのせいで争いは起こっていた筈だ。その中で、多数派の意見に背きたくなる連中も居るだろうし、水篠さんとは違う理由で、修也君の肩を持つ人もいたかもしれない。だから、、この争いが起こった原因は水篠さんじゃ無いよ。そんな事、気にしなくていいんだ」
「でもっ!」
「っ!」
碧斗の必死の言葉に、沙耶はそれをかき消す様に声を上げる。それに驚いたように、肩を揺らす碧斗を見据え、沙耶は続ける。
「伊賀橋君の言う通りかもしれないけど、でも。私は、、そうしないと気が済まないの。確かに私は伊賀橋君の気持ち、凄くよく分かるけど、その、、相原さんが言ってた、逃げたら負けっていう気持ちも、、同じく凄く分かるから」
「み、、水篠さん、」
沙耶の向けた覚悟の目に、碧斗は目を剥き、冷や汗を流す。駄目だ。行ってはいけない、と。
「だから、行くね、」
と、最後の言葉を呟いて、家から足を踏み出そうとする沙耶の背中を、反射的に追いかけて肩を掴む。
「駄目だっ!」
「ふぇっ!?」
肩を引っ張られた事に対しての驚きによるものか、はたまた何か別の動揺かは定かでは無かったが、思わず声を上げる沙耶に、碧斗は女子の体に触れた事に対しての動揺すら忘れて、懇願する。
「お願いだ、、行かないでくれ。ダメなんだ、、行ってはいけないんだ。そんな体で、戦えるわけが無い、、自分でも、本当は分かってるんだよね、?既に立っている事すらままならないんでしょ。震えてるの、、分かるよ」
掴んだ肩から、緊張とは違う震えを感じる。限界が近いのだ。いや、もう既に限界を超えているのかもしれないが。
だとしたらこれ以上戦わせるわけにはいかないと。戦うべきで無いと、碧斗は涙目になりながら彼女を止める。
だが
「ごめんね、、伊賀橋君」
首を振って、それだけ小さく呟くと。沙耶は肩に乗せられた碧斗の手を振り解き、足早に空き家を後にする。
「っ!だ、駄目だっ!」
その光景に、碧斗は考えるよりも前に走り出していた。沙耶に追いつくように、全力で。
だが、彼女を追って家を出た、その瞬間
「自害をしないにしてもっ、せめてここで少し回復をーーっ!」
碧斗が沙耶に向けて大声を放った直後。外に出た碧斗は、彼によって生み出された異常なる暴風に、体の自由が効かなくなる。
ークッ、クソッ!?こ、これ、、本当に進が、?いや、そもそもこれを、、人が操作してるのか、?ー
振動と音では感じていた、家の外で起こっているそれを間近に受け、碧斗は改めて驚愕した。もう既に、相手は進でも人でも無い存在であると、そう認識していたはずだったのだが。
そう碧斗は心中で呟き、逆風によって反射的に強く瞑っていた目蓋を、薄らと開ける。
すると、目の前には必死に地に這いつくばりながら、歩く事すらまともに出来る状態では無いのにも関わらず、進に逃げる事なく立ち向かう沙耶の姿があった。
その姿に、思わず碧斗は爆風など忘れ、目を見開き足を強く踏み出す。
「み、水篠さんっ!駄目だっ!ーーっ!?」
それにより、露わになる。今まで薄目だったが故に認知出来なかった、沙耶の前で倒れ込む樹音と大翔の姿が。
2人は先程響いた爆音の正体である、爆発によってつけられたであろう傷の他にも、幾つもの深い傷や打撲の跡が現れていた。恐らく、爆破により気を失った2人は、風の力に耐えきれずに、何度も地面を転がり続けたのだろう。その結果を、その体は物語っている。
目を背けたくなるような光景だった。今まで、幾度と無くそのような光景を目の当たりにしてきたが、それを容易に超える、絶望。1時間前までは明るく会話を交わしていた大切な人達が、生きているのも不思議な程に衰弱している状況。
そんな信じたく無い現実を、ただ唖然と見つめる碧斗はその絶望により、逆風を耐えるために行っていた、力を込めるという行為を放棄し、後方に体が投げ出される。
「グハッ」
後方に数メートル。体を地に触れさせたまま、家の塀の角に上手い事手をかける事に成功した碧斗は、両手でしっかりと捕まり暴風に耐える。
その後碧斗は、どうする事も出来ない感情に歯嚙みし、左手で塀を掴んだまま右手で思いっきり地を殴る。
ーなんで、、なんでこうなんだよ、、みんな、なんでここまでして、、やっぱ、あの時に自害した方が良かったんだ..あそこで、楽になってれば、、こんな事にはー
「クソッ、、クソッ、、」
こんな状況でも何も出来ない自分自身と、逃げる事へ賛同してくれない一同への憤りともどかしさが、碧斗を更に自暴自棄にさせる。元を辿れば、全て碧斗のせいだと。何度も地面を殴り続けながら、声を漏らす。
すると、刹那
「っ!」
前方からの強風が、ピタリと。勢いを無くし、それに気づいた碧斗は、塀を掴んでいた左手の力を弱める。
「な、、何が、あったんだ、?」
その突然の変化に、碧斗は声を零して立ち上がる。
「っ!」
と、思わず目の前の光景に息を飲み、目を見開く。
碧斗を始めとし、沙耶の前に居る樹音と大翔。そして、それよりも更に前方に立っている美里を含めた一同の前に。
巨大な岩の壁が隔てられていた。それも、家と家の間。大通りを塞ぐ程太く、進が簡単に飛び越えられない程高く。
そんな見た事もない能力の使い方に、碧斗は目を剥き言葉を失う。
すると
「っ!な、何やってんの!?」
美里が声を荒げ、彼女の背後で横たわる沙耶に慌てて駆け寄る。
「ゴホッ、ゴホッ!は、はぁ、、はぁ、はぁぁぁ、、」
「何、やってんの、、あんたそんな事出来る体じゃないでしょ!?」
体温が急激に下がり始めている沙耶を、力強く抱きしめ、美里は必死に声を上げる。すると、目から光が失いかけている沙耶は、枯れた声で、尚も笑顔を作ろうと口角を上げる。
「はぁ、、こ、これで、、少しは、、だい、じょ、、ぶ」
「あんたが大丈夫じゃないでしょ!?なんで、、なんでそんな無茶するの!?」
そう言葉をかける美里も、決して大丈夫ではない状態だった。全身から圧力によるものか、体内出血した跡と、飛んできた物や進の打撃によるものか、流血の跡が見られる。
だが、それよりも。目の前で生が終わりそうになっている沙耶に対しての感情の方が、大きかったのだ。
と、ふと顔を上げた美里は、沙耶の後ろでこちらを見つめる、碧斗の姿を視界に収めて目を見開く。
「あんた何やってんの!?」
「えっ」
「え、じゃ無いでしょ!なんなの!?こんな事になってるのに、駆け寄りさえしないわけ!?」
美里のその怒声に目を覚ました碧斗は、ハッとしたのち、沙耶に駆け寄る。
「み、、水篠さん!?大丈夫!?とりあえず、直ぐに手当て出来る場所に逃げ込むんだ!どこでもいい。治癒魔法を使えば、まだ助かるかもしれない!」
そう言ったのち、碧斗が沙耶を運ぼうと肩に手を添えた、次の瞬間。
碧斗の行動を否定するかの様に、沙耶が腕を握る。
「え、」
「私は、、もう、いい、からっ、、円城寺君と、橘君を、、お願い」
「な、何言ってんだよ!?」
「そうよ!あんた、、あの殺人者の疑い晴らすんでしょ!?」
沙耶の、死を覚悟したような発言に、碧斗と美里はすかさず声を荒げる。だが、尚も「もういいの」と、首を振る沙耶に、碧斗は歯嚙みして立ち上がる。
「何、、するつもり、?」
「...ここで、終わらす」
「え、」
不安げに見上げる美里に、碧斗は血が出る程歯軋りして、それを告げる。
「これ以上何かやっても、、もう駄目だ。せめて、これ以上辛い思いをさせずに、」
碧斗がそこまで呟くと、その次の言葉を察した美里は、怒りを露わにして立ち上がる。
「何考えてんの?」
「え、いや。俺1人で水篠さんを運ぶとしたら時間もかかる。彼女がそれを望むなら、、せめて、」
「ふざけないで!」
「っ!」
今度は美里が、碧斗が言い終わるより前に声を荒げる。
「諦めるわけ!?まだ助かるかもって言ったのはあんたでしょ!?なんで最後まで助けようとしないわけ!?そんな簡単に、、そんな簡単なものなの、?あんたの、、あんたにとっての、仲間の、命って」
美里が心底失望した様子で、怒りの中に、僅かな悲しみすら感じる声音で、碧斗に問いかける。と、対する碧斗は拳を握りしめ、同じく声を荒げる。
「そんなわけないだろ!俺だって、好き好んでやってるわけじゃない!でも、、もう駄目なんだ。勝てるわけがないんだあいつには!それなら、、もうここで終わりにした方がいいじゃないか!?たとえ水篠さんがギリギリ助かったところで、進は変わらず俺らを狙う。なら、助けたところで、結局俺達を待ってるのは地獄なんじゃないか?」
碧斗が美里に負けずに声を荒げると、対する彼女はそれとは対照的に俯き、ポソリと怒りを口にする。
「またその話?」
「え、」
短く放たれたその発言に、思わず碧斗が聞き返すと、美里は顔を上げて、涙目になりながら、感情を露わにする。
「いつもいつも!逃げてばっかり。なんなの!?それなら勝手にやればいいって言ってるでしょ!?なんでそれを私達に促すの!?」
「っ!それは、みんなの事を想ってるからだ!このまま戦ったところでどうなる?相原さんも身をもって理解した筈だろ!?」
「みんなの事想ってる?自分の事の間違いでしょ!?」
「は、?」
碧斗の心からの言葉に、美里も同じく胸の内に留めていた感情を爆発させる。
「戦うのが怖いから、みんなが苦しむのが嫌だからって、逃げようとしてんでしょ?あんた自身が」
「なんで分からないんだ!俺は、みんながこれ以上ーー」
「なら!」
碧斗が更に感情を露わにしながら怒鳴る中、それを遮るように、美里は割って入る。
「なら、そのみんなが、あんたのその案に賛成してるわけ?」
「っ!」
美里は先程の様子とは打って変わり、今度は真剣な表情でそれを告げる。それに、碧斗はハッと目を見開き、息を呑む。そんな碧斗を前に、美里は尚も続ける。
「本当に友達、仲間の事思ってんなら、その人の気持ち尊重するべきでしょ?最初にその話をしてみんなに否定された時、他の方法はないか考えようとするべきでしょ?そうやって相手の考えを無視して、自分の考えてる事が正解だと思い込んで、相手に押し付ける。そりゃ自分の事しか想ってないなんて言われても仕方ないでしょうね」
「...」
美里のぐうの音も出ない言葉の数々に、碧斗はただただ険しい表情で受け止める。と、更に美里は言い放つ。
「それに、もしここでみんなが自害したとして、そしたらその後どうなるか考えてるわけ?」
「それは、、」
「私達が勝手に死んだと知ったら、あいつを逆に刺激しかねない。そしたら、私達だけには止まらず、この街の人、転生者、王城の人、みんなに被害を出すかもしれないでしょ?」
「っ!」
「そしたら、、誰かも分からない私達を匿ってくれたくれたあの農家の人はどうなるの?」
ーグラムさん、ー
「あんたの事を、さいっしょからずっと守ってくれてた、あんたのお付きの人はどうなるの?」
ーマースト、ー
「私達は、死んでも元の世界に戻れるかもしれないけど、この世界の人達は死んだらそれで終わりなの。少しくらい、その後の事も考えなよ。ほんっと、、計画性無い、」
どこか寂しそうに、呆れた様に放つ美里のぶっきらぼうな言い草に、碧斗は歯嚙みし目を逸らす。
全て、図星だったからだ。
何も考えていなかった。美里の言う通りだ。何も、見えていなかった。何も、想えてなどいなかった。だが、と。碧斗はそれでも尚、死んだ様な目で、脳内で呟く。
ーでももう駄目なんだ。俺達にはもう彼を止められる力なんてない。相原さんの言う通りだったとしても、自害しようがしまいが、進は止まることはないんだろう。なら、同じじゃないか。それなら道は、もう決まってるんじゃないのか?ー
そんな、未だ自身の考えを改める事をしない碧斗に対し、美里は踵を返すと、背を向けた状態のまま小声で呟く。
「最初の、"みんなを傷つけたくないから囮になる"って言った時。その時は、、確かに私達が望んだ答えじゃ無かったかもしれないけど、、私は、少し、、あんたに対してのイメージを考え直したつもりだったの」
ーえ、?ー
美里の思っても見なかった発言に、碧斗は動揺し目を見開く。
「前から思ってた、、もしかすると私が一緒に行動し始めるより前からあんたはそうだったのかもしれないけど。あんたはたまに、誰か周りの人に気遣ったりする時が、たまにあって」
ーた、たまにって、、そんな念を押さなくてもいいんじゃ!?ー
「普段あんたはほんっと駄目で。いつも自分の事ばっか考えて逃げてばっかりな駄目なやつだけど、、たまに、、そういうとこ、あるから。それと、、あの時はちょっと頭に血が昇っちゃってたけど、私が足怪我してるの知ってて気遣ってくれたの、少し、嬉しかった」
「っ!」
美里の口からは絶対飛び出さないだろうと思っていた言葉が発せられ、碧斗は今度は違う意味で驚愕し、息を呑む。
「それなのに、、ほんと、、見直した私が馬鹿みたい」
「...」
背中しか見えなかったのにも関わらず、声質、体の僅かな動き、息遣い。そのそれぞれから、強く失望し、悲しく受け止めているのだと、それを直に感じた。
返す言葉は、未だ思い浮かばなかった。口を噤み、目を逸らすばかりである。
そんな中、美里は沙耶の方にふとしゃがみ込むと、彼女を運ぼうと試みる。
が、
「イッッ!」
沙耶を持ち上げようと力を加えたその瞬間。美里の体に電流の如く痛みが走る。普段でさえ、女子1人で人を運ぶのは難しいのだ。走る事も出来ない状態である美里に、それが出来るはずが、到底なかった。
「クッ、」
それに、美里は歯嚙みし、瞳を潤ませる。それは、痛みによるものでは無く、自身に対しての、そんな思い。
そんな美里の姿を目撃した碧斗は、少し悩んだ末。1度安全な場所へ運ぶ事を決心し、美里と同じく沙耶を運ぼうとしゃがみ込んだ。
ーーするとその時。
「く、、クッ、だ、、だい、、じょうぶ、か?」
「「っ!?」」
突如背後から呟かれた声に、美里と碧斗は反射的に振り返る。と、そこには。
家の壁に寄りかかるかたちで力無く座り込む、大翔の姿があった。
「ひ、、大翔、君、」
「っ!?あんたっ、大丈夫なの!?」
碧斗が動揺し、名を呟く事しか出来ない最中。美里は目を丸くしたのち、慌てて立ち上がると、直ぐに大翔の元へ駆け寄った。
「大丈夫なの、?」
「フッ、、ハッ、お前が心配するなんて珍しいな、」
「私が普段冷徹みたいに言わないで」
いや、そうだと思うが。と、内心そう呟く碧斗は、美里に続いて大翔の元へ駆けつける。
「あまり、無理しない方が、、」
「そうね、無理に動いて傷が開く可能性もあるから。変に動かすのは控えて、ここに座らせて置いた方がいいかも、」
「で、でも、、この岩の壁が壊されるのも時間の問題なんだろ、?ここに座らせて置いたらそれもそれで危険なんじゃないか、?」
碧斗と美里が、大翔を前に会話を交わす中。大翔はめんどくさそうに頭を掻きながら口を開く。
「おいおい、、勝手に話進めんな。俺は、、まだいける、ぞっ!」
「「っ!」」
大翔はそう呟くと、息を吐きながら壁に手をやり、掛け声のように放つと同時に腰を上げる。
「だ、駄目だっ!?その体で、動けるわけが無いだろ!?」
「もう、十分だからっ!まずは体を優先して!」
そんな異常な光景に、碧斗と美里は即座に声を上げる。既に、立てる状況では、いや、生きているのも不思議な状態であった。それなのにも関わらず、大翔は歯軋りしながら、必死に耐え、ゆっくりと立ち上がった。
これも、彼の「力」の能力によるものだろうか。この能力は、筋肉のみならず、臓器や細胞を含めた人体全てに適応される能力であるため、肉体の強化故に、人を超越した体になっているのは事実である。
が、しかし。その能力を継承した者が人である以上、受けるダメージや、痛み、苦しみは全て普通の人間同等のものなのだ。
それなのに対し、まだ体力の限界がきていないならと。大翔は立ち上がっているのだ。
即ち今現在も、その苦痛に耐えて立ち上がっていられるのは、能力の強化によるものでは無く、彼自身の。大翔の「根性」という名の精神面にあるのだ。
いくら力の能力により体が強化されていようとも、今の大翔の立場が、もし碧斗であるならば、このように立ち上がる事は出来なかっただろう。たとえ、立ち上がる体力が、残っていたとしてもだ。それと同時に、碧斗は理解する。
この「力」という能力は、強い精神力を持つ大翔に宿った事で、真にこの力が発揮されたのだということを。
ー俺には、、到底出来ない、ー
ここでも自身とは対照的な、勇ましさを目の当たりにし、碧斗は唇を噛むと同時に表情を曇らせる。と、対する大翔は、彼を止める碧斗達の言葉には耳すら貸さずに、ゆっくりと、一歩一歩力強く足を踏み出す。
「駄目だって言ってるでしょ!?あんた、、その体で、、どうなってもいいわけ!?」
巨大な岩の壁へと向かう大翔の肩を、美里は掴んで呼び止める。が、大翔は真剣な表情を作り、美里の手を払って振り返ると、目を見つめて放つ。
「あいつ野放しにするわけにはいかねぇだろうが。それともなんだ?俺が体力回復のために寝て、起きたら全て終わってるとでも言うのか?んなわけないだろ。寧ろ、寝てる間に壁を破って、みんな死んじまうかもしれねぇだろ。なら」
なら、と。大翔はそこまで告げたのち、目つきを変えて声のトーンを落とし、そう、続ける。
「沙耶の命懸けで作ってくれた時間。無駄にするわけにはいかねぇよ」
「...」
大翔の真っ直ぐな視線を受け、美里は歯嚙みする。そんな事、分かっていた。この壁一枚で進がどうにかなる訳でも無く、この安息の時間も、一時の猶予だということも。回復する場所も時間も無ければ、今の彼の前では、その行為そのものも無駄となってしまう事も。全て、分かっていた。それでも
ーこんなの、、見てられる訳ないでしょっっ!ー
美里はギュッと目を瞑り、頭を抱える。どの道が"正解"なのか。いや、どの道が"納得"出来るのか。
大翔の視線を受ける中、脳内で思考を巡らせた
その時だった。
「う、うぅ、、みん、な」
またもや大翔と同じく、皆の背後から掠れた声が漏れたかと思いきや、ガラガラという音と共に何者かが起き上がる。
「「「っ!?」」」
音の方向へ。体の動くがままに一同は振り返る。するとーー
見間違える筈も無い。そこに居たのは、円城寺樹音の姿だった。
「なっ!?だ、大丈夫なの!?」
「ぶ、、無事、だったのか、?」
「樹音おめぇ、、すげぇな」
大翔のような、超人になれる能力を持ち合わせている訳ではない彼が、同じように起き上がった事に、不安や安堵を通り越し、僅かに恐怖すら感じながら、皆は樹音に向かった。と、樹音は苦笑いを零しながら、頭を掻いてその理由を口にした。
「それは、その、爆発が起きたあの時。その瞬間に大翔君が、僕を庇うように被さってくれたんだ、」
「え、そうだったの?」
「ん?あ、ああ。そんな事、、俺したっけか?」
「えっ!?したよ!」
樹音の発言の真偽を確認するべく、碧斗と美里は大翔に視線を移すがしかし。当の本人は覚えていない様子で首を傾げる。
「多分、無意識にやっちまったんだな、きっと。そういう時って、勝手に体が動くもんだろ」
あっさりと、首に手をやりながらそう呟くと、樹音は少し瞳を潤ませながら感謝を口にする。と、その後
「その、、そういう事だから。僕は、まだ戦える、、と思うよ。まだ傷は、みんなの中では浅い方だからね。それと、この壁は、、沙耶ちゃんが作って、くれたんだよね。それなら、その時間稼ぎを有効に使おう。まず、何か対抗策を考えなきゃ」
「だな。あいつ相手に作戦無しじゃ、勝てる気がしねー」
既に、進相手に突発的な作戦でぶつかっても無意味だと。先程の戦いの中でそれを理解した2人は、そう提案をする。作戦、というと、やはり碧斗と美里へ促すしか無くなってしまうのだが。
対する碧斗は、今も変わらず進に刃向かおうとする事に不満を覚えており、美里も何やら迷っている様子である。が、今の樹音と大翔の言葉を受け、その通りだと。美里は目を見開き頷いた。
「うん、その通りだと思う。やっぱり、逃げるわけにはいかないから」
美里はそう小さく呟き改めたのち、目つきを変えて話始める。
「それだったらまず、あいつを油断させる方法を考えなきゃ」
「佐久間君は、碧斗君と一緒にいた時間が長いから、碧斗君の作戦や行動が、なんとなく読めちゃうみたいだよね」
美里の言葉に、樹音が割って入る。そのやりとりを見つめながら、次々と話が進んでいる事に、碧斗は顔をしかめる。
「でも、それなら逆に好都合なんじゃねぇか?作戦を相原が考えれば、予想と違ったもので、隙を作れるかもしれねぇって事だろ?」
「それは、そうなんだけど。私の作戦も何度か使ってるわけだし、さっきはあんた達もそれぞれが自分の思考で、あいつに攻撃してたわけでしょ?それだったら、もう既に私達の行動パターンも読まれててもおかしくないと思う」
「はぁ!?な、ならっ、どうすっーーごはっ!」
「「「大丈夫!?」」」
自身が重傷を負っている事を忘れ、大翔は声を荒げた事により血反吐を吐き出す。それに慌てて皆が詰め寄ると、大翔は「大丈夫だ、大丈夫」と呟いて顔を上げる。
「はぁ、で、どうすんだよ。それじゃあ、負け確って事か?」
冷や汗を流しながら話す大翔に、美里は髪をいじりながら唇を軽く噛んだのち、ふと口を開く。
「いや、、でも、みんなの作戦を上手いこと"合わせれば"、、いけるかも、」
「みんなのを、?」
樹音が首を傾げて聞き返すと同時に、碧斗は皆の一通りの会話を受けて目を見開く。
ーそうか、それなら、、それを逆手に取れば、ー
何かに閃いたように心中で呟いたが、いや。と、直ぐに首を振り我に帰る。
ー進に向かうだけ無駄だ。今のあいつは、、もう人でも無いんだからー
そう考えを改め、碧斗の瞳に戻りかけた光は、またもや失われた。そうだ、考えるだけ無駄なのだと。戦う事に意味があるのだろうか。傷だらけの樹音。立っているのも不思議な大翔。そんな2人に、自分も傷だらけであるのにも関わらず作戦を提案する美里。そして、既に限界を超えてしまった沙耶。そんな皆を眺めながら、碧斗は息を吐く。
我々の目的は、この争いを終わらす事であり、沙耶の信じた人物の動機を明らかにして疑いを晴らす事。
それならば、果たしてこの進との戦いに意味があるのだろうか。ここまで苦しんだ先にある結果は、果たして我々にとって割りに合うものなのだろうか。彼を倒して争いが終わる筈も無い。彼を止めたからといって、修也の情報に繋がるとは限らない。即ち、やはり挑むだけ無駄なのだ。
そう脳内で訂正して、作戦を交わす一同を眺めながら歯噛みする碧斗。
「分かった、、とりあえず、僕のその作戦も組み込んでみる」
「てか、俺の作戦はどこに入ってんだ?さっきの話にはそれらしいのが無かったが」
「はぁ、、あんたの作戦は直球で分かり易すぎるから、相手にバレるバレない以前の問題でしょ?」
「はぁ!?お前、ふざけんなっーーごはっ!ゴホッ、」
「ひ、大翔君大丈夫!?」
「そんな体で威張るからよ」
「お、、お前ぇなぁ、」
美里がまたもや大翔に嫌味を口にしたのち、小声で「でも、それはそれで、、使えるかも」と呟いた。そんな、未だ希望を見出し、前へと進もうとする彼ら彼女らを見つめ、今度は怒りが湧き上がる。今まで、幾度と無く、皆と同じように無理矢理前を向くように気持ちを切り替えてきた。だが、そんな苦しい思いをする意味があるのか。碧斗は、この世界に居続ける事が正解なのかと、改めて自身に問う。
答えは、勿論ノーだ。
そう自身に告げると、そんな無意味な、終わりかも分からない場所に向かって、未だ歩みを続ける3人に、否定的な言葉をかけようと口を開いた。
「おい、みんな。そんな事はーー」
と、碧斗が言い始めた、その瞬間。
耳を塞ぎたくなる程の轟音と共に。目の前の巨大な岩が
砕かれてしまった。
「「「「っ!」」」」
それと同時に。その向こうで起こっていた"それ"が、こちらに流れ込む。
「クッ、な、なんだ!?」
思わず声を漏らす大翔含め一同に。暴風と共に大量の水滴が、もの凄い勢いでこちらに打ち付ける。その先で、天に手を掲げながら宙を浮遊している進は、憤怒の感情を抑えるように、無理矢理口角を上げて声を上げる。
「てめぇら、もう足掻くのはよせよ、、このままだと、ほんとに、
この世界ごとぶっ壊しちまうぞ」
「「「「っ!」」」」
世界を壊す程の力を持っているのかと、まだ力を隠しているのかと。皆は進の発言に、分かりやすくも畏怖を覚える。そんな皆の中で、碧斗はその現象を体に受け、声を漏らす。
「こ、、これ、はっ!」
と、碧斗の言葉が暴風によってかき消されていた筈だというのに。まるでそれを言っていたのが分かっている様に。そう思っているのを理解している様に、進は直ぐにその現象の答え合わせの如く口を開く。
「フッ、ああ。これが俺の能力、気圧の変動により生み出した"自然現象"」
「これが、嵐だよ」




