11. 懐疑
「っ!!」
沙耶が攻撃を耐える為、力を入れた直後だった。横から暴風が巻き起こり、空気の軌道を変えるかのように風が流れる。
「なっ!?」
進は一瞬何が起こったか分からない様子だったが、風が放たれた方向を見て察する。
「邪魔するなよ」
「女の子に力技は良くないと思うよ?佐久間進君」
そこには、爽やかイケメンがそこには立っていた。
ーあ、あいつ能力「風」だったのか、見た目通りの爽やかな能力してるなー
見た目と能力が比例するならば、碧斗は"モヤっぽい"という理由で「煙」なんだろうなと心で思った。
「犯罪者予備軍みたいな奴に男女がどうとかあるか!別に暴力振うわけじゃないんだからよ」
「まだ決まったわけじゃないだろ?それに、話を聞けば分かることだってあると思うし」
「いいや、違うな。後々厄介になってきそうな奴はここで排除すべきだ」
先程から感情的になっている男子が言う。
「お前も同類になりたいのか?修也と」
不意に碧斗は呟くように問いかけた。
「人を殺めた奴を罰するだけだ。これは正当防衛ってやつだ」
「悪いな。話を聞くとしても、まずは黙らせなきゃいけない」
そう言って進はもう1度、先程の攻撃を仕掛けようとした。それを見た瞬間に爽やかイケメンも先程のように止めようとする。が、もう1人の男子に止められ、動きを封じられる。
「く、くそっ!」
「や、やめて、くださいっ!」
「ごめんね、水篠ちゃん。少し眠ってもらうよ」
「させるか!」
沙耶と進が口々に言った後、突発的に碧斗は全身から室内を全て埋め尽くせる程の濃い煙を放出した。
「なっ!?これは」
「なんだこりゃ!?」
煙が数分後に消えた時には、碧斗と沙耶、他にも数人が居なくなっていた。
「くそっ、逃げたか」
「碧斗、」
食堂に残された進達はそう言い、項垂れた。
☆
「ここまで来ればなんとか大丈夫か」
煙に紛れ、沙耶を王城から少し離れた街の、人目のつかない所にまで連れてきた碧斗は、息を切らしながら言った。
「い、伊賀橋君。あ、ありがとう」
小さく、俯きながらだったが、はっきりと沙耶の言葉は響いた。
「ああ。もう目の前で誰かが死ぬのも、誰かが人を殺めてしまうのも、見たくないからな」
「で?ここからどうするの?」
背後から聞こえた声に振り返る。そこには、先程碓氷歩美と名乗った女子が立っていた。
「び、びっくりした、貴方も付いてきてたのか」
碧斗は独り言のように言うと、仕切り直すためにも咳払いをして向き返る。
「う、碓氷歩美さん。って言ってた、よね?俺は伊賀橋碧斗」
「一回しか言ってないのによく覚えたね。いか、いからし君?」
「さっき聞いたばかりだし、記憶力には自信があるから。それと、いがはしね、伊賀橋碧斗」
「ごめん。ごめん。私すぐに名前覚えるの出来なくて」
と言って歩美は笑った。
「う、碓氷歩美さん。さ、さっきは庇ってくれてありがとうございました」
「うーん。まあ、庇ったって訳じゃないけど、どういたしまして」
歩美の笑顔はとても美しくて、輝いて見えた。ただ顔が可愛いからとかではなく、何か違う理由があるようにも思えたが、今の碧斗にはそんな事を考えるほどの時間は無かった。
「で、なんで人殺しを庇ったの?水篠ちゃんがどんなに否定したって、あの人は人を殺した事に変わりはないんだよ?」
「桐ヶ谷君は、そ、そんな事する人じゃない、んです」
「同じ学校だったんだよね?だからこそ知ってる事とかあったりするの?」
碧斗も同じく問い詰める。
「あ、あの人は、わ、私を守ってくれたんです」
「守ったの?」
「現世ではって事か」
歩美と碧斗が呟いた瞬間、
「見つけた」
短い言葉を聞き取った碧斗達は振り向く。
「やっぱり、そう遠くには行ってないと思ったんだよねー」
そこに居たのは見慣れた姿、佐久間進の姿だった。
「何しに来たんだ?普通にお喋りしに来たようには見えないが」
少し冗談めかして、苦笑い混じりに問う。それに応えるかのように進も同じく笑い、言う。
「その子を、水篠ちゃんを迎えに来た」
静かにそう呟いたいつもと雰囲気の違う進の顔は、見慣れているからこそ、碧斗は恐怖心を抱くのだった。




