107. 不退転
「作戦は無い。みんなは、とにかく思いっきり進にぶつかってくれ」
数分前。一同は建物の陰に隠れ、碧斗を中心とし丸く集まって、作戦内容に耳を傾けていた。が
「「は?」」
「「え?」」
碧斗のその、意味不明な発言に大翔と美里が、沙耶と樹音がそれぞれ声を漏らし驚愕を露わにする。
「お、俺の聞き間違いだったかもしれねぇな。ち、ちょっと疲れてんのかもしれねー」
大翔がはは、と乾いた笑みを浮かべるが、対する碧斗は、いかにも真剣だと言わんばかりに返す。
「いや、聞き間違いじゃない。作戦は、、、無い」
「は、、?はぁ!?どういう意味だ!それは!?」
「あ、碧斗君、、それ、本気、?」
「どういうこと?今まで散々逃げたり考えたりしたのは無意味だったって事?思い浮かばないからって、そんな簡単に諦めるわけ?」
美里の鋭い指摘に、碧斗は押されるが、しかし。そういうわけではないと、弁明する。
「部分的には合ってる、、かもしれないけど、」
「何?部分的にはって」
吐き捨てるように放たれた美里のぶっきらぼうな物言いに言葉を詰まらせるが、無理矢理口を開いて碧斗は続ける。
「確かに、俺は諦めたんだ」
「おい、いい加減にしろよ碧斗!ここまで来たのにーー」
「いいから聞いてくれ」
身を乗り出す大翔に短く返すと、皆を見回すように視線を動かし
続きを放つ。
「でも、諦めたのはプランBを考えることをだ」
「プ、プランBを諦める、、って?」
皆が首を傾げる中、沙耶が疑問を投げかける。すると、1度頷いたのち、碧斗は真剣な表情へと変化し告げる。
「確かに、みんなの作戦内容はただ思いっきりぶつかるだけだとは言ったけど、それは、プランCに繋げるって作戦でもあるんだ」
「!」
「ぷ、プランしぃ〜!?なんだそれ!そんな単語1回も出てきてねーぞ!」
「プランC、、って、どういうこと、?」
「わ、分からない。碧斗君、そのプランCっていうのは、何か、思いついてるの?」
声を荒げる大翔と、疑問に思う沙耶に対応する樹音。そんな中、唯一ハッと目を見開いた美里は、小さく口を開いた。
「なるほどね。プランBは諦めてるけど、それはプランCの作戦を立てるため。つまり、その"ただ戦うだけ"っていうプランBの内容も、何かCに繋げるための理由があるって事ね」
美里の考察に、碧斗はその通りだと笑みを浮かべる。
「な、なんかよく分かんなかったけどよ、それはつまり、、勝つ方法があるって事か!?」
そう大翔が詰め寄り、同じく皆も期待の眼差しを向ける。が
「いや、それは、、今から考える」
「「えっ!?」」「はぁぁぁっ!?」
バツが悪そうに視線を泳がせ呟くと、皆はまたもや声を上げる。だが、美里だけは納得したようで、1度頷くと、口元に手を持っていき放つ。
「それを考えるために、プランBをする必要があるんでしょ?その、例えば、、」
美里はそこまで言うと、少し悩む素振りを見せたのち、目を開き碧斗を見据える。
「相手の行動分析、、とか」
「「「「!」」」」
碧斗を含めた4人が目を剥く。3人は彼の作戦の意味を理解して。碧斗は、彼女に全て見透かされた点に驚愕して。その反応に得意げに微笑む美里に、碧斗は「うん、その通りだ、、ほんと、凄いね、」と呟いて皆に向き直る。
「みんな!今相原さんが今言った通りだ。作戦内容通り、思いっきり戦える場所で無いといけない。つまり、必然的に住宅地に被害が出る場所と、王城の人達にバレるような場所での交戦は控えなきゃいけなくなる」
頷く皆の顔に、それぞれ目をやりながらそこまで告げると、碧斗は先程目に入った広場を指差し口を開く。
「だから、あそこで進を迎え撃つ。少し家との距離は近いかもしれないが、この近くでは1番広いフィールドだ。またビーチに戻るのが最適ではあるが、途中で鉢合わせになる可能性が高い。だから、ここしか無いと、俺は、思うんだけど、」
碧斗が冷や汗を流しながらも目つきを変えると、皆も賛同した様子で首を縦に振る。
「ありがとう。それと、もう一つ」
碧斗は感謝を述べたのち、改めるように皆に向き直り更に告げる。それに、美里達は首を傾げる。
「確かに、プランBはCの作戦を立てるための作戦でしか無いと言ったけど、、プランBで終わって悪い事は無い」
そこまで話すと、碧斗は数歩歩いて振り返る。
「だから、プランCを実行させない。それが、みんなの|作戦(プランB)だ」
そんな事が可能だとは到底思えない相手だが、不安な気持ちは皆も同じなのだと。碧斗はそう理解し、あえて、ニッと歯を見せ笑顔を作ったのだった。
☆
「思いっきり戦え」
その言葉と同時に、背後の4人は進に向かう。
「っ!」
一方進は、作戦とも呼べないその戦略によって、皆からの襲撃への反応が僅かに遅れる。
「オラァ!」
瞬間。遠くに見えた大翔の姿が、目の前に現れ拳が迫る。
「おっ」
思わず声を漏らすと、手の平を拳に向けて空気圧でそれを押し返す。だが、それで引き下がる程弱くは無いと。そう言うように、大翔はすぐさま2撃目を繰り出す。
「ラァッ!」
がしかし。二撃、三撃と何度も彼のガラ空きになった隙へと拳を振るうものの、軽く流すように避けながら、圧力を変動させて拳が体に到達する前に押し返される。
「チッ、クッソ!なんで当たんねぇんだ!」
「フッ」
大翔の必死に殴りかかる姿に鼻で笑うと、進は彼の腹に手を添えて。
刹那ーー
「吹き飛べ」
「ごあっ!?」
大翔の体は驚く程簡単に、一歩も動かなかった相手によって大きく吹き飛ばされる。
「クソッ!」
だが、それにも耐性がついた大翔は、上手く空中で回転し、地に足を着く。と、吹き飛ばしたことにより僅かな隙が生まれた進に、続いて美里が両手を前に突き出すかたちで目の前に現れる。
「あんたが、吹っ飛べ!」
瞬間、手から炎が現れたかと思いきや、それを認知したその直後に
破裂する。
と、その爆発と共に進は軽く吹き飛ばされる。
そう、大翔を吹き飛ばした事により、進は空気中の圧力を急激に変化させた事になる。即ち、高い圧力が生まれていたその空間に、外に逃げるより前に火に熱されることにより、空気が更に膨張し、瞬間。
大きな発火を起こす事で爆発を引き起こす。つまりこれは、相手の能力を利用し逆手に取った、美里の戦略。
故に、進は状況把握に数秒の時間を要する。それを逃すまいと、美里は更に手に炎を纏い接近する。が
爆破によって吹き飛ばされたのは美里も同じなためか、瞬時に向かったのにも関わらず、進に左手を軽く触れられ、横切るかたちで左に流される。
「へっ!?」
受け身より華麗な動きに、今度は美里が自身の状況が理解出来ずに声を漏らす。
「惜しかったね」
進が小さく笑い呟くと、美里は彼の圧力によってか自身が向かっていた方向。即ち進の向かう方向とは逆方向へと押し出される。
「きゃっ!?」
「っ!相原さん!」
突然の事に声を上げると、美里は飛ばされ、地に上手く着地出来ずに腕に擦り傷を負う。と、対する進は、美里を吹き飛ばし足を踏み出した直後。考える暇も無く、四方から石の塊が進に向かう。
「おっ、またか」
だが、彼はそう短く返すのみで、いとも容易く接近する途中でその石を崩してみせる。それに、進は自慢げに微笑んだその時。彼の調子に乗っているその瞬間を狙い、沙耶は人1人丸々収まる程の巨大な岩を放つ。
「んっ、おお。やるねぇ。水篠ちゃん」
そうニヤリと笑みを浮かべると、それすらも容易く。肌を掠ることすら無く彼の前で粉々に粉砕される。
と、いうのに。沙耶の目が諦めていない事に、進は目を凝らす。すると刹那、最初の4つの石及び今の強大な岩。それぞれの砕けた破片が形を変え一体となり進を閉じ込める。
「や、やった!出来たっ」
作戦の成功を目の当たりにし、沙耶は思わず声を上げる。
そんな沙耶だったが
喜びも束の間。目の前の岩にヒビが現れたかと思ったその次の瞬間、それが弾け飛ぶ。
「っ!?」
「おっしぃ〜なぁ、、っ!」
その中から現れた進は、そう声を上げてゆっくりと目を開く。と、それにより、今の自分の状況を理解し口を噤む。岩によって妨げられていた視界が露わになり、彼の周りには。
夥しい数のナイフが、180度全方向の空中に浮遊していた。
それが。
「っ、喰らえぇっ!」
進の背後に回り込む様な形で走りながら、樹音が手を前に出し言い放つと、進にそれが一斉に向かう。
「フッ」
それでも尚、彼は笑っていた。進が岩から現れ、視界に"それ"を収めてから1秒程度しか無かっただろう。そんな、秒の世界である。にも関わらず、その大量のナイフはまたもや進の2メートル先で急停止し、それが全て。
圧力により樹音に向き直る。
「っ!」
それに危機感を抱いたその時、既にそのナイフの束は目の前に迫っていた。
「クッ!」
樹音は声を漏らし、瞬時に剣を生成して全てのナイフを弾く。その姿を見ものだと言わんばかりに笑って見つめる進の背後。大翔が隙のできた横腹目掛けて蹴り付ける。
「なっ!?」
今度は進の体に接触する事に成功した足だった。だからこそ、大翔はその光景に目を見開く。
そう、まるで大樹や鉄柱を蹴ったかの如く。当たっているのにも関わらず、ピッタリと体に密着していた。
「隙を狙ってきたかぁ。君にしてはいい一撃だった、、よっ!」
「ごあっ!?」
称賛を口にするのとは裏腹に、進は大翔の腹に思いっきり拳を入れる。今現在、大翔の体は「力」の能力により、人に殴られても平気な、超人的な体を兼ね備えている。だが、それを忘れる程に。いや、進と能力が逆であるかの様に、大翔は物凄い圧力と共に吹き飛ばされる。
「「大翔君っ!?」」「橘君ッッ!?」
「がはっ!」
威力が衰える事なく吹き飛んだ大翔は、広場の4つ角に植えられている樹木に打ち付けられ血反吐を吐く。その驚愕の光景に皆が釘付けになる中、全てのナイフを弾いた樹音は、大翔の作ってくれた"その時間"を無駄にはしないと、進を斬り付ける。だが、それでも予想通り。進は軽々と一振り二振り、全てをなめらかに避ける。
少しでも当たればいいのだ。刃は空気圧を変動させたとしても、接触すれば傷1つくらいはつくだろう。それが実現すれば、流石の彼にも少しの隙が生まれるはずだ、と。樹音は力強く思うと共に、握りしめる剣を何度も思いっきり振る。
そう、したはずだというのに。
「やっぱ君は、、駄目だね」
「えっ」
進の意味深な言葉に耳を疑ったその時。進が、向ける剣を足で弾き飛ばし、樹音にも大翔と同じ方法で殴る。
「がはっ!?」
「樹音君っ!」「円城寺君!」
地面に叩きつけられた樹音は血を吐き出す。その、次々と見せられた目を疑う光景に、碧斗は膝をつく。いつまでこんな拷問の様な事をされなければならないのだろうと。歯嚙みする。だが、救済を求める自我とは対照的に、脳は一向にプランCを導き出せずにいた。そんな自分の不甲斐なさに、握る拳に力を込める。
と
「碧斗君、、大丈夫。まだ、、まだ大丈夫だから」
そんな碧斗の思いに気づいたのか、樹音は新たに生成した剣を杖代わりにして立ち上がると、進や碧斗だけで無く、皆に改めるようにして言い放つ。
「僕らの目標は、プランCを遂行させないことだから。まだ、諦めるわけにはいかないよ」
そう言う樹音と同じく、美里、沙耶、大翔の3人の瞳は
まだ諦めてはいないそれだった。




