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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第4章 : 履き違えの仲違い(コンフィリ)
100/300

100.水着

泳げない、と。そう事実を包み隠さず告げた筈だ。


なのに、なのにどうしてだろうか。


「えっと、そこを曲がったら真っ直ぐ行って、突き当たりを、」


「あっ、でもその前に水着ないよ、?」


「ならついでに買やぁいいんじゃねーか?」


「あの、ちょっと」「ちょっと」


「え、どーしたの?」


皆が楽しげに、グラムの作った地図を見ながら歩く。その後ろ姿を眺めながら、ワナワナと震えて碧斗(あいと)達は呟く。


「泳げないって言ったよね?」


「うん!でも、砂遊びとか出来るし、海の家とかも、、もっ、もしかするとあるかもしれないからっ!その、心配しなくていいと思うよっ!」


沙耶(さや)がフォローのつもりなのか、主旨の違う言葉を放つ。そういう事では無いと、そう言いかけたが、あまり否定しすぎるのも良く無いだろう。現に、2人は楽しげな表情を浮かべている。大翔(ひろと)の表情はよく分からないが。


ーまあ、みんなの遊んでる姿を見てればいいんだし、行かないとまで言うのは、良くないかもしれないなー


そう心中で思い、息を吐くとやれやれと碧斗は口を開く。


「分かったよ。行こう」


「は?何言ってんの?」


「え、う、あ、いやっ、その、別に俺らは見てればいいんだし、そんなに完全否定しなくてもいいんじゃ」


美里(みさと)の剣幕につい怯えて、声を裏返しながら必死に弁明する。が、了承はしてくれなかった様で、呆れた様にため息を吐く。


「はぁ、じゃあ勝手にいってらっしゃい。楽しんできて」


そのぶっきらぼうな物言いに怯む碧斗だったが、沙耶が割って入る。


「え、い、行かないの、?」


「いや、その、ご、ごめんなさい。でも、これは私ほんとにちょっと、」


美里が申し訳なさげに沙耶に伝えようとする。その姿に、何も言葉が見つからず、沙耶と同じく寂しそうな表情を浮かべる樹音(みきと)。そんな3人の視線を受けながら、美里は何か言いたいことを抑えるように息を吐く。


「だから、みんなで行ってきて」


それだけ伝えると、美里は来た道を戻ろうと踵を返す。その後ろ姿にハッとした碧斗は、咄嗟に声をかける。


「ち、ちょっと待って!」


「何?」


まだ何かあるの?と言うかのような顔で、美里は振り返る。


「その、やっぱり、一緒に来て、、くれないかな、?」


「は?だから、、話聞いてた?」


美里の圧に圧倒されながらも、碧斗は頷いて続ける。


「うん。でも、その、相原(あいはら)さん1人で、帰るの?」


「っ」


「「「!」」」


碧斗の言葉に、今の我々の現状を思い出した皆は目を剥く。


「前に、相原さんは外に出ようとした俺を止めてくれた。だから、俺だって相原さんを1人で帰らせるような、そんな危険な事させるわけにはいかないよ。俺が一緒に帰っても、その、きっと戦力にはなれないし、、だから、お願い。一緒に、来てくれないかな、?」


都合の良い理由を付けてきたことに、少し苛立ちを覚えたが、碧斗の心から心配している様子に1度息を吐くと、水着を着ないという条件付きで渋々頷いたのだった。




「にしても、なんでこんな季節が真逆の時に海なんて行くかね」


「いやそれ投稿日の話だろ。あまり"そっち"に触れるのはやめてくれ」


触れては行けない事を平然と口にする大翔に、真面目にツッコむ碧斗。


だが、確かにこちらの世界でも海に行く様な季節では無いだろう。いくら1年中温暖な気候だったとしても、我々にとって「丁度良い気温」なだけであり、皆長袖を着ている状況である。だが、幸運な事に、今日は快晴であり、気温も高い方だろう。絶好の海日和とまではいかないが、適した気候が重なってくれたと言えるだろう。


と、そんな事を1人で考えていると、一つ目の難関が碧斗達を襲う。


「い、伊賀橋(いがはし)君、」


「どうしたの?」


「その、私達水着持ってないから、買いに行こうって話になったんだけど、、その、水着を買える場所が」


碧斗に駆け寄って、不安そうに見せてきた地図に目をやる。その、沙耶が指差した場所に思わず動揺を見せる。

そう、水着を買える場所が、大通りにある店しか無いのである。


「こ、これは、問題だな」


水着、というよりかは、洋服屋自体が大通り周辺にしか無いのだ。女子はやはり、服を見に行くのも楽しみなのだろう。長らく同じ服を着ている我々ならば、尚更だ。そんな彼女達の思いを尊重し、頭を悩ませる碧斗。と、助け舟を出すように大翔は割って入る。


「だったら、俺にいい考えがある」


           ☆


数分後。碧斗と沙耶、美里は、大通りに続く路地裏に身を隠していた。そう、先程の大翔が放った"いい考え"の最中である。


「本当に、大丈夫なのか」


「わ、私がわがまま言っちゃったから、」


「別に、ここら辺に見張りが定着してるわけでも無いんだし、少しならそんなに気にする事ないでしょ」


「確かにそうだけど、」


不安の色を浮かべる碧斗と沙耶とは対照的に、冷静に呟く美里。


大翔の考えた作戦はこうだ。直接水着を買いに行く事はせず、手前の洋服店に足の速い大翔と樹音の2人が先に入店する。もし、転生者に見つかっても対応出来る人物。ということらしい。そして、フードの付いたマントだけを5人分購入し、路地裏に戻って碧斗達に渡す。その後はそれを深く被って行動すれば、多少なりともバレずに済むだろうと、そう言う大翔だったが。


「うまくいくのか、?確かに、そういう格好の人はこの世界ではよく見かけるけど、」


碧斗は不安げに呟く。と、刹那。遠くから足音が近づく。


「はぁ、はぁ、お、おい碧斗!大丈夫だったぞ。ミッション完了だっ!」


「っ!よ、良かった」


(たちばな)君!」


「ね、大丈夫だったでしょ?」


「というか、走ってきたのか?転生者にバレた時に走れる様にって言ってただけで、それ以外の時には逆に目立つからやめた方がいいと思うが」


「い、いいだろ!大丈夫だったんだから!マントやらねーぞ!?」


息を切らしてフード付きのマントを3枚ほど持って現れた大翔に、安堵の声を漏らす沙耶とは違って、碧斗はダメ出しをする。


「で、でも、なんとか大事(おおごと)にはならずに済んだね」


すると大翔に続いて、樹音が(あと)からマントを2枚持って現れる。が、その瞬間


「な、なぁ今の、勇者様じゃねーか!?」


「や、やっぱそうだよな!?なぁんか似てるなと思ってたんだよ」


「...」


「いや普通にバレてるが」


「ばっ、馬鹿なっ!?そ、そんな事は」


遠くから聞こえた住民の方々の声に、碧斗は大翔にジト目を向ける。


「でっ、でもっ、マントは手に入ったし、」


「っ、ま、それもそうだね」


と、2人をカバーする様に沙耶が割って入り、それにより優しく返す碧斗。すると、その情景を見た美里は、一歩踏み出して口を開く。


「それなら、早くマント被った方がいいんじゃない?」


「あ、そうだね」


我々がこの近くにいるという情報が広まる前に身を隠そうと提案する美里に、樹音はそう賛同すると、一同にそれぞれマントを手渡すのだった。


           ☆


「こ、これで、大丈夫かな、?」


沙耶は不安そうに呟きながらフードを深く被る。あれから数分。目的の店の近くまで来たため、マントを羽織り大通りに出た碧斗達だったが。


「多分、大丈夫だと思うけど」


「くそっ、前見にくいな」


「あんたが考えた案でしょ?自分で文句言ってどうすんの」


素顔を悟られまいと、皆はフードを深く被る。確かに顔は見えないかもしれないが、第三者から見たらこれはこれで不審者だろう。違う意味で目立ってしまうのではないかという不安を感じながら、碧斗は大翔と樹音を先頭に皆に続く。と


「あっ!あそこのお洋服屋さんっ、水着売ってるよ!」


「あっ!本当だ!」


沙耶が指差した先、ディスプレイから水着が覗く。その実物を拝見したことにより、この世界にも水着という概念があったのだとホッと胸を撫で下ろす碧斗。


「なら、ここで買っていこうか」


「うん!」


碧斗の提案に無邪気に笑ってパタパタと店へと向かう沙耶。その後ろ姿を眺めながら、しみじみとする碧斗。


ー楽しそうだな。そうか、この世界に来て、楽しい事全く出来てないんだな、、みんな、もっと店を見たり、買い物したり、遊んだり。普通の生活をしたいだろうにー


小さく息を吐く。どうしてこんなに苦しんでいるんだ、と。命を狙われ、逃げるばかりでしたい事も出来ないこの現状に、どうして命懸けで生きようとしているのだろう。いっその事、殺されて、現実世界に帰った方が幸せなのではないか。


「碧斗君!どうしたの?行くよっ。早く買っちゃうんでしょ?」


「っ、あ、ああ!そうだな」


そんな思いが溢れるように脳を埋め尽くした。だが、それでも今は考えない事にした。たとえ、この行動が間違いだったとしても、ここにいる皆との思い出は、忘れたくなかったから。


           ☆


「これ可愛い!」


沙耶が笑顔を溢れさせて、水色のフリルのビキニを手に取る。爽やかな水色と、フリフリの見た目は、沙耶の体型ならばとても合うだろう。

だが


「これ、露出が、多いんじゃないか、?」


「え?そうかな?これはまだ出てない方だと思うけど」


「そ、そうなのかっ!?」


今まで女子の水着なんて、小学校のスク水しか見てきていない為、少しでもお腹が出るものは露出が多いという分類をしてしまう。

すると、よしっと、声を漏らして何かを思い立った沙耶は口を開く。


「試着してみよっかな」


「「「えっ!?」」」


その言葉に、男性陣は動揺を見せる。


「そ、それは、、駄目だ。うん、なんか、駄目な気がする!」


「ふぇっ!?い、伊賀橋君達には、、流石に恥ずかしいから、見せないよ、、、まだ、」


碧斗が慌てて手を振ると、沙耶は頰を赤らめて口を尖らせる。最後の方は声が小さくなっていったため、碧斗を含め皆には聞こえていなかったようだ。それが恥ずかしかったのか、沙耶は急いで試着室のような場所へと向かう。


「いらっしゃいませ。こちらご試着なさいますか?」


「あ、そ、え、えと、その、は、はい、」


なんだか店員に絡まれて困っている様だ。

最近は打ち解けているからか、随分と話が出来るようになっていたため、沙耶が人見知りな事を忘れていた。その事を思い出した碧斗は、沙耶の元へと向かう。


「あ、あの、し、試着はこちらで、大丈夫、ですか?」


助け舟を出したはずだったのだが、自分が第一にコミュ障だという事を忘れていた。店員に話しかけたのはいいが、何を言えばいいか分からずに日本語がおかしくなってしまった。が


「はい。こちらの個室でご試着ください」


「あ、わ、分かりました。ありがとうございます」


なんとか会話が成立出来たようだ。


「だって」


「あ、ありがとう。で、でも、見ちゃ、駄目だよ、?」


「みっ!?そんなっ、見ないよっ!?」


慌てて否定する碧斗。すると、その後ろで水着を見ている美里に気づき、沙耶は詰め寄る。


「あっ、相原さん!一緒に水着着てみよ!」


「え、だから私は着ないって言ってるでしょ?」


「そ、そう、なの、?でも、着たそうにしてた、よね?」


「別に、ただ見てるだけだから」


「そ、そっか、、これとか、似合いそうなのに、」


沙耶が、美里の見ていた黒のレース風に見える水着に目をやって、本音を口にする。と


「え、そ、それなら、こっちの方が」


美里がつい反射的にそう漏らして隣の水着を手にする。それにハッとし美里は沙耶に向き直る。


「別に、そういうんじゃないから」


その姿に沙耶は思わず口元が緩み、言い放つ。


「じゃあそれ、着てみよっ!試着だけならいいでしょ?」


「え、いや、肌に付けた瞬間に買わなきゃいけない雰囲気になるでしょ。それなら、全然良くないと思うけど」


そんな2人のやり取りを遠くから眺めながら、大翔は息を吐く。


「おーい、早くしろよー。長居するつもりはねーからな」


「いや、いいんじゃないか?こうやって羽を伸ばせる機会は少ないんだし、ゆっくりさせてあげれば」


「はぁ。これが命取りにならねーといいな」


試着室を閉めるその僅かな瞬間。美里のスカートの下から覗いた、白いものに眉間にシワを寄せて、大翔と会話を交わす碧斗。それと同時に、入り口の方に目をやる樹音に気づいた大翔は詰め寄る。


「ん?どうしたんだ?樹音」


「大翔君。いや、なんだか外が騒がしいなと思って」


「大通りだから当たり前だろ」


「そうなのかなぁ?それでも、普段より騒がしくない?」


2人の会話に、碧斗は振り向く。言われてみれば、確かに少し外がガヤガヤしている気がする。樹音の言う通り、普段よりも特に。


「何かあったのか、?」


「分からないけど、多分」


碧斗の呟きに、不安そうにそう漏らす。その明らかに気になっている様子の樹音に、優しく伝える。


「行ってきていいぞ?俺がここに残ってるから。あ、でも、バレないようにね」


碧斗の言葉に樹音は「本当?」と呟くと、指摘に頷いて外へと向かった。


「それじゃ、俺も行ってくっかな。退屈だし、気になるし」


「あ、ああ」


大翔もまた、それだけ残して外へ向かう。その現状に、再びハッとする。また、女子しかいない空間に1人にされてしまった、と。普段からそんな空間に動揺しているというのに、水着店となると更に問題だ。


間違えて少し開けてしまった試着室を見てしまい、美里に責め立てられる。安易に想像できる。と、そんな事を考えた矢先。


「あらぁ、何かお探しかしら〜?」


「、?っ!!」


何やら大きい体にそぐわない口調で、派手な男性(?)がこちらに向かってくる。その言葉から、どうやら店員のようだ。


「あ、いえ、今、友人の試着を待っていて、」


「あぁんら、そうなの?でーも、ここは男の子用の水着もあるわよ?向こうに海水パンツがあるから、見ていかない?」


まずい、1番厄介な事になってしまったようだ。そう内心で呟くと、その店員はニヤリと接客とは違った笑みで付け加えた。


「アタシが貴方にピッタリな水着、選んであ、げ、る」


「っっ!」


背筋に寒気を感じた次の瞬間。腕を掴まれ、親切に案内を始めるその店員。そんな店員に「結構です!」という叫びを残して、店の奥へと消えていく碧斗だった。


           ☆


「な、なんかみんな集まってるね、なんだろ」


店の外の大通り。何やら、看板の様なものの前で人集りが出来ている様子だった。その元凶を見るべく、背伸びをしてそれを覗く。すると、隣に居たおばちゃんとおじちゃんに声をかけられる。


「あんた聞いたかい?この間行方不明になってた男性が遺体で発見されたって。なんだか怖いわねぇ」


「え、そ、それは物騒ですね、」


どうやら、人が集まって凝視している看板は、掲示板のようなもので、貼られている事件内容に引き付けられていたようだ。その内容に、こちらの世界でも殺人は行われているのかと、樹音は表情を曇らせる。


「へぇー、殺人、ねぇ。ま、俺たちが恐れる相手じゃねーな」


大翔が鼻を鳴らしてそう呟くと、それが聞こえていたのか否か、おばちゃんが更に口を開く。


「確かに、この被害者。どうやら家庭内暴力をしてたらしくてねぇ。恐らく身内の犯行だろうとか言われてるけど、あんたらも用心しな、、って、まさか貴方達、ゆ、勇者様!?」


「「っ!」」


会話を長引かせてしまったが故に、フードの中を覗き込まれてしまった。マズい。と、2人の脳内は埋め尽くされる。逃げるべきだろうか。いや、今逃げ出したら、それこそ怪しいだろう。


「お、あんた、グラムさんとこの勇者様やろ?いやぁ、いつもありがとねぇ」


するとそれによってか、周りの人まで我々の姿に視線を移す。どうやら、今まで頻繁にこの大通りで買い物をしてきた大翔は、この辺りでは有名になっているようだ。


「あの隣のも勇者様?」


「ほら、口の聞き方に気をつけな」


「さっき会ったって話本当だったんだ」


「犯人見つけてくれよ!」


「わたくし達を守っていただきたいわっ!」


「勇者様だぞ?謹みなさい」


ーま、マズいよ、、どんどん人に注目されてるー


やはり、人の集まっているところに入るのはマズかっただろうか。唯一の救いは、前の樹音の騒ぎを知らないという事である。もし、あの時の現場に居合わせた人が居たら、樹音は街の平和を脅かす、物騒な存在だと認知されていた事だろう。と、そんな事を思いながら、樹音は反射的に周りの声に答えようと口を開く。が


「あーすいませんっ!今はちょーっとしなきゃいけない事があるもんで、、それじゃっ、失礼します!」


大翔がそう叫ぶと同時に、樹音の手を引いて走り出す。


「っ!な、ちょっと!?逃げたら逆に目立つよ!?」


「あ?もし奈、、じゃなかった。翼の能力を持ったあいつが空から偵察にでも来てたら、ここで止まるのはやべぇだろ!」


「確かにそうだけど、で、でも」


樹音は俯くと「せっかく話しかけてくれたのに悪いよ」と、聞こえるか聞こえないくらいの声で呟いた。それに、大翔は何か言いたげだったが、無言で目を逸らす。するとその(のち)、小さく


「とりあえず、今は街の人達を撒いてさっきの場所に戻るしかねぇな」


とだけ呟いたのだった。


            ☆


沙耶と美里が試着を、碧斗が店員。だと思ったら、実は店長だった。あの少し、いや、結構プリティーな感じの人物に連れて行かれてから、約20分ほど経ち、3人は店から足を踏み出す。


「ありがとうございましたぁ〜。またいらっしゃぁ〜い♡チュッ」


投げキッスをする店長に、碧斗は背筋に悪寒が走りながらも、あははと苦笑いを返す。


「け、結局買ってしまった、」


「伊賀橋君も着てくれるんだねっ!」


あの後、店長の圧力により大翔と樹音の分だけでは無く、自身の水着も買ってしまった碧斗は、沙耶の笑顔に「あ、いや」と呟いたが、直ぐに言い直す。


「う、そ、そうだね、、折角だし、履こうかな」


そう笑ったのち、小さく「泳ぎはしないけど」と付け足す。


水篠(みずしの)さんも、見つかったんだね」


「うん!少し迷っちゃったけど、さっきのに決めたんだっ!」


「そっか、良かった。..ん、って、あれ?」


沙耶に微笑むと、彼女の後ろの美里が、手に紙袋を持っている事に気づき声を漏らす。


「あれ、相原さんも買ったの?」


「...聞かないで」


「え、あ、う、うん、」


たった一言ではあったが、何か凄く重いものと、威圧を感じたため碧斗は口を噤む。と、話題を変えるためにも周りを見渡す。


「そ、それにしても、、樹音君と大翔君はどこ行ったんだ、?」


「まだお洋服見てるのかな?」


「いや、さっき外にできた人集りを見てくるって言ってたから、店の中には居ないと思うけど、」


碧斗はそう呟くと、バレない程度に顔を出して辺りを探す。すると


「ん?」


何やら数メートル先の、裏道への曲がり角から、ひょっこりと手だけが飛び出してこちらに手招きをしている。


ーあ、怪し過ぎるー


見るからに罠の様なやり方に、逆に近づきたくなる。その光景に、1度息を吐くと碧斗はゆっくりと躊躇しながらそちらに向かう。


「どうしたの?」


「いや、ちょっと」


その奇行に、沙耶は不思議そうに投げかけると、碧斗は小さく溢してその曲がり角に差し掛かる。と、その瞬間。


「う、うわぁぁっ!」


「「っ!?」」


その「手」に引っ張られて、路地裏に連れ込まれる。マズい、まさか本当に罠だったのか。と、冷や汗をかきながら恐る恐る目を開く。すると


「...え」


「悪いな。碧斗」


「ごめんね、碧斗君」


そこに居たのは大翔と樹音だった。


「な、何やってるんだ。こんなわざとらしく隠れてたら、逆に怪しまれるぞ」


拍子抜けした様に、少し呆れながら碧斗はため息混じりに告げる。その後、碧斗に続いて、背後から沙耶と美里が駆け寄る。


「だ、大丈夫!?」


「な、何やってんの?」


不安そうな沙耶と、ひき気味な美里に樹音は「い、いやぁ」と苦笑いを浮かべる。


「その、実はさっき集まってた人達に、その、バレちゃって。僕らが、、転生者って」


「「「えっ!?」」」


「だ、だからあれほど言っただろ!気を付けろって」


「はぁ〜〜。ほんと信じられない」


「ど、どうしよ、」


碧斗と美里は呆れ、沙耶が不安の色を見せる。


「その、だから裏道から逃げて来たんだけど、もう、大通りにいけそうには、、無いよね、、ごめん。僕のせいで」


「ま、どーせ原因はどでかい図体したあんたなんだろうけど。別に、過ぎた事をぐちぐち言うつもりはないから」


「あ?お前今なんてーー」


「と、とりあえず!海に行ける別のルートを探そうかっ!」


美里と大翔が、またもや喧嘩を始めそうだったため、咄嗟に声を上げる樹音。それに


「なら、全員分の水着を買っておいて正解だったな」


と呟く碧斗。


「うん!そうだねっ!」


「あ、買って来てくれたんだ、ありがとう。ごめんね、、今日はせっかく、っ」


碧斗の言葉に、樹音は感謝を述べたのち、何かを言いかけて口を噤む。


「?ど、どうしたんだ、?」


「あ、いや、何でもないよ。さっ、今は道を探すよ!」


話をはぐらかすかのように手を合わせる樹音。それに、前にあった"同じような状況"を思い出して美里は目つきを変える。


「そ、そうだね。じゃ、じゃあ、地図で、、、!」


「「「「...?」」」」




「地図は、、どこだ、?」




「「「「え?」」」」


「は、はぁ!?お前ぇ!な、何やって、、どこやったんだよ!?」


「し、知らないよ!まず、本当に最後俺が持ってたか!?」


碧斗の絶望的な一言に、大翔は声を荒げる。そんな2人に、失望した様子で美里は「嘘でしょ」と呟く。


「え、ど、どう、するの、?」


「マズいね、、僕もこの世界の道には自信無いな、」


「俺も裏道なんて知らねーっての」


「海に行くルートも分からなくて、、かと言って帰るルートも、大通りからは帰れないから誰も知らない、、って。これ、、マジでどうすんだよっ!?詰みかっ!?詰みなのかっ!?」


皆に呆れたような視線を受けながら無力な碧斗は、どうする事も出来ない感情を吐き出した。

皆様、今回は新年と同時に、記念すべき100話目です。


ここまでこれたのも、読んでくださっている皆様のおかげです。


本当にありがとうございました!


今回は100話という事もあり、意図的ではありませんでしたが、水着回にしようとしていました。ですが、ギリギリ海に行く前までとなってしまったのが残念です。なので、次回は正真正銘の水着回です。


イラストの無い作品に水着回の需要はあるのかと感じはしますが、楽しみにしていてください(?)


ちなみに、ちゃっかり章区切りをしました。タイトルのフランス語の発音についてはあまり触れないでください、、

そもそもフランス語をカタカナで表記するのが難しいので、大目に見て頂けると有り難いです。


それでは、改めまして。これからも、宜しくお願いいたします!

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