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殺し合いの独裁者[ディクタチュール]  作者: 加藤裕也
第1章 : 終わりの第一歩(コマンスマン)
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10.凶変

 協力なんて出来ないのだろうか。もう、人はそういうものなのだろうか。確かに環境が違う場所で生きてきて、性格も、言動も様々な生き物だ。だから、分かり合う事なんて出来ないのだろうか。良い人もいれば、悪い人も存在してしまうのだろうか。


ー俺は、そうは思いたくないー


 なんの根拠もないが、相手を信じる事で今まで生きてきた。悪い環境で生きてきた人でも、人の優しさに触れればどんな人でも変われるのだと。


 だが、目の前で人が人を殺める姿を見て、碧斗(あいと)は信じられなくなってきていた。


「僕は、応援してるよ」


 ふと、脳内でフラッシュバックされたその光景に、碧斗は正気に戻る。最後まで信じてくれた人がいるのだ。と、信じてくれた人の為にも、自分が1番最初に諦めるわけにはいかない。


「どうだ、分かったか?まさかこんなに大勢の前でお披露目をする事になるとはなぁ。見たろ?これが俺の能力、"氷"だ」


「お前、何したか分かってんのか?」


 がたいの良い男子が修也(しゅうや)の胸ぐらを掴む。


ー他の人達が恐怖で立ち尽くしている中、随分と度胸のある人だなー


「分かってんのって、分からせてやったんだけど?」


「は?」


「お前らは勝手に勇者様ごっこでもしてろ。俺が面白くしてやるからよぉ。」


 表情を崩さずに笑う修也は、明らかに殺しを楽しんでいる様子だった。


「狂ってる、」


 胸ぐらを掴んだまま呟いた。その瞬間。


「っ!?冷てぇ!?」


 修也が発したであろう冷気に耐えられなくなり、手を離す。


「せいぜいその協力とかいうのをしてみろ」


 笑いながらそう言うと、「まあ、無理だと思うけどな」と最後に後付けし、食堂を後にした。


 静まり返る室内。当然だ。こんな状況、理解できる方が異常である。


「くそっ!こっちでもこうなっちまうのかよ」


 先程まで修也の胸ぐらを掴んでいた男子が、バツが悪そうにそう呟くと、同じくその場を後にした。


「こっち、?」


 その男子の残した言葉に、碧斗は独り言の様にそう呟いた。


           ☆


「ど、どうするの、?これから」


 智也(ともや)の隣にいた金髪の女子が神妙(しんみょう)な顔で言う。


「今までのようには行かなそうだね」と爽やかイケメン男子。


「どうするって言われてもな」


 (しん)が表情を曇らせる。


 ただでさえ違う世界で混乱しているというのに、そこでこんな事が起こった今、正常な判断など出来ずにいた。


「と、とりあえず。こういう時こそ協力を、」


「協力?」


 智也の提案に、言い終わる前に割り込む理穂(りほ)


「さっきの話聞いたでしょ?この中にも修也みたいな裏切り者がいるかもしれないのに、協力なんて馬鹿げた事するわけないじゃん」


「何言ってんだよ。少しは人を信じろよ」と進。


 それに、「信じるなんて出来るわけないじゃん」と、小さく理穂が呟いて返した。


 その呟きに進は言葉を詰まらす。


 それはそうだ。赤の他人同士がそう簡単に信じる事なんて出来ない。それに、さっきの修也のあれを見た後なら尚更だろう。


「私は協力なんてしないから」


 短くそう言うと、同じく食堂から出て行った。


 とにかく、桐ヶ谷修也(きりがや しゅうや)が危ない人物なのと、能力が「氷」という事はわかった。


 これからは、なるべく彼を避けながら生活しなければいけなくなるが。


『俺が面白くしてやるからよぉ』


 修也のその言葉が頭から離れずにいた。


ー面白く、?一体何するつもりなんだ修也はー


 少なくとも、「みんなを危険に晒そうとしている」という事は確かであろう。これからも修也は碧斗達に襲いかかり、今のように殺そうとしてくるはずである。


 そう思うと、怖くて仕方がなかった。いくら死んでも元の世界に戻れるからと言って、痛みは本物なわけで。


「ど、どうすりゃいいんだよ」


 進はため息混じりにそう吐き出した。


「ほんと、これからどうするんだ?このままじゃ、、みんながバラバラになる日は遠くないよな」


「怖い事言うなよ」


「今のは"バラバラ"に殺される。ってのと、チームワーク的な意味で"バラバラ"になるってのをかけたんだが」


「笑えねぇよ」


 智也はどうにかして明るく振る舞っていたが、今にも崩れそうなのがよくわかった。そんな智也の「笑えない」ギャグを差し置いて、進は言った。


「こういう時こそチームワークが大切だと思うが、今の状況的に無理、、だよな」


「とりあえず、あの修也ってやつを倒せばいいんだろ?」


 この状況なのに、なんだか落ち着いた声色で1人の男子が言った。するとーー


「ダメー!」


 食堂が沈黙に包まれた。甲高く、カナリアのような声だったが、今まで聞いた事ないほどの大きな声に、皆が動揺する。


 声の主は水篠沙耶(みずしのさや)だった。


「な、何がダメなの?」


「た、倒すなんて、ダ、ダメ、」


 さっきとは裏腹に消え入りそうな声で呟く。


「何言ってんだ!あいつは俺らを殺そうとしたんだぞ!?もう1人犠牲になってんのに、何がダメなんだ!」


「まあまあ、落ち着いて」


 赤髪のセミロングの子が割って入る。


「で?水篠ちゃんは、なんでダメだと思うの?」


「あの、その、きっと、何か理由があって、」


「理由ってなんだ!?人を殺すのに理由なんてあるか。ただカッとなって殺ったんだろ!?」


「ち、ちがうの、そ、そんな事する、人じゃ、」


「何を根拠に言ってるんだ?」


 進が横から話に入る。


「それは、その」


 言葉に詰まった沙耶は俯いてしまった。


 なんでそんなにあいつを庇うんだろうか。碧斗はその事が気がかりだった。と、それに気づいたかのように、進が言う。


「まさか、庇ってんのか?」


 珍しくシリアスな声色で沙耶を問い詰めた。


「は?人殺しを庇ってんのか!?いいか?あいつは人を殺めたんだ。なら殺されても仕方ねぇんだよ」


「だっ、ダメっ!殺さないで!」


「だからなんで。あっ!お前、まさか」


 何かを察した進は沙耶に向き直る。一方、沙耶は俯いて冷や汗をかいている。気がつかれたと言わんばかりの表情だったが、何故か頬が赤く染まっていた。


「まさかお前、共犯者?」


 その言葉を聞いて沙耶は一瞬何を言われているのか分からない顔をしていたが、すぐに慌てて


「ち、違いますよ!さ、さっきの共犯って、一体何するって言うんですか!?」


「いや、元から祐之介を狙っていた可能性がある。まさか計画的犯行!?」


 手を顎にもっていき、気分は探偵のように語る進。すると、ずっと沈黙を維持していた碧斗が口を開く。


「いや、もし計画的だったとしても動機がいまいち理解しがたい。それなら、さっきの口論でカッとなって、ってのが1番近い気もするが、水篠さんはそうは思わないんだよな?」


「は、はい」


 沙耶は小さく頷いた。


「だから、それがなんでか聞いてんだろ?」


「はいはい。そんな強引に聞いたって怖がっちゃうでしょ?」


 進の言葉に、さっきのセミロングの女子が入ってくる。そのまま向き返って「改めて」と前置きして話し始める。


「私の名前は碓氷歩美(うすいあゆみ)。この場を借りて自己紹介しよ?」


 碓氷歩美(うすいあゆみ)。セミロングで、髪先がパーマのように丸まっている、赤色の明るい髪が目立つしっかり者のようだ。


 正直、碧斗には有難い意見だった。自己紹介する場所を設けるというのは、顔と名前、能力を一致させるためにも、とても良い考えだと碧斗も頷いた。が、


「この状況で何言ってんだよ」


「この状況だからこそするの」


「だから、こんな共犯みたいな奴がいる前でそんな呑気な事できるかよ!」


 なんだか、随分とイライラしている様だった。それはそうだ、転生されてこんな事件が起こったのだから、心に余裕がなくなるに決まっている。


「ダメだよ、こんなとこで喧嘩しちゃ。ご飯が美味しくなくなっちゃうでしょ?」


 突然話に入ってきたのは後ろで静かに食事をしていた少し天パが混じったような金髪。と言っても、ゴールド寄りな色をしている髪の毛をした男子だった。


「ここで能力使ったりしたら国王に怒られるよ。やめておいた方がいい。」


 冷静なその台詞に周りの人達は静まり返った。


ーこんな状況下で食事してたのか、?ー


 真面目な様子の彼はこの状況でも冷静であった。いや、冷静だからこそ少し恐怖を覚えた。


「はぁ、で?なんでお前さんは修也を庇うんだ?」


「水篠さんは修也と同じ高校だからだよ」


 その問いに、先程の天パイケメンが言う。


「何?じゃああいつの事よく知ってるって事か。ん?じゃあ、それを知ってるって事はお前もか?」


「ああ。俺も同じ学校だ」


 なるほど。と碧斗は納得する。それなら転生者が知らない事も知っているだろうし、ゆっくり話を聞けば、理由も理解出来るものだろうと考えた、刹那。


「なるほどな、だからか」


 進はそう呟くと顔を上げ、真剣な顔で言う。


「だから庇ったのか。身内のように庇わなければと、そう思ったんだろ?」


「ち、ちがっ!?いや、ちが、くは、ないけど」


 確かにそうだ。気持ち的な面では庇いたい気持ちがあるからだ。だが、それだけじゃなくて、、


「もうダメだ。こいつを(おとり)にしてあいつをおびき寄せるか」


「え!?」


「なっ!?」


 沙耶と碧斗は同時に声を上げた。その瞬間、進は沙耶の方に手を向ける。あの体勢はどこかで見た事がある。能力を見せる為、碧斗を軽く飛ばした時と同じ仕草だ。


「悪く思うなよ、水篠ちゃん」


 そう言って進は人1人気絶する程の空気圧を手から放出した。

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