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天命麻雀  作者: 西塚真央
6/6

麻雀

週末・・・真中は美麗と共に高級車の中にいた。

平和から約1時間・・・車は大阪の都市部を離れ、大阪にある数少ない森に入っていく。

流石に真中も少し不安になって来る。


「あのー、本当にこんなところにギャンブル施設?ってのがあるんですか?」

隣に座る美麗に尋ねる。


「ええ、そうよ。この辺りも兄の計画が成功すれば一気に発達するわ。」

美麗は得意げに言う。


「この辺の土地はもう独王グループが所有権を持っているの。交通網のインフラ整備や、訪れる人のための宿泊施設なんかも作る予定みたいね。まあ、あくまでこの計画の成功が大前提なんだけどね。」


「本当に俺でよかったんですか?何か、その計画が失敗に終わったときの代償が大きそうなんですけど。」


「別にいいわよ。そもそも、ギャンブラーを集めているのは私だけじゃないもの。貴方がダメでも代わりはいくらでもいるわ。」

そう言って美麗はニッコリ微笑む。


「ははは・・・」

真中からは乾いた笑いしか出なかった。


「・・・もうすぐ着くわよ。」



数分後、車が止まり、真中たちは外に出る。

真中の目の前にあるのは大きな洋館。

森の中にポツンとあるので普通は気付かないだろう。

かなり古そうだが、周囲は綺麗に整頓されている。


「さあ、行きましょう。」

美麗は門を開け、中に入る。真中も続く。


大きな庭を抜け。館の入り口に立つ。

美麗がドアをノックすると、スーツを着た男が一人出て来た。


「美麗様、要様がお待ちです。こちらへどうぞ。」

男は身をひるがえし、館の中へ入る。

二人もそれに続いて中へ。


「これは、スゲエな。」

真中は館内を見回す。

大広間だろうか?天井には大きなシャンデリアがあり、周囲にある絵画やソファ、鎧の置物なんかがいかにも金持ち感を演出する。

しかし、二階へ続く階段なんてものは無く、正面には幾つかのドアと、カウンターがあるだけだった。

カウンターに青年が一人。

そこへ美麗が駆け寄る。


「お兄様。連れてきましたわ。」

美麗が小さくお辞儀をする。


「ご苦労様。」

青年は美麗の頭を手で撫でると、真中の方を見る。


「初めまして。王要と申します。」

青年はカウンターを出ると、真中に向かってお辞儀をする。

グレーのスーツを着こなした高身長の爽やかなイケメンとでも言えばいいか。

お辞儀の一つを見ても洗練されており、良家の出だと分かる。


「西塚真中です。今日はお招きありがとうございます。」

真中もお辞儀をする。


「さて、それではまずお部屋の方に案内します。詳しい話はそれからにしましょう。」

要は背後にあるドアの一つに向かい、ドアを開ける。


「どうぞ、こちらです。」



中はシンプルなつくりになっていた。

例えるなら、家具のない客室に麻雀卓を置いただけのようだった。


「どうぞ、好きな場所におかけください。」

要はそう言って椅子に腰かける。


「・・・失礼します。」

真中は下座を意識しつつ、座る。


「・・・ふう。どうも疲れるんだよな。この礼節わきまえた態度っていうのは。」

要はネクタイを緩める。


「お兄様、一応・・・お客人の前ですわ。」

やれやれといった感じで美麗は言う。


「いえ、お気になさらず。俺は一向にかまいませんのでね。」

真中は軽く笑う。


「そう言ってもらえると嬉しいよ。」

要はそう言ってため息を一度つく。


「さて、本題だが・・・真中君、これを見てくれ。」

要は真中に数枚の紙を渡す。


「これは・・・近畿地方出身のプロの麻雀打ちの名前が書かれてますね。全員かなりの腕だと思いますが。」

真中はそう言いながらページをパラパラめくる。


「ん?ここから先は知らない名前ですね。・・・もしかして、これは今回集められた人の名簿ですか?」

真中は要を見つめる。


「ご明察。その通りだ。これは今までスタッフたちが集めてきてくれた凄腕の麻雀打ちのリストだ。そのリストに書かれている者とは全員麻雀をしたのだが、イマイチピンとくるものがなくてな。」

要は首をゆっくり横に振る。


「これでピンとこないんですか・・・」

真中はリストを見ながら言う。


「いや、実力はまあ申し分ない奴らばかりだ。ただ、彼らには華がない。私が今、欲しているのはここを上手くPR出来るような・・・広告塔のような人物なんだ。」

そう言って、要は立ち上がる。


「彼らは強い。だが、堅実であり、地味だ。確かに麻雀を深く知る者ならその闘牌が理解できるだろうがそれではダメなんだ。それは、東京で父がやっている。私はこの大阪で、それとは違った宣伝の仕方をするしかない。そのためには必要なのだ!麻雀の神に愛され、雀卓上に突風を吹かす者が・・・。」

そこまで言い、要は我に返る。


「す、すまない。つい熱くなってしまった。」

要は再び椅子に腰掛ける。


「いえ、話は分かりました。」

(中々、アツい男の様だな。)

真中は要の目を見つめる。


「・・・やりましょうか。俺の麻雀をしっかり見定めてください。」

真中はゆっくりと言葉を紡ぐ。


「分かった。始めよう。」

要はそう言って一度部屋の外に出ると、先程入り口で真中たちを出迎えた男を連れて戻ってきた。


四人が雀卓を囲む。

半荘一回の勝負。

持ち点30000、レート無し


真中配牌(東一局 北家 ドラ6)

224566ⅣⅣⅤ四五六八 第一自摸 Ⅵ

(・・・直感では清一色だな。)


そのまま打Ⅵ

次順7引き 打Ⅳ

次順再び7引き 打Ⅴ

美麗の打7をポンし、打Ⅳ

更に3引き、打五

次順5引き、打八

要の打6をポンし、打六

そして2引き、打四

5巡目で聴牌、そして6巡目・・・


「ツモ。タンヤオ、清一色、ドラ3・・・倍満、4000、8000。」

あっさり自摸和了り。

相手の手を読むだとかそう言った戦略の欠片もない、ただただ自分の手牌の完成だけを考えた戦い方。

運のいい真中だからこそできる戦法と言ったところか。


「・・・三色の方が確実、しかしそれを捨てての清一色か。しかも、ドラ表示牌を引いての

自摸和了り・・・素晴らしい。どうやら、麻雀の神には好かれているみたいだな。」

要は頷きながら、真中を見つめる。


そこからは真中の独壇場。

東場はすぐに終了。


真中 57700

要  26000

美麗 21000

男  15300


「東場を終えて振り返ってみると、やはり素晴らしいね真中君。君の独壇場だ。」

要は真中を見つめる。


「今日は運がいいみたいです。案外いい結果が出てますね。」

真中は笑顔で言う。


「これで、あとは終了時に一位なら文句はないんだが。」

要は天井を見ながら言った。


「大丈夫です。きっと期待に応えて見せますよ!」

(・・・・・・)


南場に入った。


真中手牌(南一局 北家 ドラ3)

2233445ⅡⅢⅦ南南南 第一自摸 一


(この一はいらないな。南、混一、一盃口、狙い!)

真中、打一。


「・・・ポン。」

要が鳴いて打北。


真中 次順6引き、打Ⅶ

そして、真中は美麗の打7をチーし、打Ⅱ。

更に次順引いてくる8引き、打Ⅲ。

(これで、8待ちで聴牌。あと数巡で和了れるかな。)


次順、真中は九引きで自摸切り。

その時だった・・・


「ロン。」

要が声を上げ、手牌を倒す。

一一一ポン 111ⅠⅠⅠ七八九九 九(真中切り)


「純チャン、三色の満貫。8000点。」

要はそう言いながらゆっくりと真中を見る。


(一九牌が集まった極端な和了り方だなあ。)

真中は要の手牌を見て感心する。


南二局、要の親。

その時三巡目・・・


「リーチ」

要は静かにリー棒を置く。


要の速攻リーチ。

他の三人は身構える。

・・・しかし、二巡後。


「ツモ・・・リーチ、ツモ、南、チャンタで満貫。4000オール。」

そう言い、手牌を倒す。


123ⅦⅧⅨ九九九南南南北 北(自摸)


(・・・またチャンタ系の役が絡んでるのか。)

真中、ここにきてしばしの思考。

視線を自らの手牌に落とす。


(そう言えば・・・俺が和了った東一局の清一色、あれにはタンヤオが絡んでいた。・・・それだけじゃないな。あの後、東場は結局それ以外の大きな点数の和了りは無かった。)

東場の記憶を辿る。


(思い起こすと、東場中、一九字牌がほとんど来なかったような。・・・そうだ。東場の俺の和了り、4回中3回はタンヤオが絡んでいたじゃないか。異常な偏り・・・。)

真中は視線を上げ、対面の要を見る。


「?・・・どうしたんだい?」

要は真中の視線に気づき、言葉を贈る。


「・・・いえ、何でもありません。」

真中は静かに首を横に振った。


点差

真中 45700

要  46000


真中手牌 (南二局 一本場  西家  ドラ南)

234556ⅡⅡⅡ三三四西 發(自摸)


いつもなら直感で麻雀を打っていた真中だが、この局、手が止まる。


(おそらく、今回の麻雀の不自然さ・・・それを演出しているのは俺の対面にいる王要。俺の直感では三暗刻。しかし、それでいいのか?イカサマなのか偶然なのかは分からないが、奴はチャンタ系の和了りが続いている。それを考慮するなら、序盤から西、發を切っていく方がいいんじゃないか?)


「うーん。」

真中は呻きながら両手を頭の上で組む。


(こうやって考えちゃ駄目だよなあ。勝つ時は勝ち、負ける時は負ける。そういう運命だったってだけの話。ただそれだけの事なんだから。)

真中はため息を1つつき、打四。


この一打から真中の調子が戻る。

次順三引き、打6。

發か西を引けば5と引いた牌待ち。

5を引けば發か西単騎待ち。


「リーチ」

要がリー棒を置く。


そして真中・・・5引き。


(三暗刻は成った。あとは發か西のどっちで待つか。)

真中は一応、捨て牌を見る。

西は捨て牌に2枚。發は1枚


(・・・どうだろう?一見すると、どちらにせよ単騎待ちだから危険度は同じに見えるけど、西はドラ。奴がドラ単騎待ちって可能性もあるわけだ。それならここは上がられても一翻の發で・・・!)


發を切ろうとした真中。

しかし、その時、違和感を感じ、真中の動きがピタリと止まる。


違和感の正体は捨て牌にあった。

(捨て牌に、4枚とも切られている一九字牌が1種類も・・・ない?)


真中は慌てて發を戻す。

そう、4枚切れの一九字牌が1種類としてない・・・それは、誰かにとある役が入っている可能性を示唆していた。


(“国士無双”・・・?)

真中は要を見る。

要は表情を崩さず、ただ真顔で静かに自らの手牌を見つめている。


(・・・仮に、どちらかがロン牌だとしても、13面待ちじゃない限り50%でセーフ。)

真中は發と西を見つめる。


(・・・西は2枚切れでもドラ・・・なら、ここはあえてこのドラを切る。奴も俺が自分の場風牌であり、ドラでもある西を切るはずないと考えているはず。・・・待てよ。)

真中は要の捨て牌の方へ視線をやる。

正確には、そこにあるリー棒に。


(役満聴牌でリーチはしないんじゃないか。となれば、奴の待ちはドラ単騎の可能性もある。ここは發切りだ。裏ドラ次第では大物手になるかもしれないが、大丈夫だ。)

真中、發切りそしてリー棒を手に。


「リーチ」

真中がリー棒を置くのと同時だった。


「ロン」

要が声を上げる。


「真中君、随分考え込んでいたね。」

要が言う。


「悩みました。發と西のどちらを切るべきか。」

真中は答える。


「実に惜しかった。もしも西切りならどうなるか分からなかったのに。」

要は笑みを浮かべながら言った。


「大丈夫です。次で巻き返しますから。」

「次?それは無理かな。」

「え?」


要は手牌を倒す。

19ⅠⅨ一九東西南北白中中 發(真中切り)


「なっ・・・こ、国士無双・・・。」

真中の顔が青ざめる。


「親の役満は48000点だから、真中君のトビで終了だ。」

要は静かに言った。



美麗と真中が帰った後、勝負後の雀卓の前に要がいた。

要はおもむろに次に真中が自摸るはずだった牌を手に取った。


「なるほど・・・紙一重だったのか。」

要はその牌を卓に置く。

その牌は、發だった。


要は携帯電話を手に取ると、美麗に電話を掛けた。






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