日常
「・・・はあ」
真中は大きなため息をつく。
王美麗・・・彼女はあの後「こちらの都合がついたら連絡する」とだけ言い残し真中のもとを去った。
あれから一か月、何の連絡もない。
真中はいつも通り、護城市役所で業務に追われていた。
「・・・終わらねえなあ。」
真中はがっくりと肩を落としながらパソコンの画面を見つめる。
「西塚君、大丈夫かい?」
真中にパソコンの向こうから声がかかる。
向かいの席に座る天川だった。
彼は真中と同い年ではあるが、高校を卒業後、護城市役所に入った為真中よりも多くの経験を積んでいる。
スポーツ万能、容姿端麗、性格も完璧でおまけに仕事もできる。
まさに「完璧紳士」と言わんばかりの超人的な人物だった。
(・・・このスペックの差は一体・・・)
真中はしみじみと思った。
・・・数日後・・・
「・・・うーん、これはマズいなあ。」
天川と真中は真中の机の前で悩んでいた。
天川の手には「特定間伐」と書かれたファイル。そして、真中の机の上には山積みになったCDROMが置かれていた。
前任者が作成したはずの「特定間伐促進計画」という計画書が紛失していたのだ。
真中が今年度の計画書を作成しようとした際に発覚、前任者の安原いわく
「多分、農林課にデータの入ったCDROMがある」とのことだった。
「この中から探すのかよ・・・。」
天川は呆れながらつぶやく。
残念なことにこのCD、全てタイトルがついていない。
「西塚君、しらみつぶしに探すしかなさそうやな。」
「そうですね。」
真中は適当に一枚とると、パソコンに挿入する。
パソコンの画面に「特定間伐データ」と書かれたファイルが浮かんだ。
「え?一発?」
天川は困惑しながら真中を見る。
「おお!当たった。」
真中は大げさにリアクションしながらパソコンを見る。
「西塚君、ホンマに強運やなあ。宝くじとか買えば当たるんちゃう?」
天川は笑顔で真中に賛辞を贈る。
その時、市役所の電話が鳴る。
天川が素早い動作で電話に出る。
「もしもし農林課天川です。・・・はい。少々お待ちください。」
天川は電話の保留ボタンを押し、真中の方に目をやる。
少し動揺しているようだった。
「?」
真中は不思議そうに天川を見る。
「西塚君、独王グループの王美麗さんから電話なんやけど・・・」
課内がざわつく。
真中は電話を受け取る。
「お電話代わりました西塚です。」
いつも通りの穏やかな口調で話す。
「似合わないわねえ。」
電話の向こうから美麗が言う。
「いや、そう言えば連絡先言ってなかったですね。それで、電話をくれたということは?」
「今週の土曜日、午後6時に平和で待ち合わせましょう。それから案内するわ。兄の所へ。」
「待ってました。必ず行きます。」
「そう。それじゃあ、また土曜日にね。」
そう言って美麗は電話を切った。
受話器を置いた西塚は自分に視線が集まっている事に気づく。
「西塚君、凄い人と知り合いなんやな。」
天川が言う。
「偶然会っただけなんですけどね。」
そう言いながら真中は笑った。