平和カップ
投稿が遅くなり申し訳ありません。
つたない文章ではありますが少しでも楽しんでいただければ幸いです。
平和カップ当日
あまり広くない「ピンフ」に集ったのは大学生10人、社会人6人の計16人の参加者とギャラリー達。
もちろん参加者の中には真中もいる。
真中は大会が始まるまでの間、いつも通り麻雀用品を清めていた。
「西塚君、君もようやくこの雀荘の店員になったのかい?」
「今日は絶対に勝って見せますから!」
真中はこの雀荘の常連でちょっとした有名人であるため今日この雀荘に集まった人々とは全員顔見知りである。
そのため、真中に対して話しかけてくる者も多い。
大会のルールはいたってシンプル。
本来この雀荘にある麻雀卓は3卓だが、今日は平和おばちゃんが知り合いに頼んでもう1卓用意した。
そのため、参加者16名がランダムに4人×4卓で半荘1回行う。そして、各卓の上位二人を決める。
そして、またランダムに・・・という風に16→8→4となっていく。
持ち点30000点、赤無し、ダブロンあり、アガリ止めあり、連荘はアガリのみ。
誰かの持ち点が-になればその時点で終了。
優勝者には賞金10000円が進呈される(参加費は1人1000円)
「ごめんよ~、ちょっと通してよ。」
周囲の人と会話している真中の方へやってくる男がいた。その後ろには2人の女性を従えている。
この場にはあまり似つかわしくない白い上下のスーツを着た若い男は真中の前に立つ。
「真中ちゃん、久し振りじゃん~。今日はよろしくね~。」
満面の笑みを浮かべながら軽い口調で真中に話しかける。
「・・・亜斗夢か。久し振りだね。」
少し迷惑そうに真中は答える。
亜斗夢、今年からホストになった真中の同級生(といっても、学部も違うため真中はほとんど知らない。)
おそらく、連れの女性はホストクラブのお得意様だろうか。二人とも厚化粧プラス派手な服装。
「今日も真中ちゃんに勝っちゃうからさ!覚悟してなよ!彼女たちにもいいトコ見せたいしね!」
そう言って真中に背を向けると女性たちと一緒に真中から離れて行った。
「・・・ふう。」
内心少し鬱陶しいと思いながら真中はため息をつく。
苦い思い出。麻雀デビューの日・・・真中は亜斗夢に負けた。
初めて人と打つ麻雀、ルールを覚えたての麻雀とは言え、麻雀を神聖な物と考える真中にとってあのノリの軽い・・・チャラい男に負けた時はかなり歯痒い思いをした。
「さーて!みんなお待ちかね!平和カップを始めるよ!」
雀荘の奥からおばちゃんの声が聞こえる。
おばちゃんの背後にはホワイトボード、前にはガムテープでカッチリ補強された段ボールが置かれている。
「まずは抽選からだね!」
おばちゃんは段ボールの中央に開けてある丸い穴に手を入れ、中から紙を四枚取り出す。
「一組目は・・・山田君、中城君、飯田君、西塚君の4人さ!」
おばちゃんは取った紙に書かれた名前を読み上げる。
それをあと三回繰り返す。
その後、16人はそれぞれの卓に座ると、おばちゃんの号令で一斉に麻雀を始める。
真中の相手は山田、中城、飯田の大学生3人。
彼らは週に1回雀荘に来るかどうかといった感じ。
仲間内で集まって場所代のみのノーレートで麻雀を打ちに来ている。
特に山田と中城は同じグループで雀荘に来ていた。
真中手牌 東場第1局 東家
11366ⅣⅣⅧⅨ西西北白 ドラ:東
真中の第一自摸 北
(四暗刻も面白いんだろうけど・・・直感では鳴きまくって白待ちの対々和だな。)
そう考えて打3。
そこからはやはり直感の通り4鳴きで聴牌、対面の中城の白でロンで3900。
続く1本場
真中手牌
333789ⅠⅢⅣ白白中中 ドラ:6
第一自摸 中
(うーん、ドラが絡んでくる。白、中、ドラ1かな。)
そう考え打Ⅰ。
「何回か西塚さんの麻雀は見せてもらったけど、迷いが無いんだよなあ。」
そういいながら山田打6。
「チー。」
真中がすかさず鳴いて打9。
「おいおい!いきなりドラ切りって・・・。」
中城が顔をしかめる。
「いいじゃんか!俺だっていい手が入ってるんだよ!」
そう言って山田打9。
次順、真中Ⅲを引き入れ、打Ⅳ。
聴牌 白待ち
そして、山田が自摸る。
「よし!あとちょっとだ!」
そう言いながら打1。
「・・・西塚さんも、山田もそこそこ手が進んでそうなんだよなあ。」
中城は少し悩んでから打1。
「頼むぜ!」
飯田が打白。
「ポン!」
山田が大きな声で言った。
「ロン・・・白、中、ドラ1、1本場合わせて8000点だ。」
真中は静かに手牌を倒す。
「かあ~、マジかよお。」
大きく落胆したのは白を出した飯田ではなく、山田だった。
「もうちょっとだったのになあ。」
そう言って倒した山田の手牌
一一一二三四五六白白發發發
「うわあ、満貫手かよ。」
中城も驚く。
それからも西塚は和了り続け、結局・・・真中と中城が勝ち抜けた。
その後、次の準決勝も危なげなく1位で突破した真中。
そして、決勝戦で闘う4人が出そろう。
A卓
1位真中
2位石尾
B卓
1位亜斗夢
2位三輪
決勝戦が始まるまで30分の休憩時間が取られた。
真中は決勝戦に使う雀卓を綺麗に磨いていた。
そこへ、亜斗夢が歩み寄って来る。
「真中ちゃん、やっぱりこの大会・・・優勝するのは俺か真中ちゃんだよねえ。」
麻雀牌を磨く真中の肩に手を掛けながら言った。
「どうした?連れの女の子が一人減ってるぞ?」
真中は適当にあしらう。
「いやあ、やっぱり麻雀の面白さっていうのがイマイチ分からなかったのかなあ?準決勝が終わったころにはいなかったんだよねえ。」
そう言いながら亜斗夢は笑う。
「まあいいや。俺も丁度、亜斗夢にはリベンジしたかったんだ。」
牌を磨き終えた真中は立ち上がると、亜斗夢に向き合う。
「精々、楽しもう。」
そう言って真中はニヤリと笑った。
30分の休憩の後、決勝戦が始まった。
東場第1局 真中西家
真中手牌
12345789北北西白白 ドラ:Ⅰ
(うん。一通、白だろうね。亜斗夢の親を一気に蹴ろう。)
石尾は打二。
「おっ、ポン!」
亜斗夢が鳴いて、打西。
三輪が打三。
「これもポン!」
亜斗夢、再びポンで打西。
三輪、続いて打西。
真中白を引き、打西。
(リーチはかけないほうがよさそうか。)
石尾打Ⅵ。
そして亜斗夢。
「ツモ!タンヤオのみ、500オール!」
そう言い、亜斗夢は真中の方を見ながらニヤリと笑った。
亜斗夢は典型的な「鳴き麻雀」を得意とする。
この「鳴き麻雀」・・・実は真中が苦手とするタイプである。
真中が直感で感じるのはあくまで最速の完成形。
だが、それを完成させる前に和了られてはどうしようもないのである。
先の一回戦で山田が和了れなかった満貫手のようなものである。
「どうよ?俺の麻雀、流石にキツいんじゃない?」
そう言いながら立ち上がり真中を見下ろす。
その背後では、一人の女性が黄色い声援を飛ばしている。
「・・・はあ。」
真中はゆっくりとため息をつく。
その後何とか親を蹴るも、亜斗夢の速攻が功を奏し、ジワジワと点差が開いていく。
そして、東場終了
1:亜斗夢 41000
2:真中 27000
3:石尾 26500
4:三輪 25500
しかし、南場に入って亜斗夢の速攻に陰りが見える。
「あれ?おかしいな。」
亜斗夢の表情が少しづつ険しくなっている。
最初は小さな違和感のようなものだったが、それは少しづつ大きくなっていく。
それもそのはず・・・
何と三連続で流局・・・決勝戦は一気にオーラスになってしまったのだ。
雀荘内もざわつく。「一体何が起きているんだ?」と。
そんな中、ただ一人真中だけが静かに手牌を見つめていた。
そう、この珍事・・・仕組んだのは真中だった。
真中が南場に入った時に感じた直感。
それは「オーラスに逆転の手が来る」というものだった。
真中はそれを信じ、これまでの三局を徹底的に他の3人の和了を封じることにした。
麻雀とは、自分が和了ることより相手に和了らせない事の方がはるかに簡単だとされている。
始めから手を作る気が無かった真中の捨て牌もかなり不気味であり、真中の状況が他の3人には分からなかった。
誰も真中が和了を最初から放棄しているなんて思わない。
「真中は直感で最速手を完成させていく」
その大前提の考えが他の3人のリズムを乱し、この三連続流局という現象を引き起こしたのだ。
だが、この作戦、真中も和了出来ない言わば「諸刃の剣」である。
オーラス 北家
真中手牌
344666ⅥⅦⅨ一一三三
(・・・・・・ああ、そうか。見えた。)
真中第1自摸 Ⅷ
手牌に入れ打Ⅸ。
「くそ・・・どれを切ればいい?」
亜斗夢は迷っていた。
手こそまあまあ速いが、次に来る牌によって速さの度合いが変わる。
本来なら鳴き麻雀はそのリスクを常に背負っている。
しかしこの三局の間、得意の速攻で和了れなかった亜斗夢はすぐに決断できない。
そして、迷いながら打三。
「ポン。」
その弱った気持ちを見逃さない。真中動く。
打3。
「な、何だと・・・」
亜斗夢の動揺、更に広がる。
敵に塩を送ってしまったことと自分の戦い方が信じられなくなったことで自信を喪失。
全てが真中の当たり牌に見える。
結局、悩んで打6。
「待ってた。」
真中は小さな声でつぶやく。
「カン。」
真中がそう言って手牌の6を倒す。
「!?」
亜斗夢の表情はもう崩壊しかけている。
真中はカンドラをめくる。
出て来たのは5・・・つまり、真中の手、ドラ4。
そして、間髪入れず、リンシャンツモ・・・
「ツモ・・・嶺上開花、ドラ4。満貫だ。」
真中はゆっくりとつぶやく。
「え・・・?」
亜斗夢の動きが止まる。そして、いつも通りの笑みを浮かべる。
「真中ちゃん。それじゃあ届かないよ?」
いつも通りの軽い口調も見せる。
「嶺上開花ってツモでしょ?満貫じゃ直撃じゃないと・・・」
そこまで亜斗夢が言ったとき、真中が口を開く。
「責任払いさ。」
「え?」
亜斗夢は言葉の意味が理解できない様だった。
「大明槓のあとの嶺上開花で自摸和了りしたとき、その点数は大明槓を“された”者が全部払うっていうルールがあるんだ。つまり、直撃と同じこと。」
「た、確かに・・・そんな・・・ルールもあったか。」
亜斗夢はゆっくりと雀卓に突っ伏した。
「おめでとう!まあ、おばちゃんはアンタが優勝すると思ってたけどね!」
おばちゃんが賞金を手に真中の下へ歩み寄って来る。
ギャラリー達から歓声が上がる。
「さすがに、ちょっと恥ずかしいな。」
真中は照れくさそうに賞金を受け取る。
「さあ!今日はこれから閉店までは場所代はいらないよ!たっぷり遊んで行きな!」
おばちゃんの大声とギャラリーと参加者の完成で平和カップは幕を閉じた。
その後真中は雀荘を出た。
見ていたギャラリーや参加者たちの注目の的になるのが耐えられなかったからである。
おばちゃんに後片付の時間には戻るといい、少し外で時間を潰そうとしたのだった。
「ちょっといいかしら?」
不意に真中を呼び止める声。
「?・・・何ですか?」
真中は声のした方を見る。
少し離れたところに一人の若い女性が立っていた。
真中には見覚えが無かった。
「えっと、何か御用ですか?」
とりあえず聞く。
「さっきの嶺上開花、狙ってやったの?」
女性はゆっくりと真中の方へ近づく。
(ああ。ギャラリーの方か。)
「ええ、まあ一応は狙ってましたよ。あんなに上手く行くとは思ってませんでしたけど。」
肩をすくめながら答える。
「そう。・・・貴方面白いわね。」
そう言いながら真中のすぐ目の前まで来る。
とても綺麗な顔立ち。見ていて引き込まれそうになる。
「・・・あっ」
真中はこの女性が誰か気づいた。
亜斗夢の後ろにいて、途中でいなくなった女性だ。
あの時は厚化粧をしていて分からなかった。
「あなた、亜斗夢の・・・?」
「ああ、やっと気づいたのね。」
フフッと笑いながら女性は真中から離れた。
「ねえ、この後時間ある?」
女性は真中に聞く。
「・・・少しなら。」
真中はチラッと雀荘の方を向いてから答える。
「話があるの。ついてきて。」
そう言って、女性は歩き出した。
「・・・」
真中は黙ってついていった。
これが、真中の今後の人生を左右する大きな出会いとなることを彼はまだ知る由もなかった。
最後まで読んで下さりありがとうございました!
次の話は少し短くなるかもしれません。