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天命麻雀  作者: 西塚真央
2/6

「雀荘・平和」

今回から(素人ながらですが)麻雀の描写があります。


1~9:萬子

Ⅰ~Ⅸ:索子

一~九:筒子


となっております。

翌日、真中は早速大阪に出かけていた。

彼の唯一の楽しみ・・・それは麻雀であった。


午前8時。

真中が向かう先は自分が通っていた大学のすぐそばにある雀荘「平和ピンフ」である。


大学時代・・・公務員試験に合格し、卒業までの間何をしようかと考えている時、友人の勧めで軽い気持ちで始めたのがきっかけだった。


真中は階段を上って、雀荘の入り口の前に立つ。

ドアには「準備中」の看板がかけてあったが,真中はその看板を裏返し「営業中」の面を表にすると、気にせずドアを開ける。


雀荘の中はいたってシンプル。

部屋の中央に自動雀卓が3台あり、入って左にはカウンターがある。

場所代(半荘1回ずつトップから勝った金額の1割徴収)

レートは自由


「いらっしゃい。そろそろ来る頃だと思ってたよ。」

カウンターに立っていた女性が真中に気づくと大きな声で声をかける。

少し小太り気味のパーマヘアーのおばちゃん、彼女はこの雀荘を一人で切り盛りしており、「平和へいわおばちゃん」の愛称で親しまれていた。


(彼女は「大阪のおばちゃん」の歩く見本みたいなものでとても気さく。この辺りを通る大学生と非常に仲がいい。麻雀を知らない大学生もその中にはたくさんいて、その人たちは店名を「へいわ」と呼んでしまうのでいつからかこの名前で呼ばれるようになった。)


「どうしたん?アンタ、先週よりちょっとやつれたんじゃないかい?」

「平和おばちゃんは元気そうで何より。」

このやり取りは毎週のようにやっている挨拶のようなものだ。真中にとってはあまり嬉しくはないが。


「看板、変えといてくれたかい?」

「ああ、いつも通りに。」


ここの雀荘では、平日の営業時間は決まっているが、休日は大学が休みの為、雀荘の客層の大半を占める大学生が少ない事もあり原則、休日に麻雀をやる場合はやる側が四人ないし三人固まって来るのが通例となっていた。

そのため、その団体が来るまでは雀荘は基本的に閉めている。


「おばちゃん、いつもの。」

真中はそう言いながら、一番手前の雀卓に腰掛ける。


「はいよ。」

おばちゃんは綺麗な布を真中に手渡す。


「ありがとう。」

真中は受け取った布で、雀卓に置かれた麻雀牌を磨き始めた。

一牌ずつ丁寧に磨いていく。


「いやあ、いつも言ってるけど感心だねえ。」

その様子をおばちゃんはカウンターから見つめる。


「案外普通の事だと思うんだけどねえ。」

真中は牌を磨きながら言う。


西塚真中の麻雀観・・・それは「麻雀とは神聖な運の勝負」だということだ。

もちろん、麻雀には捨て牌から相手の手を読んだり、逆に読ませないようにしたりだとか、経験したことは無いが裏の麻雀の世界では「燕返し」だとかいう「裏技」等の技術が重要なのは知っている。


しかし、それ以上に「運」が大事だと真中は考えている。


昨今、麻雀は映画の題材になったりインターネットで大会の模様が配信されるなど、メディア展開がなされてきた。

そこで何度も見た光景。

自らの手牌を一つのミスなくいい形に持って行けたとしても負けることがあるのが麻雀。

異常に運のいい者が役満を先に上がってしまうのが麻雀。


つまり、麻雀はその小さな雀卓上で闘う者の運が揺蕩い、雀界の王である「何者か」が選びし者が勝つ。

そんな聖なる儀式のようなもの・・・それこそが麻雀だと真中は考えていた。

簡単に言えば、「運のいい方が勝つ」。

それが西塚真中の考える麻雀。


真中の価値観からすれば、麻雀牌や麻雀卓は儀式を行うにあたっての神器のような存在である。

それを、これから儀式を行う者が清めるのは至極当然であろう。


「・・・よし、これでオッケー。」

磨き始めて約1時間。

真中は牌はもちろん、卓、点棒など麻雀に使うものは全て綺麗に磨き上げた。


「アンタさ、公務員なんか辞めてうちで働きゃいいじゃないか。」

おばちゃんが、コーヒーを真中の方へ持ってくる。


「それは言えてる。俺は公務員の仕事よりもこっちの方が向いてる気がするし。」

真中は椅子から立ち上がると、おばちゃんからコーヒーを受け取り、雀卓から少し離れる。


「何もそこまですることないんじゃない?」

おばちゃんが笑みを浮かべながら言う。


「まあ、俺もそう思うけど。気持ち的な問題かな。別に他の人にこうしろとは言わないしねえ。」

コーヒーを飲みながら真中も笑みを浮かべる。



数十分後、丁度三人の団体が来た。

真中を入れて四人で雀卓に座る。

各自持ち点30000 ウマ無し テンピン


真中配牌(東一局 西家)

1257ⅠⅠⅢⅤ六北西東東 ドラ:9


(・・・東、三萬鳴いて一通、ドラ1かな。)

真中は手牌を見て思う。


真中はそこから6、9、8と引き入れ三順で、

1256789ⅠⅠ六西東東

とする。


更に3チーで打西。次順に4を引き打六。

そして次順あっさり東を引く。


「ツモ・・・東、一通、ドラ1。13、26」

目を閉じながら静かにそう言うと、手牌をパタリと倒す。


次局

真中配牌(東二局 南家)

3467ⅠⅡ五五中中白發發 ドラ:一


大三元も狙える手牌に見えるが真中は

(多分、發は鳴けない。対々和も無理。・・・白、中、小三元か。)


この局も第1ツモで白を引き対子にし、打3。

白を鳴き、打4。

中を引き、打Ⅰ。

8を引き、打Ⅱ。

そして、五を引き、和了る。


「ツモ。・・・白、中、小三元。満貫で2000、4000」

その後も真中は勝ち続けた。



西塚真中の最大の武器は「直感と運」である。

彼は幼き頃からそうだった。

不意に訪れる直感。そして、それが思い通りになる運を持っていた。


小学生の時自宅で入浴中に(天井が崩れる)と思い浴槽の中に潜った瞬間天井のタイルが剥がれ落ちたり、

例年通りなら募集定員が少なく競合必死の受験や就職試験も(受かりそうだ)という直感の下に受けると、どういうわけか定員割れもしくは採用予定の倍近くの人数を採用するなどという事態が起こる。

(残念なことに就職後はあまり上手く行っていないが・・・)


真中はその能力を麻雀でもいかんなく発揮した。

配牌時に思う最終形の直感と引く牌の運が重なり、この雀荘では負けることはほとんどなかった。

完成形の実現率は約9割にもなっていた。

そのため、テンピンレートであるが、この日の真中の稼ぎは午前9時30分から午後9時30分まで打ち続けて約80000円。


これだけ勝ちまくっている真中が出禁にならない理由は2つある。


1つ目はこの近くにある真中の母校がかなりの「お坊ちゃま大学」であるということ。

つまり、ここに麻雀を打ちに来る者の多くは資金が潤沢にあるのだ。

そして、真中の不思議な(見方によっては理不尽)麻雀は一定の人気があった。(これも言い方によっては見世物的な感じになるかもしれない。)

そのため、潤沢な資金を持った彼らはテンゴやテンピンで真中と対戦し、勝ったというステータスが欲しい。

だから負けたとしても他の客からのクレームがほとんどない。


2つ目はこの雀荘の場所代の1割払い。

基本的に大勝する真中は雀荘に多くの利益を生んでくれる。(おばちゃんはそこまで考えてないけど)

そのため、多少のクレームには目をつむってくれる。



「・・・」

真中は客がいなくなった雀荘で掃除をしていた。


「ご苦労さん。いつもありがとうねえ。」

看板を「準備中」に変えに外へ出ていたおばちゃんが戻ってきた。


「いや、これが俺にとっての麻雀に対する礼儀。俺が打つ日は最後までやりますから。」

そう言いながら真中は笑みを浮かべる。


「あっ、そう言えば・・・今度、こんなものをやろうと思ってるんだけどさ。」

そう言いながらおばちゃんは真中に1枚のポスターを差し出した。


「・・・何これ?」

真中はポスターを見る。


「この雀荘で大会をやろうかと思ってね!名付けて“平和ピンフカップ”さ!いい名前だろう?」

そう言いながらおばちゃんは大きな笑みを浮かべた。














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