突発的ステレオタイプ
【一】
「それは困るがお」
時は2020年、場所は人類の知らない『動物人間』の暮らす地下帝国、日にちはいつからかわからない。まあとにかく、俺様はある病にかかっていたことがわかったんがお。
その病は一般的に、『人間病』と呼ばれるがお。人間病にかかると、五日間も、地上にいる人間という俺様達動物人間の下位互換の生物の姿になってしまうがお。
「それは困ったなぁ…」
時は2020年、場所は病院、日にちは恐らく1週間ほど前からだろうか。まあとにかく、俺はある病を患っているらしい。
その病は一般に知れ渡ってはいないが、医師は『獣人病』と呼ぶようだ。獣人病にかかると、五日間もの間、動物と人間が混ざったような姿になってしまうらしい。
人間というのはあれがお。毛が薄くてカッコ悪いがお。また生えてくるらしいが、それでも嫌がお。五日間の間、人前に出られないではないかがお。
獣ってのはあれだな、毛むくじゃらで自己主張が激しいというか。巷ではケモナーと呼ばれる人達がそういう動物人間を待っているそうだが、残念ながら俺は別にケモナーじゃない。
…そうだ、五日間だけ、人間界に行くか。
…仕方ない、五日間だけ、ニートになるか。
〜人間界〜
住処は自分で作るのが我らの掟、ここでも破るつもりはないがお。幸い、人間の文明には建築物が多いがお。どっかの家に潜り込ませてもらおうがお。
ピーンポーン
「誰かいますがお?」
「はーい」
「おい、人間、ここに住まわせろがお」
「あ、すみません、ポストに入れといて下さい」
ブチッ
「…」
人間の文明の扉など硬いうちに入らない。蹴り壊すこともできるだろうが…
蹴り壊した。
「うおあああああああああああ⁉︎」
医者から聞いていた動物人間、ケモナーの待ち望む獣人が、うちの扉を蹴り壊して家に入ってきた。何故獣人かわかったかというと、頭に猫の耳があったからだ。
「おい、人間、ってあれ?お前、割と毛があるな、でも耳は人間だな、まあいいや、おい、人間」
「ひいいいっ⁉︎」
「ここに住まわせろがお」
俺はその時、あまりに理解できない状況だったので、わけのわからないことを言ってしまった。
「猫なのに…語尾が『がお』?」
「おう、なんか悪いか」
【二】
打ち解けた。
「まあ、何にもしないのはあれだし」
「お?」
「君の世界のことを教えてくれないかな?」
「うーん…それはできないながお」
「何故?」
「一応、こちらの世界を知りたいと言う人物にだけは教えるなと言われているんがお」
「あ、じゃあ俺は禁句を言っちゃったってわけ」
「がお。」
「…じゃあさ、細かいことはいい」
「?」
「今から人間界について話すから、話した内容とそっちの世界を比べてみて、どっちが幸せかを答えてくれないか?」
「おう、任せろがお。でもその前に昼飯」
「はいはい…」
《生活についての質問》
「シチュー食いたいがお」
「へえ、猫っぽくないね」
「まあ、半人だからがお」
「猫を否定しないんだ」
「もちろん『ネコ科動物用』の物も食える」
「食卓とかってあるの?」
「こんなに角ばってはないがあるがお」
「角ばって…?」
「家具の加工には気合が入ってないがお。棒に板をつける形は同じだが、こんな感じの縦カケル横カケル高さの公式で面積がすぐ求められそうな形ではないがお」
「じゃあ家は?どんな家?」
「こっちよりもっと簡素がお」
「高さはどんなもん?」
「10ミグレレン」
「…?」
「10ミグレレン、テグレレンの100倍がお」
「…?」
「服はいつもそんな感じか?」
「がお」
「めっちゃ薄いんだな」
「まあ、半人だからがお、厚いと暑い」
「移動手段は?」
「ムプムッチ」
「何それ」
「二本の線の上を、車輪付きの板で」
「…トロッコみたいなものかな?」
「なんで日本語喋れるの」
「ご都合主義」
《知能についての質問》
「まあ失礼な話だけどそっちの人は賢いの?」
「えってれめーよ」
「おい語尾」
「通称『獣神の数式』という公式があるがお」
「じゅ、獣神…」
「ただ、最近の数学界・量子力学界には新しい発見が少ないようだがお」
「ふーん」
「働くって概念はあるの?」
「あるがお」
「狩りって今もある?」
「今もある?という質問を人間がするとはびっくりだ、人間界でも狩りはあるものだと聞いていたがお…」
「…じゃあ、養殖はある?」
「あるがお」
《環境についての質問》
「地下って暗いの?」
「暗い。というか、わざと暗くしてあるがお」
「わざと?ああ、モグラ人の人とかがいるから?」
「がお。」
「身体能力は高いようだけど、広さは?」
「広い。思う存分走り回れるほどにがお。」
「それって家が小さいから?」
「いや、ただ単に空き地が多い」
「人間は動物に対して、ペットだとか家畜だとか食料だとか観賞用だとか思ったり、思わなかったりするけど、獣人はどう?」
「地下には動物がいないがお」
「あ、そうなの?」
「だからなんとも思わないし、想像できないし、想像しないがお」
「じゃあ、人間が動物に対してさっきみたいに思ってることを獣人側はどう思う?」
「それも、どうも思わないがお」
《どっちが幸せ?》
「さあ、獣人によるがお」
【三】
まあその後は色々あった。見舞いに来てくれた会社の同僚にバレて一騒ぎあったり、謎の機関の変な格好をした奴らからこいつを守ったり、突如起こった人間バーサス獣人の戦争を止めるために立ち上がったり。
まあでも、どれだけ濃くとも120時間、
五日間はすぐに終わっていく。
「じゃ!色々あったけどここでさよならがお!お前との生活、結構楽しかったがお!また会えたらいいな!」
「…ああ。元気でな。」
出会いは衝撃的だった。でも、別れは随分とあっさりしていたな。…向こうからすれば出会いもあっさりだったのかもしれないけれど。
「さて、仕事いくかー」
「あ、戦争で営業停止中だったっけ」
《最後の質問、お前今幸せ?》
「さあ…ただ、これだけは言える」
「俺はケモナーになる」
その後、獣人界と人間界は平和条約を締結し、
交通機関も発達して行き来が可能になった。
さあ、行くか、獣人界。
俺のネコ萌えは止まらねえぜ…!
〈突発的ステレオタイプ/終わり〉ケモナー歓喜。