憂さ晴らしの「さ」
「さよなら」
そう、別れの言葉を告げたのは、何もあなたを突き放すためではなかった。「今から私は立ち去ろうとする、だからそれを引き留めてね」というメッセージを込めた言葉だったのだ。
それなのに、呆然と見つめるだけのあなたに、「この人は、自分のために嘘は吐けても私の為には嘘すら吐こうとしないのね」と何度めかわからない絶望を感じた。
「だから言ったじゃない」
その呆れを含んだ声色に、身勝手にも腹を立てそうになったが、彼女には悪意がないことはわかっているので、ぐっと堪えた。悪意どころか、ずっと気にかけて心配してくれた友人を、感謝はすれどどうして憎むことができようか。
「だって好きだったんだもん」
彼女からの忠告を再三無視し、彼と恋仲になったのは私の選択。恋は盲目、あばたもえくぼ。それでも「好き」では覆い隠せない程、彼は私を裏切り、悲しませ、引き留めもしなかった。
「馬鹿だなあ」
じわりじわりと視界が滲み、下を向いた時に降ってきた言葉は、その意味には似つかわしくないくらいに優しくて慈しみに溢れていた。その優しさと慈しみに背中を押してもらった所為で、私は往来にも関わらず、年甲斐もなく大泣きする羽目になったのだった。
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「ば」に続きます。次は「あたし」のターン。




