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第十八話 親友との食事

 日曜日になると僕は親友の健二と一緒に、国道沿いにある回転寿司の店に来ていた。


 健二は回転寿司を奢ってくれると言ったので、僕も断らなかった。ま、焼き肉の方が良いという本音は口にしなかったけど。


 そして、昼時と言うこともあってか、店にはお客さんがたくさんいた。待っている人が店の外にまで溢れているくらいだから。

 

 これなら、本当に焼き肉か、ステーキハウスにした方が良かったかも知れない(二つとも同じ国道沿いにあるし)。

 

 僕たちは照りつける日差しの下で、ひたすら順番が来るのを待つ。太陽の日差しもだんだんきつくなってきたな。

 

 自分の世界でも着実に夏が近づいている。

 

 今年の夏は自分にとって有意義なものになるだろうか。いや、なるだろうか…じゃなくて、なるようにしなきゃならないんだ。

 

 母さんも浪川君も、僕を見て変わったと言ってくれている。なら、僕も意識して、良い方向に変われるよう努力しないと。

 

 少なくとも、自分が変わったことに気づけない内は、本当の意味で変わったとは言えない気がするし(自覚ない変化は、危うさを招く時もあるのだ)。

 

 とにかく、まだ時間はある。だから、どんな事でも良いから、もっと真剣に取り組んでみよう。

 もちろん、世界など関係なしに…。

 

 そんなことを考えながら、待つこと三十分。

 

 僕たちはようやく涼しさを感じさせる店内のテーブル席に座ることができた(店内は凄い混みようだった)。

 

 僕と健二は待ってましたとばかりに、回ってくるお寿司の皿を片っ端から取っていく。僕が好きなのはオニオンサーモンなので、それをいっぱい食べた。

 健二もお金を出すのは自分だからと言って、中トロや特上アナゴなどをどんどん注文する。僕は奢って貰う立場なので、高いお寿司はあまり注文しなかった。

 それから、お腹が一杯になると、僕と健二はデザートのケーキを食べながら、ゆっくりとお茶を飲む。

 

 すると、健二がどこか懐かしさを感じているような表情で口を開いた。


「久しぶりに回転寿司の寿司を食ったな。特に好きなアナゴは食い過ぎちまった」


 健二はお茶を飲みながら満足そうな顔をする。その腹には僕が食べた分の三倍以上の寿司が詰まっているのだ。

 こんなにたくさん食べるから健二はいつも太っているんだろうな。でも、健二は丸顔なので、痩せても相撲取りのような顔は変わらないと思う。

 

 とはいえ、いつまでも若いと思ってドカ食いをしていると必ず体を壊す。普通に食べてる僕だって血糖値が高いって言われているんだから。


「僕も回転寿司は久しぶりだよ。でも、前に食べた時よりも美味しく感じられたし、回転寿司も日々、進歩しているってことかな」


 父さんが元気だった頃は回転寿司にも一ヶ月に一度くらいは行ったんだけど。でも、あの頃のような家族の幸せは二度と戻らない。


「かも知れないな。最近の回転寿司は侮りがたい」


 健二はお茶を飲み干すと、唸るように言った。


「でも、健二は東京の大学に通ってた頃は、普通の寿司屋にばっかり行ってたんでしょ」


「ああ」


「高かったでしょ」


「そりゃな。だけど、文句なしに旨かったよ。その代わり、回転寿司の何倍も金を取られたが」


 健二の家は裕福なので、大学時代は相当な仕送りを貰っていたらしい。東京で借りていたマンションの部屋も豪華な物だったし。


 僕も地元ではなく東京の大学を選んでいたら、中退しなくても済んだかも知れない(病気にもならなかったかも知れない)。


「僕は普通のお寿司屋さんに入ったことなんて一度しかないよ。確か高校の入学祝いの時だったと思う」


 あの時は大トロとか、アワビも食べたな。でも、その味は完全に忘れてしまっている。


「そうか。でも、回転寿司の寿司もホント悪くないぜ。この味で、この値段じゃ普通の寿司屋が対抗できないのも分かる気がするな」


「そうだね。この辺に普通の寿司屋なんてないからね。みんな潰れちゃったのかな」


 あるのは宅配寿司だけだ。

 

 僕の町では小さな店はやっていけないんだよな。寿司屋に限らず個人の小さな店はどんどん潰れていくし(チェーン店ばかりが幅を効かせている)。


「分からん。ま、東京には寿司に限らず、食い物の旨い店がいっぱいあったけどな。俺も大学生の時は良く食べ歩きをしたし」


 僕も東京には何度か行ったことがある。高校の頃は体験入学をするために、東京の大学に足を運んだし。

 でも、本気で見て回った東京の町は秋葉原くらいだな。秋葉原ではゲームのソフトやアニメのグッズなんかを買ったから。

 

 ちなみに、あの頃はメイド喫茶なんてものは、日本には影も形も存在してなかったので、今、あるなら行ってみたい気もする。


「僕も東京に住んでみたいな」


「機会があったら、そうしてみろよ。何か分からないことがあったら、俺が何でも教えてやるからさ」


「うん」


 健二の言葉はいつになく頼もしく聞こえた。


「にしても、俺が大学を卒業してからもう十年以上が経つんだな。時が過ぎるのは、本当にあっという間だ」


 健二はお茶をすすりながらしみじみと言った。


「健二は何か将来のプランがあるの?」


「将来って言うほど、俺たちはもう若くないだろ。でも、市役所を退職したら、ラーメン屋でもやれれば良いと思ってるよ」


「本気?」


 絶対に失敗すると思う。特に僕の町はラーメン屋がそこら中にあって、激しい戦いを繰り広げているから(ラーメン屋は目まぐるしく、潰れたり、開店したりしている)。


「いや、冗談だ。たぶん、親の面倒を見るくらいしかやることはないんじゃないか。どうせ、結婚はしないわけだし」


「しないんじゃなくて、できないんでしょ」


 僕は揚げ足を取るように言った。これには健二も頭を掻いて苦笑する。


「その通りだな。でも、俺の友達や知り合いにも結婚してない奴はいっぱいいるから、別に気にすることはないだろ」


「それもそうだね」


 僕も自分の友達が結婚したという話は聞いたことがない。ひょっとしたら、僕たちの世代は結婚できない世代なのかも知れない。


「で、お前はどうするんだ。何かプランがあるなら聞かせて貰おうじゃないか」


「僕はまだ何もないよ」


 僕は弱々しい笑みを浮かべながら零す。でも、心の中では必ず自分のやるべき事を見つけてやると意気込んでもいた。


「大学は中退、まともな仕事をした経験もない、親は介護を必要としている。これじゃあ、この先、真っ暗だとしか言いようがないぜ」


 健二は歯に衣着せぬ物言いをする。でも、不快にはならなかった。


 普通の人だったら、当たり障りのないことしか言わないからな。うるさく言ってくれる内が花とは良く言ったものだ。


「分かってるよ」


「いいや、分かってない。お前、親が死んだらどうするつもりなんだよ」


 健二は強い口調で尋ねてくる。


 確か、亮にも同じことを言われたな。やっぱり、今の僕の現状を知っている人は同じことしか言わないのか。


「どうするって言われても、今の状況じゃ答えようがないよ」


 僕は言い淀む。


「年金だって納めてないんだから、無収入になっちまうぞ。…まあ、遺族年金みたいなものもあるとは聞いてるが」


「年金のことは、僕も良く知らないんだ。でも、母さんはお金のことは心配しなくて良いって言うんだよ。何とかなるみたいだし」


 母さんの言葉は信じているけど、不安がない訳ではないのだ。でも、母さんは嘘を吐かないので、何か手があるのだろう。


「本当か?」


「たぶん」


「なら良いんだ。でも、生活保護なんて宛てにしたら駄目だぜ。これは市役所に務めている人間からの忠告だ」


 確かに生活保護には頼りたくないな。


「そうだね。でも、生活保護を受けなきゃならないなら、母さんだって例え嘘でも大丈夫だとは言わないはずだよ。だから、本当に何とかなるんだと思う」


 僕が真剣な顔で言うと、健二も「そうか…」と零して口元を綻ばせた。


「ま、俺はとりあえず夏のボーナスが入ったら新しい車を買うぞ。弟が自動車会社で働いてるから車を買い替えろ、ってうるさいんだよ」


「そうだったね。でも、今、乗っている車だって十分、良いやつじゃないか」


 健二の弟は世界一、有名な自動者会社で働いているのだ。その給料は健二の二倍、近くはあるらしい。


「それは言ってくれるな。車を買い替えるのは男の甲斐性みたいなものだからな」


「甲斐性ねぇ」


 結婚を諦めている健二に男の甲斐性を語られたくはないな。


「ああ。それに、幾ら金を貯めても、車くらいしか買う物がないのもまた事実だから別に良いのさ」


 健二はこれといった趣味を持っていないからな(その分、食べることに情熱を注いでいる)。


「僕は車には乗らないから、その気持ちは分からないよ」


 僕は典型的なペーパードライバーだ。


「お前だって免許は持ってるんだし、乗ってみろよ。まさか、一度、事故を起こしたくらいで、もう車に乗るのが怖くなっちまったのか?」


「そんなところだよ。それに事故を起こすと免許の更新の時に、講習を受けなきゃならないだろ。それがまた面倒くさい」


 事故を起こした時は、なぜか保険の適用が効かず車を直すのに五十万円も取られた。そのせいで、僕は車に乗るのがすっかり怖くなってしまったのだ。


 バイクも母さんからは乗るなって言われているし。だから、いつも電車やバス、タクシーに頼らなければならない。


「それはあるな。でも、車に乗らないって言うのは、人生をかなり損してるぞ」


「かもね」


「やっぱり、俺はお前の将来が不安だよ」


 健二は老人のように苦笑した。


「僕だって不安だよ。だけど、今は父さんの介護を優先する生活を継続するしかないんだ…」


 僕は自分でも逃げているなと思いながら言葉を続ける。


「言ったら悪いけど、何か始めるなら、それは父さんが死んでからだ」


 父さんの介護から解放されれば、やりたい事もきっと見つかると信じている。でも、それはいつになるか分からないし、今はやるべき事をきちんとやろう。


(思うところは色々あるけど、今は父さんの介護に真剣に取り組みたいと思える…)


「その時には手遅れになってなきゃ良いけどな」


 そう言うと、健二はまたお寿司の注文をし始める(あれだけ食べたのに、まだお腹に寿司が入るのか)。


「大丈夫。人生をやり直すのに遅すぎると言うことはないよ」


 僕は達観したような顔で言った。


「そう願いたいもんだぜ」


 健二も窓の外に広がる青空を見ながら笑った。


 その後、僕は健二の運転する車で家に帰って来る。今日は日曜日だし、この時間帯は特にやることもない。

 なので、すっかり習慣になってしまったように異世界に行って、踊る子鹿亭へと足を運んだ。


(踊る子鹿亭は僕にとって心安らぐ居場所になりつつある…。でも、同時に精神的な辛さから逃げる避難所にもなっているようで、その辺は心苦しかった)


 すると、そこにはシャロンがいてハンバーグを食べていた。ただ、ミリアの姿はない。代わりに床のモップがけはダンツさんがしていた。


「ミリアはどうしたんですか?」


 僕はモップでゴシゴシと力強く床を擦るダンツさんに尋ねた。


「今日は市場が開かれる日だから、買い物に行ってるよ。だふん、もうじき戻って来るんじゃないのか」


 僕も市場にはまた行ったことがなかったな。

 月に何度か開かれるという市場は大変な賑わいを見せているみたいだし、足を運んでみる価値はありそうだ。


「そうですか。じゃあ、コーヒーを一杯、お願いします」


 やっぱり、僕はお茶よりもコーヒーの方が好きだ。


「おう」


 そう返事をすると、ダンツさんはモップを壁に立てかけて厨房に消えた。それから、僕はシャロンの隣の席に腰を下ろす(離れた席に座るのも、無視するようで気まずいからな)。


「調子の方はどう、ナオヤ?」


 シャロンは僕を横目に尋ねてきた。


「悪くないよ。邪教徒たちの集会場も見つけられたからね」


 冒険者ギルドからも報酬を貰った。これで当分、食べる物には困らない。


「アタシも同僚の騎士たちと見つかった神殿には行ったよ。でも、あんな立派な神殿が地下にあるなんて思わなかったな」


 シャロンは付け合わせのポテトを咀嚼しながら言った。


「そっか。それで、これから先、邪教徒たちが集まるのは防げそうなの?」


「分からないよ。ああいう連中は例えどんなに厳しく取り締まっても必ず抜け道を見つけ出すから」


「でも、邪教徒たちは邪神バルファザの復活は近いって言ってたよ。それには何か手を打たないの?」


 もし、邪神バルファザが復活したら、この王都だけではなく世界中が大変なことになりかねない。


 ラスブレの次回作でも、最後のボスはバルファザになるみたいだし(ついにバルファザとの決着がつくと、ゲーム雑誌には載っていたからな)。


「アタシのような見習い騎士には、そんな重要なことは分からないって。ま、この話は王宮にまで伝わってるから、責任ある人は必ず動くでしょ」


「ふーん」


 そう思いたいけど。


「でも、みんな邪教徒たちのことは甘く見てるみたいなんだよね。邪神バルファザの復活に関しても、どこまで真剣に受けとめてくれているか」


 シャロンは歯痒そうに言った。


「頼りないなぁ」


 もっと危機感を持ってよと言いたくなる。

 こっちは、危ない思いをしてまで地下神殿に行ったんだから。それを無駄にして貰っては困る。


「まったくね。この王都にいるお偉いさんたちは、裏で邪教徒たちに懐柔されてるんじゃないかって思っちゃうよ。だから、対応が鈍いって言うか」


 その辺のことはダンツさんも示唆していたな。


「まだ若い女の子が生け贄に捧げられてたって言うのに」


 僕の世界だったら大騒ぎになってたぞ。


「それはアタシだって許せないわよ。人間を生け贄にしようとする儀式なんてとうの昔に途絶えたと思ってたんだから」


 シャロンは怒りを覗かせた。


「それを聞いて安心したよ。人間の命を犠牲として要求する神なんて、古今東西、ロクな奴だった試しがないからね」


 僕はキリストが生まれる時代よりも前にいた古代の神々のことを思い起こしていた。


「その通りよ。でも、王都で若い女の子が度々、失踪しているって話は、前からあったみたいなの。なのに、それは騎士団でも重い事実として扱われていなかったみたい」


 シャロンは悔しそうな顔で言った。


「騎士団がそんな態度じゃ、解決できる事件も解決できないよ」

 

 騎士たちの中にも邪教徒の回し者がいるんじゃ…。


「そうだね。まあ、失踪したのは、みんな貧しい家の女の子たちみたいだし」


 シャロンは苦々しい顔で言葉を続ける。


「だから、きっと騎士団を動かす権限を持ってるお偉いさんたちも、女の子たちは人買いにでも売られたと思ってたんじゃないの」


「それはそれで大変なことだと思うけど」


 僕の言葉にシャロンは複雑そうな顔で首を振った。


「この国じゃ人身売買は嫌われてはいるけど、禁止されてる訳じゃないから。だから、異国の人買いに売られたりしたら、行方を掴むのはまず無理ね」


「この世界も殺伐としてるんだな」


 いや、そういう商売は僕の世界でもあるはずだ。ただ、日本にはないだけで。


「まあね。だけど、殺伐としてるくらいじゃなきゃ騎士団の出番もないからね。平和すぎると困る人が出て来るのも、また現実だよ」

 

 シャロンの言葉は皮肉ではなく単なる事実のようだった。でも、すぐにシャロンはハッとする。


「って、今の言葉は無しね。王都の平和を守る騎士が、事件が起きることを望んでいるようなことを言ったら駄目だし」


 シャロンはブンブンと首を振った。


「確かに、シャロンにはちょっと言って欲しくない言葉だったかな」


 シャロンにはいつもこちらの胸が透くような正義感を持っていて欲しい。


「だよね。アタシもこの暑さで、気が緩んでるのかなぁ」


 シャロンは首筋の汗を拭うと、キリッとした目をして言葉を続ける。


「とにかく、ナオヤもいい加減、この世界の現実に慣れなきゃ駄目だよ!綺麗なところばかり見ようとしていると足下を掬われるよ!」


 シャロンはそう檄を飛ばすように言うと、手にしていたフォークの先をピシッと僕の鼻先に突きつける。


「肝に銘じておくよ」


 僕はシャロンの剣幕に少し押されながら言った。


「よろしい」


 シャロンは一転して笑うと、更に口を開く。


「ま、綺麗事を貫き通さなきゃならないのが騎士の本分だし、アタシも世間を斜めから見るようなことは止めるよ」


「それは僕も心懸けてることだよ。物事を斜めから見るような態度は、必ず自分を不幸にするからね」


 それは僕も身を持って経験したから良く分かる。

 

 だからこそ、今の僕は真っ直ぐに夢や理想を追い求められるように努力している。辛い現実に直面した時、最後に人間を支えるのはやっぱり自分の心だと思うから…。

 

 その心は日頃から培って置かなければならない。

 

 あの浪川君も信じる心は自然に生まれるものではなく、自らの意思で培わなければならないものだと言っていたからな。

 

 心を培うことの大切さは僕だって知っているのだ。

 

 だから、知っていて何もしないと、ひょっとしたら、その心は何らかの罪を犯させるかも知れない…(浪川君はそう危惧していた)。

 

 僕も自分の心には常に注意を払わないとな。

 

「さすが、ナオヤだね。いつでも良い心を持つことを忘れてないじゃないの」


「そう手放しで褒められると恥ずかしくなるよ」

 

 でも、そう言ってくれる人がいるからこそ、僕も人の道を踏み外すようなことは絶対にできないと思えるのだ。


 一方、僕の様子を見ていたシャロンは少し嫌らしそうに笑う。


「そんな、なよなよした顔をしないの。男の子でしょ」


 この言葉には僕も面食らう。


「分かってるよ」


 まるで母さんみたいなことを言うんだな。


「だったら、もう余計なことは考えずに、目標に向かって邁進することね。そうすれば、きっと満足するような結果は返ってくるわよ」


 シャロンは勢い込むように言葉を続ける。


「少なくとも、アタシの人生はそうだったし」


 シャロンのその清々しい言葉に、僕は目を細めたくなるような眩しさを感じた。

 

 すると、ダンツさんが計ったようなタイミングでコーヒーを運んできたので、僕もそれに口を付ける。


「なら、僕もシャロンを見習って頑張るよ」


 僕はコーヒーを一口、飲むとそう言った。


「そう来なきゃ」


 シャロンも弾けたように笑う。


「うん。僕だってシャロンやみんなの期待は裏切りたくないからね。やる時はやるさ」


 僕は自信を覗かせながら言った。


「言ってくれるね。やっぱりナオヤは何があっても人として輝いてるよ」


 そう言うと、シャロンは僕の肩を何度も叩く(これが、ちょっと痛かったりする)。


「煽てたって何も出ないよ」


 それは、いつかの言葉のお返しだった。


「分かってるわよ。でも、暇な時はアタシの買いものに付き合って欲しいな」


 シャロンは指をモジモジと組む。


「それってデートのお誘い?」


「さ、さあ。だけど、そう思ってくれたら、やっぱり嬉しいかな…」


 そう言うと、項を赤くしたシャロンは僕から視線を逸らしながら、コップの水をゴクゴクと飲み干した。


《第十八話 親友との食事 終了》


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