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第十話 冒険者ギルド

 僕たちは踊る子鹿亭を出ると、王都の通りを歩き始める。


 王都は広いし、ラスブレの知識があっても、迷わずに冒険者ギルドの建物まで辿り着ける自信はなかった。

 なので、ミリアやシャロンがいるのはありがたかった。

 

 僕は暑い日差しの下を歩いていく。

 ミリアは涼しそうな薄着だったが、騎士の制服を着ているシャロンは顔から大粒の汗を垂らしていた。

 シャロンの剣や盾は重そうだからな。でも、買い物袋のように代わりに持ってあげるということはできそうにない。

 騎士にとって、剣や盾は命の次に大切な物だとラスブレの騎士は言っていたからな。それを手放させるわけにはいかないだろう。

 

 一方、ルーティは暑苦しそうなローブを着ているが、汗は全く流していない。それを見た僕はルーティが普通の人間とは違うことを改めて理解した。

 とはいえ、ルーティも悪い人物ではなさそうなので、同行させても問題はないだろう。ドラゴンのドゥルークは相変わらず惚けた顔をしているけど…。

 

 そんなことを考えながら歩いていると、石造りの大きくて頑強そうな建物が見えてきた。

 どこか公共性を感じさせる建物だ。僕の世界の町にある市役所に通じる雰囲気があるし、他の建物とは一線を画すような立派さがある。

 

 とにかく、あれが冒険者ギルドの建物か。

 

 僕はギルドの建物から発せられる迫力に、圧倒されながらその中に足を踏み入れる。意地を張って、一人で来なかったのは正解だったかも知れない…。

 

「なかなか立派な造りをしてるな。赤いカーペットまで敷かれてるなんて、まるでどこかのサロンみたいだ」


 僕のいる入り口に面した広間にはたくさんの男、いや、冒険者たちがいて、立ったまま談笑していた。


 大きな掲示板の前にも冒険者たちの人集りができていて、ところ狭しといった感じで貼り出されている紙を眺めている。

 おそらく、掲示板の紙には斡旋されている仕事の内容が書かれているのだろう。これだけの仕事があれば、僕が引き受けられるようなものも必ずあるはずだ。

 

 他にも広間には革張りのソファーやテーブル、本棚や観葉植物などもあった。

 

 本物のサロンとまではいかなくても、それなりにくつろげる空間にはなっているようだった。


「でしょ。騎士団の詰め所もこれくらい立派ならなってアタシも思っちゃうよ」


 シャロンは愉快そうな顔で言った。


「私もギルドには食料系の仕事を依頼するために何回か入ったことがあります。でも、怖い男の人が多くて、気圧されてしまいましたね」


 ミリアは首の汗を拭いながら言葉を続ける。


「何だか、お父さんが初対面の人に怖がられる理由が分かった気がします」


 そう言うとミリアは男たちが所持している武器に目を向ける。


 男たちの武器を扱う技量はどうあれ、本物の剣や斧なんかを見せられると物騒なものを感じてしまうな。

 

 ここが日本だったら、確実に銃刀法違反で警察に捕まっているはずだし。


「確かに、武器を持った男たちがこんなにたくさんいると、やっぱり、女の子は怖くなっちゃうよな」


 僕だって怖いくらいだ。間違っても、誰かとぶつかって因縁を付けられたりしないようにしないと(ざっと見た感じでは、この場に僕たちのような子供の姿はなかった)。


「アタシは全然、平気だけどね。この程度の空気に怯んでいるようじゃ、犯罪者も取り締まってる男の騎士たちの中にはいられないし」


 シャロンは自負を感じさせるように言った。


「シャロンは強いなぁ」


 僕の言葉にシャロンが口の端を吊り上げる。


「そうでしょ、そうでしょ。アタシも男たちの血と汗と涙はたくさん見てきた人間なのさ」


「でも、それは私も同じですよ。宿では色んな冒険者の方のお世話をしましたから」


 ミリアも少しだけ対抗意識を見せるように言った。


「私は何も怖くない。ここにいる連中は見かけ倒し」


 ルーティは相変わらず涼しそうな顔で言った。


「そうなの?」


 僕は男たちの筋肉を見て、かなり強そうだと思っていたけど。


「そう。本当に強い人間は、こんなところには来ない」


「そっか」


 凄い力を持った魔法使いに違いないルーティが言うと、かなりの説得力があるな。


 一方、ドラゴンのドゥルークはルーティの肩に止まったまま寝ていて、この場の緊張感とは無縁そうだった。


「アタシも小さい頃は冒険者に憧れてたんだけどね」


 シャロンはしょっぱそうな顔をする。


「何で冒険者にならなかったの?」


 僕がそう尋ねるとシャロンは昔を懐かしむような顔をする。


「八年くらい前に死んだお爺ちゃんが騎士団の団長をしてたから」


 シャロンはポツリと言うと言葉を続ける。


「でも、お父さんは大のギャンブル好きで、お爺ちゃんが残してくれたお金をあっと今に使い尽くしちゃったの」


「へー」


「だから、家計が厳しくて、厳しくて」


 やっぱり、シャロンも苦労してきたんだな。


 いつかその苦労が報われると良いし、そのギャンブル好きの父親には僕もきつくお灸を据えてやりたい。

 ギャンブルは自分だけでなく、家族や友人まで不幸にするぞと言って。

 

 現に僕の父さんがそうだったからな。ギャンブルさえやらなければ、父さんも人に誇れるような人物だったんだけど。


「なるほどね。ギャンブルの怖さはどこの世界でも変わらないって訳か」


 僕は納得したような顔をした。


「そういうこと」


 シャロンも僕の意見に追従するように言って、小笑いした。


「私のお父さんも傭兵の仕事をしていた頃は良く賭博場に足を運んでいましたね」


 ミリアは過去を思い起こすように言った。


「傭兵ね」


 僕は傭兵をやっていた頃のダンツさんの姿をイメージしてみた。


「そうです。だから、今でもあんな逞しい体をしていて」


 ミリアの言葉に僕も頷けるものを感じていた。


「僕もダンツさんは戦いに関係した職にも就いていたんじゃないかって思ってたよ。宿屋の仕事だけじゃ腕にあんな筋肉は付かないはずだから」


「はい。でも、宿屋を営んでいたお母さんが亡くなってからは、私を一人にするわけにはいかないって言って、すっぱりと傭兵の仕事を辞めました」


 ダンツさんにとって、それは人生の転機だったんだな。


「そして、今みたいに宿屋の仕事をしてくれるようになったんです」


 ミリアは「賭け事も止めてくれました」と付け加えるように言って、微笑した。


「そんな事情があったんだ」


 ダンツさんは娘思いなんだな。でも、ミリアの方もダンツさんのことを本当に大切に思っている(姿こそ似てないが、理想的な親子と言っても良いのかもしれない…)。


「はい。お父さんには悪いんですけど、傭兵の仕事を辞めてくれたことは、私にとっては何よりも嬉しくて…」


 ミリアは家族の持つ温かさを感じさせるような声で言った。


「その気持ちは分かる気がするよ。やっぱり、自分の家族が危険な目に遭っていると思ったら気が気じゃないし」


 僕も父さんがお婆ちゃんから借りたお金を持って、家出した時は本当に心配したからな。

 どうせ競輪とか競馬を楽しんでいるんだろうなと思ったけど、それでも子供だった僕は心配でたまらなかった。

 だから、神様にも「父さんが早く帰ってきますように」と祈った。

 

 そしたら父さんはすぐに返ってきた(もちろん、母さんはカンカンに怒ったけど)。

 

 今にして思えば、神様に祈って、良い結果が待っていたのはこの時だけだと思う。その後は幾ら祈っても、裏切りの連続だった…。

 

 それでも、大切な家族のためなら、嫌いな神様にも祈ってしまう。それが人間の弱さだ。でも、そんな弱さも今は愛おしく思える(なりふり構わず、家族のことを大切にしているわけだからな)。

 

 とにかく、家族の誰かが危ない目に遭っているかも知れないと思う不安は僕にも推し量れるのだ。


「そうなんです。だから、こういう場所に来ると昔のお父さんを思い出してしまって…」


 ミリアは昔の不安が蘇ったような顔で言った。


「でも、傭兵から宿屋の主人になるなんて、ダンツさんも大変だっただろうな。全く違う仕事をしなければならなくなった訳だし」


 仕事を変えるっていうのは、決して簡単なことではないはずだ。


 僕の父さんも長年勤めていた会社を辞めて、他の会社の仕事に着いたことがあるからな。だから、僕もその苦労を少しなら知っている。


「ええ。でも、亡くなったお母さんが残してくれた、たくさんの料理のレシピが役に立ってくれましたから。あれがなかったら、正直、ウチの宿は潰れていたかも知れませんね」


 ミリアはホロッとした顔をする。

 

「だとすると、あの美味しいグラタンも、ミリアのお母さんが残してくれたレシピの賜物って訳か」


 僕もそれならもっと積極的に色んな料理を食べてみようかなと思いながら笑った。

 

 すると、シャロンが目を忙しなく動かしながら声を上げる。


「何か周りからジロジロ見られ始めたし、立ち話はそれくらいにしておこうよ」


 シャロンは周囲の大人たちの視線を気にしながら、カウンターの方を指さす。


「ナオヤだって冒険者になる大事な手続きをしなきゃならないんだから、さっさとカウンターの方に行った、行った」


 シャロンがそう急かしてきたので、僕は広間の一番、奥にあるカウンターに行った。そこで受付の女性に話しかける。


 すると、必要事項を記入する紙を渡された。でも、書かなくても良いところが多かったので、それには助けられた。

 ミリアも僕の身元引受人のような人間になってくれたし。

 

 ま、冒険者なんて職業になろうとする人間は、真っ当な人間ではないことが多いと聞いている。

 それが分かっているからこそ、ギルドの方もあまりうるさいことは言わないのだろう。

 

 僕は受付の女性に二万五千ナディルを払うと、正式な冒険者の証明になる手帳を発行して貰った。

 これで僕も本当に冒険者になったということか。何だか血が騒ぐな。

 

「手帳はなくしたら駄目だからね、ナオヤ。また発行して貰うには、お金がかかるし」


 シャロンはそう言い聞かせてくる。


 再発行のことについては、紙に書いてあったのでちゃんと知っている。冒険者手帳を守るのも冒険者の仕事だ。

 

「分かってるよ。でも、身元引受人になってくれてありがとう、ミリア」


 僕もミリアには頭が下がる思いだ。だから、この恩は必ず返さなければと思う。例え、ミリアがそれを望まなくても…。


「気にしないでください。たいしたことではありませんから」


 ミリアは全く嫌な顔をしない。本当にできた女の子だ。


「そう言ってくれると助かるよ」


「いえいえ」


 ミリアは苦笑する。


「このお返しは必ずするから」


「駄目ですよ。私はナオヤさんに助けられた恩を返すためにここに来たんですから」


「そうだけど」


「だから、これで貸し借りは無しってことにして置いてください」


「分かったよ」


 そこまで言われたら僕も引き下がるしかないな。


「でも、ミリアに迷惑をかけないためにも、問題は起こしちゃ駄目だからね」


 シャロンは僕の鼻先に指を突きつけながら言葉を続ける。


「アタシもナオヤが何か悪いことをしたら、騎士として黙っていられないし」


「大丈夫だよ。悪いことは絶対にしない」


 僕は目力を強くして言った。


「うん。ナオヤならそう言ってくれるって思ってた」


 シャロンはすっきりしたような顔で笑う。こんな笑顔を見せられたら、死んでも悪いことなんてできないな。

 それに、こういった信頼を背負うのは嫌いじゃない。


(この世の中には実に様々な荷がある。どの荷を背負っていくかで、人生の行き着く先も変わる。

 もちろん、どの荷を背負うのが人生にとっての正解かは、後になってみなければ分からないけど…。

 でも、僕は自分が背負わなければならないと信じた荷を背負って生きていきたい。そうすれば、例えどんな結末が待っていても、受け入れられるはずだ…)

 

 とはいえ、現実には冒険者なんて職業は綺麗事だけじゃ、やっていけないと思う。ま、綺麗事が通じなくなるようなら、冒険者なんて止めてしまおう。

 ミリアたちの信頼を裏切ってまで続けるような職業じゃない。

 

 誘惑の多い世界に思えるけど、真に大切にするべきものは見失わないようにしないと…。

 

 でないと、この世界でも耐えられないような苦痛を味わうことになる(その苦痛を味わうのが僕だけならまだ良い。でも、ミリアやシャロンにはそんなものは絶対に味あわせたくない…)


「ナオヤ、あっちを見て」


 ルーティが後ろから僕の服の袖を引っ張った。


「どうしたの、ルーティ?」


 僕は訝るような顔をする。


「あっちで誰か困ってる」


 ルーティは持っていた杖で、広間の隅を指した。


 その方向を見ると、四人組の男に女の子が絡まれているのが見える。男たちの内の一人は、女の子の手を捻り上げていた(僕たちと同じような子供がいたのか。しかも、女の子だし)。


 僕は心が沸騰するように熱くなり、見過ごせないと思う。それから、迷いのない足取りで男たちの方に歩いて行く。


「お前ら、その子から手を放せ!」


 僕はそう叫んでいた。


「邪魔をするな、って、お前は!」


 女の子の手を捻り上げていたモヒカンの男は、驚きの声を上げる。僕もモヒカンの男の顔を見て目を見開いた。


 こいつらだったのか…。


「お前はミリアに絡んでいたあの時の男じゃないか。性懲りもなく、また同じことをしているのか!」


 僕の言葉に、モヒカンの男は女の子から手を放して後ずさりする。その頬からは、恐れのためか大量の汗が流れていた。


「ま、またお前かよ。クソ、ここは退くぞ、お前ら」


 そう言うと、男たちはその場から逃げていった。

 その後ろ姿は本当に情けなく見えたが、僕も戦わなくて済んだことにはほっとしていたので何も言わなかった。

 

 でも、もし逃げなかったら、骨の一本でも折る気で痛めつけなければならなかった。ああいう連中は本当に痛い思いをしなければ、懲りるということを知らないからな。

 

 腐った人間の心を推し量るのは、僕にとっては容易い…。

 

 でも、腐ったままの自分をよしとしない心が人間には必ずあるから、あの男たちだってきっかけさえあれば変われると思いたい(相変わらず甘いことを言ってるな、僕は…。でも、人としてその甘さは捨てたくない)。


「大丈夫?」


 僕は腰まで伸ばした長い金髪が印象的な女の子に声をかける。


「助けてくれてありがとう」


 そうお礼を言った女の子はラフなシャツに短パンを履いていて、見るからに冒険者のような格好をしていた。


 年齢は十六歳くらいだろうか。


 ミリアのような幼さは感じられない。でも、シャロンのような社交性は感じられなかった。冒険者のような格好も何だかちぐはぐに見えて似合っていなかったし。

 

「うん」


 僕は女の子のどこか高貴さを感じさせる顔を見て息を呑む。改めて、こうして向き合うと女の子の可愛らしさは際立っていた。

 今まで見た女の子の中では、一番の美少女だ。まるで精巧なCGで作られたような顔をしているし。

 それだけに、この場には似つかわしくない女の子に思えた。


「何かお礼をしたいのだけれど、今の私は何も持っていないの。だから、ご免なさい」


 女の子は僕に頭を下げた。


「気にしなくて良いよ」


 僕は気を遣わせないように言った。

 

 良い心を持った女の子の扱い方は、ミリアとシャロンで心得ている。


「そういうわけにはかないし、今日でなければ、このお礼は必ずさせて貰うわ」


「だから良いって。そんなつもりで君を助けたわけじゃない」


 僕は声のトーンを高くする。

 正直、恩の押し売りは好きじゃない。それに、彼女を助けたのは自分の心を納得させるため…というわけでもない。

 僕が感じたのは、理不尽な暴力に対する強い怒りだ。それが正義感とは微妙に違うものだということは、僕も自覚している…。

 

(正義感ってもんは、心地良く沸き上がるものなんだ。

 だから、ただの怒りとは違って、冷静さを失わずに誰かを助けることができる…と、父さんも言っていたからな)


「あなたは、もしかしてレフィア姫じゃないの。騎士の叙勲式で顔を見たことがあるし」


 そう言葉を挟んだのは、シャロンだった。


「人違いでは?」


 女の子はシャロンから顔を背ける。その態度が逆に怪しさを引き立てた。なので、僕も女の子が見せた白い項を凝視する。


「そんなことないよ。こう見えて、アタシ、人の顔を覚えるのには自信があるから」


「困ったわね」


 女の子は困り顔で、目を伏せた。


「嘘は吐かないでくれると、こっちも嬉しいんだけど」


 僕は目の前にいるのが王女と聞いて、おずおずとしてしまう。


 王女だとすれば、彼女の高貴さも頷けるというものだし、どうりで冒険者のような格好が似合わないはずだ。


「そうね。助けてくれた人に嘘なんて吐いたら、王女、失格ですものね」


 女の子は黄金色の髪を優美に掻き上げると笑った。


「では、改めて自己紹介するわね。私の名前はレフィア・レンシアス。このハルメール王国の王女よ」


 女の子、いや、レフィアは流れるような声で言った。


「本物の王女様か」


「そんなに怖い顔をしなくて良いのよ。私だってあなたたちと同じ人間なんだから」


 レフィアは優しそうに笑う。その気さくさには、僕も救われるものを感じた。


「そうだね」


「ええ。だから、そんな風に私から視線を逸らさないで。じゃないと、私も悲しくなってしまうわ」


 レフィアの顔には慈愛すら感じさせた。ちなみに、ハルメール王国のお姫様の名前は僕も知らなかった。

 だんだんゲームのラスブレの知識では、この世界のことをフォローできなくなってきたな。


「なら、聞くけど、王女様が何でこんなところにいるの?」


「私の父は偉大な冒険者だったの。王女だった母と結婚する前までは世界中を股にかけて冒険していて」


「へー」


「だから、私も若い内はたくさん冒険がしたかったの」


 レフィアの言葉に僕は一言、ぶつけたくなる。


「それでここにいたと?」


「悪いかしら?」


「悪いとまでは言わないよ。でも、一国の王女としては、少し軽率、過ぎるんじゃ…」


 僕は苦言を呈す。

 

 あまり失礼なことは言いたくないけど何かあってからでは遅いし、やはり言うべきことは言っておかなければ。

 でないと、僕の与り知らないところで、悲しむ人が必ず出て来る。

 それを許す気にはなれない(あの時、一言、言っておくべきだった…なんていう後悔はしたくないからな。

 自分が傷つくことを恐れて、正しいと思ったことを言わない…。それはある意味、罪だと思う)。


「大丈夫よ。王女である私がこんなところにいるなんて誰も知らないもの。あなたたちも私のことは内緒にしてね」


「分かったよ。だけど、君も自分の行動には良く注意を払うんだよ。次は誰も助けてくれないかも知れないし」


 僕がそう言い聞かせると、レフィアは「分かってるわよ。とにかく、あなたたちとは必ずまた会うわ」と言って、人目を避けるように僕たちの前から去って行った。


 その後ろ姿に僕は不安を覚えなくもなかったが、すぐに気に病むのは止めた(まあ、やるべきことはやったからな。後はそれこそ天に任せるしかない…)。


「レフィア姫は、聡明で思いやりに溢れてるって聞いたんだけど、嘘だったのかな」


 シャロンは首を傾げた。


「嘘じゃないと思いますよ」


 ミリアは興奮したような顔で口を開く。


「その証拠にレフィア様の目はとっても優しそうでした。私もあんな素敵な女の子になりたいですね」


 ミリアの声はいつになく熱を帯びていた。

 でも、僕は浮き世離れした容姿のレフィアより、ミリアのような普通に可愛いらしく感じられる女の子の方が好きだな。

 

(男だけでなく、女の子だって大切なのは顔じゃないって。美人は三日で飽きると言うし、付き合う上で重要なのはやっぱり性格だよ)


「アタシはどう生まれてきても、レフィア姫のような女の子にはなれなかっただろうなぁ」


 シャロンは羨望の眼差しで言った。


「私は興味ない」


 ルーティは本当に興味がないのか、無表情な顔をしていた(まあ、ルーティならそう言うと思ったよ)。


 その後、僕はミリアたちと一緒に冒険者ギルドの建物を出ると、とりあえず自分の世界に戻ることにした。


 焦らなくてもこの世界での冒険は逃げはしないからな。なら、今日は正式な冒険者になっただけで満足しておこう。

 

《第十話 冒険者ギルド 終了》



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