『Ilis(アイリス)』に挑む者
一方、琴実達が宿泊しているホテルのとある一室。
大学生スクールアイドル・イタリア代表『オルゴリオ』のメンバー達も宿泊していた。
同時にネット上の投票で七百票を獲得し、現在トップに立つスクールアイドルでもある。
「ねえカルラ、今年も余裕で勝てそうだね」
メンバーの一人、エレナが着替えをしながらカルラ金髪青目の美少女――というより美人に言う。
カルラ・レイブリック――それが『オルゴリオ』のリーダーの名だ。
十年に一人の美人と称され、またダンスの天才とも謳われている。
天は二物を与えず、ということわざは知っているが、カルラを見ていると不思議とそう思えなくなってくる。
高校生の時、エレナが立ち上げた『オルゴリオ』の敗北の連鎖を止めてくれたのも、カルラだ。
カルラはその美貌とダンスの上手さを駆使して、『オルゴリオ』をヨーロッパ最強のグループにしてくれた。
そして、ここイギリスで開かれる世界大会に入る為の条件である、十位以内にも入らせてくれた。
エレナはカルラを尊敬している。
だが、エレナがカルラを尊敬しているのは、ただそれだけではない。
「油断しない方が良いわエレナ。
ここに来る前にも言ったはずよ、日本代表『Ilis』は侮れないって」
そう、カルラは油断をしない。
だからこそ、大学生スクールアイドルの中では最強の存在。
だが。
「日本代表、そこまで凄いのかな?」
確かに日本代表は三位と、自分達に近い順位だ。
だが二百票の差がある以上、ほぼ自分達の勝利は確実と思われる。
大体、日本代表のどこが凄いのか、エレナには皆目分からない。
「コトミ・フウマ、ユウ・モモチ、ミチメ・イガサキ・・・・・・。
確かにあの三人の実力は私達の足下にも及ばない。
だけど彼女達は、平凡なスクールアイドルとは言い難い。
あの子達、本当は三人じゃないのかもね」
この発言には、流石のエレナもぽかんとしていた。
だがカルラの事だ。
エレナには到底理解出来ない次元で、物事を判断しているのだろう。
「でもあの三人、あの三人だけで勝てたことないらしいじゃない。
それでも、そんな事言えるの?」
三人の過去は知っている。
高校時代から、大学時代までの経歴を。
だがどこを探しても、三人のみで勝てた経歴が見つからないのだ。
あるのは、杉谷寿奈という少女がいた時に一度だけ勝利を得たということ。
それでは三人の実力で勝てたということにはならない。
「勝利出来たかどうかが、強くなったかどうかじゃないわ。
二位以下でも、物凄い経歴を残していれば、それは凄いということになる。
事実、優と道女は高校時代に大して票を得られずに卒業したわ。
でも、今は世界で三位。
どう考えても、急激に実力が上がったとしか考えられないわね。
それで思ったの。高校時代より実力が上がったのは、三人で踊っているわけじゃないからだって」
「つまり、見えない仲間もいると」
それなら分かる。
かつて共に戦った仲間が、同じステージに立っていると思い込めば、実力以上の力を出すことが出来るだろう。
「だから教えてあげようよ。見えない仲間がいるのは、私も同じだってことを」
カルラは、その美貌に笑みを浮かべた。




