二人の天才 その三
そして同時刻。
空港の更衣室を襲撃した研究員が、アジトへの死体の運搬を完了したところだった。
「作戦は成功した。
これより検査官の顔に整形します」
あの現場には、一切の証拠を残さなかった。
と言っても、少し派手にやってしまったが。
出来る限り血を拭いた後、弱い火力の爆弾によってあの部屋一帯を吹き飛ばしたのだ。
全ての作業を、手袋を用いて行った為、あの更衣室には指紋や足跡などは残っていないだろう。
現在ニュースが報道しているのはあくまで『空港爆破事件』。そこで殺人が行われていたという事実はほぼ抹消された。
空港の警備が強化されてしまうが、検査員の名札を持ち、おまけにこれからその検査員の顔に似せて整形を行うのだ。
その整形にも、自分が動けるようになるまでに少し時間はかかるが、爆破事件が起きてしまった以上空港は少しの期間閉鎖されるだろう。
そして開放後、帰ろうとしているターゲットを捕縛する。
それが作戦だ。
「ここまでは順調にいっている・・・・・・。
でも・・・・・・」
研究員は、自分が分からなくなり始めていた。
確かに、ここまで起こした行動は《彼女》の為だ。
《彼女》の過去を知り、《彼女》と同じ絶望を味わってきた研究員達は、その人の為なら命をも捨てられる。
自分達を認めなかった世界に復讐する為に、全てを捨てる覚悟で計画を成功させようとしている。
だが、《彼女》に自分の顔を捨てろと言われた時は胸が痛かった。
欲しいものなどろくに買ってもくれない両親の下で育ったが、それでも客観的に可愛いと言われる容姿をプレゼントしてくれた。
今の顔では、親の所には帰れそうもない。
そして全人類を洗脳する計画に加担しているなどと知ったら尚更だ。
もう《彼女》に全てを捧げる以外の道を選べなくなってしまった。
「そろそろ手術を始めますよ」
医師免許を持つ白衣姿の女性が言う。
「うん」
研究員は、手術台へと足を踏み出した。




