動き出す陰謀
それと同じくらいの時間、《計画》も順調に進行していた。
研究は九割がた成功へと漕ぎつくことが出来たという報告が入り、電話の相手である《彼女》も感情に出してはいないがそれを喜んるように聞こえた。
そんな《彼女》と話している女性研究員は現在、イギリスのロンドン空港にいる。
《彼女》の依頼で、とある人物の誘拐を頼まれているのだ。
その誘拐に必要な準備を、今整えているところである。
人の不意を突いて誘拐する方法で、研究員が簡単だと考える方法が一つある。
それはなりすましだ。
ターゲットは自分のことはおろか、依頼主である《彼女》ですら直接の面識はない。
つまり、空港のスタッフに化けてしまえば、ほぼバレることはない。
だが日本人と気付かれれば計画は失敗してしまう。
バレないように、研究員はそれなりの準備をしてきた。
《彼女》の許可で、余った研究費用を使用して整形手術を行い、イギリス人風の顔に変えてもらった。それと顔を隠せるように少し大きめのマスクを着けている。
そして制服も借り、今研究員はそれを着用している。
あとは、スタッフの一人・・・・・・まあ検査官辺りを一人殺して入れ替え、バレないように死体を処理すれば、この作戦の実行が可能となる。
更衣室付近の化粧室で待ち伏せし、人が更衣室に近付くのを待っていた。
気配を殺し、意識を集中させ、足音を探る。
「・・・・・・二人か」
聞こえた足音は二つ。これは非常に厄介だ。
作戦がバレないよう、二人を殺さなければならない。
なるべく犠牲者は少なく済ましたいのだが、如何やらそうさせてくれないらしい。
目的は空港スタッフの殺害ではなく、特定人物の誘拐だというのに。
「・・・・・・」
研究員は制服のポケットから一つの黒い拳銃を取り出す。
六つの弾丸を装填し、スライドを引いて発射出来るようにする。あとは更衣室に入った二人に引き金を引くだけだ。
足音は女子更衣室で途切れた。
研究員はそのまま、更衣室へと向かい、扉を開けた。
「あ、貴女誰?」
入ってきた研究員を見て問うスタッフの一人。
もう一人は怯えていた。
「悪いね・・・・・・君の名前、永遠に借りさせてもらうよ」
心の隅で、目の前の二人に詫びながら、研究員は銃口を向ける。
「な、何をするつもりだ!?」
驚愕の表情を露わにするスタッフに、研究員は冷酷に告げる。
「君達二人を、殺すつもりだ」
告げた後、スタッフの一人は止めようと立ち上がり、突撃する。
研究員はそれに構わず、引き金を引く。
発射された弾丸は突撃したスタッフの胸に赤黒い穴を開け、意識を途切れさせた。
「あ、わわ・・・・・・」
奥の方で怯えているスタッフに近付き、銃口を向ける。
首から提げられた名札には、検査官と書かれている。
「検査官か・・・・・・丁度その仕事が欲しかったところだ。
有難くいただくわよ」
研究員は、容赦なく引き金を引いた。
間もなく、彼女も絶命した。




